私たちの“普通や常識”は「コミュニティ」によって決められている

松本勇気氏:これがとても重要です。「コミュニティ」。人間はネットワーク的な生き物というか、コミュニティ的な生き物だと思っています。

すごく変な話をするのですが、人間の脳みそはシナプスとシナプス、脳の神経同士が接続されてネットワークを作って、その間のコミュニケーションで学習していく、ある種の大きな神経の塊です。そこでは電気信号でやり取りしていますが、実は僕ら人間のいわゆる脳みそ同士も、言語やいろいろな信号を通じてつながっています。

お互いの脳みそは影響しあっているわけですね。なので、自分の考え方、普通や常識を決めるのは、自分とつながっている周囲の人間であるわけです。つまり、この周辺コミュニティがみなさん自身を決めてしまうと僕は思っています。

周りが楽しく生きることを志向すれば楽しい方向にいくでしょうし、周りが成長することを求めれば成長していくでしょう。そういうコミュニティは、あまり意識することなく自分のあり方を変えていたりするんです。

自分の普通、常識を決めるコミュニティは、みなさんのいろいろな仕事の進め方や考え方に、良い影響だけじゃなく悪い影響も与えていくわけなので、重視しないといけません。

なにかをやった時に承認をくれるのもコミュニティじゃないですか。それは例えば友人関係であったり、エンジニアコミュニティであったり、同期入社の人たち、同期のインターンの人たちであったり。上司がいて、将来家庭を持てばそこに家族もいる。パートナーがいる。人によって接し方の濃さは違いますが、こういう人たちがみなさんの考え方を変えていくので、みなさんがいるコミュニティが、みなさんを形作っています。

「あいつに負けられねぇな」健全な嫉妬が成長へのエネルギーとなる

みなさんは聞いたことありますかね? (スライドを示して)このPayPalマフィアとか、メルカリマフィアとか。○○マフィアというのがよくキーワードとして出てくるんですが、成功者がいっぱい生まれるコミュニティがあるんですよ。これはやはり成功者が生まれる集団、コミュニティというものの影響力がすごく大きいと思っています。

なんでそんなことが起きるかということのキーワードが、この「健全な嫉妬」という概念だと思っています。健全な嫉妬。どこがこれの発祥なのかよくわかりませんが、僕はDeNAの創業者の川田さん(川田尚吾氏)に以前出資していただいていて、彼からちょこちょこと「健全な嫉妬が重要なんだ」と言われて育ってきたんです。

この周辺で競う基準となるライバルは、成長する上での刺激なのですよね。例えば、友だちが「あいつがマネージャーになった」。「マネージャーになった」はまだない方も多いかもしれないですけど。例えば「友だちが有名OSSにコミットした、コミッターになった」これ、なんか悔しくないですか。ヤベえ、GoやRailsにプルリク送ってちゃんと通った、みたいな。悔しい、嫉妬するという感情が生まれるわけです。

例えば、Cさんがすごい会社に入社した。Dさんは自分で会社を作って資金調達した。この時に生まれる「あいつに負けられねぇな」「負けたくねぇな」という健全な嫉妬心。良くない嫉妬心、健全じゃない嫉妬心というのは「あいつがこんな有名になって悔しいな。……蹴落としたろ」みたいなもの、これは不健全なのですが、やはり「あいつに負けたくねぇな」という、スポーツとかとも一緒の健全な嫉妬心。これはみなさんを奮い立たせる、すごく重要なエネルギーだと思っています。

こういうものがあると、努力やアウトプットにつながっていく。ライバルも、ただ蹴落とそうじゃなくて、お互い高めていこうという、そういう健全なライバルみたいなイメージですね。これが○○マフィアの構造としてもやはり重要な役割を果たしていると思っています。

その成長企業の中だと、すごいチャンスやポジションがたくさん生まれていくんですよ。例えば、今のLayerXだと、プロダクトがあんなにたくさんあるのに、PdM(プロダクトマネージャー)がきちんと全プロダクトにしっかりいるかというと、まだまだポジションが空いています。

