CTOやEMの人が思う、理想の組織と現実のギャップ

屋代昌也氏(以下、屋代):ほぐれてきたところで次のトークトピックに移ろうと思います。次のトークトピックは、「CTOやEMの人が思う、理想の組織と現実のギャップとは」です。事前にみなさんに回答をもらっています。そこに対して質問したいことももらっていたので、まずはみてねさんの話をうかがいたいと思います。

酒井篤氏(以下、酒井):理想の組織は、単一責務の原則を当てはめて考えます。自分はプログラミングをする時とあまり変わらない脳の使い方をしていて、プログラミングをする時には単一責務の原則を意識しています。

理想的には、1人のメンバーや1つのチームがあまりたくさんの役割を持たずに、シンプルな目標の中で邁進していくのが一番やりやすいと思っています。しかし、それにはたぶん人が無限に必要だし、本当に線引きできない仕事がたくさんあるので、その中でどううまくやっていくのかが現実だと思っています。

今、現実的には「1つのチームに複数の役割があって、半分の人はこういうことをやっているし、もう半分の人はこういうことをやっている」という属人化が起きています。

属人化を防ぐためにみんなが2つずつ何かをやると、普通にコンテキストスイッチが起きます。そういったことを踏まえて、どのあたりでもう1回チームわけをするか、常に葛藤している状況です。

組織の拡大に伴って人の価値や動き方はどう変わっていったか

上赤一馬氏(以下、上赤):重ねて質問です。そこに対してもわりと興味があって、ベンチャーの初期は間に落ちるものを何でも拾ってくれる人が非常に助かります。先ほど酒井さんが言っていたとおり、「自分の役割はiOSなんだけど、APIのここはイケていないから今だけやらせてくれ」という、ある意味で自分の聖域を少し超えた行動をしてくれる人はすごいパワーがあって助かると思っています。

酒井:そうですね。

上赤:一方で、組織が大きくなってくると、線引きを明確にして「お前はこのタスクに集中」という動き方もあったほうがいいと思います。そのあたりは塩梅です。酒井さんはずっとみてねにいたと思いますが、グラデーションをどのようにつけていったのか、人の価値や動き方がどう変わっていったのかをうかがいたいと思っていました。

酒井:人を評価する時に領域を超えることはすごく大事なことだと思うし、その人の成長にもつながることだと思います。例えば、こぼれ球のような案件を拾って課題を解決してくれる人を称賛・評価をするのはその1つです。そういう思いで向き合っています。

一方で、組織として成長していくためには、そのこぼれ球を拾って対応してくれた内容が重要です。例えば、それが根本的に修正されているのか、問題が起きないように修正されているのか。それとも、言い方がメチャクチャ悪いですが、その場しのぎで対応してくれたのか。組織としてはどちらが重要かだと思います。やはり組織としては、根本的に問題が起きなくなることのほうが重要だと思います。

ただ、根本的に問題が起きなくするためには、時間も専門知識も必要です。やはりそこには必要なチームがあるだろうし、役割をしっかり定義すべきだとは思っています。なので、領域を超えていろいろやってくれる人に対してはすごく感謝するし評価もするしちゃんと報いますが、そこは問題を切りわけて考えています。人と組織は切り分けて考えている感じです。

上赤:なるほど。先ほどのトリさんの話の中に「APIはイケていないと思うんだけど、APIチームがやってくれない」というフラストレーションについての話題がありました。それは要するに、「こういうことはありがたいけど、APIチームとアプリチームとの認識が合っていないところには問題がある」という話に近いですかね。

酒井:そうですね。

組織間でのフラストレーションや価値観の違い

上赤:トリさんのほうでも、組織間でのフラストレーションや価値観の違いなどについて、今何か課題として上がっていることはありますか?

原トリ氏(以下、トリ):エンジニアリング組織でいうと「チームを割りたーい!」という状態です。人数が増えてきて意思決定のスピードは遅くなるし、エンジニアリングマネージャーにとってもピープルマネジメント寄りのオーバーヘッドが大きくなるので、やはりチームを割ってクイックに動けるチーム状態を作りたいです。価値観の問題というところまではいっていない気はします。

屋代:なるほど。ではその話でいうと、上赤さんはこれから作っていくにあたって、何か考えていることはあるのでしょうか?

