本質的な価値に絞るのも大事

藤井創氏(以下、藤井):ありがとうございます。西場さんはそういった時はどうですか?

西場正浩氏(以下、西場):口で言うだけだと限界はあるなと僕も思って、いかにモックを見せられるかとか、ほかの体験から連想できるような話にするのか、みたいなことはあるなとは思います。モックを描くのは僕もよくやっていましたね。

もう1つは、やはり本質的な価値に絞るのもけっこう大事かなと思っています。体験や価値がシンプルであればあるほど伝えやすいけど、そこから出てくるものは変わります。

つまり、こういう価値のものを作りたいと。例えば「東京から名古屋に移動できるもの」みたいな話だと、だいたい新幹線や車やヘリコプターやリニアなど、いろいろなHowが出てくるわけですよね。ただ、そこのHowのところまでやろうとするとすごく難しいから、まずはシンプルに、なにができたらいいのかという本質的なところが、おもしろいのかなと。「それができるとどれぐらいハッピーなのかな?」みたいな話ができると、まずは伝わるよねと。

その後に、どうやってそれをHowとして実現しますかという議論を、関係者を集めて入ってもらうと、Howの部分は、みんなで作っていくかたちになって、イメージがそろえやすいし、お互いにそのイメージのズレを確認し合えるフェーズを挟むので、やりやすいのかな、とよく思っていましたね。

今でも、組織作りでも、基本的には僕は、「生産量を2倍にするぞ」みたいなことだけ言って、「どうやって?」「いや、わかんないけど」「みんなで話し合おう」と(笑)。

そうして、やっていく体験、組織として作っていく体験ややるべきことの共通認識を取りやすくする工夫はしていましたね。

ただ、やはり物があるとかイメージするためのスケッチでもなんでもいいんですけど、そういうビジュアル的なものは重要だなとは思いますね。

某有名ハンバーガーショップでなぜヘルシーなものが売れないのか

藤井:今の質問と被ってしまうかもしれませんが、これから、次のテーマとして話せればと思っているのが、「実際に必要なコミュニケーションスキルとは何なんですか?」というところです。これについてお二人にうかがえればと思っています。

まずは、西場さんから。プロダクトマネージャーに必要なコミュニケーションスキルは、具体的にいうとどんなスキルになるのでしょうか?

西場:そうですね。やはり、今まで出てきているような話ではあるのかなとは思います。今までとちょっと違う話だと、やはりリサーチを行う上でのコミュニケーション能力は、必要なのかなとは思いますね。

例えば、ユーザーヒアリングはすごく奥深いテーマです。人類はプロダクトを作る時に、すごく昔からやってきて、いろいろな本も出ているし、ノウハウも紹介されているけど、別にこう従えば見つかるよという話はないわけですよね。もちろんガイドライン的なものはありますが、どうやってユーザーが本当に欲しいものを見つけるかというためのヒアリング能力も必要です。

僕は学部の時はマーケティングをやっていて、コトラーの本を読んでいました。そこでやはりユーザーリサーチみたいな紹介があって、コトラーのどの本かは忘れたのですが、某有名ハンバーガーショップでアンケート調査をすると、やはり「ヘルシーなものを食べたい」と言うんですね。

某有名ハンバーガーショップでヘルシーなものなんて売れません(笑)。野菜を食べたい人は野菜のお店に行くから、サラダのお店に行くから、某有名ハンバーガーショップには来ません。

でも、ユーザーに聞くとやはり「ヘルシーなものが欲しい」というのが何度も何度も出ます。過去に確かにありましたよね、一瞬。ただ、売れるのは、やはり普通のメニューだったり。

それをどうやって見つけるのかというヒアリング能力は難しいのですが必要なのかなと思いますね。

それで僕が今一番よく言っていて、大事にしているのは、「まぁ、聞こう」ということです。ヒアリング能力はいろいろ難しいのですが、「まずは聞こう」みたいな話ではあります。

「誰々さんはこう思っていると思う」みたいな会話はよくあるんですけど、「聞いた?」って。プロダクトマネジメントでも組織マネジメントでも、「本人にそれ聞いた?」って、「欲しいって言った?」みたいな話をよくやっていたりするので。

ちょっとずれちゃうんですけど、そういうコミュニケーション能力、スキルという前に、聞くべき場所、ポイントを探るみたいな話もあるのかなと、今しゃべりながら思いました。

