優秀なプロダクトマネージャーの不在は、チームに「3つの欠如」をもたらす
――プロフェッショナルなプロダクトマネージャーと言った時に、森山さんは何を想像しますか?
森山:優秀なプロダクトマネージャーがいないと、開発プロジェクトがどうなってしまうのかをイメージしてみましょうか。
まず、最初に何が起きるのかというと「Visibilityの欠如」です。
優秀なプロダクトマネージャーがいないと、開発チームが何をやっているのかよくわからなくなってくるんですよ。経営や他の部署から見た時にブラックボックス化してしまって、そのチームが何をやっていて、いつ、どんなものを出してくるのかが見えなくなります。どのくらいのコストを何にかけたのか、どういう成果が得られるかもわからないし、スケジュールもわからない。
この時チームの内部で何が起きているかというと、エンジニアたちが各々に作りたいものを作っていたりします。
経営目線で見た時のVisibilityも下がるし、逆に、その開発チームから見た時の経営に対するVisibilityも同様に下がるので、会社が何を重視しているのか、温度感がわからない。
チームがどこに向かっているのか、何に貢献しているのかもわからないので、メンバーがシラけたり、もっと酷くなると「あのチームは、いったい何をやっているの?」と相互不信になります。一定規模の開発組織に優秀なプロダクトマネージャーが不在なままだと、そういったことが容易に起こるんですよ。
例えば、数年前、AIがバズワードだった時期に、経営から「AIを使った業務改善を推進して欲しい」というオーダーが降って来るケースがあって。
でも、当時は経営も含めて社内の人材のほとんどは、Machine Learningを扱えるエンジニアが何を言っているのかわからず、途方に暮れたはずです。
そこに優秀なプロダクトマネージャーがいたら、インターネットに関わる技術用語だけでなく、アカデミックな領域の概念を、きちんとビジネスの現場とつなげて翻訳できるので、結果的にチームが開発したものが何に寄与したのか明確になったはずです。
これが僕が言う「Visibility」です。
優秀なプロダクトマネージャーがいないと失われる要素の2個目が、「Autonomy」です。要は、開発チームに所属するエンジニアが、自律的に動けているかどうかです。チームにプロダクトマネージャーがいたとしても、真にプロフェッショナルでない場合、全部自分で決めたがったり、自分でなんでもコントロールしたがったりするんですよ。
本来ならエンジニアに任せるべきところを、自分で抱え込んだり、エンジニアが自分を飛び越えて別の部署とコミュニケーションするのを嫌がったり。
でも、大事なことは、経営課題の解決のために、プロダクトマネージャーだけでなく、エンジニアたちも自らアイデアを起案して、それがスピーディに試されていくことなんですよ。
情報を極力オープンにしてフラットな状態にしつつ、経営がエンジニアが何のために何をやっているのかよくわかると同時に、エンジニアも経営のことが見えていて、自律的に改善に向けて取り組んでいる状態。
これを僕は「Autonomyが高い」と呼んでいます。
これは、ガチガチにチームを成果に向けてマネジメントするのとは違うんですよ。
大事なことはおさえつつ、適度に判断をお任せできると、チームのVisibilityが高いだけでなく、エンジニアたちも自律的に動いてKPIを動かし始めます。緊張感がありつつ、楽しく問題解決に没頭できる、Autonomyの高い開発チームを作れるプロダクトマネージャーは、真にプロフェッショナルだと思いますね。
そして、優秀なプロダクトマネージャーが開発チームにもたらす3つめが「Discovery」、すなわち「発見」です。
1つめの「Visibility」を担保し、2つめの「Autonomy」まで開発チームにもたらすことができても、チームが必ず陥るのが「部分最適」「過剰最適」です。
今ある枠の中で改善を積み重ねるのはもちろん素晴らしいのですが、実はまったく違うところにプロダクトを進化させる機会があるかもしれません。そこに、ふだんとは違う視点で提案して、開発チームに不確実性を持ち込んでいくのが「Discovery」ですね。
まとめると、プロフェッショナルなプロダクトマネージャーが活躍していたとして、その人が急にいなくなったら、最初にDiscoveryが失われて新しいことをやらなくなり、そのうちにAutonomyが暴走しはじめて制御できなくなり、Visibilityが失われてチームが何をやっているのかがわからなくなり、混沌とするんじゃないかなと思います。