恐れずにシリコンバレーにチャレンジしてほしい

猪塚武氏(以下、猪塚):最後の質問です。やはり日本人にはシリコンバレーのエンジニアを目指してほしいなと思っている中で、こんなに大変なのを見てそれでも目指していいのかと。質問としては、世界で働くために何を学べばよいのかというあたりを最後にお話しいただけたらなと思います。いかがでしょうか?

酒井潤氏(以下、酒井):目指していいのかというところでいうと、ぜんぜん良いと思います。私の会社でもレイオフがありましたが、レイオフの瞬間に一気にシリコンバレーのリクルーターに連絡がいくんですよね。私もリクルーターから1日に40件ぐらい毎日毎日連絡が来ました。

今だと地方のほうとか、例えばシリコンバレーじゃないL.A. にしろなんにしろ、他の場所での採用も伸びているところがあるのですよ。なので、解雇にあったからエンジニアがいなくなるという話ではなくて、もうちょっと他に散らばったり給料を下げたりという感じなので、まだまだぐんぐん伸びるのかなというところはあります。要はまだ技術革新ができないので、ぜんぜん狙って良いと思います。

あとは、今日解雇のお話をしたので、解雇がちょっと怖いというイメージをお持ちになった方もいらっしゃると思いますが、例えばアメリカで3年ぐらい働けたら、解雇されたとしても日本に戻れば、どこの企業というわけでもありませんが、採用されると思うんですよ。アメリカの会社で働いていましたというキャリアを利用すれば、最悪日本のどこかの企業が雇ってくれると思うので、ぜんぜんアメリカに挑戦したほうがいいんじゃないのかなぁと思います。

私も解雇の話があって、1週間ちょっとで次のオファーが来て決まりました。それもラッキーだったのかもしれませんが、こちらでは人生に1度は誰でも解雇されると言われるぐらいだし、シリコンバレーでもぜんぜんまだまだエンジニアも募集していますし、LinkedInの求人を見ればみなさんわかると思いますが、たくさん求人があるので、恐れずにぜひチャレンジしていただきたいなと思います。まぁそんな感じでしょうかね。

猪塚:何を学べばいいかというあたりをいかがでしょうか?

酒井:何を学べば良いかというのは、すごく難しくて悩まれる方が多いと思うんですよね。英語以外の技術でやるんだったら、シリコンバレーのトップのGoogle、Facebook、Amazon、Appleとかが採用している技術を使うのが一番いいのかなと思います。

これはよく話すのですが、Rubyの開発者が日本の方なので、日本ではRubyがすごいはやっているのですが、GAFAと言われる企業でRubyがメインで使われているかというと、そうではないですよね。なので、技術の選択をする時には、シリコンバレーの大きな企業が使っている技術を学んでおくといい気がします。

結局、他のヨーロッパにしろ何にしろ、Googleが使っているから、Metaが使っているからといって、プログラミング言語にしろ技術にしろ、どんどんどんどん周りに反映していくんですよね。ChatGPTが出てきて、ChatGPTでPythonが使われているとかであれば、Pythonを使う企業が増えるのも、シリコンバレーからバッと広がると思います。

日本だけで生きていくのであれば日本の技術でもぜんぜんいいですが、世界に飛び出したい、世界で働きたいのであれば、やはり世界のトップが使っている技術選定をしていくのがいいんじゃないのかなと思いますけどね。

猪塚:なるほど、ありがとうございます。

何を学べば良いのかは求人広告を見るのが一番早い

猪塚:では、中屋敷さんはどうでしょうか。

中屋敷量貴氏(以下、中屋敷):まさに酒井さんがおっしゃったとおり、(シリコンバレーを)目指して良いかというところでいうと、個人の思想なので目指して良いと思います。何を学べば良いかというところは、自分も求人広告を見るのが一番早いなと思っています。

英語力も必要かもしれませんが、その会社が求めるものは基本的にJob Descriptionに書かれているので、それを満たせれば一応向こうが求めているものにはフィットするわけです。ただ就職という観点だけで言うのであれば、それで良いんじゃないかなと。

Distributeなチームも多いので、リモートでもOKというところはあるような気もします。調べてみたら選択肢は意外と多いと思います。

猪塚:求人広告はどこを見るのが一番楽ですかね? 全部まとまっているところはない?

