正解に届きやすい環境でどのように試行錯誤の経験を積むか

藤井創氏(以下、藤井):ここからは(視聴者さんからの)Q&Aがあれば聞きたいなと思っています。質問があったらチャットに書いてもらえれば、こちらのほうで拾って答えられればと思うので、ぜひ書いてもらえるとありがたいです。いくつか質問が出ているので、質問させてもらいたいです。

「調べたら正解があるとか、聞けば正解に届きやすい環境、ググればすぐ答えが出てしまうような環境で、どうやって試行錯誤の体験、経験を積んでいくか。あるいは、試行錯誤から逃げないためにはどうすればいいか」というところは、どういうふうなことがありますかね? 竹迫さんのほうから聞ければと思います。

竹迫良範氏(以下、竹迫):私は2012年にSECCONというセキュリティコンテストで、CTF(Capture The Flag)というものを日本で始めたんですね。そのCTFの問題集みたいなものがあって、手を動かさないと答えにはたどり着けないような問題設計がされていて。こういったコンテスト系のものは、やはり答えだけ見ても仕方がないやつなので(笑)。自分で手を動かして解く。

あとは学習の階段というものがあって。いきなり難しい問題は解けないので、ちょっとずつ簡単な問題を、階段を上りながら解いていく。そういう問題集が今はあるので、そういうのを見つけてやっていくのは1つありなんじゃないかなと思います。

藤井:なるほど。ありがとうございます。ISUCONとかCTFとかに挑戦していくみたいなことがおもしろいのかなって今話を聞いていて思ったんですが、江草さんのほうは今の質問に対してどうですか?

江草陽太氏(以下、江草):そうですね。そういうコンテスト系に出るというのは、体験を得るということでもありだし、自分が考える能力が今どれぐらい身についているのかを確認するのにも使えるし、両方の用途ですごくいいなと思います。

大人になったら仕事があるので、仕事の上で実践するような方法、「ググっても出てこうへんものをなんとかせなあかん」ということは大人になったらわりとあるのでいいとして、問題は、小中高の間にどうやってその機会を得るかを考えるのが難しいなとは思うんですよね。

数学の問題とか答えを見ちゃうし、そもそも数学の参考書とかって、パターンで解くような参考書があったりするわけですよね(笑)。なのでそれも大事なんだけど、それに走りすぎないということを大人が教えるのはすごく大事かなと。

見ちゃだめってわけじゃないです。答えを見るのもぜんぜんありなんだけど、答えを見てパターン化して解く方法と、「ちゃんと理解しとかなあかんぞ」ということと、両方を使い分ける。「どっちかじゃないとだめ」みたいなことはないと思うので、両方身につけていく必要があるんだよということを大人が言っていくのは大事な気がします。

そんなこと、(自分は)言われた記憶ないんですよね。パターン学習も大事だし、理解したところも大事だって、今から考えたら当たり前なんですけど、直接的にそう言われた記憶はそんなにないんですよね。やはりちゃんとそこを教えてあげるというところかなというような気はします。

藤井:確かに、私もそういうふうに言われたことはないですね。歴史だったら「年代を覚えろ」とかそういうことぐらいで(笑)。国語は先ほど竹迫さんが言ったみたいに、「作者の気持ちになりなさい」ということは「どうしてそういう気持ちになったのかな」って考えるので、近い部分はあるかなとは思うんですけど。

今は特に答えがその場にあっちゃうから、なぜそこにたどり着いたかと考えずに、答えだけわかっちゃうっていうパターンがあるのかなという気もしますね。

江草:大人なら「それが自分の成長のためだ」と思ってがんばれるんですけど、子どもの時点で「考えろ」って(言っても)、「いや、でもこれを考えないと、自分の成長につながらないから」なんて言っても、子どものモチベーションは上がらないので(笑)。どうしたらいいのかなと。

自分で考えないといけない課題、それこそコンテストとかロボコンとかもそうですが、楽しいけど考えなあかんことを提供し続けないといけないのかなという感じはしますね。

藤井:ありがとうございます。

業務中に「いろいろなものを触る」をどう実践するか

藤井:あともう1つ質問があって。先ほど「いろいろなものを少しずつ触っていく、それだけの能力があったほうがいいよね」みたいなこともあったと思います。質問が被っちゃうかもしれませんが、業務中じゃなくてもやればいいのかなとは思うんですが、これを業務中にやるのってけっこう難しいのかなと思っていて。

ちょっと難しいなって思った時に、例えばGoogleとかでは20パーセントルールみたいなのが会社としてあったりすると思うんですが、業務中でもそういうことができる時間はあったほうがいいのか、ないほうがいいのか……。ここは江草さんから聞いてもいいですか?