例えば、たくさんの事業が大きくなる過程で新しいポジションが生まれていったりします。「いやもうまったく新しい機能に挑戦していかなきゃいけないよね」みたいなことが生まれたりする。そこに突っ込んでいくことで、成長する機会を得ることができます。

先ほど投資家思考の中でちょっとお話ししましたが、ちょっと背伸びすると、難易度の高い挑戦がいろいろできて、経験をたくさん積めたりする。こういう場所にいると、一緒に仕事をしている仲間がどんどん成長していくんですよね。「あいつ、気づいたら執行役員になったんだけど」みたいなことすら起きるんです。

こういう嫉妬を感じられる仲間が多いと、健全な嫉妬ゆえに「お互いに学んでいこう」みたいなことがワンチームなので起きやすいです。なので、ノウハウの進化のスピードも異常なんです。その会社の内と外で持っているノウハウがぜんぜん違うんですよ。

Gunosyという会社にいる時がまさにそうで、KPI経営をやっているという会社をたくさん聞くし相談も受けるんですが、ここまでKPI経営を徹底できる会社は、どこ見てもないぐらいやはりやっていました。そういうコミュニティのパワーがあると思っています。

そのコミュニティの全体の平均的な成長速度が、こういう環境ではものすごく高まります。その時の……なんとなくあるじゃないですか。モーメンタム、勢いみたいなものを持っている会社。2010年代がメルカリで、2020年代はLayerXですと言いたいんですが、これはみなさんの主観にお任せします。ちょっとそこは謙虚にいきます。ですが、そういう場にいるということが、とても大事だと思っているんです。そうすると、この健全な嫉妬を感じる場面がいっぱいあります。

「健全な嫉妬」は努力の習慣化につながる

このコミュニティと健全な嫉妬は習慣化の力につながります。努力とは、一発で物事を改善することではないんですよね。例えば、僕は筋トレが趣味だと言いました。体脂肪率を1パーセント落とそうとしたとします。痩せ薬の広告が世の中にはいっぱい出ていますが、あんなものは全部嘘です。できることは、食事をコントロールし、適切な筋トレをし、しっかりと休養を取り、それを繰り返すことでだんだんと体を変えていくことだけです。

どんな能力もそうだと思うんですね。なので、習慣的な努力がとても大事なのですが、1人でがんばろうとするとなかなかうまくいかないんですね。これはYコンビネーターというスタートアップ支援の仕組みだったかなにかだったか、どこかで聞いたんですが、やはり1人で起業すると良くないというのにも近い話です。

「もうこれが普通だぜ」とか「俺はこれをやったぜ。お前はやんねぇの?」みたいな、コミュニティからの視線とか、「あいつすげぇな」と感じるその健全な嫉妬。これがあると、努力をするための習慣づけが生まれます。

ジェームズ・クリアーという方の『Atomic Habits』という本にも、このコミュニティを使った習慣化みたいなノウハウが出てくるんですが、それも読んでもらうといいと思います。

例えば「じゃあ俺、Kubernetesで最高のインフラ作ったるから、Istioマスターになるから」「じゃあ俺はRustをマスターするぜ」みたいなことをコミュニティに言い出すと、周りに言っちゃってるから、強制力が働きます。実行せざるを得ないと。発信すると、今度は賞賛してもらえるんですよね。「おお、スゲェじゃん」みたいな。これが次のサイクルにつながっていきます。

これをぐるぐる回しているか回していないかで、毎日1パーセントしか変わらなくても、例えば概念的になにかが1パーセント誰かより上回っていると、365日も経てばだいたい2の5乗ぐらいは差が生まれてくるわけです。さすがにそこまで差が生まれる物事は少なくて、もうちょっと成長率は小さいんですけど。

