杉浦氏の自己紹介

杉浦大貴氏(以下、杉浦):よろしくお願いします。プロダクト管理ツールの失敗・成功というテーマで、自分がやらかしたものを思い出して、それに対してどういうことをしてきたのかという(ことで)、「賞味期限切れのバックログに慈悲はない!」というテーマでお話させていただきます。

圧倒的に長いタイトルになってしまいました。そして菊池さん(菊池信太朗氏)と(内容が)被っているところがあったのでドキドキしています。(セッションの内容は)PO、PM視点がちょっと強いかなと思いながらやっていきます。

簡単に自己紹介します。杉浦大貴と言います。もともと上場企業の経理をやっていたんですが、マネーフォワードに転職して、「マネーフォワード クラウド会計Plus」を作るタイミングで京都に移住して開発をやっていました。

(スライドを示して)それから縁あって、これはtoCのアプリなんですが、KOHIIのPMをしたり、カフェの店舗作りみたいなところにも関わらせてもらっています。Kurasuというお店はすでに京都に店舗があるので、ぜひみなさん行ってもらえるとうれしいなと思います。

古いバックログが溜まった経緯

「バックログと食材は似ていると思いませんか?」ということで、“賞味期限切れのバックログ”と言っているんだから似てほしいんですけど。

「例えばもしこんなレストランがあったら」ということで、「私のレストランには数千を超える食材が用意してあるんです」と(レストランから言われたとします)。ただ、これを言われても、店の雰囲気とか実際に食事がおいしいのかとか、そっちのほうが気になると思うんですよね。

食材がたくさんあると聞いても「どうしよう」と思うと思います。実際にググってみたんですが、やはりこういう(ことを言っている)レストランはなかったんですよね。

これってプロダクト開発も同じだなと思っています。価値は届いて初めて意味がある。課題解決して初めて意味があるものだと思っています。なので管理に管理を重ねてもしょうがないと思ったりもするんですが……。

(私は)メチャクチャやらかしていました。アイデアをどんどん保存していました。

時間がないのもあって、メンテナンスを後回しにしたりして、その結果ぜんぜん見ないし、詳細化もしないし、管理が形骸化したバックログがどんどん溜まっていったんですよね。

セパレーターを置いたりしても良くならない

「これはいかんぞ」と思い、わかりやすくしようと思って、まず私はこんなことをしました。Jiraのスプリントに「〇〇のEpic」みたいな感じでEpic用の箱を作ったり。「どこに何があるかよくわからないな」と思ったので、課題タイプに「セパレーター」を作ってセパレーターを置いたりしたんですけれど、ぜんぜん見通しが良くならないんですよね。

当たり前なんですよ。そもそも数が多いのでぜんぜん見通しなんて良くならないし、チームから見ても「プロダクトでこれは何をやりたいんだろう」みたいな状態になってしまいました。

「賞味期限切れのバックログに慈悲はない」活動の開始

それで始めたのが「賞味期限切れのバックログに慈悲はない」という活動です。これは自分に言い聞かせるように書いたんですが、「バックログが多くてわけがわからない」と思ったら、(当時は)捨てたくない気持ちも自分自身すごくあったんですけど、「捨てよう」と。「とにかく捨てよう」という活動です。私はSlackの絵文字をすぐ作ることで社内やチームで有名なんですが、これ(に関するスタンプ)もすぐに作りました(笑)。

無慈悲に消す3つのもの

「何を消すんですか?」というところなんですが、まずはずっと残っているものだったり、ディスカバリーのプロセスで扱うべきものをプロダクトバックログから消していきました。あとは優先順位の低いものも捨てていきました。

1個ずつ見ていきます。1つ目の「古いものを消す」はすごく簡単です。私の場合、まずはバックログが作成されてから半年以上経っているものを消しました。Jiraの高度な検索から検索条件を入れて、エクスポートでバックアップだけ取っておいて、一括削除(する)というかたちでやっています。

次に「ディスカバリーのプロセスで扱う」というところです。これは(ディスカバリーのプロセスを)どう捉えているかになるんですが、まずはプロダクトでどんなユーザーの体験を提供したいか、それがEpic単位になるとどんな体験になるか、(その体験の一つひとつのユーザーの動きが)ユーザーストーリーにまで落とし込まれていく。Jeff Pattonの『ユーザーストーリーマッピング』などを参考にしています。

