人間の要望をAIが拡大解釈してくれる未来を期待している

春日重俊氏(以下、春日):次のテーマにいきたいなと思います。注目しているデジタルトレンドと、どういうものがイノベーションとして起こってくるのかを、ぜひお二人の観点からお話していただけたらなと思っています。

今度はマスクド・アナライズさまからお話いただけたらなと思います。

マスクド・アナライズ氏(以下、マスクド):ちょっと前、AIは曖昧な指示を汲み取るのが難しいと言われていました。しかしネットニュースなどでご覧になっていると思いますが、最近では「小学生の男の子がサッカーしている」と指示すれば、それらしい画像を作ってくれます。人間の指示をAIが良い感じに解釈して対応できつつあります。

こうした数年前は考えられなかった技術進歩が、今後伸びてくると思います。例えばChatworkさんに絡めると、僕から春日さんや小田島さんに「打ち合わせの日程を調整したいです」とChatworkに指示すると、お二方のスケジュールを調整して、自動的に「お二人が空いているのは〇月〇日の〇時です。会議室はここが空いています。これで予約を取りますか?」という処理を実行してくれます。いちいち電話やメールをしてスケジュールの確認せずに、Chatworkさんでやってくれれば、利便性を実感して「わが社もChatworkを使おう」という流れになると思います。

将来的には人間による「良い感じでやっておいてよ」という要望をさらに拡大解釈して処理をしてくれることを期待しています。

「本来人間がやるべきことは何か?」本質を問われる未来がやってくる

小田島春樹氏(以下、小田島):それに被せてお話しすると、社内ではチャットを使って社外ではメールを使わないといけないという中で、メールの文章を自動で生成してくれるというのは今開発でけっこう進んでいる分野だと思うんですよ。例えば「〇〇さんに謝罪メールをこんな感じで送りたい」とフォームに入れると美しい日本語にしてくれるというのも実はけっこうあるんですよね。

(一同笑)

小田島:たぶんそれが来年ぐらいから出てくるので、このあたりが出てくるとビジネスのやり方などある種ビジネスのイノベーションが起こるなと思いましたね。

春日:僕もやはりこういうAIみたいなマシンラーニングみたいなところはどんどん来ると思います。最近もTwitterでバズったと思うんですが、静岡で大雨が降った時に、実は氾濫していないけれどAIのモジュールを使って画像をそれっぽくやったのが結果的にバズってしまったところを含めて、そこらへんのデジタルのイノベーションがやってくると感じてます。

あと、小田島さまが言ったようにビジネスで僕たちの世代がたぶん初めに教わったのはメールのビジネスマナー。

小田島:そうですね(笑)。

春日:「1行〇文字以内にしなさい。それで改行しなさい」とか言われていたと思うんですが、本来はやりたいことが正しく伝わるということが重要だと思うんです。要点を伝えただけで解釈してくれて、それを相手が不快に思わないかたちでやってくれるというところがデジタルのイノベーションとしてどんどん起こってしかるべきかなと思います。

小田島:その観点でいくと、議事録を取るのは新入社員の時にやったと思いますけど(笑)。もう今は誰がどういう話をして何が決まったのかも全部自動的にやってくれるサービスが出てきているので、ビジネスの世界はまだまだ進化するし、今まで面倒くさいと思っていたことが解決することはすごく増えてくるんだろうなと最近半年ぐらい感じていますね。

春日:そうですね。今僕たちがこうしゃべっていることを録画したあとにすぐに記事化できるAIも、読み上げ系のオープンソースでけっこう有名なやつが日本語にも対応したという記事も先日出ていたので、そこについてもすごいイノベーションがどんどん起きてくるんだろうなと思うと同時に、人間どこまで便利になって仕事の仕方自体が変わってくるというか。

本来人間がやらなきゃいけないことはなんなんだろうか? というのが、より本質的に問われてくるんだろうなとは思いますね。

小田島:そうですね。会社経営という観点でもそれはすごく感じていて、例えば昔から経理ソフトはいろいろありますが、どんどん自動化されていて今はものすごく楽なんですよ。ほとんど何もしなくてもクラウドサービスと外注先をうまく組み合わせれば本当にオートメーションで会社を回していける。

情報を知っている人・知らない人のギャップはどんどん広がっていく

小田島:でもこれを知っている人と知らない人の差が大きすぎて、このあたりのギャップはどんどん広がってくるし知っている者だけがものすごく有利になるという世界になってくるなと思いますね。

一方で僕たちがやっている、例えば店舗ビジネスでは来るお客さんの人数も事前にわかるし、その街に何人ぐらい人が通っているかも全部画像解析で取っている。どういう宣伝や見せ方をしたら何パーセントぐらい入ってくるかというのを全部取っているんですよ。どういう見せ方がそのマーケットに効いていて、どういうのが効いていないかが全部わかる。これができると商売の確度がものすごく上がってメチャクチャ儲かるんですよ。

