言わなくて後悔したこと

藤井創氏(以下、藤井):次に、これは時間があればお聞きしたいなと思っていたことだったのですが、コミュニケーションをしていて、こういうところが難しかったなとか、過去うまくいかなかったという体験談があれば、教えていただければなと思います。

もちろん、あればでかまわないんですけど、たいろーさんからお願いできますか?

森山大朗氏(以下、森山):そうですね。転職してしばらくの間、ちょっと遠慮してしまって、あんまり疑問に思っても聞かなかったことですね。

僕は、データをざっと見て、「なんかこれ変だな」とか、「改善したって言っているけど、これは最終的には改善してなくないか?」と、素朴に思ったことをズバッと言うのが自分の持ち味なんですけど。やはり遠慮は良くないですね。

今だと、僕の中の整理としては、自分が意識している3つの貢献価値があって、1つは「Visibility」の向上です。先ほどまさにおっしゃったことで、特にプロダクトマネージャーには解くべき課題の解像度を上げる役割があると思います。

2つ目が、組織に「Autonomy(自主性)」をもたらすことです。それは、僕が直前に言った、エンジニアがワクワクして数字を動かすことです。価値をお客さんに届けるために実験しまくっている状態を作れるんですね。これはプロダクトマネージャーというよりエンジニアリングマネージャーの仕事かもしれませんが。

そして3つ目が今回の質問に関わるんですけど、「Discovery」と言っているのですが、ぜんぜん違う切り口から「これは変じゃない?」とか「実は成功したと思っているけど、うまくいってないんじゃない?」みたいなツッコミです。これを空気が悪くなっても言うことです。

これを言わなくて後悔したというのが僕の実体験ですね。

今はズバズバ言っています。そうすることで、今までと物事の捉え方が変わって、別の観点が出てきたり議論が活性化するんですよね。

これをもっと早くからやっておけばとか、自分のスタイルを維持しておけばよかったなみたいな感じで、思ったことでした。

プロダクトマネージャーは価値に対して全面的な責任がある

藤井:「Discovery」が大事だということですね。同じ質問になるんですけど、西場さんは、どうでしょうか?

西場正浩氏(以下、西場):そうですね。失敗はいっぱいやっていますけど、もちろん、僕なんかはやはり、ユーザーインタビューなどでうまくできなかったなと思うところはあります。

結局、PdMがちゃんと価値を見つけられていて、本当に顧客が求めているものを見つけていたら、エンジニアの工数は無駄にならないんですよね。無駄というか、サービスクローズされないと。

だから、やはりその価値に対してPdMって全面的な責任があると思っています。

もちろんそれは、どうやって環境を作っていくかとか、試行錯誤をしていくかもセットで考えるべきですけれども、実際、本当にその人に全責任があるかどうかは別として、やはりプロダクトの価値に対して、気持ちとしてはPdMが全責任を負うと考えています。

そういう意味でいうと、僕はプロダクトを失敗させていますし、その間で使った工数は無駄になっていますし、それをうまく価値につなげられなかったし。本質がよくわからないなりに試行錯誤は続いていて、結局うまくいかないというか、このままでは無理だよねという空気になって終わりになる。

やはり価値をどうやって見つけていくかにもっとフォーカスを当ててコミュニケーションやヒアリング能力を上げていったらよかったなと思います。

そうすれば周りにうまく伝わらなかったとしても、伝わるのにすごい時間かかったとしても、ゴールにたどり着くんですよね。

うまく伝えられたとしても、ゴールが間違っていたら意味ないんですよ。正直、使われずに終わります。

やはり、そのゴールをちゃんと見つけるためのコミュニケーションやヒアリング、ユーザーインタビュー、仮説検証で失敗を多く重ねてきたし、今でも悩みは多いなと思っていますね。

なので、特定のスキルについて言えるわけではなくて、やはりゴールを定めないといけません。たぶんコミュニケーションもその1つの手段です。いまだにそこに悩んでいるし、そこで失敗しているなと思う時は多々ありますね。

ボケる直前までやり続けたいだけなのかもしれない

藤井:ありがとうございます。ここまでいろいろと、本当にコミュニケーション術の点で、いろいろなすごく有用なヒントをいっぱいいただいて、すごくおもしろかったです。

今回こういう場をセッティングさせていただいて(笑)、たぶんお二人とも、ここが初対面だとは思うのですが、最後にもし、お互いにこういうところを聞いてみたいなというのがあれば、おうかがいしたいなと思います。

西場さんから、たいろーさんにお聞きしたいことはなにかありますか?

西場:あるんですけど、ちょっと趣旨が、テーマとちょっと……。

藤井:ぜんぜん大丈夫です(笑)。

西場:今日、たいろーさんの話をうかがっていると、PdMというロールにすごくこだわりがあるわけではないような気がするんですよね。今後もPdMをやっていきたいという話もぜんぜんなかったですし。

どこを目指して動いているんですかというのは、やはりちょっと気になりましたね。なにになりたいんだろうみたいな。それは僕のテーマでもあって、僕も聞かれても、いつも答えられないんです(笑)。

PdMやりたかったんですかというのは、流れでなったし、エムスリーというすごくいい環境の中で、チャレンジが降ってきて、そこにたまたま僕がいただけな気がしています。

だから、たいろーさんは、5年後、10年後を見据えて、今コミュニケーションスキルを上げようとか、こういうチャレンジをしようというデザインはされているんですか?

森山:こういう質問、本当に困るんですよね(笑)。

本当にあまり計画的に生きていなくて。その時「やるか」と決めたことや、あるいは知的好奇心に従っていたら、いつの間にかWebサービス立ち上げて怒られたり、ビズリーチに入社したり、そこで検索エンジンを立ち上げろと言われて、作って、それがメルカリに転職するきっかけになったり、そこからスマートニュースというように流されているだけなんですよね(笑)。

だから僕は、目標を決めて達成するのは好きですけど、それはゲームとして楽しんでいるだけであって。お客さんに支持されて、「やったった!」みたいな、そういうのをやり続けているのが快感なだけです。

それは、例えばプロサッカー選手に「将来どうしたいですか?」と聞いて、「ワールドカップに出たい」「試合に勝ちたい」と言うかもしれませんが、それは通過点であって。本音は「なるべく長くボールを蹴っていたい」だと思うんですよね。

サッカー選手でいたいかどうかはわからないですけど、とりあえず、できるだけ長くサッカーはやっていたいと思うんですよ。それでお金ももらえたら、こんなうれしいことはないじゃんみたいな感じで。そういう感覚に似ているのかなと僕は思っています。つまり、プロダクト開発自体をずっとやっていたいと。

新しいなにかを構想して、仲間と一緒に世の中に提案して。それで、「失敗した」とか「仮説が当たった」という試行錯誤を、やり続けたいだけなのかもしれないです。

その時にやはり、めちゃくちゃお金がもらえている時もあれば、なんか渋い時もあるっていうことなのかなと(笑)。

これで答えになっていますか?

西場:はい、すごくなっています、なっています。たいろーさんもそうなんだって思えたところと、今日のテーマのコミュニケーションでいうと、サッカー選手のくだりとか、いい表現だな、パクろう。

僕も説明しづらいなと思っていて、それを言ったら今キャッチーだし、学生などに面接すると「西場さん、将来なにを目指しているんですか?」とか聞かれるから、今の表現パクろう。

森山:「僕はボールを蹴っていたいだけなんだ」と(笑)。でも案外、そう感じている人は少なくないと思うんですよね。

西場:そうですよね。わかります。おもしろいなと思います。表現もおもしろかったし、気持ちもわかります。

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