あなたをバカにするコミュニティからは抜けていい

たまに「宣言するとバカにされてしまいます」という方がいるんですが、「バカにするコミュニティから抜けちまえ!」というのが答えですね。そんなコミュニティにはなんの価値もないと僕は思っているんで。こういう刺激がなくなってくると、僕は違うコミュニティにフラフラと行ってしまうようなタチでして、そこから想像するに、僕は友だちがちょっと少ないかもしれませんが、わりとこうやっていろいろなものを伸ばしていくのがけっこう楽しいです。

コミュニティは選べるんです。東京ならいろいろなものがあるし、インターネットにはたくさんのコミュニティがあるので、こんなものは抜けちまっても自分がやはり良いと思える場所に移動することは、みなさんの意思として持ったほうがいいかなと思います。

人は変わらないけど、自分は変わるんですよね。なので、自分を変えることをまずはおすすめするという意味でも、コミュニティを切り替えるのはすごく良いです。ちなみに、すごく僕の雑なノウハウなのですが、僕はとりあえずどこかのコミュニティに入ります。そこで一番と言えるくらい、自信を持てるまでアウトプットし続ける。そこでの成長率がわかってきたら、そこからだんだん次のコミュニティ探しにいきます。

コミュニティは、友だちをたどっていったり、インターネット上で探してみたり、いろいろな方法で切り替えることができます。なので、僕はけっこうインターネットで偶然の出会いを探したり、知り合いをたくさん使ったりします。そう、Twitterはいいですよ、Twitter。気づいたらフォロワー2万人ですよ。そうやって友だちが増えていくわけです。そうやっていろいろ渡り歩いていくのはおすすめです。

一番やめたほうがいいのは外の基準で「とりあえず」で決めること

こういうコミュニティと習慣化は、みなさんの努力というサイクルが圧倒的な差分を生み出すエンジンになるので、良いコミュニティはぜひ意識してほしいです。特に、意識しておくべきは仕事です。みなさんどう足掻いたって、仕事にはたぶんパートナーと同じぐらい自分の時間を使います。誰と仕事するかは、それだけ自分への影響を与える重要なコミュニティなんですよね。

やはり師匠とかがいると、その師匠は型を盗ませてくれたり、背景を教えてくれたり、自分の成長に対してフィードバックをくれたりします。同僚は先ほどの健全な嫉妬を生んでくれる人たちです。共に学ぶ仲間になってくれます。

なので、良い上司や同僚に恵まれ、成長の機会に恵まれ、良い文化、習慣、振る舞いを学べる。良い会社とは、そんな場所だと思っています。なので、自分が尊敬するエンジニアがいるとか、尊敬するアウトプットを出している、良いプロダクトを作っている、そういった場所はすごく大事にしたほうがいいです。

一番やめたほうがいいチョイスは、とりあえず親が安心するからとか、とりあえず有名だからとか、です。「とりあえず」で、外の基準で勝手に決めちゃうのはできるだけやめたほうがよくて、自分が成長したい方向に対して適切な仲間がいるか、場があるか。そういったことを意識すると、コミュニティが自分の習慣化の力を生んでくれます。

誰と仕事するかですが、先ほど言ったとおりコミュニティは選べます。会社も選べます。なので、合わなかったら変えちゃえばいいんですよ。うちの社内にも、新卒で入った会社を数ヶ月で辞めた人間が何人かチラホラいて大活躍しています。早く辞めることと何も相関はないので、変えちゃえばいいです。

学生時代はボーナスタイムです。たくさんのコミュニティがあります。インターンがたくさん使えるわけです。例えば「ちょっと就職を考えています」と言ったら、これだけ人手不足なので「とりあえずご飯に行きましょう、ランチに行きましょう、イベントに来てください」と言ってくれるので、いろいろな人に会えます。

なので、ちょっと接してみて、こういう観点で良い仕事場なのかと見てもらえるといいのかなと思っています。宣伝ですが、LayerXにはCTO経験者が何人も働いているので、ぜひ見てもらえるとうれしいと思っています。

(次回へつづく)