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パネルディスカッション / Q&A(全4記事)

「キャリアラダー」に合わせるか、「生み出した価値」で評価するか プロダクトマネージャーの評価のやり方

「『プロダクトマネージャー組織』どうつくる?ここでしか聞けないPdM採用・育成・評価の話」は、エムスリー株式会社、CPO協会、株式会社GENDAのプロダクト部門の責任者としての経験を持つ方々を招き、プロダクトマネージャーの組織づくりについてのパネルディスカッションを行うイベントです。ここでエムスリー株式会社の山崎氏、日本CPO協会理事兼ALL STAR SAAS FUND PM Advisorの宮田氏、株式会社GENDAの重村氏が登壇。次に、プロダクトマネージャーの評価について話します。前回はこちらから。

「キャリアラダー」に合わせて評価するか、「生み出した価値」で評価するか

重村:では次のテーマ。正直、育成とかなり近いのかなと思っているんですが、評価のトピックについてお話できたらなと思います。プロダクトマネージャーの評価ですね。

こちらもいろいろな側面で「評価する」という観点がありますが、GENDAの事例を簡単に説明したいと思っています。

GENDAでの評価は非常にシンプルで、基本的かもしれませんが、その人が当事者として生み出したアウトカムを評価するというスタンスに則っています。なので逆に言うと、「その人がいくらがんばってアウトプットを出した」とか、「その人がものすごく高いスキルを持っている」といったところは基本的には一切評価せず、生み出したアウトカムを評価するかたちを採っています。

なので、例えば私たちはアウトカムを3種類ぐらい定義していまして、1つは事業成長。基本的には営業利益を成長できたかどうか。そこに対してプロダクトを起点に貢献できたかどうかと、あとは顧客価値ですね。

こちらは例えば「ストアレビューが上がりました」とか、あとは定期的にアンケートを取っているので、「使いやすさが向上しました」とか。業績的にはなかなか直接見えづらいけど顧客価値は向上するケースがあると思うので、そのあたりを評価していたりします。

あとは特にシニアクラスの方は組織開発というところで、自分よりも優秀な人を採用できたか。もしくは部下を育成できたかを基本的には評価していますが……。いろいろな会社によって違うのかなと思うので、そのあたりを聞けたらなと思います。

宮田:評価という観点もそうだし、先ほど育成の話の時にもあったとおり、キャリアラダーとかレベル、グレードが詳細に設計されているものがあるじゃないですか。あれってすべての根幹なのかなと思っています。あのメッセージって、会社は「こういう組織運営を行っており、このラダーに沿って成長してください」というメッセージなんですね。それを無視して動いたら当然良くならないし、育成もされないし、成長もできない。

なので、会社のラダーに合わせてPMがどういう目線に立ち、どのように振る舞うか。これがすごく重要で、PMのマネージャーがそれを読み取って、メンバーにつなぎ、ラダーを理解し、メンバーが自分自身がどういうアウトプットを出さないといけないのかという認識を深める場を見かけることもあったんですね。

なので、なによりも僕はキャリアラダーの決定と、その運用。キャリアラダーは評価、育成にも必要だし、採用にも使うので。

山崎:おもしろい。興味深いですね。似ている考えもいろいろあると思うんですが、そこはたぶん考え方が違うんですよね。エムスリーはグレード制を導入していないので、基本的にキャリアラダーという考え方は使っていません。それは私のポリシーでそうしているとかじゃなくて、エンジニアもデザイナーもみんなそうなんですが、やはりプロコンがあるんですよね。

山崎:あったほうがいい側面もたくさんあると思っています。だけど一方で、一度決めてしまうと変更しづらいというのがあると思うんですよ。

宮田:そうですね。

山崎:我々はM&Aとかもしているし、本当にいろいろな分野で戦っているので。そういった中でジョブグレードみたいなものの運用はやはり重い。例えばエンジニアのいわゆるグレード制ですが、「AWSが使えることハイレベル」みたいな話は、10年ぐらい前にありました。今はたぶん一番下のレベルですよね?

それを書き換えていくというか、現実的にできないというのがあって。そういう中でレベル1なのか、レベル2なのか、レベル3なのか。そのイメージを持つことをやっています。

宮田:なるほど。

山崎:じゃあどうやって評価するの? というところでいくと重村さんと近くて、基本的には生み出した価値を評価していく。具体的には利益としてお金に換算することが多いですが、直近の利益だけを換算しているとどんどん目線が短期的になったり、緊急ではないけど重要なものからどんどん目が逸れちゃう。

なので、我々は累積のLTV(Life Time Value)みたいなものを導入していて。5年でLTVがどうなった、10年でLTVがどうなったとか、将来性を加味して、その人がおそらく生み出すであろう価値というところで評価しています。

グロースハックをしている方は生み出す価値がわかりやすいと思うんですが、特に新規プロダクトを立ち上げようとしている人は、そのプロダクトが生み出す価値がおおむねどのぐらいなのかみたいな。TAM(Total Addressable Market)であるとか、「そのあたりも含めて良い線をいっているか」みたいなことで確認することがやはり多いですね。

重村:確かに、既存事業と新規事業で金額ベースでいうとアウトカムは横並びで見ると係数を掛けないと。「新規事業をやっている人ってぜんぜん生み出していないじゃん」みたいな。

山崎:メチャクチャかわいそうですよね。

重村:エムスリーさんの規模では特にそうですよね。

山崎:リリース前の新規とかは普通にやるとメチャクチャかわいそう。だから配属ガチャみたいになっちゃうんですよね。収益が上がっているところにアサインされたらメチャクチャ評価が上がって、新規事業をやっている人たちは5年も評価が上がらないみたいな感じになっちゃうので。そこは完全に吸収するようにしていますね。

重村:僕たちも新規案件と、あとは既存でけっこう成果を出しやすい案件とで、バーベル戦略みたいな感じで、リスクが高いところと、けっこう安定して出せるところという目標設定ベースでバランスを取るようなことはしていたりはします。気になったのが、そのキャリアラダーの必要性とか、あとはその運用みたいなところは僕もけっこう悩んでいる部分があります。

PMの、特にジュニアの方とかはキャリアラダーが明確なほうが指針がしやすい一方で、やはりちょっと標準化してしまうとか、けっこう人それぞれで強みがあるじゃないですか。そこを標準化して丸めてしまうような側面は、僕はないほうがいいかなと思って結果主義にしています。そのあたりのうまいバランスの取り方はありますか?

