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特別企画② 生成AI/LLMトークセッション 「生成AI/LLM未踏的ビジネス活用最前線」(全5記事)

LLMの価値を享受できないのは「全従業員向け」だから 95パーセントがニッチ業務だからこそ必要なチューニング

ダイキン工業株式会社の比戸氏、株式会社NextIntの中山氏、株式会社LayerXの中村龍矢氏が、所属企業における生成AIの活用事例と展望について話しました。全5回。前回の記事はこちら。

ニッチなものに短期間でいいアルゴリズムが提供できるところに大きな価値がある

田中邦裕氏(以下、田中):では、中村さんからお願いしてよいでしょうか?

中村龍矢氏(以下、中村):はい。私は今LayerXでAI・LLM事業の責任者をしていて、そこでのいろいろな気づきをお話しできればと思っています。

(スライドを示して)先ほどのところてんさんの話にもかなり絡むのですが、私たちがLLMに関して思っているところとしては、DXにおける標準化みたいな話を一部変えているところかなと思っています。

先ほど「プログラムができること」という話がありましたが、まさに近い話で、従来のプログラムでやるためには、大雑把に言えば業務の方法をプログラミングできるレベルまで標準化しないと難しかったかなというところです。

一方LLMだと、標準化が必要なこと自体は変わらないのですが、その必要な度合いが思いっきり緩和されて、LLMに指示できるぐらいに整っていればできるというところで、大きく開けるところが増えたのかなと思っています。

その1つの代表例が長い文章を読むところで、生成AIという言葉で、「生成」に引っ張られて何かを作り出すほうのユースケースをイメージされる方が多いなと思うんですが、我々はどちらかというと読む力、読み取る力がすごく優れているなと思っています。

世の中の決算書や契約書や論文などのいろいろなものは、人間の自然言語でわーっとつらつらと書いてあるものの、書いてある中身は同じだったりするので、「みんながJSON(JavaScript Object Nottation)とか『Excel』でまとめて書いてくれれば苦労しないのに」とか、「その後のシステムに連携しやすいのに」と思うことがいっぱいありました。しかし、そういった中身は同じなのに見た目が違うものを、同じフォーマットに落とし込む力がLLMは高いなと思っています。

例えば「こういう情報は、何ページのどこに書いてある」というレベルまでは標準化されていなくても、「ざっくりこういう項目を取りたい」とか「こういうことをしたい」というものができていれば、言語でその意味が汲み取れる限りは、できることが多いというのが大きいかなと思っています。

その中で今我々は、LLMを使って長ったらしい文章を読んで、それを格納して活用するプロダクトを作っているというところです。

このユースケースとして強く思っているのが、ニッチでプロフェッショナルな方の業務のほうがいいということです。ある意味、それこそ市場が大きいユースケース、例えば弊社に「バクラク」というサービスがあって、稟議や経費精算に対して何十億円というお金を使っていいものを作ろうとしていますが、そういう、どの会社にも存在して市場が大きい業務は、すごく大雑把に私の感覚でいくと、エンタープライズの中の5パーセントぐらいかなと思っています。

残りの95パーセントはその業界にしかないとか、なんならその業界のトップ5社しかないとか、その会社にしかないとかのニッチ業務なのかなと思っています。

でも、そういう業務はあまり市場が大きくないので、何十億円もお金を使っていいものを作ろうというふうにはなかなかならなくて、SIerさんに何億円も使って業務アプリケーションを作ってもらうか、デジタル化しないかという感じだったのかなと思います。

その95パーセントのうちの全部ではないのですが、一部の文書処理業務に関しては、LLMはかなりのイノベーションだと思っています。こういうニッチなものに対して、我々みたいな素人が、金融などの専門性が高いところに1ヶ月ぐらいでいいアルゴリズムが提供できるところに大きな価値があるかなと思っています。

「LLMじゃないとできないことを探そう」というよりも、従来もできたかもしれないけれども、LLMが圧倒的に早く、安く、良く作れるユースケースをロールアウトしようというふうに市場を捉えています。

チューニングのやり方次第で生成AI、LLMが業務を変えられるかどうかは変わる

中村:(スライドを示して)1つの例として、これは損害保険会社の募集文書のレビューのユースケースです。保険を募集する時に、パンフレットを出して募集するわけですが、保険は金融商品なので、間違えたら大問題になりますよね。

