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佐々木真氏に聞く「PMスクール」「PM Club」に込めた想い(全3記事)

「アメリカのPM界の成熟度が10だとすると日本は2」 PM Club主催者、佐々木真氏が “PMスキルの定義付けと言語化”に挑戦する理由

ITを活用したプロダクト開発の重要性があらゆる業界で増していく中、活躍の場がどんどん広がっていくと予想されているプロダクトマネージャー。一方で、海外と比較するとプロダクト開発を体系的に学べる場は少ないのも現状です。 そこで今回は、「PM Club」「PMスクール」の主催者である佐々木真様にインタビュー。コミュニティを立ち上げた理由、そこで実現したいことをおうかがいしました。全3記事。2回目は、日本のPM界の成熟度について。前回はこちら。

プロダクトマネージャー用コミュニティ「PM Club」を立ち上げた理由

ーープロダクトマネージャーとして活躍する中で、どういうところに難しさを感じられましたか?

佐々木真氏(以下、佐々木):僕は大学で経営学や情報工学を学んでいたわけではなくて、事業開発とプロダクトマネジメントは仕事をしながら学び、完全に独学でした。先ほど相手の立場がわからないと言語化できないと言いましたが、相手の立場に立つためには1回やってみる以外に、方法がないんですよね。例えば僕は、新卒の1年目でRuby on Railsを写経して書いたりしていました。

あとは、今はSwiftという言語になりましたが、当時はObjective-Cという言語を書いたりしていました。エンジニアでなくてもプログラムを書いてみると、エンジニアがどういうことをやっているのか、なんとなくイメージが湧くんですよ。

技術力がなくても、なんとなくこういうことをやっているんだとわかるんですよね。そうすると、こういうことをされると嫌がるんだな、とわかってくるんですよね。例えばデザイナーだと、コンセプトカラーはあとから変えたら取り返しがつかないとか、それを基に他の配色を決めるので、まずここを絶対に決めないといけないとか。

エンジニアリングだと、サイトのボタンを1個作ることと、データベースの設計を変えることはぜんぜん違う重さです。この違いがわからなくて、同じようにフラットに依頼すると「お前ふざけんなよ!」みたいな感じで、メチャクチャイラっとされるんですよね。

そういう“イヤになるポイント”は、やはりやらないとわからないんですよね。相手のことがわからないから具体的にイメージができず、解像度が粗い状況になります。それを防ぐためには、自分でやってみるしかなくて、やってみること以外に相手に寄り添う方法は、基本的にはないと思うんです。

そういった意味で、大学で現状プロダクトマネジメントを含めて学ぶ人はほとんどいないし、人生においても学ぶ機会はほとんどないと思います。日本には、知見やノウハウが出回っていないですよね。そういったこともあって、プロダクトマネージャー用コミュニティの「PM Club」を立ち上げたんです。

プロダクトマネージャー界の成熟度、アメリカは「10」日本は「2」

ーー「人生において学ぶ機会がなかなかない」というお話がありましたが、それは日本においてという意味でしょうか?

佐々木:おっしゃるとおり、日本においてです。

ーーでは、海外に比べて現在の日本のプロダクトマネージャー界の成熟度はどのくらいなのでしょうか?

佐々木:わかりやすくするためにアメリカと比較した時、アメリカを「10」だとしたら日本は「2」ぐらいですね。かなり低いと思ってもらったほうがいいですね。

ーーなぜそこまでの差がついているのでしょうか?

佐々木:2つの側面で考えられるかなと思っています。1つが市場全体の認知度と、成熟です。アメリカでプロダクトマネジメントと呼ばれるものが出始めたのは、だいたい10年か15年前なんですが、日本だと5年ぐらい前なんですよ。単純に倍以上遅れているので、やはり認知が正しくないんですよね。

今の転職市場でプロダクトマネージャーは、「やる人がいない仕事を全部拾う人」だったり、「事業計画を作る人」だったりになっているんですが、事業計画を作るのは事業開発という別の仕事なんですよ。やる人がいないし、プロダクト=事業となっていてそれを考えられる人が他にいないから、ということでやらされることが多いですが、厳密にはプロダクトマネージャーには振っちゃいけない仕事なんですよね。

実際に、例えばGoogleではプロダクトマネージャーに「事業計画を作れ」とは絶対に言わないです。それが日本だと普通に見かけることがあるので、市場が未成熟であるというのが、1つあります。

もう1つは、先ほど言ったように学ぶ機会がないというところです。

日本に2点をつけた理由として一番大きいのは、自分が2点だとして5点に上げようとした時に、方法がないということです。僕に最近取材の依頼がきたり、呼ばれることが多いのは、こういったことを発信している人がほとんどいないからです。

あとは言語化ができる人があまりいないというところもあります。例えばGoogle、FacebookのMeta社、Appleはプロダクトマネージャーという括りでまとめていなくて、ジュニア、アソシエイト、ミドル、シニア、VPoP(Vice President of Product)、CPO(Chief Product Officer)など、全部キャリアごとに分かれているんですよね。

何を求められるかが全部決められているんですが、日本は全部プロダクトマネージャーと呼ばれて非常に解像度が荒いまま仕事が進められているんですよね。これはけっこう乱暴な話です。ジュニアもシニアもプロダクトマネージャーと言われちゃうので、その人にどのくらい期待していいのかがわかず定義付けができていないんですよね。

これはアメリカではぜんぜん違います。例えば弁護士と同じように、階級が分かれています。日本にはプロダクトマネージャーという一言しかない時点で、未成熟さを表しているんですね。

