プロダクトの機能のレビューに対してPdMのマネージャーはどう関わるべきか

Ken Wakamatsu氏(以下、Wakamatsu):先ほど、あなたがチームをリードするようになると、完成したプロダクトが悪いわけではないけれど、あなたが思い描いていたものとは違うものになることがあるとおっしゃっていました。もちろん正解はないと思いますが、PdMたちの戦略やビジョン、新しく思い付いたプロダクトの機能や分野などを、PdMのマネージャーがレビューする時はどれくらいのバランスが良いと思いますか?

Emily Tate氏(以下、Emily):自分のチームが何をしているのか、彼らの思考プロセスを意識するべきだと思います。どのくらい深く関わって質問したり、指導したりするかは、PdMの経験とスキル、そしてそれまでで築けた信頼関係の度合いによります。誰かが新しくチームに加わる時は、その人の経験に関わらず詳しくレビューします。彼らは知らないけれど自分は知っている文脈の取りこぼしがないように、そして簡単に避けられるミスをしないようにするためです。

経験の少ない人であればもっと指導をし、深くレビューをし、たくさん質問をします。彼らはまだ学んでいる途中なので、自分だったらどのように対応するか。彼らが理解するのを助けます。経験が豊富であれば少し違います。私が初めて引き継いだのはその中間くらいの人でした。私は、彼が自分のやっていることを理解しているとわかっていました。

彼は自分のやりたいことを書き出し、それについて理由も説明できたので、私も質問しました。要するに、なぜ他のやり方ではなく、そのやり方に決めたのかを説明してもらったのです。どうしてこの方向に行こうと思ったのか、何に基づいてこの考え方にしたのか。彼はこれらの質問に答えることができました。答えられなかった時は自分で調べに行きました。

質問をすることで、私の望む方向に進ませようとしていたわけではなく、彼が考え抜いて進めているということを確認するためです。確信に至ったら「あとは自由に対応してください」とお願いします。

もう1つ、IT業界のPdMとして特に覚えておかなければいけないと思うのは、仮にうまくいかなくても修正できる。世界の終わりではないということです。

(一同笑)

Emily:そのバランスを見極める必要があり、チームメンバーとのハンズオンの量は、結局のところ、彼らがよく考えてくれているという確信をあなた自身が持てるかどうか、彼らのスキルはどうなのか、彼らと一緒に取り組むべきことは何か、特定の分野で伸ばそうとしていることは何か、ということに尽きるといます。

みんなが何をしているのかを常に把握すること、彼らがやっている仕事ではなく、彼らが戦略的に何に取り組んでいるのかを知ること、そして一度信頼関係を築いたら、マンツーマンで連絡を取り合い、サポートが必要な時に頼られるようにそばにいることです。

アメリカからより小さいマーケットに移る中で学んだこと

Wakamatsu:次に、イギリスへの引っ越しについて質問です。アメリカに住んでいらっしゃって、仕事でイギリスに来られたのですよね。この質問をするのは、私自身がアメリカから日本という、より小さくエンジニアも人もPdMも少ない市場に移ったからです。この点は実際どうなのでしょうか? 私はイギリスも日本も同じ感じだと思っています。アメリカからより小さいマーケットに移ることで学んだことやどのように順応したかを教えてください。

Emily:私が学んだ主なことの1つ、これは日本と似ていると思っていて、畏敬という単語が適切かはわかりませんが、シリコンバレーではIT業界やプロダクト業界に敬意を払われています。アメリカ全体、カリフォルニアでは特に顕著です。

イギリスで最初は「本当に良いPdMたちはアメリカにいて、自分たちは二流なんだ」という認識があったと思います。でも実際に作られているプロダクトやプロダクトリーダー、毎日手を動かしているPdMを見た時に、イギリスとヨーロッパ全体ですばらしい取り組みが行われていると気づきました。