宮田:そうですね。一般的なPM、先ほど山崎さんがお話ししていた「食べていくのに困らないPM」にとって、プロダクトビジョンからロードマップ、PRDの作成を経て、開発ディレクションを行い、効果検証するのって、一連な流れだと思うので、1人で回すことが求められます。PMとして回せるまではけっこうフィジカルなスキルでラダーが組みやすいんですよ。

例えば、その一歩前段階は一番抽象度の高いプロダクトビジョンが策定された状態からロードマップ策定以下ができる状態になります。プロダクトビジョンの策定が最も抽象的で、難しいので。さらに、その一歩前では開発を回していくところまでをサポートできる状態を指します。

最もジュニアなPMは1人で意思決定をしてスクラムを回すことはできないけれども、誰かについて5、6人の開発チームをサポートしていくことができる段階というかたちで、ラダーは組みやすいと思います。そこから逆に言うとシニアPMってなかなかケーパビリティも違うし、なんなら作っている案件やプロダクトによって適性が変わってくるし、組織を持つ・持たないみたいなところもあります。

なので、そこからはけっこうファジーに書いていますね。全部を達成するというよりかは、「こういう可能性があります」みたいな。「どれかやってください」みたいな感じですね。

ビジネスを牽引するプロダクトビジョンかどうかはやってみないとわからない

山崎:僕も質問していいですか?

宮田:はい。

山崎:今のプロダクトビジョンって、それが書けているかどうかの判断がメチャクチャ難しいと思うんですよね。

重村:確かに。

山崎:なんならプロダクトビジョンが本当に良かったのか、10年経たないとわからない。プロダクトビジョンを書くだけだったら、まぁできるじゃないですか。それが本当に良いプロダクトビジョンなのかはどうやって判断をするのか。人によって判断が変わりそうだなと思って。

宮田:そうですね。客観的に良いプロダクトビジョンの評価は、その瞬間で判断しきれないことがあると思うんです。ただ、プロダクトを通してユーザーに変革を与えているようなものになっているか。一緒に行動するメンバーがちゃんと共感し、ついてきているか。プロダクトをユーザーが使ってくれて、そのビジョンが伝わっているか。この3つぐらいは出した瞬間にけっこうわかると思うんですよ。

山崎:だからあくまで、まずは1人前というレベルまでの判断の中でのプロダクトビジョン?

宮田:そうです。

山崎:なるほど。

宮田:基本的にビジネスを牽引するプロダクトビジョンかどうかは、やってみないとわからない。

山崎:そこはちゃんと切り分けていると。

“1人前”のところまで持っていって、そこからは定性的に評価する

山崎:でも、中途採用の時に困らないですか? 私がグレード制を導入していない一番の理由が、中途採用でメチャクチャ困るんですよ。中途採用はどうしても前職給与の考慮が必要ですよね。

みなさんも生活があるので、いきなり「給料を200万円、300万円下げて来てください」というのは現実的には難しいわけですよね。だから基本的にまずは受け入れて、もちろん常識的な範囲に収めますが、アウトカムを見ながら調整していくということが、どこの会社でもあるんだろうなと思っています。

そこにグレード制があると、「この給料レンジの人は……グレード4かな?」みたいな。「本当はグレード2なんだけど、この給与だとグレード4だよな」みたいな。「グレード4じゃないと採れないからグレード4で採ろう」みたいな話が出たりして。その後、入社するととみんなグレードって公開されたりするじゃないですか。「なんであいつがグレード4なの?」みたいな話があって。

宮田:ありますね(笑)。

山崎:実際には「グレード2じゃん!」って。みんな思っているので。これはすごく難しい。

宮田:難しいです(笑)。

山崎:それで諦めたんですけど。その点はどうですか(笑)?

宮田:最近聞いているところはあまりグレードとかは……。公開している会社さんとかは多いと思うんですが、マネージャー以下のレイヤーを公開すると紛争しか起きないので(笑)。あまり公開されていないんじゃないかなとは思いますね。

山崎:最初は細かく切って、まずは1人前のところまで持っていって、そこからさらにもっと定性的な評価に変わるって感じなんですね。

宮田:そうですね。

山崎:おもしろいです。

重村:等級はそうですね。同僚の等級が見えるとものすごくモチベーションが下がるらしくて。ある程度差がある、上位レイヤーの方の等級が見えるのはモチベーションが上がるという組織的な研究があるらしいので。僕たちも検討しましたが、いったん非公開にしようと。そんな中では、けっこうフェアにできているかなという状態ですね。

あとは現職年収の差を見ると、1個のグレードの給料レンジの幅がかなり大きめで、上のグレードとけっこうオーバーラップしている感じがあるので。そういったかたちで、最初の期待値の高さや低さはどうしても前職の給料とかでブレてしまうよねというメッセージも込めて採用をしています。

山崎:おもしろすぎて時間がやばいですね(笑)。

重村:やばいですね(笑)。ありがとうございます。

(次回に続く)

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