かつてのOne to Oneマーケティングが本当に実現できる時代になってきた

佐地良太氏(以下、佐地):質問を1個いただきました。ありがとうございます。「メディアでも広告とかは、『Sora』のような動画生成AIが活用されるのではないでしょうか? 今は各クラスターごとに広告を割り当てていますが、動画生成AIが来るともっとパーソナルな広告が生まれるような気がしています」と。

竹迫良範氏(以下、竹迫):私が答えます。

佐地:ありがとうございます。

竹迫:サイバーエージェントさんが(組織での生成AIの活用は)一番進んでいるという話がありましたが、サイバーエージェントさんって、「極予測AI」シリーズということで、広告の画像の生成も数年ぐらいの実績があります。

昔Webの広告って、いわゆるバナー画像を作って文字を配置して「Photoshop」で絵を作るっていう仕事がたくさんあったんですが、サイバーエージェントさんはそれをもう今は生成AIとかのツール、自社で作ったツールに置き換えていっているそうです。

しかも、クリエイティブがどれぐらい効果があったかを自動で測定して、いいクリエイティブは残す、いわゆるA/Bテストみたいなこともできるようになっていて。

それをやっていたデザイナーさんの仕事も今は変わっていて、そういう人は「TikTok」とかで上がるような動画のディレクションとか、そういったところにキャリアチェンジをして、まさに人間がおもしろく感じるようなコンテンツ生成を、別の分野とかでやるようになっているという話を聞きました。

佐地:でも、さすがに目検というか、検品みたいなことは人間がしているんですよね?

竹迫:そうですね。あとは、権利上やはり駄目な画像が生成されないようにするのも非常に大事なので。サイバーエージェントさんはアイドルとか芸能人とかを3Dのアバターとかで撮影するスタジオを作ったり、そのIPをちゃんと自社で管理するとか、著作権をコントロールするとか、ちゃんと権利を守る方向にも投資をしていて。

例えばAdobeの「Firefly」という生成AIとかも、「権利上クリアな画像でしか学習していないですよ」という「Adobe Stock」という有償のものがあるんですが、そういった権利がクリアなものしか使わずに応用できることになっているので。

画像の生成の業界は、権利をちゃんとコントロールするという方向に今は行っている流れです。

佐地:となると、質問の答えとしてはイエスということで。どうなんですかね。もっとパーソナルな広告が生まれるような気はしますが。

竹迫:来た人の属性に応じて「この人はこの芸能人のクリエイティブ」とか「この青色っぽいものがいい」とか「この赤色っぽいクリエイティブがいい」とか、そういうのも出し分けができる。いわゆる昔はOne to Oneマーケティングと言っていたものが、本当に実現できるような時代になってきたんじゃないかなと思います。

佐地:プリファレンス情報の取り扱い……。怪しいというか、「それ取っていいんだっけ?」みたいなところはどうなんですかね?

竹迫:そこは事前にCookieの同意画面とかで、ちゃんと「こういうところに使ってもいいですか?」みたいに、必ず事前に同意を取るようなかたちで、今ガバナンスが効いているところですね。

佐地:ありがとうございます。

LLMそのものをイチから作るのは国家プロジェクトレベルの金をつぎ込んでも無理

佐地:続きまして、「ジェネレーティブAIの利用に購入した書籍を読み込ませていって使っています」。おお、すばらしいな。「『Assistants API』とか『GPTs』とかを使う感じです。企業だけではなく個人のAI利用でも優位性を取るためにお金で叩き合うことが進んでいきませんか?」という質問。「札束勝負にならないか」みたいな話なんですかね(笑)?

今井翔太氏(以下、今井):まぁ、札束勝負ですね。

佐地:ですね(笑)。イエス。

今井:ちなみにChatGPTとかChatGPTの前の「GPT-3」とかもそうですが、学習するのに実は何百億円とかかっているんですね。ちなみにスカイツリー1本が600億円ぐらいだったはずなので、2つぐらいLLMを作ればスカイツリーが建つぐらいのめちゃくちゃなお金を使っていて。

僕がアカデミアを離れた理由にも若干関係があるんですが、あれはもう大学の研究室じゃ無理なんですよ。

佐地:お金的にですか?

