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パネルディスカッション / Q&A(全4記事)

プロダクトマネージャーの育成はなぜ難しいのか 経験から学ぶことが多いからこそ意識したい、成功体験の共有

「『プロダクトマネージャー組織』どうつくる?ここでしか聞けないPdM採用・育成・評価の話」は、エムスリー株式会社、CPO協会、株式会社GENDAのプロダクト部門の責任者としての経験を持つ方々を招き、プロダクトマネージャーの組織づくりについてのパネルディスカッションを行うイベントです。ここでエムスリー株式会社の山崎氏、日本CPO協会理事兼ALL STAR SAAS FUND PM Advisorの宮田氏、株式会社GENDAの重村氏が登壇。まずは、プロダクトマネージャーの採用について話します。

プロダクトマネージャーの育成は重要だからこそ難しい

重村裕紀氏(以下、重村):各社のプロダクトマネージャーの育成方針とかをざっくりと共有しつつ、育成についてざっくばらんにお話できたらなと思っています。特に質問として多かったのが、やはり「プロダクトマネージャー採用が難しい」といったところで、「未経験の方をどうやってプロダクトマネージャーに育成するか」みたいなところが、けっこう注目度が高いのかなと思っています。

ではPMの育成方法について、もしよければエムスリーさんの事例から簡単に紹介してもらえればなと思います。

山崎聡氏(以下、山崎):はい。私たちもいろいろやっているんですけど、結論から言うと非常に難しいです。どうして難しいかというと、元も子もないんですが、プロダクトマネージャーの育成がメチャクチャ重要だからですね。重要なので、やはりすごい人を育てなきゃいけない。

まずここから話さないといけないかなと思うんですが、プロダクトマネージャーは、基本的にプロダクトチームに1人か2人ぐらいだと思うんですね。プロダクトチームをたくさん作ったラージスクラムみたいな、ああいった階層型の組織だったらまたちょっと違うかもしれないんですが、一般的なプロダクトを10人で作るとしたら、プロダクトマネージャーはだいたい1人か2人。プロダクトデザイナーも1人か2人で、QAも1人か2人で、残りの5、6人がエンジニアという構成になると思うんですよ。

プロダクトマネージャーは、それらメンバー全員のキャリアを背負っているんですね。だからプロダクトマネージャーが意思決定をしくじると、エンジニア5人、6人のキャリアが道連れになるので、そういう意味で本当に重要です。

エンジニア5、6人分のキャリアを左右する。どんなにパワーのあるエンジニアでもプロダクトマネージャーの意思決定の影響を受けるので、そういった面から「どんなプロダクトマネージャーをいつまでに育成するのか」みたいな比準が非常に高くなってくるんですね。なので難しい。そういう話があります。

じゃあそのためにどういうラダーを作っていくのかとか、どうやって何人作るのかとか、そういう育成戦略を組んでいくことがそもそも難しいというのが最初の課題ですよね? 宮田さんはどうですか?

宮田善孝氏(以下、宮田):本当に難しいですね。

プロダクトマネージャーはなろうとしてなれた人が意外に少ない

宮田:ちょっと違う観点で難しさを語ると、この中でも狙ってプロダクトマネージャになった人は少ないんじゃないですか? と思っていて。PMのキャリアって結果の産物だと思うんですよね。

僕も最初に新卒で戦略コンサルに入り、その後DeNAに行って、「なんか知らないけどゲームプロデューサーさんとPMをやっていました」みたいなキャリアなんですね。PMになろうとしてなれた人って意外に少ない。なので、なり方を教えられない。そこがけっこう大きい壁な気がするんですけど、重村さんはどうですか?

重村:僕はもう「なりたい! なりたい!」とずっと手を上げ続けて「いや、お前には向いていない」と言われ続け、それでも結果なれたタイプで。(プロダクトマネージャーになるには)けっこう意思が必要なのかなとは思っています。他人がプロダクトマネージャーとして育成してあげてなれるものではないのかなとは、なんとなく聞いていて思ったりはしました。

山崎:「プロダクト筋トレ」(プロダクト筋トレコミュニティ)という小城さん(小城久美子氏)がやっているコミュニティがあって。その中で、一部の人が“天然もの”という言葉を使うらしいんですね。

“天然もの”というのは、及川さん(及川卓也氏)とか、もしかしたら我々世代とか、いわゆるPdMの育成環境がまだ十分に整っていない時代になんとか泳ぎきった結果、PdMになった人たち。そういう世代って、『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』とかを読んでいても、シリコンバレーでもたぶんそうだったんですよね。

その中でGoogleとかが「それじゃいけない」という話になって、PM育成制度みたいなものを作って、アソシエイトプロダクトマネージャーみたいなものも作って。そういうところから「ラダーを作って、ちゃんと共有しましょう」みたいな話が出てくるので。

日本でも及川さんなんかがpmconfでよく言っていますが、「プロダクトマネージャーが世界を作るんだから、プロダクトマネージャーを増やしていかないといけない。」と言っていて、私もまさにそうだなと思いますね。

「じゃあ、どうするの?」という話をしていかないと、今日は「難しいよね」で終わっちゃうので。

(一同笑)

