松谷氏の自己紹介

松谷勲氏(以下、松谷):それでは事例の説明をします。最初に自己紹介をします。松谷勲と申します。私はエレクトリフィケーションシステム モノづくり開発部に所属しています。部署の名前に入っている「エレクトリフィケーション」は「電動化の」という意味で、電動化製品の製造に関する技術や生産ラインの開発をしています。

私は2006年にデンソーに入社をして、新井(新井裕明氏)と同じく生産技術部門にいます。試作の領域に携わり、要素技術開発、量産といったことを経験して、現在は生産システム開発を行っています。

私たちの部署は、あらゆるモビリティを私たちの電動化製品で電動化することによって、世界中の空気をきれいにしていく、きれいな空を保っていくといったことが使命と考えています。モビリティは、自動車だけではなく、例えばトラック、バイク、飛行機などを指します。

あらゆるお客さまにこれらの電動化製品を素早く届けるためには、モノを作る生産ラインを(すばやく)構えることが必要です。また、その生産システムはカーボンニュートラルであることが必要で、私たちはそれに向けて取り組みをしています。

設備やラインがどのようなステップで作られていくか

それでは次に、モノを作る生産ラインをいかに素早く作っていくかという説明をします。今日(の参加者)はモノづくりに精通している方々ばかりではないと聞いているので、簡単に設備やラインがどのようなステップで作られていくかという説明を簡単にします。

設備・ラインは、検討、仕様、製作、立上の4つのフェーズから成り立っています。検討のフェーズでは、まずモノをどういう順番で作っていくか、どんな工法を使って作っていくか。そういったことを考えます。そして次に仕様の段階では、そういった工法をどのようなかたちにして作っていくかを漫画絵のようなものを描いて作っていき、これを設備を作る専門家に渡して詳細な設計図を作ってもらいます。

しかし、その詳細な設計図を作ってもらうには自分の意図を伝える必要があって、そこで意思疎通がうまくできず手戻りが発生したりします。

次に設備を作る段階では部品を作って、それを組み立てて設備にしていきますが、実際にできたものを見てみるとやはり使い勝手が悪いなどの問題が起こり、また手戻りが発生します。

このように単体の設備ができたら、それをたくさん並べて生産ラインとして成り立たせますが、そこでもやはり調整には人がたくさん必要です。

この時間を長くしている手戻りのところを、私たちはサイバーを使ってなくすことで、一気に速さを実現するということを考えています。

各フェーズに対する工夫

次からは、検討、仕様、製作、立上のフェーズそれぞれに対してやっている工夫について具体的に説明していきます。

まずは検討、仕様のフェーズです。私たちはインバーターという製品を何年も作っています。そこで使っている設備のデータを(たくさん)持っていて、今はその設備をバラして機能ごとにカタログとして整理しています。

このようなことができると、「設備を作る、仕様を考える段階で、どんなロボットがいるのかな」「どんな土台がいるのか」「どういったコンベアが必要で、どんなハンドが必要か」。こういったものを選んでいくだけ、まさにレゴブロックを組み立てるようなイメージで、精緻な図面ができあがあります。このような方法で手戻りをなくします。

次に、先ほどできたモデルを、サイバー空間上で、実際に自分たちの手で動かします。何がうれしいかと言うと、サイバー空間上であらゆるプログラムを作ることができるので、設備がなくても作れます。こういったことで一気に時間を短縮できます。

(スライドを示して)また、例えば今のようにロボットとロボットがすごく近接している状態を、実際の設備でやると当たって壊れてしまうので、すごく気遣いが必要だったり時間がかかったりします。そういったこともサイバー空間上だと避けられるので、一気に速くなります。

どうやってラインをやっていくのか

ここまで設備の話をしましたが、どうやってラインをやっていくのかを1つの動画にまとめています。

先ほど説明した、レゴブロックのような設備をサイバー空間上にどんどん並べていきます。その中にサイバー空間上に同じく作った制御プログラムとか、その他の材料をどんどん置いていくと、実際に動くラインがサイバー空間上に完成します。

こうしてできた生産ラインを必要な量だけ並べます。さらにそこに必要な付帯装置や機器を並べることによって工場全体がサイバー上で出来上がり、実際にどのように動くかがわかります。例えば滞留しているところとか、改善すべきポイントを洗い出して作る前から完成度を上げます。