こういう保険文書をしっかりレビューするという業務が損保会社にはありますが、こういう時に、一つひとつの項目をレビューするのをLLMで代替しています。

(スライドを示して)上の例は保険の対象が誰かというところで、親だけではなく奥さんや旦那さんの親も含めようというレビューをしているのですが、こういうものをLLMでやるということに取り組んでいます。

ほかにもアセットマネジメントで、アセット、金融の事業において、その金融にまつわる契約書やいろいろな書類をLLMが読んで活用するところに取り組んでいます。

今、LLMは個人的にはプチ幻滅期かなと思っていて、ChatGPTがわーっと流行りましたけれども、「あれがないとつらい、死んでしまう」という人はあまりいないんじゃないかなと思っています。

エンジニアの人がプログラムを書く時に使ったり、クリエイティブ系の仕事で画像を作ったりはするかなと思いつつ、たいていのエンタープライズだと、エンジニアもデザイナーもいないと思うので、普通の働いている人が価値を享受できているというわけにいかないのかなと思っています。

その1つの理由が、全従業員向けのキラーアプリケーションを探すことにこだわりすぎているケースが多いかなと思っています。非常に感覚(的な話)になるんですが、我々の取り組んでいる事業において、どのユースケースもだいたい、なんにもしないとLLMは精度50パーセントぐらいで、ちゃんとチューニングをすると80から90パーセントぐらいに上がって、その間に実用化の水準があることが多いと思っています。なので、全従業員向けにあまり工夫しないユースケースを50パーセントで出しても、誰も使わなくなってしまいます。

なので、プロフェッショナルでニッチだとしても、その一つひとつのユースケースに向き合ってチューニングをしてやっていきます。そのチューニングを誰がやるか、どうやるかが、生成AI、LLMがしっかりとみなさんの業務を変えるかどうかの大きなところになっているのかなと思うし、我々はそれを支援するようなソリューションを今開発しています。

プレゼンはいったん以上です。

田中:ありがとうございます。

LLM自体の開発も重要だが、AIを使う用に業務を変えることも重要

田中:そういう意味だと、LayerXさんは単にAIを作るだけではなくて、プロダクトとしての完成度も非常に高いと思うのですが、LLMの開発自体もやられているんですか?

中村:今は意図して基盤モデルはまったく作らない方針になっています。

田中:そうなんですね。では、「GPT-4」などの既存のクラウドベンダーが提供しているものを使っているということですか?

中村:そうですね。理由としては、まずLLMのユースケースを探す時に正解が明確で、かつ正解に至るプロセスも明確であるものを優先的にやろうとしていて。そういうユースケースを狙っている限り、基盤モデルのせいでどうこうということは少ないと感じているからです。

どちらかというと、LLMに入る前のファイルの前処理や、その前の検索にR&Dのリソースを当てようと思っています。

田中:(LayerXさんのプロダクトは)UXが非常に優れていて。いわゆるUIだけじゃなくて、例えばPDFをそのまま送れるとか、そういったイン・アウトの部分の研究開発もすごく優れているのですが、それは戦略上そういうふうにしているということなんでしょうか?

中村:そうですね。人間の業務が始まりから終わりまである時に、それをそのままAIに使えるユースケースだけだと市場があまりにも小さいかなと思っているので、初めから最後のうちの一部分だけをやったり、あとは、AIを使う用に業務を少し変えてもらって、別のルートからやる業務に変えてもらってやったほうが、より適用範囲が広がって市場も広がると思っているので、業務を変えるところも含めて支援できたらと思っています。

田中:なるほど。ありがとうございます。けっこうこれは示唆的だなと思うのが、最近はLLM開発みたいなところに注目されがちですが、LLMをたくさん作ってもタイヤの再発明、車輪の再発明なんじゃないかという議論もあって。まさしくそれを地で体現されているのかなという気もしています。

もちろんLLMを作るというサイドも重要かもしれないけれど、(中村さんには)UXの改善やお客さまの業務を実際に変えられることの重要性をお話ししてもらったのかなと思います。ありがとうございます。

ちなみに、Slidoでみなさまからの質問を募集しています。今すでに1つ質問もらっていますが、この後に質疑応答があるので、ぜひいただければと思います。

(次回につづく)

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