登壇者の自己紹介とアジェンダの紹介

谷内健太氏:TVerで働いております、谷内と申します。よろしくお願いします。

「定数を変数化する覚悟-レバレッジの効く変数を獲得するという考え方-」というセッションのタイトルでお話をさせていただきたいと思っています。

少しウェットというか、泥臭い内容を含む内容だったりするのですが、今回のテーマが「覚悟」ということで、そういったところを少し後押しする内容になればいいなと思っています。よろしくお願いします。

最初に私の自己紹介を簡単にさせてください。谷内健太と申します。キャリアは、博報堂DYメディアパートナーズという広告会社からスタートしており、その後2020年から株式会社TVerへ出向しています。

戦略企画室で事業企画や推進をやりながら、プロダクトにも片足を突っ込み、その後にプロダクトに本格的に移り、現在はPdMチームのマネジメントをやっています。

本日の目次は、大きく4つです。まず「はじめに/定数・変数というものはなにものか」というところから入り「潜りの定数とはなにものか?」というところに移りたいと思います。

その後、主題にもある、「サービスの成り立ちと定数を変数化する覚悟」というところ。最後に、この一連のアプローチというところで、「得ることができた恩恵」というかたちでお話をさせてください。それでは、よろしくお願いします。

「定数」と「変数」とはなにものか?

まず、「はじめに/定数・変数とはなにものか」というところ。第1に、「定数と変数とはなにものか?」。

簡単に辞書で調べてみると、一般的なワードからアカデミックな内容までいろいろ書いてありますが、ビジネス上では、定数というものは、コントロールができないもの。変数というのは、コントロールができるもの、という意味で使われるケースが多いのかなと思っています。

限られたリソースや時間の中で、事業やサービスプロダクトの提供価値を最大化していく時には、なによりもこのコントロール可能な変数をしっかりと見極めて、その中で、じゃあ、どこにどれだけフォーカスをし続けられるかというところが重要なのではないのかと思っています。

これは、書籍やメディア、業務におけるさまざまな機会で言われることが多いと思いますが、個人的にもここが最も重要なことだと思っています。

ここを少しかみ砕くと、プロダクトを取り巻く有象無象の問題、レバー、指標みたいなところを前にして、そもそもそれが定数なのか、変数なのかを仕分けて、それらの特性や構造をできるだけ正しく解釈をするというのが、まずステップ1としてあるのかなと(思います)。

これを経た上で、ステップ2として注力すべき変数をしっかりと見極めて、そこにフォーカスをしていくという話になってくるのかなと思っています。

正攻法として、やはりこれらをいかに洗練できるか、追求し続けられるかというところが、プロダクトの提供価値の大小だったり、その速度を支配すると個人的には考えています。

一方で、今回のテーマにつながる問いですが、こんなことはないでしょうか? と。いわゆる、(スライドを示して)この定数の部分ですね。アンコントローラブルなところに対して、「そもそも、なんでこういうルールなんだっけ?」とか、「この影響力がでかすぎて、こんな制約なかったらいいな」みたいなケースが、大なり小なり出てくるんじゃないのかなと思っています。

なので、本日お伝えさせていただきたいことは、やはり、この提供価値を最大化していくにあたって、まずコントロール可能な変数の最小単位を見極めてフォーカスをする。これを大前提とした上で、プラスアルファ、このインパクトの大きな潜りの定数を疑って、変数として獲得を試みるという考え方についてお話をさせてください。

「潜りの定数」とはなにものか?

それでは、「潜りの定数とはなにものか?」に入っていければと思います。

このコントロール可能な変数、アンコントローラブルな定数の間に、定数の顔つきをした変数みたいなものが潜り込んでいることがあるんじゃないのかなと思っています。

定数というのは、2種類存在すると思っていて、まず1つは、コントロールすることが非現実的な定数。例えば、気候変動、自然災害や感染症、他社・競合プレイヤーの動きみたいなものですね。

その一方で、本当はコントロール可能なんだけれども、暗黙に自分たちで定数化をしてしまっている定数。これが潜りの定数というもの。

例えばどんなものがあるかというと、現状にそぐわないルール、前例主義的な商習慣や慣習、あとは、これまでの当たり前、個人や組織として固執しがちな価値観などがここにあたるかなと思います。

多くのケースで、この部分がサービスやプロダクトに対して極めて大きなインパクトをもたらすことは多いんじゃないのかなと(思います)。

「潜りの定数」に影響されて不健全な状態に陥っていた過去

「TVerのサービスの成り立ちと定数を変数化する覚悟」。本題に移りたいと思いますが、TVerというサービスは、民放テレビ局が1つになったテレビの新しいプラットフォームで、テレビコンテンツをいつでもどこでも見られますというサービスになっています。

会社の沿革が少し特殊です。(スライドを示して)まず左側ですね。2015年の10月に、TVerというサービスが立ち上がりました。実は、(スライドの)左下にある株式会社プレゼントキャストという会社が、放送局からこのTVerというサービスを受託運営するかたちでこのTVerというサービスを開始しています。