上赤:大目標が統一されているといいと思っています。領域を超えたものを拾うのにあたっても、どういう価値観で動いているのか、その根本の部分がみんなそろっていると一番いいです。プロダクト組織において、みんなが良いプロダクトを作る意識を共通で持っていて、そのためにみんなが動く状態が作れていればいいと思っています。

それを踏まえて、やはりプロダクトチームの大目標ですよね。「機能開発はこのようなものをやっていきたい」「最終的にこういうものを作りたい」などのビジョンが、全メンバーにうまく共有されていること。会社的にやってほしいこととメンバーがやりたいことが一致していて、メンバーがやりたいことをやった結果、すごく良いものができたというのが、理想としては一番いいと思っています。

一方で、現実としては、ロードマップやプロダクトの像を共有し続けることはなかなか難しいです。特に新規メンバーが入ってきた時、いちから全部抜き出して共有していく仕組みは、まだまったく作れていません。

そういった意味では、プロダクトチームの全体像を共有することはぜんぜんできていないし、課題が多いと思います。

EMもしくはCTOになるならどうしたらいいか

屋代:次のトピックに移ろうと思います。ちょっと個人的な話ですが、次のトピックが技術的な負債の話で、けっこう技術的な話になってくるので、1回飛ばしてその次の話に移ろうと思うのですが、いかがでしょうか?

トリ:僕はぜんぜん大丈夫です。

酒井:いいと思います。

上赤:お任せします。

屋代:じゃあ技術的な負債の話は1回飛ばして、時間が余ったらやりましょう。たぶんリスナーさんはこちらのほうが気になるのではないかと思うので、先にこちらのトピックに移りたいと思います。

次のトピックは「EM(Engineering Manager)になるためにはどうしたらいいか」。「EMもしくはCTOになるなら」です。私もすごく聞きたいです。じゃあ、最近CTOになったトリさん、何かありますか?

Tori:僕はEMと働いたことはあるのですが、EMを務めたことはなくて……。どうしたらいいんですかね?(笑)。

(一同笑)

当時のカミナシに「CTOの候補として働いてくれる人を探しています」と声をかけてもらいました。ちょっとやってみて「いけそうね」と就任したのですが、「やはりこれは俺の仕事じゃない」という人はCTOに向いていないと思います。入社してから「CTOをナメてたなー」と反省するシーンがメチャクチャ多いです。

「なんじゃこの面倒くさい仕事は」ということが大量に無限に湧いてきます。それがおもしろいと感じる人もいるかもしれませんが、僕は生まれてこの方ありません。社会人になってからカミナシに入るまで、IC・プレイヤーとしてしか働いたことがなかったので……。びっくりぽんな感じです。

今、CTOとして働きながら、カミナシにもともといたEMの人と一緒に仕事をしています。チームの生産性を上げ、成果を最大化するために、何がボトルネックになっているかを、IC(Individual Contributor)のメンバーより高い視座で常に考えてくれているEMがいると、組織はすごく良い方向に向かっていくだろうと実感しています。

そのようなEMが何人もいてくれたら、組織は健全に拡大できる感触があります。感想のようですみません(笑)。

屋代:では、実際にMIXIでみてねのEMに就任した酒井さんは、どのようなイメージを抱いていますか?

酒井:今トリさんが言ったようなことですか?

屋代:そうですね。

酒井:基本的には合っているというか、自分も同じことを考えています。CTOとEMの役割はわりと同じで、被っている部分も多いと思っています。チームにおけるリーダーなので、わりと泥臭い仕事がたくさんあります。「本当にこれを僕がやるのだろうか」という仕事が積まれていきます。

ただやはり、そういうものの中には課題がたくさんあります。ですから、それを単にこなしていくのではなくて、一つひとつの問題がどのような文脈で生まれ、それを解決することによってどこに影響するのか。抽象的な話ですが、文脈をちゃんとつかめる人がマネージャーにはすごく向いていると思います。

情報量が多い中で何が起きているのかを把握しないといけないので、Slackのログやいろいろなドキュメントをメチャクチャ読みます。ソースコードは、人を評価する時に読むことが多いです。話がAからBに流れていく時にどのようなプログラムが書かれていたのかも、やはり読み込まなければわからない部分があるので、コードを読む能力も当然必要にはなってきます。

読み取れないところに関しては、1on1をしながら人との会話で解決していくこともあります。僕もEMをメチャクチャやっているわけではないのですが、文脈を読み取る能力は数年やっている中で得られた感じがします。

追加で1つ言うと、自分自身ができることとできないことはやはりあります。EMがすごくプレッシャーの大きいポジションであるのは確実なので、できないことや自分がコントロールできないことは、自分のせいにせずに組織とか制度のせいにする気持ちはずっとあります。その組織や制度を、いかに良くしていくかに注力するといいと思っています。

例えば、メンバーが退職してしまうことは時々起きますが、あれでけっこう責任を感じてしまうマネージャーもいると思います。僕も責任を感じるのですが、感じすぎないことがけっこう重要だと思っています。なぜその人は辞めたのか、辞めないために制度や組織の状態をどうするべきだったのかと頭を切り替えられる人。CTOやマネージャーという職業は、自分を棚上げすることはすごく重要だと思っています。

プレイヤー適性とEM適性は絶対に違う

屋代:話はちょっと変わりますが、つい最近、弊社にもEMが1人就任しました。そのあたりも含めて、上赤さんはEMに対してどういった考えがありますか?