重村:終わっちゃいます(笑)。

プロダクトマネージャーは人の経験からも効率的に学ぶ必要がある

山崎:その中でどういう工夫をしているかというと2つ話があります。結論から言うと、プロダクトマネージャー同士がお互いに学び合える環境を最も大事にしています。なぜかというと、先ほど言った“天然もの”の話じゃないですが、プロダクトマネージャーというのは、経験によって学ぶことがすごく多いんですね。

ですが、書籍に書いてあることを「それを読んだら理解できる」レベルにはまだなっていない。書籍を読んだとしても実践の中でやっていかないといけないし、判断も微妙なライン、いろいろなバランス感覚が必要です。それを実践で身に付けていかないといけない。

その時に問題になるのは、一生の時間は1人あたり100年ぐらいしかないという現実です。まぁ、我々は長生きする人を1人でも増やそうとしているので、120年とか、150年とかにすることはできるかもしれないですけど。

ただ、それを500年にするのは難しそうだという考えはみなさんにもありますよね? なので、これを500年にする方法を編み出さなきゃいけない。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があると思うんですが、自分の経験だけから学ぶんじゃなくて、人の経験からも効率的に学ばないといけないんですよ。

自分で作れるプロダクトの数って、生涯で……。小さいプロダクトを含めれば違うかもしれないけど、大型のプロダクトだったら、みなさんが生涯で作れるプロダクトって10個か20個ぐらいだと思うんですね。

それから学んでいくのだと足りないから、プロダクトを作っている人を社内に集める。特に我々の企業はマルチプロダクトでプロダクトマネージャーがけっこういるので、5人、10人集めて、毎週何を学んで成長したのかを確認していく。特に成功体験ですね。失敗するやり方はたくさんあるので、成功したやり方を共有するのがやはり重要です。

エムスリーではよく「まずい料理をいくら作っても、おいしい料理を作れるようにはならない」と言っています。おいしい料理を作ることによって初めておいしい料理を作れるようになるという側面があるので。

まずい料理を作るのは、成功の経験の一部としてはいいんだけれど、成功したことで初めてその差がわかるので、できるだけみんなで集まって成功体験を共有することをやっていますね。どうでしょう?

宮田:すごいですね。

日本語でしか学ばないことはかなりの機会損失

宮田:PMの業務は意思決定の連続だと思っていて、その場その場で変えられる環境で最善の選択を自分で考えて動く。学びってそこから出るじゃないですか。なのでなかなか座学だけで学ぶって非常に難しいんですが、あえてそこに挑戦しようと思うと……。

僕が思うのは、英語の文献を読んでいる方々が圧倒的に少ない気がしています。

よく考えてみてください。だって日本のPMはたぶん1万人いないんですよ。だけどアメリカに行ったら3万人とか5万人いるんです。中国には10万人いるんですよ。そうなった時にコンテンツの量は、当たり前ですが英語のほうが10倍とかになっちゃうんですね。

そうした時にそこにアクセスしていないって……。グローバルでかなり必要とされる職種なのに、そこにアクセスせずに日本語でしか学ばないし、日本語でしか話をしないから、かなり機会損失をしているわけですよね。

僕はスマニュー(スマートニュース株式会社)の時、一度経営コンサルタントからPMに戻ったんですよ。けっこう学習する機会をくれる会社だったので、その時やったのは海外のPMのカンファレンスに参加することでした。Mind the Product、Product management festivalやTuring festなど、2,000人を超えるようなPMカンファレンスが海外にはあります。そこに行ってみると、今ここで議論している内容って、5年前ぐらい(に話されていた内容)なんですよ。

それぐらい先にいっていて、キャッチアップしてみると、それを僕なりに解釈して実践することが、その時でもう5、6年ぐらいのブランクを埋めてくれたように思います。それがあるのとないのと、自分では比較できませんが、キャッチアップし、実践するべきことがわかっていたので、そこを解釈して実践していくというのが、僕のその当時の成長ドライバーだったんだと思いますね。

なので座学でできることも、もちろんかなり限定されるかもしれないですけど、海外に目を向ければもっと機会はあるかもしれません。

重村:ありがとうございます。お話を聞いていて、どこをプロダクトマネージャーの完成と設定しておくのかによって、育成の難易度はけっこう異なるのかなと思っています。

宮田さんがお話しされていたところだと、プロダクトマネージャー界隈のトップランナーとまでは言わないですけど、一部ですかね。日本語訳がされているプロダクトマネージャー系の本とかを読めば、一定のレベルまではキャッチアップできるのかなと思ったんです。

だけど、それ以上に行くためにはやはり海外文献とかにアプローチしたほうがいいんじゃないか、という理解で合っていますか? それとも、どんな新米のプロダクトマネージャーでも「アメリカの文献をちゃんと見ろ」ということか。

山崎:便利なやつがありますよね。シリコンバレー・プロダクト・グループ(SVPG)の有名なブログとかをどなたかが翻訳してくれていて。けっこう出てくるじゃないですか。

