両津勘吉はメディアミックスを常に仕掛けている
草彅洋平氏(以下、草彅):そうですね。その話はともかく、次にいきたいんですが、マーケティングですよね。
両さんはなにがすごいかというと、必ずメディアミックスを仕掛ける。それは、お得意の人脈を駆使したり、こうすると当たるという、奇抜な行動を必ず1個練り込むことによって、それでバズらせる。どんなビジネスも最初立ち上げだけだったら、ぜんぜん人が来なかったり、それが売れるということが発生しない。両さんは、必ず売っていくことで、メディアを入れていく。すごいですよね。
小林琢磨氏(以下、小林):絶対に売りますからね。
草彅:売りますね。
小林:絶対に売ります。
草彅:例えば、これはエアジョーダンがブームの時に、103巻かな? 町の靴屋の人が困ってる。今はエアマックスが流行ってるから、そういうのをやったらいいんじゃないかということで、次に行くと、ジョディーの妹かなにかが。
野口卓也氏(以下、野口):ジョディーに妹いた?
草彅:弟だ。バスケの有名な選手です。
小林:ジョディーの兄弟すごいですね。
草彅:そこに絡めて、バズらせようと考えて、強引に10万円で契約させる。それをワラジの田吾作ミックスみたいなやつで。エアワラジみたいなやつを作って売る。エアワラジのエアは、プチプチです。
野口:コストにもうるさい。
草彅:そうそう。
小林:損得勘定ができている。
草彅:それで、これを2、3万円でバシバシ売る。これはすごくおもしろい。ちゃんとプレミアムを付けて売っていくことで、日本中の若者にワラジブームみたいなものが起きていく。それで、高騰してワラジ狩りが起きる。
小林:エアマックス狩りじゃなくて、ワラジ狩り。
レベルファイブに匹敵するメディアミックス
草彅:そうです。そういう漫画です。有名なタレントに使わせたり、マスコミ関係者を呼んだり、常に両さんは考えている。
野口:昔からあるし、最近だと超神田寿司のPRで遊園地とコラボした。寿司レンジャーみたいな。
小林:ありました。けっこう戦隊ネタありますよね。
草彅:必ずなにかするとファミコンにしたり、メディアミックスをかけてくる。やってることは実は、ダンボール戦機とかのあの会社?
小林:バンナムですか?
草彅:いや、博多の。
野口:レベルファイブ。
草彅:この間、レベルファイブがネットニュースで、妖怪ウォッチのメディアミックスがいかに大事かという話をしてたんですが、ほとんどやっていることが近い。
小林:妖怪ウォッチはすごいですからね。
草彅:素晴らしいですよね。だけど、両さんのしていることは、初期の頃からひたすらメディアミックスなんです。
小林:ブレないですよね。
草彅:ブレない。メディアミックスの効果で、どれだけいくかを常に考えているというのは、手法として正しいと思っている。
アイデアが尽きない両津勘吉のすごさ
もう1個は、アイデアですね。ほかを出し抜く力だと思うんです。要は、両さんは真似をしない。
小林:あれ? そうでしたっけ。
草彅:これが流行っているから、これをやるというのはあるかもしれないです。ちょっと借りて出しで。
小林:それはあります!
野口:人の軒先を借りたりはするけど、それ自体は同じものではない。
小林:パクるというか、学んで変える力が、両さんはすごい。
草彅:すぐ変えるんですよ。
例えば、「写ルンです」みたいなものがあって、それは秋本(治)先生がたぶんお考えになられてるんでしょうけど、「ジタバタすると写すぞ、お前ら!」みたいなのがある。「写ルンです」にメガネと鼻が付いてて、鼻を押すとパチリと写す。それはなんかふざけてるからおもしろい。
小林:みんなが笑って。笑顔が撮れるみたいな。
草彅:そういうアイデアを出してくる。これは良い巻です(笑)。何巻でした? 54巻か! これは中川の会社が、電車のなかを改良しようと思って、両さんにアイデアを求める。それで車両のなかでセミナーをしたり、そういうことをしようと思って、話をするんですが、両さんもこういうのをやったらいいという、アイデアをいくつか出してる。
それが、ゴルフの打ちっぱなしや屋台を入れていくこと。ユーザーは、サラリーマンが多い。通勤車両には、サラリーマンが多い。つまり、マーケティングがしっかりしている。一番大きいそこに対して、一番需要があるものはなにかと言ったら、ゴルフと赤提灯。
小林:赤提灯ね。
草彅:それで、みんな忙しくて遠くまで帰るとき。例えば、千葉の田舎から出勤してるとしたら、帰る時間に飲んでいけて、上司とコミュニケーションしたらいいじゃないかと。ここでいろいろな人と繋がると、またネットワークになっていくのではないかということで、車両に入れるという話をする。実際にあったらすごくおもしろい。
小林:すごくおもしろいと思います。
必ず言い切り、実行に移すのがすごい
草彅:あればいいのにと思う。
小林:実際に今、これ商売になるんじゃないですか。
野口:なりそう。
草彅:なるなる。
野口:僕がすごいと思ったのは、「こういうアイデアはどうかな」とかじゃなくて、ちゃんと必ず言い切るじゃないですか。
小林:そうそう!
草彅:そうなんですよ。
野口:これが人を引っ張る力ですよね。
小林:それで実行力!
