登壇者の自己紹介

kyon_mm氏:みなさんよろしくお願いします。今日は「プロダクトマネジメントのグローバルトレンド」というタイトルで話していきますが、最初に私の自己紹介をさせてください。

私は、ふだんはデロイトトーマツコンサルティング合同会社という、いわゆるコンサルティング企業で働いていて、その中でアジャイルコーチやプロダクトオーナーをやっています。システムアーキテクトもやっているというかたちです。

他にも、大学でアジャイル開発を教えたり、大学生向けにそういったワークショップを開いたりしています。なので、企業向けにアジャイルコーチやシステム開発をやるというのと、大学で学生に教えたり、学生向けにワークショップをやるということをよくやっています。47機関というチームで10年ぐらい開発をしていて、アジャイル開発のプラクティスをいろいろなところで発表しています。

本日は、そういったシステム開発や47機関の話ではなく、いわゆるプロダクトマネジメントというものを捉える時に、みなさんいろいろな勉強のされ方をされていると思います。実践の方法もたくさんあると思いますが、今日は、その中でもいわゆるサーベイ、アンケートですね。といったものと、論文、カンファレンスといった3つから勉強する方法や、アウトプットする場を、みなさんにご紹介できたらなと思っています。

みなさん「Discord」でありがとうございます。自分も「kyonさま」と言われるとちょっとびっくりする感じですけども(笑)。

「PdM Industry Survey 2023」の紹介

最初は、「PdM Industry Survey 2023」の紹介になります。これはどんなサーベイかというと、Product Focusという会社がサーベイしていて、もう18年目になるもので、50ヶ国、497人に取ったのが(PdM Industry Survey )2023の結果になっています。

アジアはアンケートに回答してくださる方が少ないのか、いろいろなバイアスがあると思いますが、少なくともイギリスとヨーロッパが87パーセントを占めています。1年間をかけたとかではなくて、3ヶ月ぐらいで収集したものです。みなさんも、他のサーベイを読む時に気をつけていただきたいのですが、サーベイというのは、なにかベストプラクティスが詰まっているとかではなく、「世の中の平均ってこんなもんですよね」みたいなことがわかるということです。

なのでこれを見て、「あ、こういったプラクティスをやるべきなんだ」とかではありません。今日ご紹介するのは、「世の中を広く見ると、こういったことが平均的に起きているよね」とか「みんなが使っているのって、こうだよね」みたいなところがわかるぐらいのものだと思ってください。

2023の中で課題が4つ定義されていたのですが、今日は3つに絞らせていただいています。薄く広げすぎだよね、という話と、役割分担が不十分だよね、曖昧な事業戦略というのが特徴として挙げられています。

その3つの課題に入る前に、全体のこのレポートを見ているとおもしろかったなと思ったことを左側にまとめました。給料は上昇傾向で、平均で3年ぐらいやっている人が多い。あとは3割ぐらいの人が10年近くプロダクトマネジメントの経験を持っているというところですね。

なのでエントリーから入っていくというのが、いかに難しい領域であるのかというのがよくわかるのですが、あまりこのカンファレンスで言わないほうがいいかもしれないですね(笑)。IT業界の会社の人たちが3割ぐらいで、他の業界の方がかなり多い。「Miro」とか「Jira」とか「Aha」とか、たくさん使われていて、小並感の感想ですが、それはそうですねとかがありました。

あとはIT業界だけじゃないというところで、製造業なども含めてたくさん回答があったので「ウォーターフォールとアジャイルの両方をやっています」みたいな話と、PO(プロダクトオーナー)とプロダクトマネージャーの両方がいますよとか、「プロダクトで自分がやっている作業ってどのくらいの割合で何をやっていますか?」と言った時に、トップを占めた43パーセントが消火活動でした。

(スライドを見て)あ、消火は火を消すほうですね。火消し活動ばかりをやっているというのがあって、これが課題のアンケートにも出ています。こちらが引用になるのですが、(スライドを示して)左から順に、一番多くの人が回答しているというかたちになっています。ここを3つの課題の観点で紹介していきます。

プロダクトマネージャーは自分の仕事を広げすぎる?