そうやって、ユーザーリサーチのためのヒアリングスキルや、本質を見つけるためのコミュニケーションは、また別の観点で必要かなと思いますね。

藤井:その某有名ハンバーガーショップの話は、実際よくある話で。

要は、自分の欲求に対して素直だけど、本質はそこじゃないよねみたいな答えがあったりするので、そういうヒアリングをちゃんと聞き取れるのは、確かに大事な、本質を見抜くというか、本質をヒアリングする能力は、確かに必要なのかなと、今聞いていて思いました。

では、今度はたいろーさんにも同じような質問をおうかがいしたいんですけど、たいろーさんが考える、具体的なコミュニケーションスキルは、どんなものがあるんでしょうか?

『解像度を上げる』という本がおすすめ

森山大朗氏(以下、森山):これ、あれなんですよね。コミュニケーションと聞いて、みなさんたぶん別々のものを思い浮かべている気がするんですけど。だから、ちょっと難しくて。

ただ少なくともこれまでの話で出てきているコミュニケーションにおいて、プロダクトマネージャーのコミュニケーション力は「調整」じゃないんですよね。いろんな人に話を聞いて回って、帳尻合わせるみたいなことではなくて。

プロダクトマネージャーのコミュニケーションは、先ほどの、自分自身がなにか今までにないものを構想するとか、妄想とも言えるかもしれないんですけど、それをなんらかのかたちで表現して、自分もワクワクしながら周りにもワクワクしてもらって、協力してもらうみたいなことだと思います。

実は最近、プロダクトマネージャーの役割をちょっといい感じに説明している本に出会ったんですよね。それは『解像度を上げる』という本なんですが。これをみなさんにすごくお薦めしたいんですけど。この本には「物事の解像度を上げる」には、3つしかないと書かれています(正確には4つですがここでは割愛)。

1つ目は「深さ」。物事を構成要素に分解していく時の深さ。これが深いほど、その要素がどんどんどんどん深掘りされていって、物事がよりクリアに見えてくるということです。

2つ目は「広さ」です。世の中の変化、業界動向、競合の動きやアプローチの多様性をどれだけ広く押さえているか。

3つ目が「構造」。要素同士の関係性がわかること。これ、めっちゃそうなんですよ(笑)。プロダクトマネジメントをやっていると、まさにこういうことばかりです。

構造把握は、けっこうセンスが要るんですよ。生まれ持ったセンスとでも言えるものが必要で、後天的に身につくのかどうか、僕にはわからないですが。

ただ、物事の理解の深さと広さを広げていくのは、実は、センスは関係なく経験に応じて出来るようになると思います。

例えば、先ほど西場さんがおっしゃった「それお客さんに聞いた?」という問いは、深さについての質問ですよね。お客さんに「それ、なんで欲しいんですか?」「なんでその時困ったんですか?」と聞いて、「どういう気持ちになったんですか?」みたいにことをどんどん掘り下げていくと、顧客理解の深さがどんどん深まっていきます。

一方で、競合はどういう施策をやっているのか、似たようなサービスをどこでやっていて、その時どんなマーケティングをやっているか、1顧客あたりいくらで獲得しているのか、こういったことを調べるのは「広さ」の追求です。

そうすると、「あぁ、じゃあだいたいこのぐらいの効率で目指していけばいいし、それぐらいが限界なんだな」みたいなことがわかって、無理な目標を立てて爆死することもなくなります(笑)。

ほとんどの組織や個人は、こういったことをぜんぜんやりきらず中途半端で終わっているという状況なので、プロダクトマネージャーは、これら一連の「解像度を上げる」行動を、「やろうぜ!」ってみんなを巻き込んでやっていくリード役になるのかなと思います。そこに意志がないとダメ。

いろいろな人に意見を聞いて回って、最大公約数みたいな答えを出すのは、少なくともプロダクトマネージャーではないなと。

藤井:なるほど。まさに今、書籍『解像度を上げる』がプロダクトマネージャー必読の本に聞こえてきたんですけど、読んだほうがいいということですね。

森山:オススメですね。最近の本で一番の当たりです。

藤井:なるほど。

森山:でも、本を買わなくても、実は「Speaker Deck」で見られますけどね(笑)。

藤井:そうですね、深く読みたい方はぜひ本を買っていただければ。

(3記事目につづく)