未踏のフィードバックの構造が自分には合っていた

漆原茂氏(以下、漆原):逆にみなさんと未踏はどういうところが合っていたと思うんですか? 安野さんはどうですか? ヤバい石黒先生(石黒浩氏)をプロマネ(PM)に(していましたが)。

安野貴博氏(以下、安野):そうですね。先ほど登さんもお話しされていましたが、ピボットできるところです。ある意味「これと、これと、これをやれ」みたいな感じでなくて、基本的に「どこへ向かうかは自分で決めろ」と。「ただ、そこで出したアウトプットはこう思うよ」とフィードバックされるという、その構造はすごく向いていたなと思いますね。

漆原:なるほどね。

未踏での指導は“いかにもっと尖ってもらおうか”を考えている

漆原:大学の中でも研究室はそういう予算の限界があるのかもしれなくて、似た環境かもしれないなと思うのですが、そのあたり、稲見先生からは「大学と違うのは何だ」みたいなものは何かありますか?

稲見昌彦氏(以下、稲見):はい。もう明確に頭を使い分けていますね。

漆原:そうですか。

稲見:大学で指導する時と未踏でPMとしてやる時は違っています。大学ではもちろん教育としてうまく成功してほしいというのもあれば、あとはできるだけしんがりの部分をどう務めてあげるかも大切だったりします。

未踏の場合は、やはり本人がやりたいと思ってやっていることなので、むしろそれをいかに壊さないように、こちらがある意味黒子となってサポートしてあげるかということです。

漆原:なるほど。邪魔しないということですね。

稲見:とにかく前には立たなくて、後ろからグッと(支える)というところです。それと、むしろ小さな失敗をたくさん積んでもらうことも未踏では大切ですかね。それも許容しながら、ボトムラインを考えるというよりは、いかにもっと尖ってもらおうかを考えるところも、普通の大学で考えていることとはちょっと違いますね。

漆原:なるほどね。PMとビジネスアドバイザーの他の先生方も非常に多岐に渡っていて、私も1人じゃぜんぜんできないのですが、他のプロマネの方々に「うちのプロジェクトを見て」とか、あるいはビジネスアドバイザーの方も(PMの方々と同じようなやりとりをしたり)、未踏アドバンストでは法律面(のこと)も、特許も、あとは会社の作り方とか、どうやってベンチャーキャピタルさまからイイ感じでお金を調達しながら怒られないようにするかみたいな大事なノウハウも……。

安野:大事なノウハウですね。

漆原:大事なノウハウですよね。

稲見:あと、決してPMの専門性と一致する人ばかりを選んでいるわけでもないというところもポイントです。

漆原:そうですよね。まったく違うのも選びますからね。

稲見:やはり我々自身も「未踏クリエータ」に成長させてもらっている、教えてもらっているところがあるので。そういう意味では、あえて自分が知らない分野のほうがいいこともあって。

知っている分野はマイクロマネジメントっぽいことをしたくなっちゃうような欲求もあるのですが、違うところのほうが、むしろ「じゃあ、こういう人に話を聞いてあげよう」とか、つないであげる役割とかにも我々がうまく変われるところも違いますかね。

漆原:そうですよね。PMとしては自分の分野をやっちゃうとガチになっちゃうので(笑)。なかなか優しくできないみたいな。

安野:ちょっとズレているほうがいいかもしれない。

漆原:ちょっとズレているところのほうが。

中村裕美氏(以下、中村):でも、専門と違うところでは取ってもらえないということだったら、私は取ってもらえなかったと思っているんです(笑)。

漆原:そうですよね。非常にユニークなテーマなので。

中村:はい。たとえPMの方が専門ではなくても非常にしっかりと見てもらえたし、あとはそこで「せっかくブルーオーシャンな分野なんだから、ペンペン草が生えないぐらいやりきっちゃいなよ」と言われたので、けっこうがんばれたところがあるなと思っています。

漆原:すばらしいですよね。やはり自分たちの内発的動機でやりたいと思って、それをまっすぐに追いかけていく。そういう若手人材を邪魔しないで、いかに「尖ったまま行け」と、「バランスとかを考えるんじゃない」と(言えるか)。そういうのが未踏の魅力ですかね。はい、ありがとうございます。

技術と物語の関係性を解きほぐした先の未来をうまくかたちにしていきたい

漆原:さて、ではそろそろ時間も近づいてきました。今登壇いただいている方々は、それぞれ未踏を卒業されていて、あるいはまさにPMで支援されていて活躍もされていますが、まだまだこれからいろいろやりたいことがあるんじゃないかと思っています。

どんな未来をみなさんが描いているのかを、それぞれ簡単に紹介いただければなと思います。安野さん、いかがですか? 締め切りに追われている安野さんから。

安野:締め切りに追われていて来週アレなんですが。すごく遠い未来じゃなくて近い未来の話をすると、再来週にある締め切りを乗り越えて。

漆原:(笑)。

安野:乗り越えると、7月に新刊が出ます。

漆原:お!

