ーーいろいろなことに挑戦されている安野さんですが、エンジニアリングという面で一貫して大事にしてきたことは何でしょうか?

安野貴博氏(以下、安野):いくつかある気がするんですけど、1個は、自分できちんと理解することですかね。プロダクトってやはり全部1人で作るわけではないじゃないですか。会社だと何十人で作るものですし。

でも、技術的なことを理解しなくていいわけではないと思っています。ここまで行けてここまでは行けないみたいなことをわかっていないと、プロダクト全体って考えられないじゃないですか。

AIも、90点取れるAIと、80点しか取れないAIと、99点取れるAIでは、製品で何をするか、どういうユーザーインターフェイスにするか、ビジネスモデルをどうするかがもうぜんぜん変わっちゃうんですよね。なので、そういうところをきちんと自分の手を動かしながら把握しようとするのは、重要なことかなと思います。

ーー挑戦する原動力は何でしょうか?

安野:原動力は、やはり知的好奇心だと思いますね。知的じゃないかもしれない。単純な好奇心ですね。

ーー好奇心?

安野:はい。こうするとおもしろいんじゃないかとか、いたずら心的なものな気がしますね。

ーーなるほど。ちなみに、エンジニアに好奇心は必要だと思いますか?

安野:好奇心ベースで動いていない方でもすごい方もいるとは思いますね。でも、一般的にはあったほうがいいと思うな。

やはりなにかができなかった時に、「なんでこのコードは動かないんだろう?」とか、「もっとできるいいやり方ないかな?」とか、「ほかの人はどうやっているんだろう?」とか、そういうのを調べるか調べないかって、けっこう好奇心の問題ですよね。そういうのを調べる人のほうが伸びていきやすいかなとは思いますよね。

ーー将来挑戦したいことはありますか?

安野:将来挑戦してみたいことはいろいろあって、ある意味、物語を作るのと、技術を実装するという2つをずっとやっているんですけど、この2つはけっこう親和性が意外と高いと思っていて。

例えばスタートアップって、技術がベースにあるように見えつつ、その周辺に物語がきちんとないと世の中に使ってもらえないんですよね。

SpaceXも、ただ大きなロケットを「こうこうこういう技術で作ります」と言っているだけだとあそこまでの企業にならないわけですが、「人類をMulti-PlanetaryなSpeciesにするんだ」と言うことで、世の中的な共感がすごく集まって、優秀な人も集まるというところで、この2つってすごい近いところにあると思うんですよ。

僕は技術が未来社会にあった時に起きる人間同士のコミュニケーションとか、この技術があったからこそ初めてわかる人の気持ちみたいなものを書きたいなと思っているんですけど、そういうところも、両方の組み合わせで初めて想像できる部分があると思っていて。

もう片方で、人を感動させることって、けっこうアルゴリズムにできると思うんですよ。人の心を動かせるような物語を作る技術を作っていきたいし、その技術を使って人の心を動かす物語を作りたいというのが、1個の目標です。

ーー10年後はどうなっていたいと思いますか?

安野:10年後……43歳。10年後は、あまり大きな会社はやっていたくなくて、小さな集団でものづくりをしていたいなと思いますね。8人くらいの集団で(笑)。よく「ツー・ピザ」って言うじゃないですか。ピザ2枚くらいを囲めるチームが、1つの塊として機能する良い大きさだと言われるんですけど。

やはり、自分の人生を振り返っていても、そのサイズで物を作っている時って、お互いのこともわかるし、グルーヴ感もあるし、1人だとできないことも8人いれば、けっこう世の中的に新しいことも実現できると思っていて、しかもそれは今後、AIによってより増幅されていくと思うんですよね。

スモールチームができることの幅がどんどん広がっていくと思っていて、そういうチームで大きなインパクトを生めるような技術なり物語なり、また別のプロダクトなりを作り続けるのが理想かなと思いますね。