そもそもマネージャーは成長するのか?

新多真琴氏(以下、新多):では、少しトピックを変えていこうかなと思います。せっかくこうしてマネジメントそのものというよりは、もう少し視野を広く深く今やっていらっしゃる、ゆのんさんに話が聞けるタイミングということで、どういうお話を聞きたいかなと考えていたんですけど。

「EMがどうマネジメントをやっていったらいいのか?」みたいなところは、けっこうちまたに情報が出てくるようになったなと思います。一方でEM自身の成長の定義、キャリアパスをどうしていくか、というところに関しては、あまり例が世に出ていないかもしれないねという話を、事前にゆのんさんとしていたんですけど、そういったところをお話ししていけたらなと思います。

そもそもマネージャーって、成長するんですかね?

湯前慶大氏(以下、湯前):マネージャーをどう捉えているかによっても、やはり成長するかどうかは変わるのかなと思っています。

マネージャーには、もちろんいろいろな責任もつきまとうので、昇格したと捉えられるところも多いかなと思うんですけれども。

新多:そうですね。

湯前:それは、会社の等級定義の中の話であって、どちらかというと大事なのは、役割としてマネージャーをどう捉えているかにあるんじゃないかなと思っています。

マネージャーは人に指示する役割で、人をうまくコントロールすればいいんだみたいに捉えていると、もしかしたら成長するのはちょっと難しいのかもしれません。

その中で、「最大成果を出すためにどうすればいいんだろう?」というところをいろいろと考えていくのであれば、成長というのは、普通にあり得ることなんじゃないかなと思っていますね。

新多:ありがとうございます。成長をどういうふうに捉えるかというところのお話だと受け取りながら聞いていたんですけど、「不確実性と時間軸が増していくのがマネージャーとしての成長なんじゃないか?」みたいな話を、ちょうどLayerXの社内でしていました。

メンバーである頃は、どちらかというと、例えばプロジェクトをうまくいかせること。期日どおりに自分の作ったものがきちんと動くようになっているとか、そういう短い時間軸の中でどれだけ高いパフォーマンスを出せるか、スプリント走できるかみたいなところが、わりと成果の指標になりやすいと思います。

一方で、マネージャーになる、ピープルマネジメントが職務に入ってくるということは、そういうメンバーの成長に対してどのぐらい主体的に関われたかというか。

例えば、1人だったら3年かかっていたところを、1年に短縮できたとしたら、その人は本当にすごくいい働きかけをしたということだと思います。それってたぶん、その人の3年後と1年後を見て、そこを短縮するための動きを逆算していたということだと思うので。

そういう意味では、扱える時間軸がもう少し長くなるというか、コントローラブルなものとして見られるようになっていくというのは、マネージャーに必要とされていく要素なんじゃないかなと考えたりしていました。

湯前:そうですね。時間軸の話は、確かにおっしゃるとおりとても大事だなと思っています。結局、時間をかけて達成できることは、普通にやればいいことで、それをどう短期間で実現するのかを考えるのがマネージャーの仕事の1つであるというのは、おっしゃるとおりだと思っています。

そのためには、人を成長させるという手段もあると思いますし、もしかしたら人を成長させるんじゃなくて、「どこかのチームから人を連れてくる」もそうかもしれないですし。

新多:あっ、そうですね。採用も。

湯前:採用もあると思います。あとは、プロジェクトマネジメントとしてどういう順番でやっていったら最適なのかを考えるのもあると思いますし、技術的に解決するところもあると思うんですね。

あらゆる手を尽くして時間を短縮させて成果を上げていくことは、マネージャーとして考えるべきことであるというのは、僕も思いますね。

新多:まさに戦略といいますか、戦を省くためにあらゆる手を尽くす、やり繰りするという。

湯前:そうですね。

新多:なんて大変な仕事なんだ(笑)。

湯前:(笑)。

メンバーへの理解、上位の戦略への解像度の高さ…マネージャーにとって大事なこと

新多:自分で口に出してびびってきちゃいましたけど(笑)。それってどうやったら、できるようになっていくんですかね?