江草:そうですね。Googleの20パーセントルールとかって、明確に「20パーセントは成果にならない好きなことをしていい時間」と明言しているってことだと思うんですけど、さくら(さくらインターネット株式会社)はしていないんです。

ただ一方で、業務時間中に調査したり、バズっているものを触ってみたりみたいなことをする人は多いので、明文化しなくてもできる環境は作ろうと思ったら作れるのかなという気はします。

社員が好きなことだけして「好きなことしていました」となると、それは会社としては評価できないし、「いや、仕事しろよ」と思ってしまうし、双方にとってあまり良くないので、会社の時間を使ってそういう調査をする時は、アウトプットを出す。

それは勉強会でもなんでもいいんだけど、「Slack」上に「これ、バズっているから触ってみたんだけど、こういう課題があった」とか「こういうところには使えそう」とか、周りにちゃんと説明してフィードバックする。自分のtimesに書くとかでもいいので。

自分が好きで触ったものを価値として会社側に情報提供するということまでやれば、別に(20パーセントルールみたいなものが)決まっていなくてもできるし、評価されるし、そういう環境は作れるんじゃないかと思うんですよね。

「この時間は、好きなことを調べていました」だけだと、会社としては許容しづらいなってなりそうな気はします。

藤井:なるほど。「やるのはいいけど、アウトプットもちゃんとしましょうね」というところですね。わかりました。ありがとうございます。竹迫さんはどうでしょうか?

竹迫:そうですね。「勉強をしたいから時間を使わせてください」というのはなかなか許可が下りないと思うんですが、「これを勉強してこういう適用をすると、将来の業務のコスト削減につながりそうです」とか、出口とかアウトプットを意識して学び始めるのが仕事の中ではけっこう大事かなと思っています。

ただ、AI使用禁止とか、クラウド使っちゃだめとか、そういう職場はあると思うんですが。(そもそもそういうことに関しては)そういう職場に長く居続けていいのかどうかというのがあると思うので(笑)。だから、そういうことが自由にできる職場に転職を考えてみるとか、そういうことはこれからの時代、あってもいいのかなと思います。

藤井:なるほど。「職場選びも一緒に考えましょう」というところかなと思います(笑)。ありがとうございます。

「学びを継続するためのモチベーション」をどう継続するか

藤井:質問が1個届いたので回答をお願いしたいです。「学びを継続するためのモチベーションをどのように継続されているのか、教えていただきたいです」。これはどうでしょうか。じゃあ、竹迫さんからお願いできます?

竹迫:ありがとうございます。学び方は、けっこう時代によって変わってきているので、僕は年下の人から学ぶようにしています。例えば高専とか工業高校だと、昔はPICコントローラを使ってプログラミングする、ロボコンとかでよく使われていたと思うんですが、今は世界的に見るとそういうものってだいぶ少なくなってきて、今はAVRとかARMとかを使ったりとかするので。

最初は年上の人から、古典の教科書を読んで学んでいたんですが、今はできるだけ若い人から学ばせてもらうようなかたちにしています。

藤井:それって、モチベーション的には「新しいものを身につけたい」っていうモチベーションから来るものですか?

竹迫:そうですね。学習の高速道路がもう整備されつくされたのが今の時代だと思っています。今までの人たちは農道とか道がない中で自分たちで切り開いてきた、開拓してきたっていう人たちなんですが、もう高速道路、インターネットが張り巡らされているので、「素早く遠くに行ける」とか「こういう場所に到達できる」という体験をすることがけっこう大事かなと思いますね。

飛行機とか新幹線に乗ってどっかに行っているような感覚で、そういうことをやるという感じですかね。

藤井:なるほど。ありがとうございます。同じ質問になりますが、学びを継続するためのモチベーションというところで、江草さんにも聞ければと思います。

江草:今までできなかったこと、解決できなかったことを解決できるようになる体験をすることや、楽になるというところがモチベーションかなとは思うんですよ。

できなかったことができるようになるということは、みんな体験として持っているとは思うんですが、「今まで自分がやっていたやり方でも別にできるんだけど、新しいことを学習すると実は楽になる」みたいなことって、自分が変化しないといけないし、別に求められているわけではないので、なかなかやらない感じになりがちです。

それをちゃんとやって「今まで自分がやっていたやり方は、もう古いな」とか「あれは、面倒くさかったな」と思えるような体験を繰り返していると、自然と次にやることには「自分が楽になる」という期待を込められているので、自然とモチベーションにつながるっていう感じがしますね。

このサイクルが回らない人は、「いや、それ別に今までの言語でもできるし」「別に古いフレームワークでもそれできるし」って言いがちな感じがしていて。それって「学習することによって自分を変えるのは確かに大変だけど楽になる」という成功体験を持っていないからなのかなとは思います。それを得ると、自然と「楽になる」でモチベーションが続く気がしますね。

竹迫:エンジニアっておもしろい生き物で、1時間楽するために、10時間勉強したりするじゃないですか(笑)。

(一同笑)

それって非合理的に見えるんだけど、でもその体験を繰り返している人はできる。でも、「いや、今までどおりやればいいじゃん」みたいな人とかは、確かに新しいことを学ばないなってということを今の話を聞いて思いました。

藤井:確かにそうですよね。もしかしたらそれはエンジニアに限らず、物を作る人たちってみんなそうなのかなという気もします。すごい時間をかけて作って、本当に一瞬喜んでもらうだけでも、それでも成功体験につながって、もう1回やってみようと思ったりするところもあったりするので。

喜んでもらったり、あるいは自分が楽になったりとか、良い体験が自分の中にできると、それが継続になるということを、なるほどなと思って聞いていていました。ありがとうございます。

時間が大きくオーバーしてしまいましたが、貴重なお話をありがとうございました。ここでお別れをしたいと思います。みなさん、ありがとうございました。江草さんも竹迫さんもありがとうございました。

竹迫:ありがとうございました。

江草:ありがとうございました。