プロダクトマネージャーは、自分の仕事を広げすぎる。薄く広げすぎるというので効果的に仕事ができていないですと。先ほどのアンケートの中で「リソース不足だよ」とか「消火活動のしすぎです」とか「優先順位付け」に課題がある人が多いという回答がありました。「やることが多くて時間が足りないんですよ」とか言っているのですが、本当かな? と自分は思っています。

この3行目がわかりやすいやつですが、戦略的な側面に手が回らないことが多いと。消火活動ばかりやってしまう。これが10年とかやっているプロダクトマネージャーに起きるのか、起きないのかという相関関係みたいなものはレポートになかったのですが、おそらく起きていないんじゃないかなと思っていて、新米プロダクトマネージャーが良かれと思ってやりすぎるという問題なんじゃないかなというのが自分の考察です。

マネージャー全般とか経営層になればなるほど、コントロールできるのは自分の時間ぐらいなのでタスクの認識と、優先順位付けがより重要になるのですが、プロダクトマネージャーになった時に前までの仕事とかのバイアスというか慣習に引きずられている人が多いんじゃないかなという気はしますね。

ここに、有効に使えそうな論文として「Recommendations to Improve the Product Management Process of the Case Company」というのがあって、これはハードウェア製品開発企業を対象としたプロダクトマネジメントプロセスの改善について述べたものです。今日来てくださっている方の多くはデジタルSaaSのプロダクトだと思うので、ちょっと関係ないかもなと思われるかもしれないですけど、意外とそうでもないんですね。

インタビューして、今どういうプロセスが行われているのかを調査して、まとめて、強み・弱みをはっきりさせて、弱みをどうやって変えていくのかとか、強みをどうやって伸ばしていくのかみたいなことが述べられているのですが、これがめちゃくちゃおもしろくて、弱みのところはめちゃくちゃ「あるあるー!」という感じだったんですよ。

そのうちの1つが、「却下された決定の論拠というのは提案者に通知されない」とかですね(笑)。「ミーティングは支離滅裂」、「参加者が準備不足である」とか。非常に多様な提案、アイデア、問題が1つのプロセスの中に管理されようとしているというのがあって、「んー」みたいな。強みのほうは、定例会議はきちんと確立されているとか、「あー、あるある」みたいな感じで、もうなんか……。

これは製造業だから関係ないとかではなくて、たぶん多くの企業に当てはまると思うので、みなさんもプロダクトマネジメントプロセスで、これは問題だなと思ったら、これをちょっと読んでみてもらうと勉強になると思います。

役割分担が不明確で自分に対する期待値がよくわからない

続いての課題。「役割分担が不十分」というのがありました。これも、今日のカンファレンスの中でいくつか話されると思います、役割が曖昧ですと。そうするとフラストレーションが発生するんですよ。アンケートを見ていて、3分の1ぐらいの人が「製品の役割が明確でない」と。プロダクトが明確でないし、プロダクトに関わる人たちの役割が明確じゃないよと。

なので、プロダクトマネージャーはプロダクトのマーケティングなど、いろいろな役割が混在していて、別にそれはそれでいいんだけど企業によってぜんぜん違うから、自分に対する期待値がよくわからないみたいなことになりがちです。ギャップが生まれてしまって、実際に仕事をする上でフラストレーションが生まれてしまう感じですね。

これに使えそうな論文が、「The Software Product Management Framework is Not the Software Product Manager's Framework a Systematic Literature Review」で、文献レビューをして、こういったフレームワークがいいんじゃないかと提案をしてくれている論文です。

なかなかおもしろかったのが、今までの考え方をもうちょっと新しい軸で分類していて、ソフトウェアライフサイクルと、ステークホルダーマネジメントと、マネージャーのインパクト自体についてという3つのかたちでフレームワーク化しています。けっこういろんな人にとって響くんじゃないかなと思います。

「プロダクトマネジメントの手法」と言いながら、じゃあマネージャーとしてはどういうふうにキャリアアップしていけばいいんだみたいなところが、意外と語られていなかったりするので、そういったところをきちんと整理しているところがいいのかなと思っています。あと自分的には、この論文は冒頭でニール・H・マッケロイを引用して、「1930年代からプロダクトマネジメントという用語はあるんだよ」というところから入っているだけでキュンとしたというところがあります。

