若者にとっては当たり前の世界観を、シニアはどう受け入れていくか

大野誠一氏(以下、大野):では、パネルディスカッション・パート2に移りたいと思います。カゴメの有沢さん、サイボウズの中根さん、リクルートの藤井さん、ステージのほうにお願いいたします。では、豊田も入らせていただきます。

はい、よろしくお願いいたします。それでは、まず自己紹介をお願いできればと思います。有沢さんからお願いできますでしょうか?

有沢正人氏(以下、有沢):カゴメから参りました、有沢と申します。よろしくお願いいたします。いろいろお話を聞いていて、自己紹介も簡単にしなきゃいけないというのはわかってるんですけれども。今、4つの法則というのを聞きながら、最初の第1法則、第2法則というのは、実は若い人の方がよくわかっているなぁと思いました。

何かと言うと、ゲームの中のバーチャルでやる「預言者」「主人公」とか、みなさん若い人はこういったものに慣れてるじゃないですか。例えば『ドラクエ』だとか、『ファイナルファンタジー』だとか。実は僕、58歳なんですよ。だけど、『ドラクエ』と『ファイナルファンタジー』は出た日に必ず買ってやるというのを一応信条にしているんですけど(笑)。

(会場笑)

だから、このイメージはものすごくわかるんです。これを今のシニアの方々に、例えば「主人公になってくれ」「預言者と出会ってくれ」と言うのは、なかなか厳しいハードルかなと正直思っていて、今日はそこのところをお話しさせていただければなと思っています。

考え方としては、今の若者がやっているバーチャルの世界を、どうやったら我々シニアがリアルの世界でうまくやっていけるか、ということをこの研究会の中で話し合えればいいなと思います。今日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

大野:はい、よろしくお願いいたします。それでは続きまして中根さん、お願いいたします。

100人100通りの働き方は、選択肢を広げるだけでは実現しない

中根弓佳氏(以下、中根):はい、よろしくお願いします。サイボウズの中根です。自己紹介ですよね? 一応、青野が(ライフシフト・ジャパンの)顧問をさせていただいてるんですよね。ぜんぜん参加してないということでしたけれども。

(会場笑)

中根:その青野のもとで働いておりますが、先ほど大野さんから「選択肢の多い社会」というキーワードが出てきたと思います。サイボウズは、100人100通りの働き方ができる会社にしたいと思っていて、まさに選択肢の多い会社づくりに腐心してるんですけど、これってものすごく難しいこと(なんです)。

私が人事という立場で、そういう選択肢をできるだけ増やそうとするんですけれども、私の中での価値観とのいろいろな葛藤みたいなものもある一方で、選択肢を広げたらみんながそれを素直に選択できるのかというと、これはまた難しい話で。我々も100人100通り(の働き方が)できているかというと、実はぜんぜんできていない。

でも今日、先ほどの後半のお話をうかがって、この選択肢というところだけでも、会社としてのあり方のヒントがものすごくたくさんあるなぁ、あるんじゃないかなぁと思っています。今日のディスカッションも非常に楽しみにしております。よろしくお願いします。 (会場拍手)

大野:はい、よろしくお願いいたします。では、藤井さん、自己紹介をお願いいたします。

リクルートで30年働きながら、“有意義な公私混同”を実践

藤井薫氏(以下、藤井):はじめまして、藤井と申します。リクルートに30年もいるのに、まだ卒業できていない、留年中の“編なおじさん”と呼ばれております。

(会場笑)

ここに呼ばれたのは、大野さんとか河野さん、豊田さんとずっとリクルートの編集のトキワ荘みたいなところにいた……。

(会場笑)

『とらばーゆ』編集長の河野さんと、『ガテン』と『アントレ』の大野さんと、『Works』の豊田さんと一緒に、私は『テックビーイング』というエンジニアの転職情報誌もやっていた、編集畑の“編なおじさん”です。今はリクルート全体のナレッジマネジメントの部隊をやっております。

あともう1つ、呼ばれたのはきっとこれかなと勝手に解釈してるんですけど、休日はバイクのレースで筑波サーキットを走っておりまして、去年も年間チャンピオンをとったり……。

会場:おぉ〜。

(会場拍手)

藤井:大学の講師を10年ぐらいやったり。先週は江東区の卓球大会に出て、ボロ負けしたりとかですね。

(会場笑)

そういうことで、公私混同を有意義にやっているという、多重人格の“編なおじさん”ということでも呼ばれたんじゃないかなと思っておりまして、今日は楽しみにしております。よろしくお願いします。

(会場拍手)

ゲームの世界を作り出した『神話の法則』

大野:今、有沢さんの冒頭のお話にありましたけれども、今回の法則の中で「旅の仲間たち」というキーワードを1つ考えました。これは、偶然の出会いとかいろいろなことがあるわけですけれども、『神話の法則』という非常に有名な本があって、世界各国の神話を研究していくと、神話の中に法則があると(言われています)。

