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アジャイルよもやま話 ~ 川口 恭伸さんとアジャイルの歴史を振り返りながら学ぼう !(全6記事)

今の時代の経営者なら、DevOpsの価値をわかっている必要がある コロナ禍で明確になった「伸びる会社」と「伸びない会社」の差

アジャイル開発の夜明け前から現在に至るまでの歴史と流れについて語ることで、アジャイル開発についての理解を深める「アジャイルよもやま話 ~ 川口 恭伸さんとアジャイルの歴史を振り返りながら学ぼう !」。ここでアギレルゴコンサルティング株式会社の川口氏、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社の福井氏と松本氏が登壇。続いて、今の時代の経営層に求められることを話します。前回はこちらから。

DevOpsのことを勘違いしている人が多い

福井厚氏(以下、福井):本当に、メッチャ刺さりまくりだと思います。実はここのお話の中で出てきた考え方、人に対しての考え方とかカルチャーとか組織とか、あとは人間、お互いを尊敬しながらということも含めて、いまだに悩んでいる人たちがたくさんいて。

例えば「DevとOpsの組織が分かれているけどどうしよう」とか、「お互いに仲が悪いけどどうしよう」みたいなことっていまだにある話なので。聞いている方も、ある種すごくショックを受けたりしたんじゃないかなとは思うんですけれど。

実際、AWSもこのとおりやっているなという印象で、少人数のチームで自律的にやっていたり、ビジネスのオーナーを持ってそのチームの中に入っていったり。このとおりみたいなものがほとんどなんですよね。

なので、デプロイも全部自動化されていますし、チームのすべてのメンバーがオーナーシップを持つカルチャーも推奨していたりするので、そういうところもすごく一緒だなと思って。びっくりするぐらい一緒でした(笑)。

川口恭伸氏(以下、川口):そうなんですよ。2009年にこれが出た時に、みんな「それ、それ! 俺もそう!」みたいな感じの共感を得たから、いろいろな人たちが動き出してDevOpsというムーブメントになっていったんですよね。

福井:そうですよね。すごくよくわかります。川口さんはコーチングをされる時にも、やはり技術うんぬんよりも、最初に人であったりチーム作りであったり、組織とかカルチャーというところの重要性を説かれると思います。そういうものに対する、コーチを受けられているみなさんの反応として、特徴的なものってありますか?

川口:すごい深い話を(笑)。さまざまな反応があります。特に私はこういう話を流れですることが多くて。そうすると、最初は「えっ、そこまで別に私たちやりたいわけじゃないんですけど」みたいな反応がけっこう多い感じがします。「別にスクラムでチームでやりたいわけじゃないです」と。

福井:(笑)。なんかそこはわかるけれども。

川口:「1人で仕事したいです」みたいな。

福井:すでに勘違いというか、DevOpsをツールかなにかのように勘違している方がけっこういるのかなと思って。CI/CDの基盤ができたらDevOpsだと、よくわかっていないという感じがすごくするんですよね。

川口:「Opsをしっかりしろ」というDevOpsになっちゃったりとかね(笑)。

福井:(笑)。

川口:“NoOps”という流れが(前に)出てきたじゃないですか。NoOpsもDevOpsの一種だと思いますが、(NoOpsは)Opsの労力をなくすという話であって、「お前らは要らんから解雇する」という話じゃないわけですよ。

福井:ぜんぜん違いますよね。

川口:だから、みんなが付帯的な作業があったとすると、それをなくしてクリエイティブであったり、顧客の価値に直結する作業に集中しましょうというのが、たぶんNoOpsだったりDevOpsの流れだと思うんですけれど。やはりみんな言葉に流されるんですよね。

先ほどの「System1」の話で書きましたが、やらない人は、わかったことで終わりにしたいんですよ。「ああ、わかりました。スクラムというのはアジャイル開発、ソフトウェア開発の話ですよね。わかりましたわかりました。開発者の人たちがやりたいんですよね」みたいな。

福井:川口さんのお話の中でも出てきましたが、すごく重要なポイントとして、ビジネスの変化とか、ビジネスが世の中の変化に対応しないといけないとか、そういうところからスタートしていないとまったく意味がないなと思っていて。

いかに価値を出すことができるか。あるいは変化に対応して新しく変えていくことができるかというところが、ビジネスのトップから全体が、そういう考え方や、やり方を理解していることが重要なんだなと思いました。

経営層がDevOpsに価値を感じないなら、その会社の将来は危ないかも

福井:また聞いてしまいますが、コーチングされる時に、トップなどの方はどういうふうにお話しされるんですか?