私がアメリカのダラスにいた時も同じような考え方があって、「シリコンバレーが一流で、私たちは二流だから」という雰囲気でした。

私はそうは思いません。すばらしいPdMやプロダクトリーダーのすべてが、カルフォルニアやサンフランシスコに住んでいるわけではありません。ここ10年くらいでイギリスでは「イギリスのIT業界は、とても良い」という自覚が芽生え始めました。すばらしいことが起こっていて、すばらしい人もいます。海外を見るのではなく、同僚や同じ地域の人にアドバイスなどを求めるようになっています。

これはいくつかの理由で良いと思います。良いものを作れるという自信がつくこと、二流の都市にいるのではないと自覚できること。

また、地域ごとに消費者の行動、プロダクトの売り方、人々が大切にしていることが違うので、シリコンバレーで良いとされている技術だけを使っていたら、自分の地域ではうまくいかないかもしれません。地元で成功している人たちの支援のもと、そこでどのように成功を実現すればよいか、その地域の文脈を踏まえて必要な変更が何かを理解するのはとても大切です。

女性PdMは意見を言うことを恐れないでほしい

Wakamatsu:女性PdMやPdMに興味を持っている女性にアドバイスをお願いします。併せて、この業界でスタートを切って深く関わる方法についてもアドバイスください。

Emily:意見を言うことを恐れないことです。この業界に入ろうとしている人と昇格を狙っている人、両方に言えるもっとも大事なことです。よく、男性は仕事の要件を70パーセント満たしていれば応募するけれど、女性は100パーセント満たしていなければ応募しないと言われます。職務記述書の要件を満たしていないからこそ、生まれるユニークさの価値を評価しましょう。応募することを恐れないでください。

マネージャーに自分の目標を言うことを恐れないでください。私がキャリアの最初のほうに学んだことの1つで、それ以来毎年自分に言い聞かせていることが「自分が望むことを誰も知らなければ、誰かが与えてくれることはない」です。自分がいい仕事をしていれば、望む昇格が与えられるのではありません。「昇格したいです。その道に進むためには何をすればいいですか?」という意思をはっきりと伝えなければいけません。

チェックリストの項目をすべて満たせば昇格できるわけでもありません。昇格したいという意思があることを知らせなければ、マネージャーたちもそういう目で見ません。最高プロダクト責任者(CPO)になりたいのであれば、マネージャーとの間で「私の長期的な目標はCPOになることです。その道を進むために今はどのスキルを磨けばいいですか?」という会話が必要です。

それで目標に一歩近づきます。もし、おもしろそうだと思う役職を見つけたら応募してください。そして自分が選考で有利になるように会社の中で助けてくれそうな人を探し、ネットワークを広げましょう。チャンスが来たらそれをつかむのです。また、コミュニティで女性の先輩を探しましょう。私もそうですが、助けたいという人ばかりです。多くの人がアドバイスをくれ、支援の手を差し伸べてくれ、最高の応援団になってくれるでしょう。

いろいろな人と知り合ってください。そこにチャンスが待っています。出会った人が翌日から仕事をくれることはないでしょうが、関係を築き自分のスキルを見せるうちに予想もしない時にチャンスが巡ってくるかもしれません。

コロナ禍でPdMのキャリア構築、学び方はどう変わったか

Wakamatsu:新型コロナウイルスがあり、ここ2、3年は大変でしたね。プロダクトマネジメントとキャリアを構築していく中で、イベントに参加し、人と話したり新しいことを学ぶことについてお話しいただきました。新型コロナウイルスでキャリアの構築、学び方はどのように変わりましたか?