でもこれもやはり知っている人、使える人とそうじゃない人の差が大きいなと思っています。多くの方々が当たり前のようにこれを使っているという状況をこの10年で作っていければ、まだまだ日本の国力も含めて上がっていくんじゃないかなと僕は技術の未来にすごく可能性を感じていますね。

春日:そうですよね。店舗ビジネスを小田島さまがやられているところで、知っているか、知らないかというところって本当にすごく大きいなと。同じ街で商売をされていてもいろいろな経営スタイルがあると思うんです。

だけど、見ているとやはりまだ現金でレジ締めを全部やっているとか。人を本来接客ビジネスに使いたいはずが、いわゆる雑務のほうが多すぎてできていないと。そういうのを例えばPOSレジを入れて全部キャッシュレスにすることで、どんどんコア業務のほうにシフトしていくというのは、すごくテーマとして重要なんだろうなと思いますね。

小田島:そうですね。

マスクド:完全キャッシュレス化も可能ですが、まだまだハードルが高いですね。会社のルールや技術的なハードルだけでなく、ITに詳しくない人は何が問題であるかにもまったく気づかないでしょう。参加社にお伝えしたいことは「こういう問題がうちの会社にありますよ」とか「こういうメリットがあればゑびやさんやChatworkさんみたいにうまくいきますよ」というメリットを示してほしいです。

例えば「10人必要な作業が5人になります」とか、メリットを示せば話も聞いてもらえるので、今日参加された方は「うちの会社ではこうやるといいですよ」というアドバイスを考えてみてください。

日本には課題を課題として認識していない人が多い

小田島:もう1つ、今回聞いてもらっているのがエンジニアやデザイナーが多いというところでいくと、あまりイメージ浮かばないかもしれませんが、今の日本企業は問題を問題と認識しないことがすごく多いと僕は思っています。課題にも気づけない、何をどう考えていいかわからないというのがすごく多いんですよ。

なので、そういう人たちに対して伝えていく方法を見つけていくと、より自分たちの提案であったり「こうしたら合理的だよね」みたいなものがうまく進められるんじゃないかなと、いろんな人を見ていて思います。特に年齢層が高い人を含めて、課題を課題と認識していない、問題がわからないという日本人の特徴があるんじゃないかなと、すごく思いますよ。

春日:そうですよね。今小田島さまがお話ししたことに僕たちも対峙しています。ChatworkのユーザーにはいわゆるSMB(Small to Medium Business)と言われている、町工場の方たちもいて、そういう方たちに口コミでどんどん増えているプロダクトなんですが、本当におっしゃるように「こういうふうに物事はできるんだ」ということを知らなくて、「こんなに便利になるんですね」という感想をいただくことがあります。

僕たちはホリゾンタルバーティカルと言っているのですが、コミュニケーションのところでいうと、やはりバーティカルに提案しないといけなくて、そういうのをやるだけでもぜんぜん業務効率が(変わります)。例えばビジネスチャットを入れて日々のコミュニケーションを改善するだけで総労働時間が30パーセント下がったというお客さんの事例もあるんですよ。

いろいろなものをデジタルとうまく組み合わせて使っていくという観点はすごく重要なんだろうなと思っています。

「他所がやっているから」という理由でDXに着手する企業も多い

マスクド:「(総労働時間が)30パーセント下がりました」というお話がありましたが、私もお話を聞いて思うのは、他所がやっているとか、事例があるとか、他の会社で成功したから真似をすることがあります。

身近な事例は大企業から中小企業までいろいろありますが、「他社がやっているから」と説明すると、知らないことを恥ずかしがって「うちはヤバイんじゃないか」と問題意識を持ってくれるので、恥ずかしいとか情けないという気持ちを、良い意味で刺激するのもいいと思います。

春日:マスクドさんはいろいろな企業から依頼が来るじゃないですか。そういったところで最近の特徴とか、こういうのが増えてきたなというものはあるんですか?

マスクド:「DX推進チーム」などを自前で立ち上げて、現場に普及させていく方法がまず1つあります。あとは外部の力を利用してスタートアップと組んだり、外部から講師として来てもらったり、あるいはヘッドハンティングしてチームのリーダーになってもらう、さらに大学教授や著名なエンジニアに一時的なサポートをしてもらうなどの施策があります。

今日はゑびやさんからもお話いただいており、ゑびやさんの取り組みを真似をしたいという方が出てくるといいですね。

世の中で求められるのは「使いやすく便利で簡単なプロダクト」

春日:ありがとうございます。小田島さまは自分たちが作ったプロダクトをいろいろ発表されていると思っていて、いろいろなところでいろいろな方と出会われていると思うのですが、そういったところでデジタルに対する「もっとこういうものが要望として世の中にありそうだな」と思ったりしますか?