上赤:最初、弊社は2人で、それが徐々に大きくなっていった感じなので、EMの理想像はまだ固まっていないフェーズだと思っています。一方で、弊社でEM候補などを選定する時は、メンバーとして理想的なことをしている人が、その意思決定にやはり入りがちだと思います。

酒井さんやトリさんの話をうかがっていると、プレイヤー適性とEM適性は違うものという雰囲気を感じました。そういった意味で、EMの候補を選定する時は、プレイヤーとしてのパフォーマンスとはまったく別の評価軸で選ぶものなのか、そのあたりに興味があります。酒井さんやトリさんがどう考えているのかうかがいたいです。

酒井:適性は絶対に違うと思います。ICの人とEMの人。ICというか、EMになる適性がある人はいると思います。それが何かと聞かれても今は言語化できませんが、もともとプロジェクトやチーム、組織において、ある程度リーダーシップを取っている人はいます。

上赤:そうですね。

酒井:それがもう外に見えている状態の人はいるので、そういう人とマネジメントのキャリアについて話をすることはわりと継続的にやってきました。その中からマネージャーになってくれた人ももちろんいます。

上赤:なるほど。確かに弊社のEMも、EM就任前からプロダクトの改善などに関してはけっこうリードしてくれていました。そういった意味では、常にリーダーっぽい動きをしていたというのはわかりやすいです。

上赤:トリさんはどうですか? どんな人がEMになったらいいでしょうか?

Tori:プレイヤーとしてすごく成果を出している人は、プレイヤーとして仕事をしたほうがいいと僕は思っています。ICやプレイヤーとして優れた動きができている、成果を出せている人をマネージャー職に据えたくなるのは、その成果によってチームメンバーから信頼されているからだと思います。

信頼はすごく大事です。技術であってもプライベートであっても、何かあった時に相談できる相手。僕の過去の職場にもプライベートなことまで相談できるマネージャーがいました。そういう意味で信頼は大事で、プレイヤーとして成果を出していると一定の信頼がある状態なので、反対意見もなくマネージャーに据えやすくなります。

でも本当は、そのプレイヤーの人はプレイヤーのまま動いてもらったほうがチームとしての成果は高かったかもしれない。EMの役割や責務は全組織で同じでなければいけないとは別に思っていなくて、あるチームでは技術的にリードする素養があるEMがいたり、あるチームでは本当にプロのピープルマネジメントのような人がいたり。

プロのピープルマネジメントのEMにもしスキルが足りないのであれば、ICとしてシニアなレベルにあるメンバーが技術面では引っ張っていく。そのようなモデルも僕はありだと思っています。答えが欲しくなるけど、一律でバシッと決められる答えはたぶんないだろうと現時点では思っています。

屋代:確かに。リーダー像は人によって違うといいます。まだいろいろ質問があると思いますが、時間がなかなか厳しいところがあるので。

上赤:だいぶ(笑)。

屋代:どうしても質問したいというものがなければ、次のトピックに移って質疑応答に移ろうと思うのですが。

上赤:大丈夫です。

屋代:よろしいでしょうか?

一同:はい。

各社のネクストフェーズ

屋代:最後のトピックに移ります。宣伝半分になってしまうと思いつつも、「自社のネクストフェーズについて一言」。そして、「今後どのような人を採用していきたいか、入ってきてほしいか」です。では、株式会社Globeeの上赤さんからよろしくお願いします。

上赤:はい。ネクストフェーズに関して。弊社のabceedというサービスは、今までTOEIC®︎や英検®︎の領域でやってきていて、そこではけっこういいものが作れたと思っています。一方で、我々のミッションは「個人の可能性を最大化する」ですので、それを考えると英会話領域は必須だと思っています。

あとは、学習とエンタメの融合をやはりやっていきたいです。そういった意味で、もっと規模の大きいサービスにしていきたいと思っています。なので、プロダクトチームとしては「これが自分の代表作だ!」「abceedが自分の代表作だ!」と全メンバーが自信を持って言えるように、もっと良いものにしていきたいと思っています。

どんな人に入社してほしいかは先ほど言ったとおりで、abceedを自分の代表作にするぞという思いが強い人が集まってくれると非常に楽しいと思っています。チーム開発なので、もちろん他の人への尊敬の心も重要だと思っています。技術的にいうと、やはりレガシーコードをどのようにチーム開発に移していくかがかなり求められています。

価値提供と負債返済のバランスがちょっと難しいフェーズです。「ここは今は許す」というバランスを取った意思決定も必要になってくるとは思うので、そのあたりのバランス感覚があるとよりうれしいです。

屋代:続きまして、株式会社MIXI みてね事業部 酒井さん……は、最後にしようかな。

酒井篤氏(以下、酒井):え?