さらに使い勝手や安全面とか、こだわりの(ある)工程に関しては、実際にサイバー空間の中に自分たちがダイブして、その中でチェックします。(画面を示して)左の小さい動画で行っているのは、パントマイムをやっているわけではなくて、実際にこの空間の中に入って2人でディスカッションをしています。このように、実際のモデルを自分たちの目の前に表現させて調べることによって、人間の知恵とかこだわりを入れていきます。

この作業自体は、ヘッドセットとデジタルデータさえあれば世界中のどこででもインターネットの回線があればできます。世界中の仲間とこうした作業を繰り返して、速さとともに品質を高めています。

ここまでできたら実際にモノを流して、どのぐらいのスピードでやればいいか、どういったところで滞留しているかのポイントを洗い出します。

また、ライン全体の動画を撮って状況を同時に確認することができるので、さらに速さを求めていくことができます。このように、サイバー空間を使うことで一気に生産準備の時間を短くして、速さを求めています。

カーボンニュートラルを実現するための2つの手段

次に、カーボンニュートラルの話をします。製造業のカーボンニュートラルと言うと、省エネ活動をイメージする方が多いと思います。それもとても重要ですが今回はそれにデジタルを掛け合わせることで「将来こういったモノづくりができないか」といったところを説明します。

今、私たちは系統電力に加えて太陽光とか風力などのエネルギーを使って工場を運営しています。しかし、少し先の将来を考えると、BCP(Business Continuity Plan)の観点や、より環境に優しいモノづくりをするために自分たちで作った自然エネルギーだけで工場を動かしたい。そういった世界もあると思っています。

しかし、それを今の技術だけでやり切ると、たくさんのインフラ投資が必要で、到底実現することはできません。

私たちはこういったエネルギーをうまく、賢く使うことで、このような姿を実現したいと考えています。そのための手段について2つ説明します。

私たちは、実際に動いている工場のデータをリアルタイムに取っています。例えば設備の動きや、その時に使っている電力も、今この瞬間もリアルタイムに(データを)取り続けています。

このデータを分析することで、例えば今は設備がずっと動いているので消費エネルギーはグッと高くなっていることが分かります。高くなったエネルギーに対して自然エネルギーで補おうとすると、その分の自然エネルギーに対する投資が必要となります。

もしうまく(消費エネルギーを)分散させることができれば必要なインフラ投資も低くなり、先ほど描いたような世界が実現できると思っています。こういったことは、絵に描くととても単純なんですけれど、どの設備を、どんなタイミングで、どれだけズラせばいいのか。それらをいろいろな種類に対して計算する必要があって、これは到底人間の力ではできません。こういったところにデジタル技術やAI技術を使って、実現を目指していきます。

また、先ほどお話しした動きと消費電力を紐づけて私たちは(データを)入手し続けています。(それを使えば、)製品を作る前に、ラインを作る前からどれだけCO2が発生するかも計算できます。また、そのラインを動かす一つひとつの設備のシミュレーションもできるし、その設備の動作を決める製品側もつながっています。

こういったところをつなぐことで、設計段階から、そして製品を初めて作る前から、CO2を1gも出さないモノづくりを目指し技術を開発しています。

最後にまとめです。今日はサイバー空間の話をたくさんしましたが、サイバー空間は私たち技術者にとって、自分たちだけの新しい実験場です。自分たちの新しい発想、自分たちの想いをこの空間でどんどん試して、世界を変えていきたいと思っています。デジタル技術はそのためのツールです。みなさんで一緒に使って、良いモノづくりをしていきましょう。

私からの発表は以上になります。それでは新井から事例2を紹介します。

「何でも作れる生産システム」を実現したライン

新井裕明氏(以下、新井):私からはメカトロニクスシステム製造部の事例を紹介します。当製造部は車両システムの基本機能の走る、曲がる、止まるの価値を高めるいろいろな製品群を生産しています。先ほども言ったように、モビリティの大変革という中で、我々も環境、安心、社会という軸に沿って多種多様な製品を開発しています。

一方で、EVのように新しいビジネスになってくると、この先何がどれだけ売れるかが読みにくいという不確実な時代になってきます。そのような中で我々は、何でも作れる生産システムで(それを)解決していこうと考えています。

どういうことかというと、多種多様な製品のかたちは違っても、工程の要素は同じということです。つまり、工程を並べ替えれば何でも生産可能だと考えています。これを実現するためには要素ユニットの標準化・モジュール化と、移動を前提としたユニット設計が必要になってきます。