川口:ケースバイケースですが、日本の場合はトップの方からというよりも、もうちょっと現場の方がやりたいという話で一緒にやらせてもらうことが、基本的には多いですね。

「はげちゃびん問題」とか、最近は「おじゃる問題」と言い換えているんですが、(DevOpsを)やっていない人がどこかで説得相手(の中)に出てくるんですよね。だから説得戦略(をとる)。しなくていい時はしない。

この中でちゃんと成果を出しておけば困らないんだったら、やっておこうやと。だけど説得が必要になったら、やはり説得しないといけないよねと。

多数派工作をしたとか、違う人から上げてもらうとか、業界を動かしてニュースで動かすとか、さまざまな説得戦略があると思います。泥臭い社内政治みたいなやつです。

別に政治を教えているわけじゃなくて、必要だからその話をする。目を離していても、自分のことじゃないよと思っていても、やはり自分たちに悪影響は出てくるので。そのあたりの話をしていくことが多いですね。だから、あまりエンジニアリングの話はしていない感じです。

福井:なるほど。でもすごくよくわかります。やはりそこの重要性というか、価値を感じてくれる経営層でないと、なかなかうまくいかないと思います。また、そういった会社でないと、正直、将来危ないんじゃないかと個人的には思ったりします。やはり今の時代の経営者であればこそ、そういう理解がすごく必要なんじゃないかなとは思いますね。

変化が起きた時に伸びる会社と伸びない会社の差

川口:その点、やはりコロナが来て、この3年ぐらいで一気に状況が変わってきている感じがして。わかっている方が経営者になっていくケースはだから増えてきている感じが実感としてあるし、そういう方が経営している会社がガンガン伸びている。

やはり変化が来た時に止まっちゃう会社とガンガン伸びる会社の差は、案外経営者にあるような気がするんですよね。でも私たちから「経営者がだめだから代わったほうがいいよ」みたいな話を言ったってそれは起こらないので、コントローラブルではないんですけれど。仕方ないぐらいの差異が出ちゃいますよね。

経営者だけではなくて、上の人に話が通じるか通じないかというレベル。あと、現場にちゃんと権限というか、こうやる時に「なんでそれやるんですか?」とか、変な説明責任を求められない現場は、やはり強い感じがするんですよね。

日本の会社って、知らない人に説明しなきゃいけないとかがあるじゃないですか。「説明しないとだめだよ」とか言われるんですけど、「わからないやつがだめなんじゃないですか?」という感じじゃないですか。

福井:(笑)。

川口:「ビジネスも技術もわからない人たちに、なんで説明するの?」っていう。

福井:まさしくそうですね。

川口:根本的なモヤモヤがあるじゃないですか。

福井:そうですね。根回しというか、理解を得るためにどんどん埋まっていく時間、リードタイムが長くなってしまう原因でもあるということだと思います。お話されたとおり、コロナ以降、予測できないような事態がたくさん出てきた時に伸びる会社って、いかに意思決定が早くできるかということだと。

Amazonもそうですが、イノベーションフライホールという考え方で、実験をして、それが失敗したら失敗からすぐに学んで次のチャレンジをするということをできるだけ速く回すという考え方なんですけれど。

意思決定をして変化に対応していって、失敗したら「失敗したんだ」ということを認めて、それを学びに変える。そういう意思決定のやり方を組織全体が持っているのがすごく重要かなと思うので。

そこから、ソフトウェアも早くリリースしないと、フィードバックを早く得られません。そういったことをやっていける体制、まさしくDevOpsが求められている体制なんじゃないかなとは思うんですよね。

川口:今日一気通貫ずっとしているのはその話なんですけどね。細かくイテレーションして、動くソフトウェアを早く届ける。で、ちゃんと早く失敗する。回復可能性を高めていく。失敗をしない方向を一生懸命考えるよりは、回復可能性を考えて、とにかくみんなが失敗をわかる状態にしてガンガンいこうと。

これは当然、経営(者)も見ていなきゃいけない話だと思うんですよね。だから、そこについていける経営の人じゃないと、やはりしんどくなってきたかなという感じがします。

福井:そうですね。

「なぜ説明しないと金が使えないのか」も諦めずに考える必要がある

福井:ちょっとTwitterにも書かれていますが、やはり権限委譲が大事というか。先ほどの、小規模なチームが自律的に意思決定して動くということは、その意思決定をする権限が必要なわけですよね。その権限委譲ができているかできていないかが、やはり大きな分かれ目になってくるのかなとは思います。