プロダクトマネージャースキルの定義を言語化する「PM School」

佐々木:そこをなんとかしたいなと思って「PM School」を作りました。PM Schoolですごく大事にしているのは、プロダクトマネージャーのスキルの定義です。

このくらいの経験がこのくらいあったらあなたはシニアですよとか、あなたはミドルですよとか、そういう定義をすることによって、「あなたはジュニアだからまずはミドルを目指しましょうね」みたいな話がしやすくなります。当然のことながら、いきなりシニアにはいけないじゃないですか。定義があれば、まずはそれを刻んでいきましょうね、という階段にできるんですが、その議論が他のスクールだと一切できないんですよ。

なぜなら、それを言語化できる人がいないから。僕も今事業を作っていて思うんですが、これを言語化するのはものすごく大変です(笑)。日本ではまだほとんど誰もやっていないですし、それを事業にしている人はおそらく誰もいないでしょう。

例えばアメリカには、プロダクトスクールという、プロダクトマネジメントを学ぶ大手のスクールがあるんですね。そこ以外にも、いくつもあります。ITが盛んな東南アジアやインドネシアにもかなりあります。プロダクトマネジメントを学ぶスクールは、実は海外にはあるんですが日本だけすっぽりとないんですよ。

この状況をなんとかしたいなと思っています。そしてプロダクトマネージャーを育てるコンテンツが作れないというのは、作る人がいない、作れる人がいないというのもあると思うんですが、もう1つの定義付けができていない、言語化ができていないところがやはり大きな課題なので、僕は今これにチャレンジしています。そして、スキル定義と学ぶコンテンツの両方を揃えたサービスとしてPM Schoolはきっとお役に立てるはず。

市場の成熟と学ぶ機会の2つがあったら、基本的にはやる気さえあればできるはずなんですよね。なので、まずは最初の一歩を踏み出すために、PM Schoolというものを作りたいと思っています。

プロダクトマネジメントの概念が育ちにくい日本のベンダー文化

ーーアメリカだとプロダクトマネージャーが階級ごとに分かれていて、日本ではそれがまだできていないというお話でしたが、できていない原因は何でしょうか? IT業界において何か課題があるのでしょうか?

佐々木:アメリカのシリコンバレーと呼ばれているところからSaaSが流行ったりしたのですが、そこから日本に伝わってくるまでには、やはりタイムラグがあるんですよね。昔は10年と言われていたのが今は5年ぐらいになって、短くはなってきているんですが、やはり多少はまだラグがあります。

あとは、日本はちょっと特殊なんですよ。例えばベンダー文化、外注文化が強いんですよね。アメリカなどは自社内製文化が強いんですよ。例えば最近でいうと、デジタル庁が外注先のコンペでいろいろやっていたりして、日本だとああいうのが普通なんですが、アメリカではまず内製化を考えるので、最初から外注ありきで進めることはあまりやらないんですよ。

アメリカはインハウスでエンジニアを抱えるのが普通なんですが、日本は発注する側も要件を握っていない人が多いから、外注に丸投げしちゃうんですね。そうすると、誰も仕様がわかっていないけれど、不思議と動く箱ができるんですよ。それもベンダーを変えたら一巻の終わり。

そういうことがあるので、なかなかプロダクトマネジメントという概念が育たなかったと思うんですよね。ただ、さすがにそれも限界だよね、と。これだけソフトウェアが事業、企業価値において差別化要因になるにもかかわらず、それをしっかりと把握している人が誰もいないというのは「さすがにやばくない?」とやっと気づき始めたというところがあるんですよね。それがちょうど5年ぐらい前ですね。

特殊なITベンダー文化やSIerと呼ばれる文化が、けっこう日本は強いんですよね。それが原因だなと僕は思っています。

あとは、それこそアメリカと比べた時に思うのが、向こうでは情報工学などを大学で専攻することが当たり前なんですけど、日本はそのあたりの認識がないんですよね。大学の教育自体も実践的なものにつながるものに人気がなかったり、日本だと若干オタクな人が学ぶイメージがあるじゃないですか。

向こうは超学歴社会なので、修士を取っていないとGoogleのエンジニアになれませんとかが当たり前なんですよね。ですが日本では、良くも悪くもそれがないので、勉強するモチベーションがあまりないんじゃないかと思うんです。教育制度自体もそうですし、そういうところもあって学ぶ機会があまりありません。

コードを書くスキル≠人が欲しがるものを作れるスキル

ーーでは、ちょっと語弊があるかもしれませんが、日本が今後世界と戦っていく上ではやはりプロダクトマネージャー界隈を成熟させていくことが必須になっていくのでしょうか。

佐々木:それは本当にそう思います。最近エンジニア養成スクールが増えているじゃないですか。僕はすごく良いことだと思うんですよ。エンジニアになりたい人が、未経験でもエンジニアになれる。これはすごく良いことだなと思っている反面、「コードは書けるけれど、何を作ったらいいのかがわかりません」と言う人が増えているんですよ。

コードが書けることと、人が欲しがるものを作れるというのは、ぜんぜんイコールじゃないんですよね。「自分1人で趣味でサービスを作る」だったら、誰にも認めてもらう必要がないからぜんぜんいいんですよ。だけどそれをビジネスにするとか、プロダクトにするとなった時には、やはりお客さまが欲しいものを作る必要があるんですよね。

欲しくなければ、お金は払わないじゃないですか。お客さまが欲しいものを考える人が必要だよねというので、それはどうやらコードを書くスキルとは違うらしいということに、みんなが気づき始めてはいるんですが、ただどうしたらいいのかがわからないというのが現状なんです。

(次回へつづく)

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