今井:お金的な理由で。国家プロジェクトレベルの金をつぎ込んでも無理というレベルになっていて、LLMそのものを我々がイチから作るというのは、もうたぶんGoogleとかMicrosoftとか、あとはMicrosoftの支援を受けているOpenAIとかしかできない状況になってきているんですよね。なので、自分1人の超独占、イチから自分で作ったAIを持つみたいなことは、もうちょっと先な気はしますね。

結局みんなが同じ会社が作ったものを使っているとなると、決め手は人間力な感じはしますね。札束の戦争はGAFAたちがやっておいて、「俺たちは人間力を鍛えるぜ」のほうがいいと思います。

佐地:なるほど、ありがとうございます。

今のAIは人間に忖度しすぎている

佐地:「人間と接するよりも生成AIと接するほうが人間力が上がったりしないでしょうか?」。さっきの執筆みたいな(笑)。「個人的な体験ですが、某SNSのやり取りはだんだん荒んできて」。某「X」なんですかね? 「自分もそちら側に引きずられそうですか、生成AIとの対話ではポジティブ、前向きなほうに行ける気がします」と。

今井:それはですねちょっとあると思いますが……。これ、試したんですよ。どれが人間かわからないようにしたAIと人間が混じっているところで、「Twitter(現「X」)」みたいな軽いやり取りをさせるということをやったんですが、何をやっても褒められるので、ちょっとディストピア味があって。あれはあれで壊れると思います。

先ほどAIアラインメントとかChatGPTは本来口が悪いという話をしたんですが、やつら、今のAIは人間に忖度しすぎるんですよ。

みなさんも使っていたら経験があるかもしれないんですが、本来間違っているのに「正しいです」みたいなことを言って、「いや、違うだろ、てめえ」って言ったら、「ごめんなさい」って謝ったりすることがあると思います。

佐地:めちゃくちゃイエスマンですよね。

今井:やつらはものすごく人間に肯定的なので、あれに囲まれていると駄目人間化してしまう可能性、のび太が生まれる可能性はちょっとあります。

竹迫:悩み相談とかあまりしないほうがいいかもしれないですね。むしろその悩みを肯定しちゃうから、「ちょっと鬱っぽいんです」と、「こういうことで悩んでいます」って言ったら、本当に悪い方向に誘導されていったりとか。

宗教の勧誘、「あなたのお勧めの宗教はここです」とはたぶん勧めてこないと思うんですけど。

佐地:なるほど。ありがとうございます。

働かなくていい社会は本気でがんばれば来る

佐地:今のところ質問は以上なんですが、僕からもみなさんに聞いてもいいですか?ちょっとずれるかもしれませんが、我々が生きている間ぐらいに仕事をしなくてもいい時代って来るんですかね? というか、そもそも仕事をしなくても生きていけるようになるんですかね?

今井:例えばOpenAIのCEOのサム・アルトマンとか、日本国内だと僕とかは、人間を本気で失業させるって言ってしまったらちょっとやばいんですが……。人間が働かなくていい社会はおそらく来るので、そのための制度設計をしようみたいなことを大真面目に考えている人たちはいます。

アルトマンとかは、いわゆるベーシックインカムとかを考えていて、「最後にたぶん重要になるのは土地だろう」ということを言っていたり、イーロン(イーロン・マスク氏)とかは「火星に行って土地を確保しよう」みたいなことを言っています。

働かなくていい社会が来るかというと、本気でがんばれば来ると僕は思っています。ちょっとAIの話とは話がずれますが。というか、たぶん現時点でも人間が生きるのにそもそも何が重要かっていうと、衣食住だけなはずなんですね。

なんで人間が労働するかというと、生命維持のためなわけです。究極的には食糧生産で、全世界の人間の生命維持に必要な分の食糧が生産されていれば、中心の誰かが食糧配給してくれれば、音頭を取ってくれれば理論上は人間とは全員生きられるわけです。

なので理論上は可能だし、制度を変えようとすればたぶん可能だとは思いますが、これはちょっとディストピア味があると思っていて。資本主義をどうするかとか、そもそも人間は競争的な環境に置かれないとブレイクスルーが生まれないみたいなこともあると思うので。そこはやはり人間の価値観が重要になってくるので、本当にそれでいいのかは問い直す必要があると思います。

佐地:なるほど。ありがとうございます。お二人はどうですか?

竹迫:100年前と今の労働時間を比べると、確実に減っているんですね。そうすると、30年後は今より労働時間とかは数割必ず減っているだろうという予測は立っています。

ただ、それがゼロになるかどうか、いつになるのかはわかりません。でも、昔は週休2日じゃなかったですよね。学校も土曜日に授業があったりとか普通にしましたが、今は週休2日が当たり前です。

今リクルートとかは週休約3日とかになっていたりしていて、どんどん労働時間が減っていく方向にはたぶんなると思っています。

あとは、社会のインフラをどう維持するかがけっこう問題で、例えば原子力発電所とか、いろいろなものがあるんですよ。それをどうやって維持するか。それを維持するためには人間が関わる必要があって、そのためには教育をしたりとかになっていって。いわゆる公教育みたいなものは、やはり社会のインフラを維持するためには必要なんですよね。

