登壇者の自己紹介

神里栄氏(以下、神里):本日は、ウルシステムズ株式会社代表取締役会長の漆原茂さまを社外ゲストとしてお迎えしています。よろしくお願いします。

漆原茂氏(以下、漆原):漆原と申します。今日はどうぞよろしくお願いします。私はいろいろな会社の代表取締役をやらせていただいているので、よく経営者と誤解されるのですが……エンジニアなんです(笑)!

(一同笑)

漆原:ひたすらコードを書きたくて、エモいコードを見ると「大好き!」みたいに思ってしまう。そういう人間なんです。

(一同笑)

漆原:なので、自己紹介のスライドもJSONで書きました。円周率も微分方程式も大好きです。分散システム、大規模データ処理とか、本当に最高です。

棚橋耕太郎氏(以下、棚橋):棚橋耕太郎といいます。新卒でリクルートコミュニケーションズに入社して、現在はリクルートに在籍しています。リクルートコミュニケーションズでは、広告配信を専門に行う部署でした。非常に尖ったエンジニアがたくさんいる職場だったので、そこに惹かれて入りました。

そこに入った時に、先輩のエンジニアが、すごく大きなデータを自由自在に扱っている姿を見て、非常に感動したのを憶えています。先輩方のようになりたいなと思って、いろいろ教えてもらいました。

今、アジリティテクノロジー部とATL(Advanced Technology Lab)に勤務しています。

ATLでは、どちらかといえばR&D的な取り組みをやっています。量子アニーリングやアニーリングマシンといったハードウェアを使って組合せ最適化を加速するという部分を、ビジネスに応用するためのR&Dを行っています。

三浦泰嗣氏(以下、三浦):三浦泰嗣と申します。前職はSIerでエンジニアをやっていました。2019年にリクルートライフスタイルに転職をして、現在はリクルートに所属しています。

現職は、販促領域データソリューション2ユニットのマリッジ&ファミリー・自動車・旅行データエンジニアリンググループで、3領域またがった組織のエンジニアグループのエンジニアをしています。

山本航平氏(以下、山本):山本航平といいます。2019年に当時あったリクルートテクノロジーズに転職して、今はリクルートにいます。(所属して)3年半ぐらいですかね。

所属は、データ推進室のHRデータエンジニアリンググループです。リクルートのHRのサービスに対して、データ基盤を提供するチームのグループマネージャーをしています。

漠然とした技術的なアイデアが社会実装される瞬間が一番うれしい

神里:それでは、トークテーマの1つ目の、「仕事の動機とモチベーション」をこれから聞いていきたいと思います。

それでは、棚橋さんからお願いできますか?

棚橋:私の場合、ATLにいることもあって、R&D的なテーマを扱うことが多いので、技術発のアイデアがたくさん出てくるのですが、それを実際のビジネスにはめ込むというか、実際に着地させるのは非常に難しいなと思っています。それをできる環境がリクルートの特徴だと思っています。

自分がやりたいと思っていた、漠然とした技術的なアイデアを、実際にビジネスの人たちに話して、「そんな技術があったらいいと思っていた」と喜んでもらえて、それが実際に社会実装される瞬間が、一番うれしい瞬間です。

漆原:とはいえ、ビジネスサイドの人からすると、量子アニーリングとかの話がいきなり来ても、「は?」みたいなことになると思うんですけど。そこのハードルはどうやって乗り越えているんですか?

棚橋:そうですね。なので、できるだけ威嚇しないように、「量子」の言葉をできるだけ使いません。逆に興味を持ってもらうために「量子」の話をする時ももちろんありますが、異質だと思われないように、できるだけ同じ言語で話すようにしています。

漆原:ビジネス側は逆に威嚇してこないんですか(笑)? そこはある意味、あまりハードルもなく、会話がきちんとできる土壌がある?

棚橋:そうですね。

神里:ちなみに、この社会実装していくモチベーションって、大学生の時とかから持っていたんですか? どのぐらいからそういうことを思い始めたのかなと。

棚橋:確かにそうかもしれないです。大学生の時に、高分子の物性の研究をしていたんです。当時は高分子のシミュレーションや理論解析をしていて、学会発表をする時にイントロダクションで、「これがいかに社会の役に立つのか」と書いていたので、自分でもこれが社会の役に立つと思っていたのですが、よく考えたらかなり社会から遠いなと思って(笑)。

(一同笑)

棚橋:リクルートみたいなところに入ったら、もっと社会に近づけるんじゃないかと思って入社しました。それでもやはりまだ遠い。すごく遠いところから近づいていこうとはしているんですが、まだ遠い。いくらやっても、なかなか近づけないというジレンマは、ずっと感じています。

