エンジニア出身であるメリットは「自分でコードを書いて開発できること」

松本勇気氏(以下、松本):ちょうどいい話題になってきたので、次のスライドに行こうと思います。

ここに「IT企業の経営者は、エンジニアであるべきか?」みたいなタイトルがあります。僕はいつも煽り気味に、「いや、エンジニアリングできないIT企業経営者って何なの?」みたいなことを言うんですけど、ちょっとこのあたりを深掘りしていきたいなと思っています。

個人的にはエンジニアがもっと起業したらいいなとか、若手がエンジニアリングから起業に入っていったらいいなとか思っているので、ちょっとそういった話もできたらなと思うんですけども。

ズバリ、このお題に対して、みなさんがエンジニア出身であったことで、事業を営んでいく上でなにかプラスがあったかという話をいろいろ、ざっくばらんにうかがいたいなと思っています。

ここからは1人ずつというより、掛け合いでお話できたらいいなと思っています。自分がエンジニアであったことで起業がこんなふうにうまくいっています、こんなふうに活用できていますみたいなところは、なにかあったりしますか? じゃあ、山内さんからお願いしていいですか?

山内奏人氏(以下、山内):すごく初期の頃の話でいうと、自分でコードをかけるのでやはり人件費が浮くというのはありますよね。それはやはりすごく大きかったなというのは思います。

松本:エンジニアとしてのバーンレートへの影響って、メチャクチャでかいですよね。エンジニアの採用市場は今すごく加熱していて、最初からエンジニアが一緒にいるというケースが少なかったりするので、開発できることがメリットというのは確かにありますよね。

福田涼介氏(以下、福田):そうなんですよね。特にこれは、今活きていますよね。

松本:そうですね。

福田:今が一番高いので。

松本:初期に、自分の手金ですぐにプロダクトを検証して試せるというのはメリットですよね。

福田:あと、小さく試せるのもいいんじゃないですかね? エンジニアだと、自分が困っているツールから起業できたりするじゃないですか。

最悪プロダクトがうまくいかなくても……これはちょっと「べき論」ではあるんですが、受託で稼いだり、稼ぎ頭がきちんと作れるという点は、初期のスタートアップにとっては、やはり今の人件費も含めていい話が多いんじゃないですかね。

エンジニアと同じ目線で経営するからこそできる、プロダクトづくりのプロセス

松本:でも、今の話をちょっとひねくれた見方・視点で考えてみると、思い切って突き抜けるよりも、ある種足元を見て、例えばキャッシュフローが回るように着実に経営しようというスタイルになりがちかなとは思うんですけど。思い切りの点でデメリットはそんなに感じないですか?

福田:どうなんですかね。たぶん、すべてのエンジニアが意識しているかはさておき、エンジニアって、レベルが上がれば上がるほど、論理的に考える人がけっこう多いじゃないですか。

松本:そうですね。

福田:だから、直近5年ぐらい続いていたSaaSのバブルの中で、「メチャクチャぶち上げてやるぜ」というマインドにならなかった人はたぶん一定数いて。その分、「機会損失はあったんじゃない?」とは思うものの、今の市場を考えると、そっちのほうが「地に足がついていていいんじゃない?」と思ったりはしますね。

松本:今は、黒字のほうが評価されやすいという背景もあって、着実に積み上げる思考のほうがプラスに働いている面はありますよね。

福田:そうですね。めちゃくちゃテトリスがうまいみたいな、超積み上げられるみたいなのは、エンジニアの特性上ある気がします。

松本:緻密に積み上げていくみたいなのはありますよね。これは僕自身も経営していて思っているのですが、逆に、見えているものを論理で判断するので、見えていないものは意思決定から外しちゃうみたいなところは悩ましいなと思うんですけど。

みなさんは社長じゃないですか。そのあたりは課題を感じたりしないですか? これはできないでしょとなった瞬間にすぐ止めちゃうとか、リスクが取りにくいとか。

福田:どうですか、奏人君?

山内:いや、でも、組み合わせかなとは思っていて。あまり時間がかからず立ち上がってくる事業がうちの会社だと実は複数あって、1つのアプリの中でも複数の収益事業があるサービスなので、そういう意味では、この領域に張ると着実に収益が上がっていって足元が大丈夫だから、わりと時間を使ってもっとデータマイニングとかに投資をしていくみたいな、そういう意思決定がけっこうできるなと思っています。

それでいうと、何にどれぐらいの時間がかかりそうで、何にあまり時間がかからないかみたいなのは、やはり技術視点というか。技術視点だけじゃないですが、プロダクトの視点でも、すごく活きているなという感じはします。

松本:事業を科学するという意味では、すごくやりやすい立ち位置ですよね。データを見て、なにかを作るための期間の見積もりをして、その上で「着実に成長させる方向ってどこだっけ? 今の課題って何だっけ? それを定量化したらどうなるんだっけ?」みたいな、そういう項目で自分たちの経営を眺めやすいというのは、エンジニアリングをやっているみなさんならではの発想な気がします。

福田:あとは、僕はけっこう、「自分に甘く人に厳しく」スタイルなんですけど。

松本:(笑)。

福田:けっこうむちゃなことでも、エンジニアになんとかしろという話をするんですよ。社長のむちゃ振りがやばくて、エンジニアが疲弊するという話、よくあるじゃないですか。これは社長がエンジニアだと起きない気がしています。

松本:とはいえ、エンジニア視点で言っているんだろ、こいつ、みたいな?

