CO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービス「アスエネ」

司会者:アスエネ、VP of Engineering、石坂達也さまです。持ち時間は6分間です。ご準備よろしいでしょうか?

石坂達也氏(以下、石坂):はい、お願いします。

司会者:それでは、お願いします。

石坂:アスエネの石坂です。「急成長プロダクトを支えるエンジニア組織づくり」についてお話しします。

初めに、みなさんは自社のCO2排出量を把握していますか? 日本は2050年に、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする社会の実現を目指しています。こういった流れもあり、企業はCO2排出量を削減しなければならず、その手前となる見える化が急務になっています。

しかし、見える化だけを切り取っても、データの収集、CO2の計算方法、報告書の作成など、多くの課題が存在します。こういった課題を解決するために、我々はCO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービス「アスエネ」を展開しています。アスエネを使うだけで見える化が簡単に行えます。

ローンチして2年で導入社数は約4,000社を超え、累計導入社数は国内No.1になりました。今ではこんな実績を持つ我々ですが、私が参画した当時は(スライドを示して)こんな経営課題を抱えていました。「エンジニアがいない」。

社会課題が明確で、ソリューションとなるアイデアもある。しかしそれをシステム化、プロダクト化するエンジニアがほぼいなかったんです。当時の私はひたすらに実装していました。

仲間づくりにおける戦略

より会社や事業を成長させるために、仲間を集め、文化を作り、その上でプロダクトを作っていく。この3つの観点で活動してきました。

まず、仲間づくりについてです。エンジニアの求人倍率は、今6.71倍と非常に高く、特に知名度が高くないスタートアップにとっては、さらに難易度が高い状態です。「コツコツと時間をかけて認知度を獲得して、採用活動をしていこう」という戦略もあったと思いますが、我々が対峙している気候変動問題は喫緊の課題であり、地球も市場も待ってくれません。

そのために短期戦略として、我々はフリーランスエンジニアとの共創を選択しました。その結果、体制は1年半で15倍となり、さらに並行でスカウト、リファラルの採用活動を行っていたため、正社員の人数は10倍になりました。

さらに我々は、シンガポールとアメリカですでに事業を展開しています。今後さらに進む海外展開に伴い、各国の規制やニーズの対応が増えてくることを予想し、フィリピンのセブ市にグローバル開発センターを立ち上げました。

こちらは、日本のプロダクトを海外で作るといったオフショアのような考え方ではなく、「世界で使われるプロダクトを世界でつくる」というビジョンの下、第一歩目として推進しました。

フリーランスエンジニアの自走力を育むための工夫

人が集まるところには、文化が必要です。「フリーランスエンジニアの方は、受け身な人が多いのでは?」とよく言われます。これはコミュニケーション設計や文化に依存すると思っています。

我々は、自走力を育む工夫をしてきました。キャリアの相談の1on1の実施、行動を促すチームポリシーの展開、問い掛けによる自意識・自我の醸成です。こういった地道な活動を繰り返してきた結果、ユーザーとプロダクトに徹底的に向き合うチームに進化してきました。

最近入社したエンジニアからも、「フリーランスエンジニアの方々がこんなに前のめりに活動してくれているチームは初めてだ」と言ってもらっています。

仕組み化が追いつかない混乱期への対策

一方で、急拡大した影響もあり、仕組み化が追いつかず混乱期を迎えてしまいました。「週次ふりかえり」で課題を抽出していたものの、すべての課題を拾いきれなかったことが原因です。

そこで、ワーキンググループ制度を導入しました。少人数の有志の集まりで、特定の課題について議論するグループです。ワーキンググループ内で決まった内容はチーム全体の合議が不要で、チームのトライとなります。トライした結果は、週次ふりかえりにフィードバックされます。こういったサイクルを作った結果、設計書のテンプレの改善など、仕組み化が加速していきました。

いい人が集まり、文化を通して強いチームとなり、プロダクトと向き合った結果、機能追加など、開発関連のプレスリリースを1年間で27件発表することができました。

地道な改善を繰り返した結果、安定的に4つのプロダクトを展開できるまでになった

さらに、機能を追加するだけではなく、非機能要件についても取り組んでいます。我々は、一部、機密性の高い情報を取り扱っているため、高いセキュリティレベルが求められます。ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得や第三者による脆弱性診断をクリアするのは当然として、セキュリティや信頼性を強化した結果、AWS認定ソフトウェアになりました。担当者とのやり取りや実際のAWSの設定変更などは、私が手を動かして推進しました。

さらに、我々のような見える化サービスには、多くの集計処理が存在します。データの増加に伴いパフォーマンスに課題が生まれました。リクエストごとにリアルタイムで集計していたところをイベント駆動型の事前集計型の仕組みにすることで、最大で15倍の速度改善を実現できました。

技術力でチームを牽引することは当たり前として、組織の課題にも向き合い、地道な改善を繰り返してきました。その結果、エンジニアがほぼいなかった時代から、安定的に4つのプロダクトを展開できるまでになりました。

日本だけではなく世界の脱炭素経営を支援し、次世代により良い世界をつなげていきます。アスエネです。ありがとうございました。

(会場拍手)

CO2の排出を取得して可視化するために使っている技術は?

