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プロダクトオーナーのための、ふりかえりが日常に溶けるチームのつくりかた(全4記事)

非アジャイルな環境をアジャイルにするために “ふりかえり”を土台にした事業づくりとチームづくり

「スクラムフェス仙台」は初心者からエキスパートまでさまざまな参加者が集い、学び、楽しむことができるアジャイルコミュニティの祭典です。ここで登壇したのは、森一樹氏。ふりかえりを日常とするチームができるまでを「プロダクトオーナー」という観点でふりかえり、それを再現するために必要だった要素について話しました。全4回。2回目は、ふりかえりを土台としたチームづくりについて。前回はこちら。

ふりかえりを土台にして事業とチームを作ることを決めた

森一樹氏:私がその場で決めたのは、事業とチームを作るために私の得意領域であるふりかえりを土台にすることでした。それが私自身が経験したことがない、事業としても未知である状況を切り開く最初のステップだったと思っています。

こうしてチームが出来上がっていくわけです。これから、チームが出来てから私がどう思ってどう行動してきたのか、という話になります。

最初は3人からのスタートでした。私がプロダクトオーナーとデベロッパーの兼任。あとはスクラムマスターとデベロッパーの兼任。もう1人がデベロッパー。(スライドを示して)この日朝さんが派遣社員です。社員2人と派遣1人でした。

3人なので全員がデベロッパーをやらないと回らないんですよ。「なんでもやります」という感じです。人は集まりましたが、アジャイルな価値観や動き方は知らないメンバーです。そんな中で他の2人にとっては、半年・1年といったロングスパンの仕事のやり方が当たり前でした。SIで、いわゆるお客さまからの要望を聞いて開発するぞ、というやり方のイメージが非常に強い。そういった固定概念を持ってきたメンバーが集まった中での、アジャイルトランスフォーメーションでした。

やってみないとわからないから、いろいろなことをたくさんやろうと考えた

ではそこでどうするか。コミュニティなどのいろいろな活動でこれまで学んできたことをすべて活かしつつ、実験を繰り返したいな。そして、成功に向かいたいな(と思いました)。欲張りですよね。いろいろなことをやりたくて、まずはエクストリームなことをたくさんやろうと考えました。最初からいっぱいやってみようとしたんです。

何をやったかというと、最初からモブワークです。分業が当たり前の世界の人を呼んできて、「とりあえずやってみようぜ」と。「新しいものはわからないからさ。わからないけれどやってみようぜ」とモブワークをしたり、あとは1週間に30分のラーニングセッション、勉強会の時間を作ったりしました。

あと、これは致し方ない状況から始まったのですが、全員が本業とは別にこのチームに集まってくれている状態だったので、本業を止めるわけにはいかず、全員がきちんと働ける2日間だけ集中してスプリントをやることにしました。そういうスプリントから始まっています。また、その時はZoomでつなぎっぱなし。今もそうです。仕事をしている朝8時半から17時ぐらいまでずっとZoomをつなぎっぱなしにしています。全員全ロールですからなんでもやります。

そんな中でふりかえりをしてきました。2年前のふりかえりを見てきたのですが、やはり初めてモブをやってみて「集まって進められると一体感も高まって、チームで進んでいる感じがあって良いね」と言ってくれたり、「分業のほうが効率が良いと考えていたけど、実際にやってみるとそんなことない」といった気づきがあったりしました。

そのような気づきを持つ成功体験を、その場で作ることを意識的に行っています。あとは「つながっていたほうが良くて、音声+ZoomなどでFace to Faceで話すほうがコミュニケーションができている感じが強い」という心理的に安全な場をチームの中で作り出すことにまずはすごく注力しています。

意見を言いやすい雰囲気になるように「みんなわからないことが多いと思うけれど、私もわからないから一緒にやっていこうよ」というスタンスです。そうやってまずはふりかえりから始めていって、徐々に非アジャイルな環境をアジャイルにすることをやっていきます。

1スプリント目で成功体験を積みます。いつもは「まずはトレーニングをやりましょうか」とするのですが、事業的な余裕があるわけではなく、時間的な余裕があるわけでもありません。なので、トレーニングは勉強会の中でそこそこやって、私がそのアジャイルな価値観を行動で示すということをやってきました。

プロダクトオーナーがゴールを作り上げるのは大事です。しかし、どう感じているのか・どう考えているのか・事業としてどうしたいのかを、みんなで考え抜くことも大事だと思うんですよね。全員でゴールを作り出して、ふりかえりをしながら自分たちが今どのような状態かとメタ認知をするわけです。「みんなでやる」ことをかなり意識します。

また、外の事例に積極的に触れる点では、「アジャイル文化を導入するために、こういったカンファレンスにみんなで行こうよ」「お金を出すからみんなで行こうよ」と言ったり、時間が経ってくると、「みんなで登壇しようよ」と言ったりしています。

そんな中でもやはり組織の制約がいろいろあったのですが、みんなでその制約を乗り越えてきました。まず、週に2日間しか働けないというやつですね。ぶっちゃけ、これはどうしようもなかったです。どうしようもないので、全員が最大の成果を出しやすいリズムを作りました。いろいろな仕事の打ち合わせが分散していた状態だったため、「水曜日と金曜日を全部空けてくれ」「移動させてくれ」と伝えました。

まず、水曜日と金曜日はこのチームのためだけに動ける環境を作っていきます。みんなで動けるリズムを作ります。ほかには、パートナー・オフショアと一緒にやっていると、ウォーターフォール的な長いプロジェクトは指示命令系統がけっこう重要になっているんですよね。どうしても、指示されないと動いちゃダメとか、タスク管理をしなければいけない、という考え方があったので、その考え方は1回捨てましょうと伝えました。フラットなチーム作りを目指しています。