三浦:案件をやっていくのに、勉強会を一緒にやるところから始めて、そこから相手と議論をして案件を作り上げていくというプロセスって、簡単におっしゃっていますが、すごく難しいと思っています。自分から働きかけて、勉強会の企画をするのも難しいですし、その中で議論をして、さらにそこから案件に昇華させるのはすごく難しいなと思って。話を聞いていて、そこはすごいところだなと思っています。

棚橋:ありがとうございます。やはり自分が評価されるKPIに結びつかないものはそこまで優先順位が高くならないので、だんだん自然消滅しちゃう場合が多いと思うんですよね。

でも、そういった中でお互いWin-Winになるところを探りながらうまくやっていく、リクルートの中のいろいろな人を結びつける仕組みができたらおもしろいかなとは思っています。

大学ではできないことが、リクルートの環境だとできる

漆原:いわゆるリサーチャーは、論文も書くし、研究に没頭するじゃないですか。一方で社会実装しようとすると、それと現実世界との距離感がわかった上で泥くさいところも全部やるかたちになると思うのですが、棚橋さんはどっち側の人なんですか? 

棚橋:実は、基礎研究もけっこうやっています。

漆原:両方やられているんですね?

棚橋:はい。量子アニーリング国際会議などで発表したりしています。それはそれで非常に純粋なデータを使ったり、理論など、現実社会とはぜんぜん違う前提で動かしたりするのですが、そういった概念を実際の案件に持ってこようとすると、乗り越えないといけない壁がたくさんあるんですよね。そういうところで、基礎研究で培った概念は、そのまま通じる部分があるかなと思っています。

ただ、闇雲にいろいろなものを試せばいいというわけではなくて、やはりしっかりと未来を見据えて、「こういうふうにやればできるんだ」という全体感を見定めた上で、細かい手探りをしていかないと応用探索もできないんじゃないかなと思っています。

なのでそういう意味では、どちらかだけというよりかは、両方をやっておくと、よりアドバンテージがあるんじゃないかなと思います。

漆原:純粋に大学じゃできないことが、リクルートの環境だとできる。ビジネスサイドもいるしデータもあるし、それを触らせてくれるカルチャーもあるので、普通の研究者じゃできないような成果が出せるのかなと聞いていて思いました。

棚橋:ありがとうございます。

誰も解を知らない領域を暗中模索しながら、正しい方向に向かっていきたい

三浦:私は主に、自然言語処理や画像処理の案件をやっているのですが、ここ10年で、言語処理や画像処理の技術が本当に飛躍的に発展したなと思っています。ディープラーニングが出てきて、かつ、それらを誰でも使えるようなサービスが出てきて、本当に誰でも簡単にディープラーニングを試してサービスインできる時代になってきているのかなと思っています。

一方で、まだまだ大変だなと思うところはいくつかあって、やはりビジネス的にもエンジニアリング的にも難しいところがあります。

ビジネス的には、BERTのようなモデルを使った文章を生成する技術や画像のテイストを変える技術が出てきた時に、「ビジネスにどうつながっていくの?」とか「それがビジネスにつながった時にどれぐらい利益が出てくるの?」というところは、やはりわからないし、予測もしにくい。

今までのビジネスとはぜんぜん違う軸にあって、今までの延長で考えられないから難しいところもありますし、エンジニアリング的にはやはり、ディープラーニングのモデルは動かすだけでものすごくリソースもお金も食うモデルなんですよね。

かつ、それをサービスで使おうと思うと、単純に1回処理を回すのに3秒とかかかる。ユーザーにページを出すのに3秒もかかっていたら、ユーザーはやめちゃうので、リソースとコストを考えたり、レイテンシ、通信速度も考えながらそういったものをどうサービスにつなげていくか考える必要があります。

かつ、1年後も2年後もサービス品質を落とさない、なんなら(品質を)もっと上げていくためにはどういうふうに機械学習のモデルをサービスに組み込んでいくかというところも考えてエンジニアリングしなくちゃいけないので、ビジネス的にもエンジニアリング的にも難しい課題があります。そういったものが混じり合っている領域が、この機械学習のサービスの領域だと思っています。

まだ誰も解を知らない中で、どういう軸、観点から優先度を付けてMLモデルを動かしていくかとか、サービスインしていくところの優先度付けとか。

何をやる、やらないという意思決定をしながら、サービスを作っていく。そこは自分の中でもおもしろいと思うところですし、まだまだ解がない中、暗中模索していく中で、少しずつ正しい方向に向かっていくという試行錯誤が、私のモチベーションとして非常にあるなと思います。

漆原:なるほど。業界では類を見ない、表向きは簡単かもしれないけれど奥が深いみたいなやつを、ズバンと一発目にやりたいというのが一番のモチベーションになるんですか?