司会者:ありがとうございました。それでは、質疑応答のお時間に移ります。それでは、矢澤さまお願いします。

矢澤麻里子氏(以下、矢澤):プレゼンテーション、ありがとうございました。すばらしかったです。

1点、そもそものお話をうかがいたいのですが、どのようにCO2の排出を取得して可視化されているんですか? そこに使われている技術など、お話できるところがあれば教えてください。

石坂:今のところ、請求書や領収書のデータを登録してもらうというのがメインになっています。

具体的に例を挙げるとすると、電力事業会社から請求された時、1,000キロワットアワーみたいな数字が書かれていると思いますが、その1,000キロワットアワーという数字を入れることで、「じゃあそれはCO2換算すると、0.001トンだよね」みたいなところをシステムで行っています。

なので、そういった請求書をツールを通して自動で連携するという仕組みはあります。

矢澤:なるほど。それは、例えばOCRツールを使われたりされているんですかね?

石坂:はい、機能の1つにあります。AI-OCR機能がありまして、領収書をアップロードするだけで自動で解析してCO2に換算してくれます。

矢澤:ありがとうございます。

機能追加の優先順位付けはどう判断していたか

司会者:ほかにございますか? 馬田さま、お願いします。

馬田隆明氏(以下、馬田):ご説明ありがとうございました。ぜひ、CTO的な視点の話を聞きたいのですが、1年で27回のプレスリリースを出されていたということですが、矢継ぎ早に出していくというのは、どういう経営判断の下でやられていたのかというところと。

そういう機能の追加では、それなりに優先順位をつけて決めていくところがあったかと思いますが、そこをどういうふうに経営側とコミュニケーションしながら決めていったのか、ぜひ、おうかがいしてもよろしいでしょうか?

石坂:機能を追加していくという意味では、CO2排出量見える化という運用自体、確立していないので、我々も手探りな部分があります。ユーザーに使ってもらいながらフィードバックをもらって作っていくというところで、機能の要望がいろいろ出てきました。ユーザーからの声なので、優先度高く対応していたという経緯があります。

馬田:ありがとうございます。じゃあ、仮説検証するためにそれだけ多くの機能を出していった中で、なにかすごく当たりがあったとか、あったりしたんでしょうか?

石坂:当たりですか?

馬田:当たりというか、成功した仮説というか、どれぐらいの割合で仮説が当たっていたとかはありますか?

石坂:本当にニーズベースで機能を作ったので、100パーセントと言っても過言ではないと思っています。それこそ、温室効果ガスだけではなく、水管理や廃棄物管理などの要望があったので、それも追加してユーザーには喜んでいただいています。

司会者:ありがとうございます。

「アスエネ」の将来像は?

司会者:もうお一人ぐらい。それでは、塚田さま、お願いします。

塚田朗弘氏(以下、塚田):ピッチ、ありがとうございます。この領域はそんなに詳しくないのですが、CO2の排出管理って、スコープ1、2、3みたいなのがありますよね。自社のやつと、間接的なやつと、下流で全体的に管理していくのがスコープ3なのかなと思うんですけど。

今の状態は、先ほどおっしゃっていただいたように、自社の領収書などをアップロードしてその分析に回せるSaaSであるという状況ですかね?

石坂:はい。ただ機能としては、サプライチェーン管理機能もあるので、サプライヤーとしてはデータを連携することで、スコープ1として計上し、バイヤーとしてはスコープ3として計上されるというような機能もあります。

塚田:なるほど。そこの今後の展開予定だったり、どういう技術でそれを支えていくのか、実現していくのかみたいな、思っているところがあったら教えていただきたいです。

石坂:「我々の構想」と言うのはちょっと大袈裟ではありますが、共通仕様にすることで、API連携が可能になるので、そこで全社のサプライチェーンのデータ管理がすべてつながっていくというような未来を構想しています。

塚田:なるほど。じゃあ、プラットフォームじゃないですけど、Web APIベースで、けっこう自動化されたビジネスになっていくというのが将来像ですかね?

石坂:はい。

塚田:ありがとうございます。

司会者:ありがとうございました。それでは、お時間となりますので、これにて締め切らせていただきます。審査員のみなさま、ありがとうございました。

石坂:ありがとうございました。

司会者:そして、石坂さまにも大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)