湯前:基本的には、メンバーがどう動くのかというところを最大化するのがマネージャーの1つの仕事だと思うんですね。

新多:そうですね。

湯前:そうなった時に、そもそもメンバーは何が得意なのかとか、どういうところをやると動きやすいのかというのをまず理解することが大事だと思うんですね。

そうしてやっていくと、やらなきゃいけないことの中で埋まらないところがたぶん出てくると思うんですよね。それをマネージャーが間を埋めていくことがけっこう大事なんじゃないかなと思っていて。

新多:なるほど、なるほど。

湯前:今までメンバーが集まってやっていたところをマネージャーがちょっと穴埋めすることによって、よりチームが円滑に回っていくことが実現できて、結果的にパフォーマンスの成果が出ることになるんじゃないかなと思いますね。

新多:1+1が2だったところを10とか100にしていくために、自分が何のギャップを埋める必要があるかを考える必要がある。それは、まず、1+1が2であるかどうかを確認することと、ギャップが何かを明らかにするために、自分たちはどこに向かっているのか、その手前をまず明らかにしておかないといけないということですよね。

湯前:そうですね。チームがどこに向かっていくのかを決めていくのも、ある意味マネージャーの仕事の1つかなと思っています。

最終的にどう進むのかは、チームメンバーと一緒になって決めていくところだと思うんですけれども、どこの方向に向かっていくのかというところは、やはりマネージャーが指し示すことが必要なのかなと思っていますね。

新多:先ほどの話を伏線として回収する感じになるんですけど、どこに向かうべきかを決めるために、やはり必要なのは、上位の戦略への解像度の高さだと思っています。

つまり経営だったり事業目標だったりというところが、自分たちのチームの現在地とどのように関連があって、どうやったら事業目標の達成に寄与できるのかというところを、1回自分の言葉に変換するというプロセスが必要になってきそうな感じがしました。

湯前:めっちゃ大事ですね。階層型組織で、CTOがいて、シニアエンジニアリングマネージャーがいて、マネージャーがいて、という3階層だとした時に、そのCTOから考えたもの、あるいはほかの経営者が考えたものを、ただ途中にいるマネージャーが右から左に横流しするだけだとあまり意味がなくて。

それってなんか、そのポジションにいる人たちが、自分の言葉で「こういうふうに解釈をして、こういうことをやってほしいんだ」とちょっとずつ情報をアド(※Add)していくようにしていかないと意味がないから。

アドというか、ある意味、プロトコルに変換すると言ってもいいかもしれないですけれども。

新多:そうですね。

「自分たちはどこへ向かおうとしているのか?」をみんなで話すことが大事

新多:今、お話を聞いていて思ったのが、変換をするのももちろんマネージャーの役割であることは間違いないんですけど、そのチームに何を期待しているのかと、目標を下ろす側。

先ほどの例だと、CTOやシニアEMが、「事業目標はこれだから、はい、よろしく」ではなくて、一緒に変換するということをやっていくと、より精度が高くなるのかなと感じました。

湯前:そうですね。トップや上位のレイヤーの人たちが、組織の隅々にまでわかる言葉や伝わるような表現で伝えていくことも大事だと思います。

あとは、おそらく、これは目標をただ下ろすタイミングの話だけじゃなくて、結局会社としてどういうミッション、ビジョンを持っているのかとか、どういうことをこの組織を成り立たせる人たちがやるべきなのかというところをふだんから話しているかによってもけっこう変わるんじゃないかなと思っています。

そこの、ふだんから話している情報と、今これから向かっていく方向をうまくリンクさせて話をしていくと、目標を立てた時にただ下ろすというだけじゃなくて、今まで言ったことの情報も引っ張ってこられる。

新多:確かに、確かに。

湯前:けっこう、そういう意味での瞬間的なコストはかなり抑えられるんじゃないかなと思いますね。

新多:目標がお題目になってしまって、期初のタイミングだけみんなで見て、期末まで忘れ去られてしまうということもよく聞くんですけど、そういったことにならないために、ふだんから、「自分たちはどこへ向かおうとしているのか?」というのを、いろいろな粒度で、みんなが話していることが大事という感じですかね?

湯前:そうですね。やはり組織上の上から下にただ下ろしていくだけだと、けっこう大変じゃないかなと思います。普通に考えてCEOのレベルだとみんな忙しいじゃないですか。

新多:はいはい、物理的に。

湯前:だから、例えばCEOが全体の目標を下ろしていくのであったとしても、「その目標は、みんながワクワクしているか?」というのがけっこう大事なんじゃないかなと思っています。

新多:ワクワクしているか、ですか?