また、派遣・パートナーはお客さまの前になかなか出さず、あくまでも社員がやる文化が強かったのですが、そこは「うちのチームは全部やりますので、派遣の方も平気でお客さまの前に出ます」。対社員の打ち合わせも、「彼(派遣の方)に任せているので大丈夫です」「なにかあったら私に言ってください」と、自分が前面に立つということを周知しています。

「みんなでやる」を前提に進めた、権限委譲と情報開示

あとは権限委譲です。システム上できないことはどうしようもないのでそこは置いておいて、システム上以外の部分に関して「なんでもやっていいよ」とすべてに権限を与えています。その権利の与え方なのですが、「始める権利」と「止める権利」の両方を与えたほうがいいと思っています。

どういうことかというと、なにか新しいことをやっていいよ、どんどんやろうよというのは大事なのですが、始めた責任があるとちょっと止めにくくなってしまう。引き下がれなくなってしまうことがあるので、「つらくなったらいつでもやめていいから。チームに回せるのであれば回していいし、それができないのだったら、もう事業としてストップしよう」と話をしています。そのようなかたちで、チームに対しての裁量権を与えているわけです。

あとはマネジメントですね。管理のためのマネジメントをやめました。最初から自己管理・自己組織化したいというのと、私がタスクマネジメントをしたくないからという理由があります。私もいろいろな仕事をやっているので、全員のタスクマネジメントをやっていたら時間が足りません。自分たちで作るというのをきちんとやっています。

「すべての情報を開示して隠さない」ということもやっています。人件費以外の情報はすべて包み隠さず伝えています。派遣やパートナーが売上の情報を細かく見ていなかったりするんですよ。そこは開示して、みんなで事業に向き合うようにしています。そうすると、自分たちでやることを考えて、事業としてどうするのか、と自分たちでコミットすることができるようになるわけです。

お金のこと、組織のこと、事業のこと、それら全部に真摯に向き合い、「私たちはどうしたいんだっけ?」という話をします。最初はつらいです。今まで指示が与えられて、「やって」「はい、やります」と言ってきた人たちに、「自分たちで考えてください」「仕事を作ってください」と伝えるわけですから。すごく苦痛だと思います。そこは並走してあげて「みんなでやりましょう」と話します。

答えが出ないところにみんなで向かおうとしているから、「私も苦しむから一緒に苦しもうね」という感じですね。こういった方法で制約を乗り越えながら、事業でチームを食わせるということを意識していくわけです。

事業のためならばチームの壁は容易に乗り越えられる

何をやってきたかについて話します。まず、本業でチームとして稼げる状態にします。次に、私たちの新しい事業を作る時に、新規事業になりそうなものを探しては消してを繰り返します。プロダクトを作る時に、これはどうしようもないところなのかなと思っています。既存事業で食いつなぎつつ新しいネタを探したり、あとはさっさと新しいことを始めてユーザーに聞きにいったりします。

「使ってみてどうだった?」「これ売れそう?」とインタビューします。そういったことをすぐにやり、1ヶ月に1事業ぐらいのスピードで新しいものを作って、「どう? これダメかな?」と、作っては消して作っては消してを繰り返します。

そうしていく中で、やはり自分たちだけだと限界があるんですよね。ですので、事業のためだったらチームの壁は容易に越えられると思っています。わからないことしかないんですよ。なので、自分たちで考えていてもしょうがないので、知っている人を探したり、わからないことを秒で聞きに行ったり、周りのチームに話を積極的に聞きに行ったりします。あとは、周りのチームも事業として稼いでいる人たちばかりですので、「自分たちはこういうところが得意です」と発信します。

例えば、アジャイルコーチングの領域だったり、ブランディング・マーケティングは、発信力という部分で私たちのチームは強いと思っていたので、そういった部分が苦手な人に対して「じゃあ私たちが肩代わりするので、ちょっとここを手伝ってくれない?」という感じで、win-winの関係を作りながらやってきました。

手法にはこだわらず、ふりかえりの中でいっぱい話すことが大事

そうして、ここまで私が話してきた内容をふりかえりの中で話すんです。「事業としてどう?」「チームとしてどう?」「組織としてどう?」とみんなで話し合います。これは私が『ふりかえりガイドブック』の中で提唱している、ふりかえりの3つの目的です。まず「立ち止まる」こと、次が「チームの成長を加速させる」こと、3つ目が「プロセスの改善」です。

『スクラムガイド』だと「プロセスを改善しましょう」ということが書いてあると思うのですが、そこより前なんですよね。もっと前の、きちんと立ち止まってチームの成長を加速させて事業につなげていく・事業を作るというところなので、(スライドを示して)この1と2を最重要視しながらふりかえりをします。

手法にはこだわりません。話せばいいんです。「これは今どうなっている?」「どう思っている?」「ゴールについてどう?」などを、例えば「ゴール、関係性、コミュニケーション、コラボレーションはチームの中でどうかな? 事業の中でどうかな?」と話します。時間も2日間しかないので、インセプションデッキのために1日取ろうとかはなかなかできなかったです。

「じゃあ、ふりかえりの中でやればいいじゃん」ということで、ふりかえりの中でインセプションデッキやチームビルディングをします。私はふりかえりをいろいろなことに使っていいと思っています。こうやって、ちょっとずつふりかえりをしながら話をいっぱいすることによって、私は事業としてこうしたい、個人としてこう成長したい、キャリアとしてこうしたいという個々人の価値観がわかっていきます。

チームには事業にかける思いも共有することで一体感が生まれて、これから加速していくわけです。土台としてまずはふりかえりがあって、ふりかえりの中でいっぱいいろいろなことを話しましょうと。これは、手法は関係ないですよねというお話です。

(次回へつづく)

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