重村:最近けっこう増えていると思います。

山崎:けっこうあります。私も英語はそんなに得意じゃないので、メチャクチャ日本語訳を見ています。あとはチームに展開する時に、日本語になっていないと毛嫌いする人がいるので。

重村:いますね。

山崎:翻訳は展開します。

宮田:最近だとDeepLなど翻訳の精度が非常に上がっており、Google ChromeのExtensionにもあるので、記事をドラッグするだけで翻訳してくれます。PdMも導入したほうがいいんじゃないですか。海外のPM関連の記事をかなりスピーディに読むことができたりするので、それは入れたほうがいいと思いますね。

重村:それは便利ですね。

宮田:DeepLを入れるだけでぜんぜん敷居も変わるので。

山崎:確かに。M&A関連のいわゆるDDで、フランスとかスペインの(記事)をよく見るんですよ。

宮田:はいはい(笑)。

山崎:英語だと読めますが、フランスとかスペインとかは諦めるじゃないですか。そんな時に「Google Chrome」の翻訳ボタンがメチャクチャ便利なんですよ。だから最初から翻訳しちゃうのもいいかもしれないですね。

宮田:そうですね。

山崎:それでもけっこうわかるので。

重村:ありがとうございます。

エムスリーが設定している「3つのレベル」

山崎:育成のことで、もう1ついいですか?

重村:もちろん。お願いします。

山崎:次の話題にも関連するのでここで紹介しておきたいです。とはいえ、やはりいきなりハイレベルな話をしてもラダーは必要になってくるじゃないですか。

なので、エムスリーでは主に3つのレベルを設定しています。3つのレベルというのはグレード制ではないですよ? グレード制ではなくて、プロダクトマネージャーが育っていくために「だいたいこの3つだよね」というものを共有しています。

レベル1は、いわゆるアジャイル開発を使いこなして、動的な要件をうまくプロダクトにしていける人。これはレベル1のプロダクトマネージャーです。現在のプロダクトマネージャーに必ず要求される能力だと思います。

最初に要件を決めて、それをデリバリーするという、いわゆる超ウォーターフォールみたいなやり方じゃなくて、やはりユーザーの反応とかをヒアリングしながら、いわゆるアジャイル、スクラムで作れる人ですね。プロダクトオーナー+αぐらいなイメージ。これはレベル1です。

レベル2はそこからさらに進化して、いわゆる現在のプロダクトマネージャーが実践していることをひととおり実践できる。ロードマップとか、ユーザーのストーリーマップとか、ユーザーストーリーを作ったりとか、そういったものをひととおり使いこなせる。いわゆるミドルクラスのプロダクトマネージャーですかね。

ぶっちゃけこの時点で食うには困らないですね。今は日本のプロダクトマネージャーが全体で足りていないので転職し放題だし、転職すれば給料が100万円上がるみたいな人たちは、ほとんどレベル2のプロダクトマネージャーだと想定されます。

次に求めているのが、レベル3のプロダクトマネージャー。このレベル3のプロダクトマネージャーが、いわゆる年間利益を50億円から100億円作れるような、スーパープロダクトマネージャー。

重村:すごい(笑)。

山崎:これができると会社を上場させられるレベルなんですね。イチから会社を作って、プロダクトの力で上場まで持っていけるみたいな。そういうのがレベル3。レベル2が年間利益で1億円から10億円作れるとすると、レベル3は50億円から100億円作れるぐらい。ここのレベル3のプロダクトマネージャーが本当は欲しいんですね。当たり前ですよね?

宮田:そうですよね(笑)。

山崎:この人を見つけられたら、もう普通に会社を起業して上場できるので。このクラスの人たちの力が必要なんですよ。なぜかというと、いくら優秀なエンジニアやデザイナーを雇ってもある意味では意味がないからなんですね。プロダクトマネージャーの能力に必ずキャップされるので。

だから、レベル3のプロダクトマネージャーを目指しましょうと。そういう話をしていると、みんな「なれたらいいですね」という感じになりますよね。

(一同笑)

だから夢としてそれを設定してあげる。これで重要なのが、育成の時に私もアドバイスをいろいろするんですが、どのレベルに対してのアドバイスなのかを明確にしておかないと、みんな混乱するわけですね。

いきなり私が「プロダクトマネージャーってこういうものが必要だと思うんだよね」と言っても、レベル1のために必要なのか、レベル2のために必要なのか、レベル3のために必要なのかを分けて話してあげないと、トレーニングを受けているほうは混乱します。

なので「これはレベル3(に必要なこと)なので今は難しいかもしれないけど、こういう意思決定の時にはこうしたほうが、断トツなプロダクトマネージャーを目指せるよね」みたいな。「みんなこっちを選ぶけど、私は今回はこっちを選びます」みたいなことを「これはレベル3の意思決定です」と説明として伝えていくのが重要かなと思うんです。

重村:ありがとうございます。プロダクトマネージャーとして、レベル3まで到達するのにかなり時間がかかるなと感じた方もいるかなと思います。ぜひ「Slido」でも質問をいただき、ここの場ではとりあえずエムスリーで寿命を延ばしていただいて、あとは海外の文献にアクセスするといったところを、まずはラーニングとして持ち帰りたいなと思います。

(次回に続く)

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