(一同笑)

屋代:じゃあ、株式会社カミナシのトリさん、よろしくお願いします。

Tori Hara氏(以下、Tori):はい。カミナシですね。今日はどこまでしゃべって良いかを社内で確認せずに来たので、フワッとした感じになってしまいます。すみません。

単一のプロダクトでサービスローンチしてから2年間やってきて、売り上げ規模としてもすごい勢いで伸びています。スタートアップの中でもユニコーンの領域に入る企業の初速と同じスタートで、この1年ビジネスが伸びてきています。

ここからさらに加速させていくために重要なのが、ネクストフェーズとしての新しいプロダクトです。今のプロダクトを伸ばしつつ、新しいプロダクトのアイデアが具体的なものからぼんやりしたものまでいろいろあるので、マルチプロダクト化と合わせてさらにビジネス組織を拡大していこうとしています。

そんな中でエンジニアリング組織が今何にフォーカスしているかというと、息切れしないことです。2年半全力で走りすぎて息切れしている部分が、組織にもシステムにもやはりあります。中長期の視点を持って、サステナブルで筋肉質な技術組織として生まれ変わるために、今は膿をいっぱい出そうとがんばっているところです。たぶん、この半年はそういう感じになります。

どのような人に来てもらいたいかというと、もちろん優秀なソフトウェアエンジニアにたくさん来てほしいです。やはりオーナーシップが強い人、プロダクトを良くしていくのは自分だという強い気持ちを持って取り組める人。

それから、先ほど酒井さんの話の中に「退職があった時に、自分の資質や素質を疑うのではなく、組織や制度を疑って改善するマインドが大切」という話がありました。そもそも、ゲームそのものを変えることでシンプルにガッと解決できる問題はいっぱいあるはずです。なので、そのような姿勢の人も僕は大好きです。

ロールの面でも能力の面でも自分の限界を自分で決めず、チャレンジを諦めず、「日々、俺は限界を伸ばしていくんだぜ」と(いう人)。そのような人が僕は大好きなので、そういった人と一緒にワイワイやりたいと思っています。

屋代:限界を超える人はステキです。先ほど、後回しにしてしまった……。

酒井:緊張しますね。

(一同笑)

屋代:株式会社MIXI みてね事業部の酒井さん、よろしくお願いします。

酒井:ネクストフェーズということですが、ネクストのより先を見据えた時に、国外のユーザーが1/3ぐらいと先ほど話しましたが、それだとぜんぜん規模感は小さいです。国内に対して、国外が10倍ぐらいいるユーザー規模を想像しています。マーケット的にも可能だと思っているので、そういう状態にしたいと思っています。

そうなるためには何が必要か逆算していくと、やはりいっぱい投資しなければいけないと思っています。マーケティングもそうだし、開発もそうだし、投資をどんどんしていく必要性があると思っていて、そのためにはより収益が必要なフェーズです。

収益を拡大して、その投資ができる状態をどんどん広げていこうというのが、僕たちが思っているネクストフェーズだと定義しています。

その中でどのような人に来てほしいかというと、狙うのはやはり世界展開なので、いろいろな考え方を持った人に来てもらいたいです。そうでないと、たぶんどこかで立ち行かなくなると思っています。

同じ考えを持っている人たちだけが集まっても、広がっていく世界はあまり作れません。「どのような人と働きたいか」と聞かれると、僕はいつも「どのような人とでも働きたいです」と言います。なので、基本的にお互いを尊敬したり、謙虚に物事を運んだり、あとは信頼し合える関係性を作ったりが最低限できる人であれば(いいです)。

もちろんスキルの部分もあるとは思いますが、それは求める水準を最低限超えてさえいれば、どのようなバックグラウンドの人とでも基本的には働きたいと思っています。どのような人でも成果が出せるような組織を作っていかないと組織の規模も拡大できないと思うので、いろいろな人と働きたいです。

カルチャーがマッチする人だけというより、カルチャーを新しく入れてくれる人が重要だと思っています。「組織がポジティブな方向に変わることが直感的に感じられる人」を今は大事にして、採用や選考に取り組んでいます。同じような匂いを持つ人より、その人が新しく入って来た時の変わり方をすごく重要視しています。以上です。

屋代:ひととおりパネルテーマによるトークは終わりました。ありがとうございました。