あとは、最近のトレンドになっているマーケターや戦略的PMというところと、テクニカルPM/POの2つに分類しながらライフサイクルで整理している。なので、横軸がその製品ライフサイクルになっていて、縦軸がマーケター系なのか、テクニカルPM系なのかで分かれていて、それぞれどういったアクティビティをしていけばいいのかとか、どういったキャリアを積んでいくのかとか整理されています。

なので、自分がどんなアクティビティをやっていけばいいんだとか、会社の中でどっち寄りの役割を期待されているんだとか、両方役割を期待されているのかと整理する上では、非常に参考になる論文かなと思います。

経営層が弱くてまともな事業戦略が立てられない

続いて、「曖昧な事業戦略」というのがあります。これは自分的には「うーん」と思ったのですが、たいていの企業は「経営層が弱いので、まともに事業戦略が立てられないです」と言われています。企業戦略が弱いというのもそうですし、リーダーシップが欠如しているとか、上級管理職、いわゆる経営層ですね、そのサポートが弱い。

企業自体があまり事業戦略を明確に立てられていないとか、コロコロ変わりすぎるというのがあって、その結果、誰の期待に応えて、誰の期待に応えないのかというところがプロダクトマネジメントで集約されがちになっている。そうすると、何を根拠に自分がそれを判断していいのかプロダクトマネージャーも困ってしまうというので、いろいろな人との調整でコンフリクトしてしまうというのが挙げられていました。

ここに関連しそうな論文は、「Product Portfolio Management: An Important Business Strategy」という論文です。既存のプロダクトポートフォリオを整理する手法を一巡した上で、特に新製品開発ですね。この論文だと、NPDという訳になっていますが、新製品開発に絞ったプロダクトポートフォリオマネジメントで有効な考え方を整理しています。

なので新しい提案というよりは、こういうものが4つぐらいだったかな。ピックアップされていて、使うといいよみたいなことを言っている。あまりにもコンサルっぽすぎるのと、「これを使ったところでうまくいくんだったら苦労しないんだけど」みたいなことを自分はけっこう思っているので、これを本当に活用するというよりかは基本知識としては知っておく。経営層と「こういった感じですよね」とババッとホワイトボードで話すくらいに使うスキルとして持っておくといいのかなという気はします。

「pmconf2023」と海外プロダクトマネジメントカンファレンスのセッションを比較

残り時間も7分ぐらいか。「pmconf2023」と、海外プロダクトマネジメントカンファレンスのセッションを比較していこうと思います。海外でも、プロダクトマネジメントのカンファレンスは多数行われていて、特に、「productcon」というものには有名企業のVPレベルが多数登壇しているので、けっこうおもしろいものです。

「productcon」は、めちゃくちゃ大きくて、毎回1万人ぐらいの規模で年に4回やっているので、お化けカンファレンスかな? みたいな感じなんですけど、現地参加が数千人で、オンラインが1万人で、1万数千人(規模)で4回やっている感じですね。

次は「Mind the Product conferences」というもので、これは数百人規模ぐらいで年に3回ぐらいです。

「Product-Led World」というものも数百人規模ぐらいで年に10回ぐらいやっている感じです。「Product-Led World」は、どちらかというと「Product-Led Alliance」みたいなやつがあって、そこのアライアンスに関わっている人たちが講演したり、こういったカンファレンスをスポンサーしたりしているもので、アジャイルでいうとScrum Allianceがやっている「Scrum Gathering」何とかに近いのかなというイメージですね。

各カンファレンスのセッションテーマを比較してわかったこと

「この3つのカンファレンスがいいよ」といろいろなところで言われているので、今回もこの3つをピックアップしてきました。

独断と偏見で、各カンファレンスのセッションで何が話されているかを私が分類しました。「2023」と書いてあるのが、今日(※登壇当時)ですね。今日やっているセッションです。全体的に、「productcon」も、「mtpcon」は「Product-Led」系のやつですが、どれも役割分担(のセッション)が多いというのが傾向としてあるなと。

役割分担が不十分というか、キャリアですね。プロダクトマネージャーのキャリアとか、どういうふうに社内の中でサバイブしていくのかみたいな話は非常に多い。一方で、曖昧な事業戦略とか、薄く広げすぎみたいな話は、そこまでないのが海外です。日本だと、曖昧な事業戦略についての話が「pmconf」ではめちゃくちゃ多いというところがおもしろかったです。