スクラムのプロダクトバックログに入れるのは、スプリント内で完結する小さいものでないと扱いにくかったり。Epicはけっこう長いスパンでディスカバリーのプロセスをやっていくので、「(Jira内での扱いは)どうしよう」となっていきました。

(スライドを示して)これはざっくりのプロセスですが、この中で前半部分ですね。ディスカバリーが強いところはMiroでやったり、ProductBoardで管理していたりします。

後半部分ですね。こちらがJiraでプロダクトバックログの管理をしています。「これをするとスクラムのチームがユーザーに興味がなくなっちゃうんじゃないか」という懸念もあると思うんですけど。

プロダクトトリオというかたちで対応しています。

Teresa Torresが書いた『CONTINUOUS DISCOVERY HABITS』という本で紹介されていますが、「プロダクトマネージャーとデザイナーとエンジニアが一緒に活動して価値あるものを探していこう」という活動ですね。ここにエンジニアも参加しているので、自然と情報が回るようになっています。人数が増えてきて大変になることはあるんですが、こんなかたちでやっています。

あとは優先順位の低いものですね。ここに関しては、その前に「POが優先順位を決める権限を持っていますか?」というのは気になりますね。その場合、まずステークホルダーと話し合わなきゃいけないと思って書いています。

「決められるよ」となったら、次にこれを考えなきゃいけないなというところで(このスライドを)持ってきました。「誰のどんな課題を解決するのか」というところですね。(スライドを示して)書籍をいろいろ読んで、(読んだ中で見つけたこの内容が自分の)好きな定義なのでこのまま引用したんですけど。

これはMelissa Perriの『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』の最初に書いてあるものです。お客さんのどんな課題を解決して価値を届けるのか。「それをどうビジネスにしているんだっけ」というところで。こういうことをプロダクトオーナーやプロダクトマネージャーは理解しないといけないなと思っています。

バックログの活動でも、これに答えられなかったら「ちょっと今、なぁなぁにやっちゃっているな」ということに気づけるので、そういう機会にも使っています。

「本当に消して大丈夫?」というところなんですが、バックログの備蓄は2から4スプリントあれば回るのと、あとは捨てたものでも大事だったらまた帰ってくるので、まずは1回捨てて認知負荷を下げて、今やるべきことに集中しようと思ってやっています。

先ほどコメントでもあったと思いますが、バックアップも取れるので、心配せずにまずは1回消しちゃおうということを私も思ってやっています。

「賞味期限切れのバックログに慈悲はない」活動は定期的、かつみんなで実践するもの

あとは定期的にやろうというところで、まさに先ほど(話した)絵文字を使っていますが、私以外もけっこう使ってくれていてうれしいです。

チームのスタンプを見返していたら3ヶ月に1回ぐらいやっていました。スクラムマスターやエンジニアから提案があったり、そんなかたちでやっていますね。

この活動もちょっとおもしろい名前を付けたことで、チームのみんなもおもしろがってやってくれるような感じ(になったの)で、すごく良かったなと思っています。(これからも定期的に)捨てられると思います。

あとはバックログはみんなのものでもあるので、きれいに保つということはみんなでやる活動だと思っています。これからどんなものを作るのか、そこにワクワクすることはみんなでやることなので。

わからなかったらふりかえりでも話すべきだし、ユーザーに価値が届くのってすごくおもしろい活動だと思うので、みんなでやっていけるといいなと思っています。

賞味期限切れのバックログに慈悲はない!

最後にまとめですね。アンチパターンらしく持ってきました。古いバックログ問題というところで、主な原因はPOが権限を持っていなかったり、アイデアを取っておきたかったり、整理が面倒くさかったり。

症状的にはバックログがすごく大きくなっちゃいます。重症化するとプロダクトの方向性がわからなくなったり、見通しが悪化したり、価値を届けるスピードが低下したりする。

対策としてバックログを消す。「賞味期限切れのバックログに慈悲はない!」ということですね。

(スライドを示して)参考文献や資料はこんなかたちでいろいろと参考にしました。PM Schoolにも「(プロダクトの価値に関する)内容があっていいな」と思って見ていたので、参考資料として入れました。

というところで、私の発表は以上です。ありがとうございました。