中屋敷:それこそ「LinkedIn」もそうですし、「Glassdoor」とか「Indeed」とか。実際にこっちできちんと使ったことはないんですけど……そのあたりは酒井さんどうですか?

酒井:LinkedInでまず把握するだけで良いと思います。日本の求人広告は、詳しく技術について書いていないんですよね。35歳以下でPHPができる人みたいな感じでしか書いていないのですが、アメリカの求人は、Pythonができて、Djangoのフレームワークができてとか、細かな指定が書いてある企業もけっこうあるんですよ。なのでアメリカの求人情報を見るといいと思います。

今量貴さんがGlassdoorの話をしましたが、Glassdoorだと例えばWeb3.0のエンジニアがどれだけ求められているのかという統計もグラフで出ているんですよ。そういったところも見られるので、Glassdoor、LinkedInを見るのが良いんじゃないのかなと思っています。

猪塚:はい、ありがとうございます。

まず来てみて英語と文化に馴染みまくって、合うかどうか判断してから考える

猪塚:最後に、トリになりますけれども河根さん。よろしくお願いします。

河根氏(以下、河根):まずその前に、量貴さんはそもそもなぜこっちに来られたんですか? 他の人の参考になるかなと思って。

中屋敷:自分の場合、世界で使われるものが作りたいなという思いがもともとありました。20歳の時に硬膜化血腫になり左半身が痺れて死にかけたことがあって。その時以来、自分が学んだことや経験をどこかに残すことで、死んだ後も役に立つというのはどうやったらできるかな? とずっと考えていました。

そんな世界を作りたいなと思った時に、どうせなら世界中の多くの人に使ってもらいたいなと思いました。選択肢はどこだろうと考えた時にシリコンバレーかなっていう。そのあたりが背景になっています。とりあえず取り組んでいるところがあって。

河根:なるほど、すごい。そういう経験がないと来られないというわけでもないのでしょうが、それで一番苦労したところ、技術的なこと以外で学んだことや苦労したことはなんですか。

中屋敷:いまだに苦労しているんですけど、英語と文化の理解はけっこう難しいなと思っています。触れちゃいけない、聞いちゃいけないこととかもけっこうあるじゃないですか。年齢をすぐ聞いちゃうとか、けっこう日本だとあると思いますが、こっちだと基本的に聞かないとか、そういうところがあったり。働くという前に、文化に馴染んでいくのにやはり時間がかかるなと思ったりはしました。

河根:なるほど。世界のプロダクトを作るという気概と、英語と文化はたぶん来て慣れなければ意味がないのでとりあえず来るという。来てみて英語と文化に馴染みまくって、合うかどうか判断してから考えるのがよさそうですよね。今の量貴さんの例でそのままアドバイスっぽくまとめると、そんな感じですよね。

僕はエンジニアではないので、どういう言語を学べば良いかとかはないのですが、たまにこういう質問になった時に言うのは、「日本のために」と考えて来るのは日本人ぐらいだと思うんですよ。

インドの人はこっちにいっぱいいて成功していますが、インドのためにシリコンバレーに来てはいません。僕もどっちかというと、技術が好きだし天気も良かったし、こっちの仕事のほうがこの業界は楽しそうなので、マッキンゼーにいて技術系のコンサルするよりも、技術系の会社にいたほうが楽しいだろうと思って入ったのもあるので、そういう気概や志は大事だけど、「日本のために」まで気負いをせずに、とりあえず来てみて、英語と文化に慣れて、LinkedInを見て必要な言語を習得して、自分でなにかやってみるのが良さそうですね。

猪塚:ありがとうございます。

最短でシリコンバレーで活躍できるエンジニアになるには?