あとは、海外のカンファレンスは技術の話ももっと多いんですよね。なので先ほどの、戦略的PMとテクノロジー系のPMというものがあるよねみたいな話でいうと、海外のほうがテクノロジー系のPMの人たちも来てくださっているのかなと思いました。AIやAPI系のプロダクトを持っている人たちがどうやって成長させていくのかというところのKGIが、一般的にマーケター系と違うというところで、そういった複雑なプロダクトにおける技術的な話も非常に多いです。

あと「pmconf」は、けっこうマルチトラック数が多くて、今日も5トラックぐらいありますが、海外のカンファレンスはこういった大きいカンファレンスだと、だいたい1トラックから2トラックぐらいしかなくて、けっこう凝縮させてやっています。

あとは登壇者の違いもけっこうあって、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンですね。多くの人が知っている言葉で「ダイバーシティ」ですね。例えば人種であるとか、男女であるとかということも含めて、いろいろな人が入るようになっています。

あとは、パネルディスカッションを取り入れていることも多くて、たぶんマルチトラックの代わりにパネルディスカッションをすることで、いろいろな意見を聞けるようにすることで参加者のフォーカスをどこに集めるのかということをやっています。

「productcon」は、特に動画とかスライドも公開されていて、イベントページに行くとすぐに見られるので、海外のカンファレンスを見るんだったら、「productcon」から過去がどんな感じなのかが、勉強しやすいのかなと思います。「mtpcon」はですね、全体的にふわっとした話が多いので個人的にはたぶん参加しないだろうなと思っています。

最後の「Product-Led Summit」は、そこそこおもしろいのですが、内容というよりは、現地に参加するのがおもしろそうだなと思っています。というのも「Product-Led World」は、「Product-Led Summit」というのと、「CPO Summit」というのを連日開催しているんですね。

なので、こちらに現地参加すると、たぶんCPOの集まりにも行ける。Product-Ledの話もできるので、たぶん現地参加がおもしろそうだなと思っています。

まとめになるのですが、サーベイのうち、課題に着目してカンファレンスや論文を見てきました。PMカンファレンスは、グローバル大規模カンファレンスと比べてけっこうセッションに偏りがあることがわかりました。ただこれは、日本の他のカンファレンスもそうかもなという気はしています。というので、今後、いろいろなカンファレンスや勉強会を見ていきたいと思っています。

まとめ

最後に、自分の感想みたいなことをちょっとまとめました。日本人の回答がぜんぜんないことが今回のサーベイでわかったので、回答できる方は、ぜひ2024向けのものにも回答してみると、もっといろいろな意見がグローバルとしてのトレンドに乗っかってくるんじゃないかなと思います。ご興味がある方はですね、ぜひ回答してみてください。

今回、プロダクトマネジメントの論文を探す中で、経営学寄りなので検索しにくいというのがあって、けっこう探すのに苦労したのですが、やはり論文や海外のカンファレンスを見ていると、デジタルSaaS一辺倒ではない説明もあって、実態として必要なスキルや悩みも知れるので、こういった調べ方や勉強の仕方もいいかなと思いました。

日本語に翻訳される書籍だと、どうしてもデジタルSaaS一辺倒みたいな書籍が多いので、実際に、そうではない現場で活躍されている方がどうやってプロダクトマネジメントを学んでいくのかというところでいうと、海外の論文や海外のカンファレンスの動画を見ていくのはけっこう有用なのかなと思います。

一方で、じゃあ「pmconfがなんかぜんぜんそういう場になっていないよ」とか言うつもりもあまりなくてね、日本で2016年からこれだけ継続して大規模カンファレンスができているというのは誇ってもいいと思います。数千人規模でやっているカンファレンスは国際的に見ても本当に数がないので、たぶん国際的に見るとグローバルで2番目か3番目ぐらい大きいのが「pmconf」なんじゃないかなと思っています。

一方で、セッションに偏りがあるんだみたいなところも、「connpass」などで開催されているプロダクトマネジメントの勉強会などを見ると、もう少し技術的な話が多かったりするので、カンファレンスだけではなく、そういったものもリサーチの対象にしてみると、より日本のプロダクトマネジメントに関する勉強の仕方であるとか、どこにどんなコミュニティが形成されているのかというのがよりわかるかなと思っています。

本日「プロダクトマネジメントのグローバルトレンド」という発表は、以上にさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。