川口:そうですね。だから、日本の会社で、私も普通の社員でしたが、普通の社員が権限がないというか金が使えない。端的に言うと金じゃないですか。

端的に金が使えないとなって、「なぜ説明しないと金が使えないんだろうか」という疑問を持った時に、変えるのか、辞めちゃうのか。我慢するのか、泣き寝入りするのかわからないけれど、やはり「一人ひとりがどうしていくか」がどうしても問われるし、それによって自分のキャリアや会社の未来すらも変わっていくと思うので。

諦めずにどうするのかは考えていく必要がある。それはみんなが考えていく。日本の社会全体のエンジニアの方、みなさんが考えていけば、一つひとつ問題が解決されていくと思うんですよね。

福井:なるほど。そうですね。

川口:だからAWSさんのやり方、エンジニアリング、ツールだけではなくて、すでにフィロソフィーみたいなこともやっていると思いますが。ぜひ広くみなさんにお話をしてもらって、これからもっと興味を持つ方が増えると思うので、ぜひ話し合われるようにしてもらえるとといいかなと思っています。

福井:ありがとうございます。がんばります(笑)。

川口:ムッチャ期待しています。

福井:でも本当に、今日は川口さんにすばらしいお話をしてもらって。もっと時間をたくさん取れれば、もっと長く深くお話をしてもらえるところだったので。

また川口さんのお話を聞きたいということであれば、リクエストもらえればまた別の回も設けたいとは思います。

テスラとSpaceXはやばい

福井:松本さん、Twitterにおもしろい質問とか投稿とかありますか?

松本雅博氏(以下、松本):そうですね。いろいろ見ていると、「先ほど川口さんがお話されたこの資料がおもしろすぎた」と言って、「はげちゃびん問題について」というやつをシェアされている方とか(がいます)。

あと「デプロイを1日10回しよう」のやつですね。あれも「やりたいです」とか、人に関してというところのコメントが多かったりする。

あと、(長くなると思って質問に)上げなかったやつがあるんですが、冒頭のほうでトヨタさんの話があったと思いますが、「ソフトウェアより製造業のほうがウォーターフォール的な進め方がやりやすい気がするんだけれど、そうじゃなくて、製造業がアジャイルを推進しているのがあらためてすごいと思うな」とか。そういった感想が来ていますね。。

川口:今日はお話しする時間がないんですが、最近ジョー・ジャスティスという人がテスラの話を一生懸命説明してくれていて、テスラとSpaceX、やばいです。製造業の人はみんな勉強したほうがいい、たぶん。

松本:そのあたりのところを聞きたいですね。残り10分で(笑)。

(一同笑)

福井:ちなみにすごいところをちょっとだけかいつまんで言うと、どういうところがすごいですか?

川口:テスラの話は、この間ジョーの研修を受けてきてすごく勉強になって。今ちょっとやり始めているんですけど、会計までがDevOpsなんですね。

脱予算経営と言いますが、「お金がちゃんと明らかになっていて、全体の仕様が明らかになっていて、そこについてお金を使え」と。「お金を使って失敗したら、下を向いて『ああ、失敗したな』と言って次のやつをやれ」みたいな感じで、とにかくお金を使えと言っている。指標の1つがお金を使うことなんですよね。

福井:へえ、おもしろい。

川口:ちゃんとお金を使ってテスラの車を進化させてということが指標として常にアップデートされているやり方をしていて。この意思決定のやり方は、誰かの承認を得ないとお金が使えないとかじゃないんですよ。

福井:なにかハンコを押してもらうんじゃなくて。

川口:じゃなくて。

福井:その場でということですね。先ほど透明性のお話もされていましたが、まさしくそうですね。

川口:使ったらわかるので、できるじゃないですか。我々にはITがあるのでね。Excelシートでもできるわけですよ。だからそういう状態になっている時に「なんで事前に誰かにお願いをしないとできないのか」ということを、たぶん真剣に考え直していたんですね。

これはちょっと深い話で、今も激論をみんなでしているところなのでぜひ。

福井:そうなんですね。それはそれはお忙しいところにお呼び立てしてしまって(笑)。

川口:とんでもないです。

福井:やはり「テスラとSpaceXの話をもっと聞いてみたい」みたいなツイートもありましたよね。

川口:そうですね。Agile Japanで基調講演されているので、たぶん探せばYouTubeとか記事になっていたと思います。

福井:そうですか。すばらしい。

川口:ぜひ探してもらえればと思います。

(次回につづく)

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