Emily:一番大きな変化は、多くのことがオンラインで行われるようになったことです。仮に今後、新しい学習コンテンツが一切作られなくてもプロダクトマネジメントの学習コンテンツが足らなくなることはないでしょう。オンラインコースもありますし、世の中にあるコンテンツの量は膨大です。

学習に必要な教材がすぐに手に入るという点で、PdMになるために勉強したり、プロダクトスキルを磨いたりするのにこれほどいいタイミングはありません。コロナ前は、チケットを購入して会議に行かなければ話を聞けなかった人が、コロナ後はオンラインでウェビナーや交流会を行い、録画されているので後で見ることもできるようになりました。

会議や交流会には参加するほうが良いと思います。コンテンツがすばらしいことに加え、コンテンツ以上のものを得られるからです。先ほど言及したように人々はコンテンツが十分にあると思っているのですが、膨大な量のコンテンツを見て力尽きてしまいます。その結果、対面のイベントには行かず、ネットワークや人間関係を構築しないのです。この点でコミュニケーションの価値が軽視されていると思います。

これは本当に大事なことです。将来の仕事につながるかもしれないという観点からだけではありません。プロダクトを作るのは骨の折れる仕事です。自分の会社以外の人に愚痴を言えるのはとても大切です。パートナーや親に愚痴を言っても理解されませんし、迷惑がられるかもしれません。業界の中で理解できる人を見つけ、慰め合い、サポートし合うことが必要です。

さらにプロダクト業界にいない人には大したことではなくても、業界の人ならおもしろいと思うことを成し遂げた時に「それは本当にすごい、おめでとう」と応援してくれて、認めてくれます。

以上が、コロナ時代の良い点と悪い点だと思います。一生あっても尽きないほどのコンテンツが手に入る一方で、非常に大切である対面の会議への出席をサボりがちになるということです。

Wakamatsu:今はもう言い訳できないので、コンテンツを見て、読んで、学んで、実際に使い、人と話さなければいけませんね。私も違う会社の人とも会社内でも他のチームの人と経験を共有し合うのは大事だと思います。役に立つ上に多くを学べます。また、違うチームや違う方法からも学べると思います。

Emily:プロダクトについて学んでいる時、特に多くのコンテンツを吸収している時によく起こることとして、記事を書いている人やステージ上で話している人たちはフレームワーク、戦術、うまくいったことなど、自分たちの最高の成功体験を話すので、「私は記事に書いてあることすべてをできないから成功できない。私はこの仕事に向いていない」と感じてしまいがちです。

ですが、覚えておかなければいけないのは、これらの記事やフレームワーク、研修で触れるものは学ぶべき基礎であり、本当に大切なことは実際の仕事にどのように適用するかです。すべての技術を完璧にやったり、本に書いてあるすべてのフレームワークを実践することはできません。それでもいいのです。記事を書いている人たち、ステージに立っている人だって、すべてやっているわけではありません。

講演の場で私は、具体例を含めて体験談をお話しします。失敗例を挙げれば10個はくだらないでしょう。その失敗から何を学んだか、間違いはしたけれども結局は大丈夫だったということを伝えます。オンラインのコンテンツを読みすぎる弊害は、自分はこんなに完璧にできないという強迫概念を持ちかねないことです。だからこそ業界の人たちと会うのが大事なのです。

意見交換することで、誰もが間違った方法でやっているということに気づけます。誰もがルールを破り、機能しないシステムを持ち、利害関係者にうんざりしています。ですから、自分にはできないなんて思い込まないでください。

自分たちのやり方を模索する中で、自分たちの価値を認識しよう

Wakamatsu:ありがとうございます。日本のPdMやプロダクトリーダーへのメッセージをお願いします。

Emily:日本のIT業界は大きなポテンシャルを持っていると思います。すばらしいものが日本で作られていて、みなさんが第一線で活躍しています。私が見聞きしたことを踏まえると、日本は10年前のイギリスの状況と言えるでしょう。自分たちのやり方を模索する中で、自分たちの価値を認識しましょう。

今は日本のIT業界にいる人にとって、おもしろい時だと思います。道のりを楽しんで、できるだけたくさん学び、多くの人と会ってください。この業界で生涯の友だちを作れると思います。幸運を祈っています。

Wakamatsu:エミリーさん、本日はお時間ありがとうございました。

Emily:こちらこそ、ありがとうございました。