株式会社Fablicで体験したエンジニア組織の“成長痛”

山元亮典氏(以下、山元):それで結局、Fablicさんには何年ぐらい携わっていたのでしょうか?

堀井雄太氏(以下、堀井):7年から8年ぐらいです。最終的にその会社は楽天さんにM&Aされて、サービス名も「フリル」から「楽天ラクマ」になりました。今ももちろんあります。2018年の後半ぐらいまで、8年くらいプロダクトの開発と組織のマネジメントあたりを中心にやっていたかたちです。

山元:その時、エンジニア組織に変化はありましたか?

堀井:私ともう1人で開発を始めて、最終的にはエンジニアだけで3、40人になりました。会社でいうと100人ぐらいの規模になっていたので、会社がゼロからどんどん大きくなっていくステージの良いところも悪いところも経験したと思います。フリマアプリは事業の成長が非常に速かったので、急激に成長する組織の“成長痛”みたいなところは苦労しながらやっていたことは覚えていますね。

山元:なるほど。具体的にどういったところで“成長痛”を感じたのでしょうか?

堀井:端的に言うと、サービスの成長が組織の成長を上回っていたので、開発ができるデベロッパーの人数が足りないことがありました。スケールするサービスを支える事業組織構造にしていかなければならないと思ったのですが、最初はやはり私自身もよくわかっていませんでした。なので、組織を事業にフィットさせることも、そんなにうまくできなかったと思っています。

山元:なるほど。「当時はわかっていなかった」と言っていましたが、その時にもし戻れるとしたら、選択肢などはやはり変わりそうですか?

堀井:そうですね。採用の方針策定や、その方針に沿った採用チャネル作りの文脈を、もっと早期にしていたと思います。私自身、現場でコードを書くことをスケールしている過程でもやっていました。そのような自分のCTOとしての振る舞いが正しかったのかは、今振り返っても思うところはあります。

権限を委譲して、スケールする組織構造に変えて、もっと自分が必要とされているロールを見極める。採用なら採用に集中する。組織を大きくすることのメリハリをつけながら振る舞えていたほうが良かったのではないかと思ったりはしますね。

山元:なるほど。ありがとうございます。でも、そういった経験が今に活きていると言っても過言ではないかたちなんですかね。

堀井:そうですね。スマートバンクという会社は2回目の起業チャレンジになるので、同じ過ちを繰り返さないように意識しています。もちろん、やっている事業やユーザーさんが抱えている課題などはぜんぜん違うので、また違った山の登り方をしているのですが。

最初から力を入れて採用をやることや、組織の変化の兆しをちゃんとつかんで組織構造と事業を伸ばしていくところにアラインさせていく。今はそういったことを意識して臨んでいます。

山元:なるほど。ありがとうございます。

再び創業に取り組もうと思った理由

山元:(堀井さんのキャリアは)Fablicさんが楽天さんにM&Aされて、その後が現職で間違いないですね?

堀井:半年ぐらい休んだ期間がありましたが(笑)。起業して突っ走ってやってきたので、ちょっとぐらい休もうと。辞めた後も、創業した3人でまた会社をやることは決まっていたので、半年ほど休んでその後で起業したかたちですね。

ただ休んでいたというより、次の事業をまたゼロからやっていくにあたって、どのようなビジネスを次にしようかと考えていました。僕自身、コードを書かない期間がかなりあったので、エンジニアに戻った時にプロダクトの設計ができるのかなと思いました(笑)。

ブランクを埋めるためにも、開発の勘を取り戻さないといけませんでした。3人それぞれ個人開発でプロダクトを作ったりを半年間していましたね

山元:「おもしろそうだな」と聞きながら思っていました。M&Aというゴールは達成できて、次までの期間は1つのことに集中していたと思うのですが、再び挑戦したいと思ったのには、何か気持ちとかがあったのでしょうか?

堀井:そうですね。起業してゼロからプロダクトを作ることがもともとものすごく好きなのです。良いプロダクトを作って、それを通じて、少しでも世の中や社会に貢献したいと思っています。(過去に)自分の書いたプロダクトに良いフィードバックをもらったことがうれしかったのもあるんですけど。

そういった考えが根源的にはあるので、「2回目はより大きなスケールでもう一度同じような体験ができるのではないか」と思ってトライしてみたというのが(背景としては)大きいですかね。

あとはやはり悔しさ。日本で初めてフリマアプリを作ったわけですが、スケールに苦しんだりして、上場というゴールは達成できませんでした。その悔しさは1つあると思いますね。

山元:なるほど。ありがとうございます。

どのようにプロダクトやサービスを決めるのか?

山元:エンジニアの中にも「仲間何人かと起業してみたい」という人も多いと思っています。どういったプロダクト、サービスを作るかも(堀井さん自身も)すごく悩んだと思いますが、そのあたりはどのように決めたのでしょうか? もちろん言える範囲でいいんですが、(何か)あったりするんですか?

堀井:すごく良い質問をいただいたなと(今)思っています。どのようなプロダクトを作るかは創業者のやり方によってぜんぜん違うと思います。私たちがよくやっているのは、本当にユーザーさんの課題を解決することを目指したプロダクトを作ることです。

だからtoCのプロダクト作りを今までずっとしてきたという感じです。マーケットから逆算してプロダクトが伸びていくと考えはしますが、現実的にはユーザーさんのどういった課題を解決するのかに着目してプロダクトを作ることが多いですね。

山元:では、一応マーケットは気にするものの、どちらかというとユーザーにフォーカスして考えているところが大きいんですかね。

堀井:そうですね。ちょっと遡りますが、やはり(昔から)プロダクト作りやものづくりは好きだったので、新卒で入った会社に勤めるかたわら、週末には起業するメンバーで個人開発をしていました。

そこで3、4つぐらいサービスを作ったのですが、ぜんぜん使ってもらえなくて(笑)。「こんなに良いものができた」と思っていたんですが。

裏を返すと、「ユーザーさんのどのような課題を解決するプロダクトなのか」という定義が曖昧でした。「そのプロダクトを通して課題解決ができなかったから使われなかったんだ」というインサイトを、当時やりながら感じることがありました。逆に、課題をちゃんと解決して、その解決したところがビジネスにつながる構造を目指してフリマアプリを作ったという背景があります。

山元:なるほど。そういった原体験もありつつ、スマートバンクさんの挑戦も始まったということなんですね。

堀井:そうですね。プロダクトの作り方自体は、フリマアプリを作った時と今のスマートバンクで「B/43(ビーヨンサン)」というプロダクトをやっているんですが、そのプロダクトの作り方とではかなり似ていると思います。ユーザーインタビューもメチャクチャしていました。

山元:(ユーザーインタビューは)メチャクチャ大事ですよね。やはりVoicyもユーザーさんの声はかなり大事にしていて。実際のリアルな声を聞かないとわからないこともいっぱいあるというのは体験としてもわかります。

堀井:アンケートでは見えてこなかったインサイトが見えて、「ここが課題解決の種なのではないか」という発見もけっこうあります。サービスが始まった後も大事だと思うので、我々は欠かさずやっています。

山元:なるほど。ありがとうございます。

(次回に続く)