湯前:そう。みんながしたくなる話なのかどうか。みんながしたくなる話だったら、わざわざCEOやCTOが広めようとしなくても、勝手に自分たちで話をしていくので、自分たちでやりたいようにやっていくというのができていくんじゃないかなと思っています。

新多:なるほど、自然発生的に、それについて話されるぐらいおもしろいもの。

湯前:おもしろいものを作ることが大事だと思います。

重要なのは「みんなが自分事になれるかどうか」

新多:カケハシさんは、ビジョンやミッションを定常的に社員のみなさんで話し合われているみたいなことを、(ゆのんさんのCTO)所信表明のエントリーで読みました。

湯前:そうですね。今、月一で月次報告会を全社員でやっています。けっこう規模も大きいのでさすがに全部オンラインでやっているんですけれども。

その時に、ビジョンやミッションを確認するとか、別になにか物を渡すわけじゃないんですけども、バリューに対してこういういい行動をしましたよという人を表彰するというか、「こんなすごいいいことしましたよ」と発表する場があって。

新多:すばらしい。

湯前:そうすると、「あっ、こういう行動をしたらいいんだ」ということがみんなわかるので、そういう行動を自然とするようになるんですよね。

新多:確かに組織の中で、「こういう考え方、いいよね」といくら口で言ったとしても、そこにみんなの行動が伴っていなかったら、それって浸透していかないんですよね。

湯前:そうですね。なので、みんなが自分事になれるかどうかがとても大事なんじゃないかなと思うんですよね。

新多:なるほど。

自分が立てた目標をメンバーがすごくポジティブに受け取ってくれた

新多:これまで聞いてきたお話は、すごく血の通った意見なんだなという感触をすごく持っていて、それってご自身の体験で、これはうまくいかなかったとか、これはうまくいったみたいな手応えがあって今の考えにたどり着かれている感じなんですか?

湯前:そうですね。僕は、最近CTOに就任したんですけれども、就任する時に会社組織もけっこうガラッと変えたところもあって。

新多:おっ、そうなんですね。

湯前:はい。それで、「目標を作りましょう」という話になったんですよね。「この開発組織の目標を作りましょう」となった時に、「自分でどういう目標を立てたらいいんだろう?」みたいなところをいろいろと考えて、考えて、結果的に1つのいい目標を自分なりに立てられたなというのがあるんですけれど。

目標として、医療体験をこれからいい方向に持っていくために、毎日なにかしらリリースできる状態を作ろうというのを立てたんですよね。

実際、毎日いろいろリリースするのって、いろいろなリスクとか、いろいろ考えなきゃいけないことがたくさんあるんですけど。

でも、これがもしもできたとしたらすごくいい世の中に変わっていくよねという実感が持てるものが自分の中でできたなと思っていて、実際にそれに対して開発のメンバーもすごくポジティブに受け取ってくださって。

新多:すばらしい。

湯前:僕がいないところで、「これを達成しようと思ったら、自分たちはどういうふうにすればいいんだろう?」みたいな会議が開かれたり。

新多:あぁ、うれしい(笑)。

湯前:そう、めっちゃうれしかったです。たまたまほかにやらなきゃいけないことがあって僕は出られなかったんですけど、そういうのを、別に僕からお願いすることもなくやってくださったのがすごくうれしかったです。

新多:とてもいいフレージングに落とし込めたのと、毎日リリースできるようになったらこんないい未来があるよねというところに、みんなが夢を乗っけられるようになったというのと、あとは、そこに対して自分たちでもできることがあると思えるという3つが満たされていて、すばらしいですね。

湯前:そうですよね。我ながら「あぁ、いいのができたな」と思いました。ただそれは、「どういうのがいいんだろう?」「なんかしっくりこないな」、みたいなことを何回も繰り返して考えたことだったので。

新多:磨き抜かれた結果なんですね。

湯前:我ながらいいのができたなと思っています。

新多:いやぁ、すばらしい。ちょうど、『スイッチ!』という本に、ワクワクするようなゴールがあると、それに向かってみんなが勝手に熱狂するようになるみたいな一節があったんですけど、まさにそれだなと思いました。

湯前:そうですね。一言なり、なにかしらの変えるきっかけというのは、大したことないというか、本当にちょっとしたことだと思うんですよね。

それを1つ出せるかどうかがやはり大事なんじゃないかなと思っていて、それが全体のゴールや方向性を導く時に重要な観点じゃないかなと思いますね。

新多:マネージャーとしても、自分のチームでそういう写真を出せるような磨き方をしていきたいですね。

湯前:そうですね。それができると、チームの成果もすごく出ますし、なによりもまず、みんなが楽しそうに働くというのが実現できるんじゃないかなと思いますね。

新多:ありがとうございます。

(次回へつづく)