その後、意思決定を加速させていく、よりグロースさせていくために、2020年に株式会社TVerというかたちで、このプレゼントキャストが切り替わり、自分たちで主体的な事業をやっていくという事業会社に切り替わりました。

つまり、長らく続く受託運営という立場から、事業会社としての主体運営にシフトして担っていくというところが大きな出発点になっています。

これまでに積み上げられた多くの当たり前を、主体運営をしながらどう切り崩していくかが1つのテーマでした。

そうなると、当然意思決定をスピードアップしてやれるなど、いいところはありますが、やはり動かせないと思い込んでしまっている「潜りの定数」に影響されて、その範囲内でのアクションしか施せないような、いわゆる不健全な状態に陥るケースも見られたと思っています。

やはり、ルール、商習慣、慣習など、これまでの当たり前に左右されて、なかなか理想の姿から逆算して検討する、考えていくことが意識的にできない部分があったのかなと(思います)。

「潜りの定数」を「変数」と獲得することが難しい3つの理由

この潜りの定数を変数として獲得することがなぜ難しいのだろうか、というところをもう少し言語化、深堀っていきたいなと思いました。

結論、(スライドを示して)大きくこの3つが寄与しているんじゃないのかなと思っています。

まず1つは、そもそもそれが実際動かせますよというところに気づけていない、もしくは、薄々感じているんだけれども目を瞑ってきた。

2つ目。重い腰を上げてそれを動かそうとした時に、なかなか論理やファクトだけでは進むことができない領域になってくる。

3つ目。(スライドを示して)これは誤植ではありません。「ステークホルダーマネジメント」ではなく、いわゆる「ステークホルダーステークホルダーマネジメント」というところまで考えていかないといけない。これが極めて重いという話になるかなと思っています。

1つずつお話ししていきます。「気づけていない、目を瞑ってきた」というところでいうと、ユーザー、友人、あとは、会社にジョインしたニューカマー、新しい方々から、「ここってなんでですか?」とか非常にピュアな質問が来た時に、「うーん、それって私たちではどうにもできないんだよな」とか「いや、過去の経緯的に昔からそうなんだよな」。

ただ薄々、頭の中で「いや、この人たちが言っていることは正しくて、こうできるんじゃないか?」みたいなのがあったりする。ただ、それに気づけていなかったり、目を瞑ってきたり、みたいなところがあるのかなと思っています。

ここを1つクリアしたとしても、次のところ。ステークホルダー、上司、同僚を巻き込んで動かしていこうと。当然、利害関係を含む部分なので、「実際に損はさせませんよ」みたいな、定量的なもの、いろいろな論理、ファクトを構築するのですが、「正しいのはすごくわかるんだけど、でも……」みたいな話とか。

先ほど自分が思っていたようなかたちですね。「過去の経緯的に、昔からそうだしな。でもきっとこれはこういうものが正しいんだろう」というところも、実は共通意識として持てている。

仮に、ステークホルダー、上司、同僚を巻き込めたとしても、結局は、その先により多くのステークホルダーがいるケースが大半を占めるかなと。つまりその先に、また同じように「正しいのわかるんだけど、でも……」みたいなところがどんどんどんどん繰り広げられていて、ステークホルダーも同じ悩みを抱える運命共同体といったところがすべてになってくるのかなと思っています。

「潜りの定数」を「変数」として獲得することが大きなインパクトをもたらす

ここのポイントは2点あると思っていて、まず1つは、ステークホルダーがいかにその先のステークホルダーを動かせるのかまでを慮ったコミュニケーションや準備が不可欠であること。もう1つは、利害関係者を突き動かすために未来志向でポジティブな調整、根回しを伴うということがあるのかなと思っています。

なので、(スライドを示して)総じてこの3点に集約されてくるのかなと思っていて、ちょっと書きながら思っていたことなのですが、こういったところはとても重いなというのが実感としてあります。

覚悟を持ってこれらを打破して、潜りの定数、そぐわないルール、前例主義的な商習慣、慣習、これまでの当たり前や価値観をコントロール可能な変数として獲得するというところは、事業、サービス、プロダクトの成長など、最終的にユーザーに対してとても大きなインパクトをもたらしてくれると思っています。

「潜りの定数」を「変数」として獲得した2つの例

例えばどういうものがあるのか、あったのかといったところで、すごくわかりやすい例を2つ持ってきました。

1つは、広告体験に関するルールメイクです。TVerは動画配信サービスの中でも、AVOD(Advertising Video On Demand)と言われる、広告が入るかたちのサービスになっていて、当然、広告の量、頻度をどのようにユーザーに提供するのかは、とても重要な体験になってきています。

ただ、ここに関する量や頻度などのルールやレバーが、実はプラットフォームとしては未保持な状態でした。各放送局が持っている、かつ、自由に設定するみたいなところですね。

広告配信に関する量や頻度などプラットフォームとしての原則を策定する。これはようやく開始ができたところで、まだまだユーザーには、良い体験を提供できていない部分もあるのですが、アプリケーション側で一部の制御をするという部分で継続的に運用できるようになってきています。