草彅:そうなんですよね。
小林:ただのアイデアマンでは意味がないんです。
野口:絶対にこうだからって(言い切る)。
小林:言い切った上で、ちゃんとやる! ここまでやるからすごいと思う。よく言う話で、アイデアが出た時に、同じアイデアを考えてる人が3人はいるみたいな。早いもん勝ちみたいな話があって、両さんがすごいのはアイデア力もそうですが、ちゃんと言い切って実行するところ。
野口:言い訳がいっさいない。普通はなにか、「これは俺もやろうと思ってた」みたいな人が多い。
草彅:大原部長が出てくると言い訳をする。
野口:(笑)。
小林:部長はね……。
野口:部下力も高いですよね。
小林:でもアイデアマンですよね。
草彅:めちゃくちゃアイデアマンです。こういうのがいっぱいどの巻にも、こち亀は40巻以降ですが、ほとんど読んでいくとお金の話になる。どういうビジネスをして、挫折していくかという物語。そこまで読んでいくとおもしろい。
ビジネスにおいて、ほとんどの会社はパクリ
小林:最近のこの話を草彅さんの前で言うのもアレですが、デザインや音楽も、オリジナルなのかみたいな話。
草彅:佐野さんのそういう話ですよね。
野口:言っちゃいましたね。今けっこうぼかしてたんですが、確定しちゃいましたね。
小林:でも、本当のオリジナリティは、個人的には少ないと思っている。それのプラスアルファもオリジナリティだと思ってる派なんだけど、この話はやめておきましょう。
野口:いいんじゃないですか。1回ぐらいトリガーも炎上したほうがいい。
草彅:炎上というか、僕はもっと話してもいい話だと思う。
野口:いや、深めるほど正しい。いいことですよ。
草彅:ビジネスにおいて、ほとんどの会社はパクリじゃないですか。こう言うと、失礼かもしれないけど、アメリカのサービスを日本に持ってきて、昔はフラッシュマーケティングというのが、一時期すごい流行った。アメリカで流行ったのを日本に持ってきて、みんながバンバンやる。だけど、あんなのビジネスではパクリと言わない。
僕はパクリというのは、すごくカッコ悪いと思ってる。人の真似をするビジネスは、大っ嫌いです。この世で。だけど、やったら儲かるかな、やりたいなとは思う。
小林:パクリというか、既存のものに新しいワンアイデアを加えると、まったく新しくなる。
野口:AとBを付け加えてCにしましょうみたいなのは、基本的な時代の前進のさせ方ですよね。
草彅:僕もパクりたいな。
野口:(笑)。
草彅:いや、なんでもないです(笑)。
小林:草彅さんの今の発言は……。
日本人のビジネスは、枯れた技術の水平思考がいい
草彅:僕は基本パクったことはないです。それはけっこう重要で、独自性がすごい好きなんです。なぜなら、これはぜんぜん違う話になっちゃうけど、僕はビジネスで横井軍平さんの影響をすごい受けてるから。枯れた技術の水平思考的な考え方で、僕はビジネスをやっている。
野口:へー、おもしろい。
草彅:日本人のビジネスは、枯れた技術の水平思考が僕は一番いいという考え方をしていて。たまにしゃべるんですが、横井軍平はわかりますか? わかんないかな。任天堂のゲームの初期です。おもちゃの頃、ゲームウォッチやウルトラマシン。任天堂の基礎みたいなものを作った人です。
横井さんというのが、枯れた技術の水平思考という考え方をしていて。技術が枯れた瞬間、例えばシャープが液晶を電卓でめちゃくちゃ使っていて、それがすごい供給過多になって価格が落ちた。その瞬間、それをゲームウォッチというものに持っていって、それがゲームボーイとかに繋がっていく。
今、例えばモバイルで、iPhoneも含めて液晶のモニターを外に持って歩いているというのは、横井さんが最初に作ったコンセプトです。横井さんは、「誰も、液晶がこういうふうに外に持っていくものと当時はわかってなかった」と書いている。
そういう人がいる。横井さんの本は、僕が編集して2冊くらい出してる。だから、僕はすごい影響を受けています。
小林:そういう意味で言うと、例えば、携帯も昔は電話を外に持ち歩くなんて、絶対に無いじゃないですか。
草彅:そうですね。
野口:カバンみたいなものでしたよね。
小林:そうです。でも、僕から言うと、それは電話というあるものと、外に持ち出すというワンアイデアを繋げたのが携帯だと思う。
草彅:ちなみに中川の親父は、ずっと衛星電話です。
小林:確かに(笑)。まだ携帯電話がない時代から持ってました。そう考えると、こち亀はすごい。
野口:すごいですよ。太平洋の真ん中でも繋がるんですから(笑)。
小林:確かに。
草彅:両さんが「戦争映画の中の兵隊か」みたいな発言で言ってる時がありますよね。
小林:中川の親父は秒でスケジュールを組まれていますからね。
野口:時間だとかで、3秒くらい話して帰るとか(笑)。時間が惜しいから、窓から入ってくるんですよね。
草彅:なにかそういうのがあります。だけど、両さんは、けっこう枯れた技術の水平思考っぽいところがあって、僕はそこが本当に好きなんです。完全に終わっちゃったものを、横スラさせて、売りに行くとか。そういうことは、両さんの漫画でけっこうある。それが僕は好きです。
僕もビジネスをやるときは考えているので、そういうところで影響を受けています。