猪塚:今日は実は会場に10人ぐらいいるので、ちょっとだけ延長してよろしいですか。質問がある方はいらっしゃいますか。

質問者1:私は今、シリコンバレーのHRにちょっと興味があるのですが、まだ現時点では何も勉強していない状況で、残り大学生活1年を今後どうしていこうかすごく悩んでいます。

何も持っていない人間が、最短でシリコンバレーでエンジニアとして活躍していくためのステップとして、なにか「こういうのいいんじゃないのかな」というものがあれば、少し教えていただけるとうれしいです。

酒井:私からいきましょうか。私も大学の頃はずっとサッカーをやっていて、大学は神学部という神の学部でキリスト教でした。ほとんど就職できないみたいな、偏差値五十何ぐらいだったんですけど、下調べすればそこからシリコンバレーも意外と行けるんですよ。その頃はTOEICも300点とかでぜんぜん英語もできなかったのですが、最短で行くにはまずH-1Bという就労ビザの条件を調べたほうがいいと思います。

H-1Bの就労条件は、TOEICの点が何点以上というのもないんですよ。今大学を出たとして、情報系じゃなかったら大学院に行って情報系に行ったほうがH-1Bを取りやすいとか、職歴が2年あったほうが行きやすいとか、いろいろな条件があるんですね。アメリカに行くには本当にビザが重要なので、ビザの条件をまず調べてから自分の進路を決めたほうがいいです。

例えば日本の場合、H-1Bはエンジニアには出やすかったりするんですよ。タクさんはマッキンゼーにいたのでプロジェクトマネージャーとかでも来られたのですが、ほとんどの方はエンジニアとしてアメリカに来るんですね。なので、エンジニアとして日本で職歴を踏んでいたほうが、こっちに来やすいです。

日本はコンサルやITコンサルといった人のほうがお給料が高いので、優秀な人はけっこうそっちにいっちゃうんですよ。でも地方でエンジニアとして就職した人のほうが、H-1Bの条件を満たしやすいので、東京ですごいITコンサルをやっている人よりも可能性が高くなるということはぜんぜんあります。なので、H-1Bの就労ビザをまずは調べて進路を決めていくのが、最短なのかなと思いますね。

質問者1:ありがとうございます。

猪塚:すばらしい。

質問者1:中屋敷さんもなにかあればお願いします。

中屋敷:そうですね。自分もかなり賛成な部分なのですが、最短でとなると、やはりこっちに繋がりを作っていくことが大事だと思います。例えば小さなスタートアップだったら、採用する人はファウンダーだったりするし、メンバーが数十人とかだったらマネージャーの人もだいたいわかるので、その人にコンタクトポイントを作って、いかにそのプロダクトが好きかとか、プロジェクトが好きかと伝え続けていると、「なんかこいつおもしろいな」となって「来るか?」となる可能性はあるかもしれないですね。

その時には、もちろんH-1Bの条件を満たしておかないと駄目ですが、結局拾ってもらえる先が必要です。一点突破するのか、GAFAみたいなところに対してとりあえずいっぱい数を撃ってどこか当たるところに行くのか、どっちが早いかはわからないですけど。

質問者1:ありがとうございます。

猪塚:パネリストのみなさん、今日は本当にどうもありがとうございました。たぶんこれを見た方が何人か「よし行くぞ」ということで、みなさんに会いに行くと思います。ぜひその時はよろしくお願いします。

拍手してもしょうがないですが、会場のみなさん、パネリストのみなさんに拍手をお願いします。

酒井:ああ、どうも。

河根:ありがとうございました。

中屋敷:ありがとうございます。

猪塚:またシリコンバレーでお会いしましょう。パーティーやりまーす。では。

河根:こっちに来る時は、日本からのお土産を持って来てください(笑)。

猪塚:もちろん持って行きます。

河根:ありがとうございました。

中屋敷:ありがとうございます。

酒井:ありがとうございます。