小田島:僕らはいろいろなものを作っていて、例えばデータ分析する仕組みのダッシュボードを作って提供してみなさんに使ってもらっているんですね。この先にやはり言われるのは「データはわかったよ」「自分たちの状況がわかってこういう数字なんだよ。じゃあ何をしたらいいの?」なんですよ。

「次は何をしたらいいか教えてくれ」というニーズがものすごく高い。なので僕たちが今メインで、データを見てどういうような行動を起こすか、データマーケティングはどうやるのかという話をけっこうしています。売上を上げていくためにこのデータを見ながらここの数値を追いかけていって、こんなアクションをして、こういうようなコードのABCをやりましょうとか。

ある程度データ分析をする仕組みを入れた会社さんにそのあたりのニーズがすごく高くあります。一方で、地方の講演で言われるのは「なかなか難しい」。「画像解析をやって、POSのデータ分析してというのはちょっと私たちには……」という人たちがけっこういるんですよ。

でも、その人たちにけっこうウケるのが「メタバース」。この言い方僕は好きじゃないんですが、僕らもいろいろな店舗の3D化はけっこうやっているんですよ。リアルな店舗、リアルな博物館、例えば「サッポロビール 3D」と検索すると出てくるんですが、そういった施設を3D化する。それを実際にその場でお見せしているんですけど、これはけっこうウケるんですよね。

目で見てわかる、そしてわかりやすい、なんかすごそうというところで自分たちも「これならチャレンジをしたい」と。「データ分析しましょう!」だとハードルが高いですが、「うちのお店もこんなことができるのかもしれないな」という、このつながりがデジタルに対する第一歩を踏み入れていく時にすごく有効的だったなと、最近お客さまのお話を聞いていて感じますね。

春日:今の話はすごくおもしろいなと思っていて、いわゆるWindows95から一気に日本人にコンピュータが広まったと思うのですが、その中でもおもしろいデータは、日本で一番普及しているのはマイクロソフトで、だいたい800万から900万本ぐらいと言われているんですよね。

でも労働人口は7,000万人近くいるので、僕たちみたいにパソコンやラップトップを使いながら仕事をしている人以外が圧倒的に多いんですね。そういった方たちに「デジタルって怖くないよ」と(伝える)。

たぶんアレルギー反応みたいになっているんじゃないかなと思っていて、それをビジュアライズというか「あ、これだったら自分たちも使えるかも」ときっかけを与えるために、今後の10年で、先ほど言ったいわゆるマーケティングやオートメーションだったり、メールを書いている時にすぐに予約するだったり、そういう感じで簡単なインターフェイスを作っていく必要があるんだろうなと思っています。

そこのところでいうと、チャットはみんな簡単に文字を打つだけだったと思うので、チャットを通じていろいろなものがポチポチとできる未来になるとおもしろいのかなと個人的には思っています。

小田島:そうですね。やはりどの時代においてもわかりやすさは大事ですからね。

春日:そうですね。わかりやすいのが結局なんだかんだいって支援されるんだろうなと、日々事業運営をしていても思います。

小田島:そうなんですよね。日本の特性で、簡単なものまで難しく考えてしまう人がすごく多い。よりシンプルに人間の五感にグサッと刺さるなにかをみなさんと一緒に考えていくともっと日本に広がっていくんじゃないかなと、僕は日々感じています。

春日:日本はすごくおもしろい国ですよね。温水洗浄便座を作ったり。

小田島:そうなんですよ(笑)。

春日:便利なものはすごくあるのに、なぜかデジタルになった瞬間に完全になんか……(笑)。Suicaとかを2000年の段階で作っていたりもするので、すごいことをいろいろとやっているはずなんですけどね。だからそこがもうちょっとうまく噛み合うと、おもしろい未来が待っているんじゃないかなと思いますね。

小田島:そうですね。やはり使いやすい・便利・簡単であるというのがすごく大事な要素なんじゃないかなと思います。

ユーザーのハードルを下げるのは、ゲーム的なおもしろさとわかりやすさ

春日:マスクドさんは、こうしたらもっといろいろな人に使ってもらえるようになるとか、なにかありますでしょうか?

マスクド:個人的にはゲームみたいな手軽さやおもしろさ、わかりやすさがキーになると思います。やはり楽しく遊べることが前提でしょう。もちろんゲームそのままでなくてもいいのですが、ゲーム的なおもしろさや、画面などに魅力があるでしょう。昨今ではUI、UXに対する注目度も上がってきました。技術的にすごいだけではなく、お二方がおっしゃったわかりやすさやおもしろさ、例えばゲーム、スマホアプリ、チャットツールなどから良さを取り込んでハードルを下げてほしいと、今日見ている方々にお願いしたいです。

春日:ありがとうございました。お二人とももっとお話をしたいと思うんですが、実はあっという間に40分が過ぎてしまいました。

小田島:あら(笑)。

春日:今回Keynoteではデジタルが世の中にどう影響を与えていくのかというテーマでお話をさせていただきました。それぞれ専門としている領域が違うので、オリジナリティ溢れるモノの見方や情報をお伝えできたかなと思っています。

ぜひ情報をちょっとでもいいので持ち帰ってもらって「こんなことがあったんだよ」というのをシェアしてもらえると幸いです。今日は40分という短いお時間でしたが、お付き合いいただき本当にありがとうございました。