(スライドを示して)それを実現したのがこちらのラインになります。このラインはロボットによる全自動組み立てを実施しています。そしてユニットの幅、奥行、インターフェイスを統一し、持ち上げて運べる仕様としています。設備を運ぶためには、右に出ている自動搬送車が下から入っていって持ち上げることで、設備同士を切り離します。こうすることで、自動で持っていくことができます。

また、移動によって生じる位置ズレに対しては、ロボットの持っているカメラで基準となるマークを読み取ることで、自動で補正をかけて精度よく組み付けができるようになります。

このようなラインを、先ほどの話のように工程設計、検証プロセスをデジタル化して取り組んできています。一方で、最後に出てくる結果の裏には膨大な作業が存在することもわかってきています。

「Omniverse」でできること

そこで私たちは「Omniverse」というプラットフォームを入れることで、複数の人たちがいろんなツールをリアルタイムに使いながら連携することを可能としてきています。

ここに現実世界のデータのロボット動作のバラツキや表面の質感などをデジタル上に反映してあげるとともに、デジタルで再現しきれない部分については現実世界での補正も組み合わせて、デジタル上の設計を現実で簡単に動作させる世界を目指しています。

Omniverseでできることの1つは、写真のようにきれいなビジュアルで見ることができるということです。3D CAD(Computer Aided Design)でできるように、デジタル上でモノの配置を変えたり、色を変えたり、それから部品をどかして設備の中を見に行くことも当然できるようになってきます。

またスキャナという特殊な装置を使うことによって、モノの表面の質感を読み取ってデータ化できます。これをOmniverseの世界に反映することで、CADでは作り上げられないような質感まで再現できます。また、Omniverseのもう1つの特徴であるプラットフォームを使って、いろいろなツールをリアルタイムに連携させることをやってきています。

生産におけるデジタル活用

次に、生産におけるデジタル活用について説明します。(スライドを示して)現実の工場で、いろいろな状態をセンシングしてデータで上げた後に、左にあるようにシミュレーションして、生産指示の最適化などを行って、現実の工場にフィードバックをかけていきます。

また、右にあるように、生産中の異常については設備を遠隔で操作したり、遠隔で異常処置をすることで、自動で生産を続けていくような姿を作っていきます。本日は生産状態の可視化、設備の遠隔操作、遠隔の異常処置について紹介します。

まず可視化についてはロボット動作は先ほどあったように、シミュレーション動作を実機の動作に反映していく。また、今度は実機で動いた実際の動作を基に、サイバー上で再現できてきています。このようなことを行うことで、データだけではなくて、目で見て動きがわかってくるという世界ができてきます。

また設備を操作する時には、これまでは直接設備の前に行かなければいけませんでしたが、左にあるようにZenonというシステムを介することで、スマホから設備を連動させることが可能です。また右は人やモノの位置情報とシステムを連携する「KINEXON」というシステムを使うことで、人が監視エリアに入ってくると設備を制御する仕組みができています。

また、落下品など、実際にモノを処置しなければいけない時が現場では起こります。

このような時はロボットが現場に行ってモノをつかむ。これを人の手の動きをロボット動作に変換することによって、直感的な操作でロボットを動かすことを実現しています。

若手技術者の声

最後に若手技術者の声を紹介します。

(動画再生開始)

中川晴貴氏:2020年度入社の中川晴貴です。人を超える組み付きロボットの技術開発を行っています。人が簡単に行っている動作をロボットに置き換えると想像以上に複雑な点に難しさを感じています。一方で、自分の開発した技術が実際の生産で使用されることにやりがいを感じています。新規事業に臆せず楽しみながら取り組めるような人と一緒に仕事がしたいです。

榎本孝太氏:2018年度入社の榎本です。私は新領域生産システムを制御するソフトウェアの開発をしています。専門家も頭を抱えるシステム開発は非常に難しいですが、自分の考えたとおりにシステムが動作するのを見ると、達成感を覚えます。今後は自分の知識を活かした生産設備とITが融和したシステム開発をしていきたいです。

(動画再生終了)

新井:私からの話は以上です。大きな夢に向かって一緒に挑戦していける仲間を求めています。やりたいという人はぜひ手を挙げてくれるとうれしいです。ありがとうございました。