あとは、配信期間の延長みたいな話ですが、当初は、見逃し配信、いわゆるキャッチアップサービスのところで、「テレビの放送の後に1週間配信で見られます」みたいなところから、そもそものポジションを変革してしまうというところですね。

キャッチアップサービスからの脱却というところで、ドラマを中心に常時置いてある主要なコンテンツに関しては、この配信期間そのものを長く取っていくというところをステークホルダーと連動、連携をしながら主導できました。

やはりこういうところはインパクトが大きくて、いわゆる非連続な成長みたいなかたちの再生回数の大幅な増加につながるところがあったのかなと思っています。

今振り返ってみると、とても当たり前だし、恥ずかしいほど普通のことだなと思っています。ただ、それになかなか気づけなかったり、気づいたとしても潜りの定数を変数として獲得していく、多くの人を巻き込みながら獲得するというところには、とても強い覚悟や胆力を要する、そんなところが印象としてありました。

潜りの定数を変数として獲得することで得られた2つの恩恵

こういった一連のアプローチを経て得ることができた恩恵もあると思っています。潜りの定数を変数として獲得することで、大きく2つ、大きな変化、恩恵を得られたと感じました。

まず1つ、(スライドの)左側、プロダクトの成長としてのインパクト。これはそもそもですが、やはり大きなインパクトをもたらしてくれたというところ。今後はそれがコントロール可能な変数として継続的にプロダクトの成長に寄与することが可能になってくるということ。

そして、ともに働くメンバー、これは、ディレクター、エンジニア、デザイナー、マーケティングメンバーもそうですが、ともに働くメンバーに対してより強力な変数を提供することができるというところが、極めて大きなインパクトだったと思いました。

もう1つは、チームのスタンス形成としてのインパクトです。プロダクトへのオーナーシップが醸成されるという部分と、理想の姿をまず追求して、そこからの逆算で考えるというスタンスが獲得できたのは、非常に大きいのかなと(思います)。

冒頭に申し上げたとおり、暗黙に動かせないと思い込んでしまっている定数に影響されて、その範囲の中でのアクションしか施せない不健全な状態に陥るケースが大なり小なりあったのですが、まず、この理想の姿を追求していく。そこから逆算的に考えていって、今の前例、ルール、商習慣、慣習みたいなところで、「これって本当に変えられないものだろうか?」というかたちでアップデートしにいくスタンスが身についてきたのは、とても大きいんじゃないのかなと思いました。

まとめ

本日お話ししたまとめになります。まず大前提として、プロダクトの提供価値を最大化していく上では、動かす変数を見極めていく、そしてそこにフォーカスしていくことが、なによりも重要だと考えています。

これを前提とした上で、インパクトの大きな潜りの定数を疑って、コントロール可能な変数として獲得することもマネジメントにおいては、極めて重要なのかなと思いました。

これは、決して動かせない、アンコントローラブルな定数に対して汗をかいていくという話ではなく、しっかりとそれを変数に切り替えていく、自分たちでつかみ取っていくというところが一番大きな違いなのかなと思っています。

(スライドの)下にも書きましたが、これはつまり、ともに働くディレクター、エンジニア、デザイナーが、ユーザーや課題に対して本当にフルスイングできるような環境を作ってあげる、より強力な変数を提供してあげることだと感じています。

この一連のプロセスやアプローチというところは、プロダクトの成長に大きなインパクトを与えてくれるところは当然ですが、やはりチームのスタンス形成というところですね。まず理想から考えて、現状をどんどんアップデートしていくというところにも大きな変化をもたらしてくれたなと感じています。

あらためて、本日お伝えしたいことです。限られたリソースや時間の中で、事業、サービス、プロダクトの提供価値を最大化するためにというところで、インパクトの大きな潜りの定数を疑ってみて、レバレッジの効く変数として獲得を試みるという考え方になっています。

(スライドの)下はポエムみたいな感じになっちゃったのですが、やはり一歩動き出す前にはとても重たく感じる部分がありますし、動き始めてからも、あたかも回り道をしているように感じられるかもしれません。

ただ、やはりこういったところを経て獲得できた変数は、プロダクトとそれを取り巻く環境、人に対してとても大きなものをもたらしてくれると思っているので、ここを信じてやってきた部分や考え方を本日お伝えしました。

最後に少しだけ宣伝をさせてください。今TVerでは、プロダクトに関連する職種である、プロダクトマネージャー、ディレクター、エンジニア、そしてデザイン組織も、デザイナー含めて積極採用中です。

業界の外から参画したメンバーと、放送、配信、エンタメ業界歴の長いメンバーが融合することによって生み出せる変化や未来があると信じているので、ぜひご検討いただければと思っています。

ミッションに「テレビを開放して、もっとワクワクする未来を」という部分があるのですが、ここを個人的にもすごく気に入っていて、やはりまだまだ、テレビを開放していくというところには、大きな余白があると思っているので、一緒に進めればなと思っています。

本日はお話は、以上です。ご清聴ありがとうございました。