三浦:そうですね。近年はそのあたりの領域はMLOpsという言葉で少しずつ表現されてきていて、知見も集まってきてはいるのですが、まだまだ各社が自分たちのMLOpsを考えながら試行錯誤している段階なので、その中で、自分たちもどうやったらいいのかと考えながら、一石を投じていきたいなという思いがあります。

漆原:なるほど。それをきちんと世の中に出せる環境があるから、リクルートがすごくフィットするんですね。

三浦:そうですね。機械学習モデルって、今、最適なモデルを動かしても、データが古くなったり、メンテナンスされないので、どうしても2年後、3年後には腐っていくんですよね。

なので、そういったものを、継続的に腐らせないとか、もっと発展していくための開発をしていく必要があります。

リクルートは自社でサービスを持っていて、それらをデータとして収集する基盤があって、かつ、それらを活用していく案件があるといったところが全部そろっているので、そういった仕事ができるのかなと思います。

世界が目まぐるしく変わっていくスピード感の中で、サービスを考えるのがおもしろい

神里:その熱というかモチベーションは、いつ頃から自覚的にあったんですか?

三浦:もともと言語処理を始めたのは前職なので、機械学習を始めてもう6年ぐらいになりますが、最初に始めた時は、もちろんライブラリはありましたが、自分で機械学習モデルをイチから学習させるという手間があって大変だなと思いながらも楽しかったんです。

それが、本当にここ4、5年ぐらいで様相が変わってきて、Pythonコードを3行書いたら私が今までやっていた学習が一瞬でできるようになったんですよね。そういう、世界が目まぐるしく変わっていくスピード感。

さらにここ1、2年では、Diffusion Modelといって、絵を生成したり、テキストから絵を生成したり、テイストを変えたりするものが出てきました。

漆原:「Stable Diffusion」、トレンドになっていますよね。

三浦:はい。あれがここ1年出ただけで、また機械学習の領域の様相が一気に変わっているので、ものすごいスピード感の中で、それをどうサービスに応用していくかを考えるのは、すごく難しいですがおもしろいです。たぶん誰も絶対的な解を持っていない。

Diffusion Modelを自分のサービスにインするべきなのか否か。インする場合には、どこにどう適用したらいいのかを考えながらやるのは、すごく頭も使うし、誰も解がない中でやるので非常におもしろいなと私は思っています。

達成したい目標に対してうまく進捗している状態にすることが好き

神里:次、山本さん、お願いできますか?

山本:なんでもいいんですけど、物事がうまく回っているのが好きなんですよね(笑)。物事をうまく回すことと、うまく回らない時の課題を解決することの2つを基本的に軸に置いています。

技術的なことで解決できる時は技術で解決しますし、ヒト系のことで解決できたらヒト系のことで解決します。どのHowを選ぶかというところも含めて課題を解決していく。プロジェクトでもなんでもいいのですが、達成したい目標に対してきちんとうまく進捗しているという状態にすることが、好きですね。

なので、モチベーションも、そういうことをやりたい。かつ、難しいほうがいいという発想でやっています。もちろんメンバーもすごく優秀で、優秀な人と働くのは当然おもしろいのですが、そういったところが楽しかったかなと思っています。

漆原:いろいろな困難に出くわすじゃないですか。

山本:はい。

漆原:折れないんですか?

山本:あまり折れたことはないですね。過去にもけっこう大変な目には遭っているんですが、あまり折れていない。基本的に「大変な状況だからこそどうしたら乗り切れるかを考える」という発想でやっています。

神里:前職の頃からそういう感じなんですか? 目的志向で、難しい仕事のほうが燃えるというか。

山本:そうですね。リクルートは3社目なんですが、1社目でそれこそ金融のDBA(DataBase Administrator)をやっていた時に、めちゃくちゃ性能問題が起きていたんですよ。年がら年中アラート鳴っている環境だったんですけど(笑)。そこも楽しかったですね。

SQLの性能・品質が悪いせいでパフォーマンスに問題が出るのであれば、リリースの前に、動いているSQLを全部キャプチャして、性能がわかるような情報を取って、それを全部見て、「必要な改修はこれです」という点を、3日で1,000本ぐらい評価するとか。

(一同笑)

山本:ちょっとすごそうに言いましたが、DBのSQLって全部が全部複雑なわけではないですし、実行計画もすごいのは、1,000行とか2,000行あるんですが、慣れると模様が見えるので、実はあまり難しくなくて。

漆原:じゃあ、実行計画の1,000行を見て模様が見えるようになったら山本さんのところに弟子入りするという。

(一同笑)

山本:1年くらいでたぶんみんな見えるようになります。特に同じシステムをやっているとそうですね。

漆原:すばらしいですね。難しいプロジェクトの推進役として、欠かせない人ですね。

山本:ありがとうございます。

漆原:すごいです。プロマネ(プロジェクトマネージャー)なんですか? プロマネとはちょっと違いますか? 技術もわかってマネジメントもするし、デバッグもしていますみたいな。