福田:そうです、そうです。ある程度、着眼点と合っていて、リミットをちょっと超しているだけで、確かに可能性があるなというところに持っていけるのは、いいなって思いますね。

松本:それって、プロダクトの品質を突き詰める上でもけっこう大事だったりしますよね。

福田:うん。

松本:「ここのモーション、例えばスクロールをもうちょい効率化できるやろ」みたいな意見をエンジニアに言われると、「うーん、工夫するか」みたいな話になりますしね。

福田:そうなんですよ。全体的なリファクタリングの話でも、「もう1層深掘りして考えてみると、これを使ったらできるんじゃね?」とか、そういうのができるのが、メリットかもしれないです。

松本:ですよね。エンジニアと同じ目線で経営するからこそできる、プロダクトづくりのプロセスはありますよね。

福田:それはある気がしますね。

法的要件、データ要件、アーキテクチャ、パフォーマンス要件など、全部1人の人格の頭の中でできる

松本:そのあたり、山内さんはどうですか? 今はたぶん会社も大きくなっているとは思うんですが、その中でもエンジニア経営者であることの、プロダクトづくり面でのプラスとかを感じるポイントはありますか?

山内:ここ最近、僕の直下に新しく別のプロダクトチームを作って、今そこでプロダクト開発をしています。どういうことをやっているかというと、ヨーロッパ向けにアプリを作っていこうというところをけっこうやっています。

そうすると、やはりGDPRの問題など、ある種、法律とデータベースと分析基盤を行ったり来たりしながら、どういうサービスを入れて、どういうサービスは入れないみたいな意思決定を連続でしていかなきゃいけなくて。

それってたぶんエンジニアだけではできないし、経営者だけでもできないし、分析をするチーム、アナリティクスのチームだけでもできないので、全部1人の人格の頭の中でできるのは、けっこう良かったなと思っています。

松本:特にプロダクトの最初の開発スピードや品質は、アーキテクチャの構造力にけっこう影響するところがありますよね。

法的要件、データ要件、アーキテクチャ、パフォーマンス要件など、社内の今のエンジニアリングスキルを総合して、だいたいこうするといい設計になりそうだよね、これだと最速で進めるよねというのは、やはり広く見える人ならではのスピード感がある気がしていて、メチャクチャいい話だなと思いました。

エンジニアであることによって、株主対話で困ったことはない

松本:ちなみに、起業していると避けて通れないのが資金調達だと思います。エンジニアであることによって、例えば株主対話みたいなところで、困ったり、むしろ良かったりすることはなにかありますか?

福田:それは会社によってちょっと違いそうですが、うちはけっこうほっといてくれる株主が多いので、株主とコミュニケーションを取ることがあまりないんですよ。

なので、調達した後のコミュニケーションコストはぜんぜん高くないんですが、一般的に言われるのは、エンジニアであるがゆえにセールス力がないということです。伝え方が下手な人たちがやはり多い気はしていて。たまたま僕はそうじゃなかったというだけで、どっちかというとそっちのほうがマジョリティな気はしています。ここはどうなんですかね。(山内さん)どうなんですか?

山内:僕はあまり困ったことはないです。うちは取締役会を毎月やっていますし、バリュエーションもたぶん100億円ぐらいまではファインナンスチームがなくて、僕1人だったんですよ。そういう意味では、わりとがんばってやってこられたところはありますね。

最近になってCFOみたいな人に入ってもらって、そのあたりはわりと権限委譲したんですけど。そういう意味では、株主ががんばって指摘せずにいてくれた部分も多かれ少なかれあるだろうなと思います。でも、がんばってやってきたという感じはします(笑)。

松本:相手方もコンテキストとして、僕らがエンジニアだというのをわかってくれているというのはあるかもしれないですね。

山内:そうですね。

福田:あとは、どっちかというとVCもエンジニアチームに出資したいっていう、内なるあれはあるんじゃないですかね、今は。

松本:そうですよね。内輪話として、僕はゆずしお君の会社の株主でもあるんですけど、わりとエンジニアチームを応援したいという気持ちで出資させてもらっているので、やはりそれはありますよね。開発者が新しい事業を作っていく流れはもっと増えてほしいなと思っているので。

福田:そうですね。

IT企業の経営者は、エンジニアであるべきか?

松本:ちなみに、時間がもう半分以上過ぎてしまったので、最後に、この「IT企業の経営者は、エンジニアであるべきか?」という話に関して、みなさんの結論も聞いてみたいんですけど、この観点はどう思いますか? ゆずしおさんから聞いてみます。

福田:僕は、エンジニアであるべきだと思いますけどね。あるべきというのは、あったほうがいいと思いますし、いわゆるソフトウェアを作るのであれば、エンジニアの道を1回走ったほうがいいんじゃないかなと思いますね。

松本:やはりエンジニアリング出身者であることが、組織づくりなどいろいろなところで活きますよね。

福田:うんうん。結局採用は大変だし、作るのは大変だし、全部大変な道をショートカットするには、自分がエンジニアであるのが一番楽な道ではあるとは思います。

松本:山内さんは、いかがですか?

山内:職業というか、プロダクションのコードを書いてみる必要は、あまり僕はないと思っています。とはいえ、技術に触れてみるとか、エンジニアを趣味でやってみるというのは、絶対に活きてくるところがあると思うんですよね。

なので、コードを書いたことがない経営者よりは、趣味でもちょっとコードを書いてみたことがある経営者のほうが、エンジニアも絶対働きやすいと思うんですよね。そういう意味では、エンジニアをやったことがある人のほうが、僕はいいのかなと思います。

松本:1個デプロイしたことがある経験は、肌感をつかむという意味で重要な気がしますよね。「Hello World」だけじゃなくて、なんでもいいから自分でツールを作ることで、初めて見えるものはある気がします。ありがとうございます。

(次回へつづく)