安野:次の長編が、AIスタートアップを創業する未踏人材の話なので、7月に出る新刊をみなさん買ってもらえればと思います。

漆原:なるほど。いいですね。

安野:その先のちょっと遠くの未来の話をすると。あ、ちょっとその前に中くらいな未来の話をしたいのですが、これを見ている人の中で、自分がまだ小・中・高校生ぐらいで、未踏本体はまだちょっと早いんじゃないかと思っている方がいると思うのですが、そういう人にピッタリなのが未踏ジュニアです。

漆原:そうですね。

安野:そういうものもあります。そのPMを実は私はやっていて小・中・高校生からすごく刺激をもらっています。その応募が今日始まったらしいので、見ている小・中・高校生の方はそちらに応募してもらえると、僕と一緒にいろいろできるというところで、それもがんばっていきたいなというのが中期的な話です。

長期的には、何でしょうね、技術と物語の関係性を解きほぐした先に、けっこうドラスティックにコンテンツや作り方が変わる未来がある気がしていて、ちょっとそれをうまく……。まだ具体的な内容は言えないのですが、かたちにできるといいなと思っています。以上です。

漆原:わかりました。安野さんの活躍に期待したいと思います。

研究を続けつつ、未踏で学んだノウハウを継承していきたい

漆原:中村さんお願いします。

中村:はい。私も実は安野さんと一緒で、2024年度から未踏ジュニアのメンターをするので、ぜひどしどしと応募してもらえればと思います。

漆原:未踏ジュニアです。

中村:はい。私自身はやはり食や食べること関係に興味をずっと持ち続けていて、電気刺激を使った方法以外にも、食と情報処理にはまだまだやれることがすごく多いんですよね。なので、電気以外のやり方も実は少し進めているところです。基本的に私自身は、これからも研究者としている、ライフワークみたいな状態にしていきたいなとは思っています。

長期的に考えると、未踏で学んだ自分自身を高めていくためのノウハウみたいなものや、いろいろな良かった点を、その後進の、いわゆる研究室の学生さんたちにちゃんと継承していくことを行っていきたいなと思っています。

漆原:ありがとうございます。おいしいデバイスができたらぜひ教えてもらえればと思います。

自分でもっとソフトウェアを作りつつ、文系人材向けの文章群を作る

漆原:登さんお願いします。

登大遊氏(以下、登):2つやっていて、1つは自分でもっとソフトウェアを作ることです。

漆原:すばらしい。

:しかしこれには限界があります。数年に1個ぐらいしかできません。第2は、そういうことをできる方は、日本のいろいろな役所や企業に点在していますが、それができない要因が、今月(2024年3月)に10ヶ所ぐらいの役所を回って聞いたら、ようやくわかってきたんですね。

それは、技術でやりたいことをやりたくても、上の文系人材のことをよく理解していない、理解できないということです。文系人材の話を聞くと、ITやコンピューターに関係する読み物を読んだらいきなり苦手意識が出てきて「よくわからん」と言って拒絶するという話です。

文系的な言葉で、プログラムや数式を使わず、図もあまり使わずに、簡単な日本語文章だけでコンピューターシステムのひと通りの中の本質がわかるような文章群を作れば、これは非常に有益なんじゃないかと思って、今はそれを開発しています。

漆原:それはめちゃくちゃおもしろいですね。すばらしい。ぜひ挑戦してもらえればと思います。ありがとうございます。

未踏のPMとして負けないように“未踏なこと”をやっていく

漆原:じゃあ稲見先生、お願いします。

稲見:はい。大学の教員というと、企業人や研究者として昔活躍していた人が昔話をしていて、「俺は昔すごかったんだ」みたいな。「君たちも昔の自分みたいにがんばれ」みたいになるイメージが多いかもしれないんですけれども、実際はそうではないです。

あと、未踏のPMの「P」は、プレイングマネージャーでもあるべきだと思うんですよ。つまり、未踏のPMのいいところは、昔話じゃなくて現役でおもしろいことをやっている人たちが……。そういう意味ではめちゃくちゃ忙しい方が多いんですが、それがその背中でうまく見せていることです。メンタリング、メンターとして見ているのがすごい魅力だと思います。

田中(田中邦裕氏)PMがまさに最近「X」でポストしていたのですが、PM自体もいろいろとチャレンジしていく様を見せること自体が、一番PMとして大切なことかなと思うので、私もこれからも負けないように“未踏なこと”をやっていこうと思います。

漆原:すばらしいですね。大変貴重な、すばらしいコメントをありがとうございました。

そろそろお時間になったようです。いかがだったでしょうか? エンジニア、技術者たちが作る未来。どれだけワクワクしているか、少しでも感じてもらえたらうれしいなと思います。そしてぜひ、私たちはお待ちしていますので、たくさんのご応募を期待しています。本日はどうもありがとうございました。

稲見:ありがとうございました。

(会場拍手)