山本:そういう感じですかね。私より遥かに実装が早い優秀なエンジニアがいっぱいいたので、手を動かすところはその人たちにやってもらっている感じではありました。

でも、必要であれば自分でもやります。私は一応プロジェクトマネージャー的立ち位置にいますが、「Git」リンクをシュッと送ってきて「これです」と言われることも普通にあります。

漆原:かっこいい(笑)。

山本:でも、別に読めるじゃないですか。なので、もちろんプロジェクトの規模にもよると思うのですが、技術系のプロジェクトのPMは、ガントチャートを引いて、進捗や課題を管理するというだけではなく、そのぐらいはたぶんできなきゃいけないと思います。

何を作っているか、どういう仕様にすべきかを理解しながら、あまりきつく管理せずにお任せして、リスクだけ摘んでおくというかたちでやりましたね。

神里:そんな山本さんでも嫌な仕事はあるんですか?

山本:嫌な仕事ですか? いやぁ……。

神里:今の話を聞いていると、なんでもよさそうな気がしちゃったんですけど。

(一同笑)

神里:「とりあえず炎上していたら山本さんを呼ぶ」くらいな感じでもいいのかなと思ったんですけど。

山本:強いて言うなら、目的がないものですかね。例えば、「よくわからないけど、とりあえずこのシステムを延命してください」とか、そういうのはあまり好きじゃないというか。

目的があまり共感できないというか、なぜそれをやるのかとか、それをやったところで得られるものがないと感じるものに関しては、やろうとは思わないですね。

技術はそのバックグラウンドを含めて理解する

神里:山本さんは技術をどう考えているんですか? 目的志向だと、すごくいろいろなHowが取り得るじゃないですか。

先ほどの組織的なものもあるし、プロセス的なものを改善するというのもあるし、技術は1つのHowって感じていると思うんです。どういうふうに技術を捉えているのか、どういうふうに学んでいくのかをちょっとお聞きしたいなと思いました。

山本:技術そのものは普通に好きです。それこそデータベースは、きちんと理論から勉強しましたし、技術そのものはもちろん好きですね。

構造を捉えるというか、この技術はどういう成り立ちで、何を解決しようとしていて、どういう考え方で作られていて、というバックグラウンドから含めて理解をするのが学ぶ時の基本的な入り方ですかね。

神里:山本さんはおそらくけっこう根っこが大事なんですね。技術に関しても、プロジェクトにしても、目的がなんであるかとか。

山本:そうですね。

神里:裏側は何を解決しようとしているのかとか、その構造が何かというところを突き詰めるところにモチベーションがあるのかなと、今聞いていて感じました。

山本:仮に製品を担いでくるとしても、なんのために作られているかを必ず考えます。そことずれていると基本的にうまくいかなかったり変な挙動をしたりするんですよね(笑)。

そういう経験もけっこうしたので、そういう意味では、今言ったようなところをすごく意識するようにしています。

生き生きと働いているエンジニアの共通点とは?

司会者:対談動画はいかがでしたか? 仕事のモチベーションというのをあらためておうかがいする機会はなかなかないため、それぞれのお話を非常に興味深くおうかがいしました。

それではここから、リクルートの三浦さん、山本さん、神里さんにも参加していただきます。みなさま、よろしくお願いします。

三浦:よろしくお願いします。

山本:よろしくお願いします。

神里:よろしくお願いします。

働く動機とモチベーションというテーマでお話しいただきましたが、関連したお話をお二人に聞いてみたいと思います。

お二人の周りでエンジニアとして生き生きと働いている方にはどういった共通点があるのか教えていただけますか?

三浦:最初に私から。

やはり新しい技術をどんどんキャッチアップして、「例えばこんな技術があったらこんなことができないかな?」とか「こういう技術があって、新しいサービスが作れないかな?」と社内にどんどん情報展開している方が、一緒に働いていて非常に生き生きして見えますし、私も実際働いていておもしろいなと思います。

新しい技術だけではなく、これをサービスにどう活かしていくかと考えることが非常に難しいけれどおもしろいところであると思っていて、そこに興味を持って突き進んでいく人は非常におもしろいな、生き生きと働いているなと思います。

神里:なるほど、ありがとうございます。山本さんからもお願いできますか?

山本:プロジェクトに入って、技術的な課題解決をする。その課題そのもののおもしろさや、そこで使っている技術の採択や実際に実装する部分に楽しみを感じるのも1つあると思います。

あとは、その技術を使ったことによって、最終的にビジネス上のどういう課題が解かれているかを、ある程度解像度高く把握して、そこに対して技術サイドから提案をしていくみたいな、そういうことをやっている人たちは、やはり生き生きしているのかなと思っています。

神里:ありがとうございます。