それをすごく一生懸命、ガーッと深めていって作られている物語で、みなさんがよくご存知のものが2つあります。1つが『スター・ウォーズ』ですね。あれは世界中の神話に共通する物語を統合した結果できた、エピソード1から9だというふうに言われておりまして。それからもう1つ、先ほど有沢さんがゲームの世界で、とおっしゃっていた代表的な例は、『指輪物語』ですね。

有沢:あぁ〜。

大野:『ロード・オブ・ザ・リング』。あの中に出てくる、映画でいうと第1本目の映画のサブタイトルは「旅の仲間たち」ということで、お師匠さん、マスターもいれば、友達もいれば、門番もいれば、いろいろな人間が出てくるんですね。

人生の中で、実はすごく同質的な組織だけにいると、ああいう多様な人にはなかなか出会えない。もっといろいろな価値観の違うネットワークとかコミュニティにいると、いろいろな人に出会う機会があったりする。

よく転職の世界でも、意外と親しくない人がきっかけを与えてくれて転職をするというケースが実はすごく多いというのは、前々から言われていることです。そういった多様なネットワークがあると、いろいろな仲間に出会えるよなぁ、ということも含めて進めていきたいと思い、作ってきた法則なんですけれども。

有沢さんは、ミドル・シニアになると、けっこう難しいんじゃないかとおっしゃっていたところなんですが、ネットワークを多様にしていくところで、何か考えてらっしゃることとかがありましたらお願いします。

銀行が激減した背景にある「同質性」という壁

有沢:まず、この10個の変身資産の中で僕が一番重要だと思っているのは「ユニークネス」なんですね。ちょっとカゴメの場合の話をしますと、暴露じゃないんですけど、僕が来る前は、基本的にカゴメっぽい人をいっぱい採っていたんですよ。

カゴメっぽい人というのは、優しい・誠実・親切。それで、なんて言うの? 僕は「清流に棲む鮎」と言ったんですけれど、要するに、見た目がきれいなんですよね。上流に行くときれいなんですよ。だけど、泥水が来るとダメなんですよ。

大野:あぁ〜。

有沢:うちの社員をディスっちゃったらかわいそうなので、言いませんけど。

(会場笑)

それで、僕が来てからの話ですけれど、やっぱりユニークネスと考えた時に、さっきまさに大野さんがおっしゃいましたように、同質性は企業を滅ぼすと思っているんですよ。ものすごく暴論ですけれども、今まで4社やってきて、やっぱり(そう思ったんです)ね。

例えば銀行員を20年やっていましたけれど、銀行員って、昔は同質性をめちゃめちゃ求める組織だったんです。それで、当時23行あった銀行で、今も残っている銀行は1行もない。やっぱり、その中で同質性が大きな壁になったと僕は思っているんですね。

今のカゴメや他の企業の方と話していて思うのは、やっぱりユニークネス、違いなどですね。基本的に、ミドルの方に違いを出してくれというのは、企業の側からすると、けっこう難しくないですか?

じゃあ、それをやるのは誰かというと、現実的には、人事部のいわゆるキャリアコンサルの方々がそれを行ったり、ライフシフト研修みたいなものを行うことになるんですけれど、これだけではやっぱり正直足りないというのが僕の思いです。

それで、どうしてるかというと、基本的に55歳を過ぎたら、まず自分の好きなところに決めていいとかですね。そういった制度を入れたりとか、さっき「自分探しの旅」とおっしゃいましたけれども、あとはもう任せたということをある程度制度で作らないと、けっこう難しいと思うんです。

制度や仕組みに頼ると、またあちこちからいっぱい文句を言われるので、個人の名は言いませんけれども。やっぱり、自由放任とは言いませんけれども、ある程度そういった仕組みや制度を人事部として(作る必要があると思います)。

ユニークネスとか、サムシングディファレントに出会う旅をするためには、今までのようなライフシフト研修や、上からこうしろと言われることだけでは絶対に足りないなというのは僕の実感です。

働き方の選択肢を増やすことで、「自分の幸せのかたち」を考えるきっかけになる

大野:はい、ありがとうございます。さて、サイボウズの中根さんの自己紹介にもありましたとおり、100人いれば100通りの人事制度があっていいんだというのは、一種の企業キャッチフレーズに。

中根:はい、なっちゃいましたね(笑)。

大野:実際にはなかなか難しいよというお話もありました。サイボウズのお話をうかがっていると、社内でいろいろな旅の仲間が見つかりそうな感じをすごく受けるんですけれども、実際にサイボウズの中ではどうでしょう?