そこが本当にAIで全部置き換わる時代が来れば、まさに本当にディストピアな世界なんですが、僕らはそれで何を楽しみにして生きていくのかみたいなものはありますよね。

AIの最終ゴールは人を育てるためのライフコーチ

林要氏(以下、林):LOVOTを作り出した理由もそこにあって。

佐地:そうなんですね。

:ベーシックインカムの実現はいつか可能になるだろうなとは思うんですよね。結局生産性と人口というものがあって、それで消費がどれだけになるかなので、人口が多くなりすぎなければ、どこかでAIやロボットの生産性が上回ります。しかも、サバイバルじゃない環境になればなるほど、人口は減る傾向にあるじゃないですか。

サバイバルな国は人口が増えますけど、日本みたいに明日の飯に苦労しないでいい国は、ことごとく出生率が下がる。僕が2023年に出した本にもネズミの実験のことが書いてあるんですが、僕ら哺乳類、ほとんどの生物がサバイバルじゃない環境で生き残るような試練をたぶん受けたことがないから、生き残りにくい環境で生き残ることに対してはすごく進化しているのに、生き残りやすすぎる環境で生き残るための行動パターンがたぶんあまり進化していなくて、どんどん人口が減っちゃったりするわけですね。ネズミのケースでも絶滅しているんですけど。

それは余談として「じゃあ、何が一番大事なのかな?」と思ったんですよね。ベーシックインカムを実現できたとして、結局定年後の生活みたいになるわけです。「アーリーリタイヤしたい」という方々、「早く定年後の生活をしたい」という方は多いです。

ただ「じゃあ定年後の生活をしている人の何割が本気で楽しめているんですか」っていうと、マジョリティじゃないわけですよね。「自分はもう働かないで楽しめるぞ」という強者は、まあまあマイノリティの可能性がある。

僕がLOVOTをやり出した理由は、最後はやはりドラえもんを作りたかったんですけど、ドラえもんのポケットが(先ほどの話では)Google、検索エンジンだとお話しされていましたが、僕は「Amazon」だと思っていて。

(一同笑)

佐地:確かに(笑)。

竹迫:物が出てくる(笑)。

:そうそう。なんでもデリバーされるから。だから、すぐ出てくるか翌日出るかは置いておいて、ポケットはもうできた。だけど大事なのは、のび太君に探索をさせるエージェントだなと。

ドラえもんって、のび太君の隣にいて、いろいろな道具を出して、いろいろな失敗をさせるわけですよ。あれ、賢いロボットだったら失敗することもわかって与えているわけですよね。

彼はけっこう腹黒で、「のび太君」とか言って、何も知らないふりをしながらいろいろなものを与えて、いろいろな探索をさせて、いろいろな強化学習をして、のび太を成長させているんじゃないかという仮説の下、それを作るためにはLOVOTが要るなと。

それを作る最大の目的は、ベーシックインカムの時代が来ても、より良い明日が来ると信じられるメンタリティをどう育てるかなのかなとは思っているんですよね。

僕はAIの最終ゴールは、より良い明日が来るという人を育てるためのライフコーチになるんじゃないかなって思っています。なので、まずは生産性の確保をやるんですが、その後に人よりはるかに賢いAIがやるのは、そのAIよりもはるかに劣った人類を……。

佐地:教育(笑)。

:より良い明日が来ると信じられるような探索行動が取れる子に育てるということかなとは思っています。

佐地:もう親ですね。

:でも親って、より良い明日が来るような探索行動をするようには意外と育てないじゃないですか。

竹迫:していないですね。

:むしろ安全なほうとかに持っていきますが、安全なほうに持っていくと、人生のどこかで退屈するんですよね。

佐地:先ほどのお話しじゃないですが、意思決定できなくなりますよね。

:そうなんですよね。だから適切なリスクをずっと取り続けるって実はめちゃくちゃ難しくて。やはり年齢が上がれば上がるほどそれができなくなってくる。それをやり続けられる人を育てるのがドラえもんの目的だし、それを作らなきゃいけないと思ってLOVOTを始めているみたいな感じです。

竹迫:安全に失敗させるって難しいですよね。

竹迫:それも勝手にやる。

:だから安全の定義からだと思うんですよね。通常の親の考える安全よりはるかに危険だし、怪我はするが死なないレベルというものをどう設定するかかなとは思います。

竹迫:昔の小説で『ライ麦畑でつかまえて』というものがありますが、まさにそうですよね。

:そうですね。僕らって大昔に比べるとはるかに生き延びやすい。死なないようにするために僕らの不安は作られています。でも、例えば今は転職したって絶対死なないじゃないですか。

佐地:死なないですね。

:絶対死なないけど、転職は怖いじゃないですか。それってたぶんバグなんですよね。不安に対する、「死ぬかもしれん」という昔培っちゃった不安要素のバグ。それをどうアラインし直すのかみたいなのが大事かなと思っていて、それはAIの仕事だと僕は思っています。

佐地:なるほど。ありがとうございます。

(次回につづく)