中根:そうですね。旅の仲間を見つけている人もいるでしょうし、預言者を見つける人もたくさんいるんでしょうけど。でも、それは待っていて来るものではないような気がするし、探して探せるようなものでもないと思うんですね。

自分がいろいろなものを知ろうとしたり、そういう機会を得ようとしたり、積極的に考えようとする。そういうチャンスや場を用意することは、企業のサポートとしてできることの1つかなと思います。

例えば100人100通りと言って、「会社に何時に来てもいいですよ」と言われた時に、「えっ、じゃあ何時に来ようかな?」とか。「何日働いてもいいですよ、副業してもいいですよ、サイボウズでフルに働いてもいいですよ。あなたにとって一番幸せなかたちは、あなたが一番知っているから、自分で考えてください」という機会が山ほどあるんですね。

働き方の選択肢を広げて、みんなに選択してもらった時に、これはいきなりできるものでもないということは、すごく感じるんですね。

もしかしたら、他人に決めてもらって、「9時にここに来ればいい」と言われることのほうが、短期的にはすごく楽なんですよ。だって9時に来いと言うから来て、来たら満員電車だと。「満員電車に乗せるのは会社だから」といって、誰かの責任にできるんだけど、自分で責任をとって9時に来ることを選択するんですね。

そういうことを何度も何度も繰り返しやっていくと、どういうことに気づくかというと、「自分の幸せのかたちってなんなんだろう?」ということなんですよね。幸せのポートフォリオのようなものが、人生のステージやキャリアのステージによって、どんどん変わっていくことに自分も気づいて、そのかたちについて本当に真剣に考え出す。

もしかしたら、これが島田さんがおっしゃるパーパスやビジョン、ミッションといった、「これをすることが自分の幸せなんだ」ということに落とし込んでいくための、1つのトレーニングにつながるのかなぁと思ったりしますね。すみません、答えになってるかどうかわからないんですけど。

自分自身の「本心の声」に耳を傾ける大切さ

大野:ありがとうございます。藤井さんは今、リクルートキャリアのリクナビNEXT編集長ということで、いろいろな転職の場面に向き合ってると思うんですけれども、転職という場面を見ても、昔と今とだいぶ変わりつつあるところがいろいろあると思います。最近、気になっている変化をちょっと教えてもらえますか?

藤井:そうですね。転職決定者に聞いた入社の決め手は二つに分かれていて、最近では、「新しいキャリアを身につけられる、成長が期待できる」という項目が上位に来ています。一方で、昔から言う、企業の規模や知名度、待遇を前面に出して、外形的な報酬や衛生要因的なものがモチベーションになって転職する、ということを表に出される方もいるんですね。

でも、本心をちゃんと聞いていくと、やっぱり先ほど言っていた、本当の自分の存在目的とか、自分が輝く場所はどこなんだろうかということに対して、言葉にできないけれどムズムズしているような感じがどんどん増えているのかなという気がしています。それでちょっと、20年ぐらい前のあることを思い出すんですけど。

みなさんもご存知のLinuxというオープンソースのプログラムを作った、リーナス・トーバルズさんというフィンランドの方が来日した時に、『テックビーイング』というエンジニア向けの転職情報誌でインタビューをさせていただいたんです。

編集部の恒例で、インタビューするときはレコーダーを置かせていただくんですけど、最初に「このLinuxを作った最初の思いは、どんなものだったんですか?」と聞いたら、「〜〜〜」って言ったんですよ。「えっ?」というふうに聞いて、「すいません、ちょっと聞こえないんで」とレコーダーをちょっと前に出して、「もう1回言ってください、どうぞ」「〜〜〜」と、すっごく小さく言ったんですよ。

(会場笑)

よーく聞いていくと、「Just for Fun.」と言ってたんですよね。

(会場笑)

「自分はただ楽しかっただけ」ということを、こんなに小さい声で言う人が、今世界のティール組織としても有名な、フラットで上司もなくてボランタリーな、エンジニアが報酬もなしに毎日ものすごいコードを生成する社会や新しい組織を作っていくんだと。

これはまさに、自分の存在価値みたいなものを「これだ!」と大きな声で言わなくても、無意識の中から出てくる「好き」ということを言った人が、こうやって社会を変えていくんだなという。その後の『アントレ』でも、そういう方々に数多く会ってきました。

ご質問にあった転職の雰囲気の変化という部分でいうと、もしかしたら、間違って「もっと大きく変化して、自分の好きなことを大声で言わなきゃいけない」という風潮になるとイマイチだなと思っていて。

もっと無意識だったり、腹から思っていたり、腹を割って考えると、自然と周りの人たちとつながっていくことがあって。もっと小さい声で、無意識や本心、本気のことをやってもぜんぜんいいんですよ、という気がしていますね。

大野:(笑)。はい、ありがとうございます。