今日のテーマは「PM vs スペシャリスト」

國司壮太郎氏(以下、國司):みなさん、こんにちは。

久松剛氏(以下、久松):こんにちは。

國司:10分で元気が出るエンジニアラジオ「エスプラジオ」。この番組は、エンジニアがSESで働くことの良さを再発見し、再創造して、明るく楽しく働ける未来を作りたい。そんな思いを掲げて運営している「SES Plus」の提供でお送りしています。

パーソナリティは、流しのエンジニアリングマネージャーこと久松剛さんと、現役SES人事である私、國司でお届けいたします。久松さん、よろしくお願いします。

久松:よろしくお願いします。

國司:先日、「那須川天心 対 武尊戦」の試合を見ていて、「あっ」と思ったんですけど、PM(プロダクトマネージャー)とスペシャリストが戦ったらどうなるかなと思ってですね。

久松:なるほど。

國司:戦うという話ではないと思うんですが、よくあるじゃないですか。PMとスペシャリスト、どっちがいいんですかみたいな。

久松:はい、ありますね。

國司:僕も面接の中で「将来はPMになりたいですか? スペシャリストになりたいですか?」と聞いたりするわけです。対立しているのかはわかりませんが、PM対スペシャリストの話をいろいろしたいなと思って。ぜひ、お願いします。

日本の企業に多いリーダーの次から2つの山に分かれていくパターン

久松:私もいろいろな組織から評価制度の相談をされるんですよ。企業にもよりますが、いわゆる営業職が強い会社。営業職から始まって、社長も営業上がりの人で、そこからなんとなく開発部門が芽吹いていったスタイルの会社。これが少なくない。特に日本には多いイメージです。

こういう会社からよく相談されるのは、一般的に営業職に準拠して評価をしているので、ヒラのメンバーから始まって、「この子はなんもできません」みたいなところから一人前になる。いわゆる、ジュニアからジュニアを脱した状態の一人前になって、その次にリーダーがあって、マネージャーがあって、シニアマネージャーがあって、部長、本部長、役員みたいなピラミッドができるのが、一般的な営業系の会社なんです。

特にマネージャー以上になった時に、できるスペシャリストをどう扱えばいいのかという問題にみなさん直面するんです。

國司:そうですね。

久松:例えば、マネジメントに興味はない、人にも興味がない、ほかの職種ともあまり会話をしたくないんだけど、ひたすら技術はできるので、事業にすごく貢献している人材が来た時、単一のピラミッドだと辞めるという話が出ちゃうので、そこでマネジメントコース、スペシャリストコースという2つの山を設ける。私がよく見るのは、リーダーの次くらいから2つの山に分かれていくパターンですね。

こういう設計をして落ち着くというケースが非常に多いのが、まず背景としてありますよね。

國司:ありますね。

久松:その上で、じゃあマネージャーとスペシャリストのどっちがいいのかになってきます。マネージャーも、プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー、エンジニアリングマネージャー、あと最近はVPoE (Vice President of Engineering))以外にもVPoT (VicePresident of Technology)とかいろいろあるんですよね。VPoP (Vice President of Product)もあります。なんかすごいことになっているんですけど。

そういう山や、スペシャリストではテックリードあるいはCTO、先ほどお話ししたVPoTなど、いろいろあります。

このへんは、周りに興味があるか、事業に興味があるか、人に興味があるかというところで、マネジメントコースかスペシャリストコースかに分かれるんだろうなと、とても感じていますね。

國司:なるほど、そういうことですね。

2つの専門性を持ち、つなぐ“免震構造型キャリア”

久松:その上で、スペシャリストのキャリアを選択するエンジニアはやはり少なくないんですが、これは私の経験からしてもかなり危ういと考えています。

私自身、20代の頃は大学で研究員などをやっていました。研究職って、スペシャリストの極みみたいな、あえてリサーチャーと分けるとしても、基本的に「この専門分野を信じて俺は突き進んでいくんだ」という人たちが集まっています。その人たちが長期にわたって食えるかというと、なかなか厳しいという例をもういくつも見かけました。

やはりITという分野では、例えば分子や生物、このあたりの人たちが取り組む課題と比べるとトレンド(の変化)が速すぎるんですよね。

國司:そういうことですよね。確かに。

久松:例えば、私の周りや周囲の研究室にはデータベースの研究などをやっている人たちがいたんですけど、これもデータベースの取り組むテーマに本当に需要があったらGoogleががんばるという話なんですよね(笑)。

あの人たちがすごい予算とものすごい人数をかけている時に、「僕、この研究テーマなんです」と大学院でこぢんまりと後輩たちの指導をしながら数名でやっていることなんて、すぐ消し飛んじゃうわけなんです。

なので、なかなかメインストリームになれなかったり、自分がコツコツやっている間にほかの潮流に行っちゃうみたいなことはITではよくある話でして。

そこで出てくるのが「T型人材」「Π型人材」の話で、特にΠ型が行くのはGoogleだったりするんですが、2つの専門性を持つことによって自分のキャリアに冗長化を持たせましょうという話があります。

2つの専門性を持っていて、それをつなぐかたちでやっておけば、片方が専門性を失っても大丈夫という話です。それに対して私がお勧めしているのは、免震構造型キャリアで、各地でお話をさせてもらっています。

國司:おもしろいですね、免震構造。

久松:ビルの免震構造のことで、ビルの建物があって、そこに床があって、その足元の部分にショックを吸収するゴムがついていたり、揺れを吸収するシステムになっていて、その下にまた土台があるという世界観です。

私がお勧めしているのは、一番下は基礎知識の部分で、コンピューターサイエンス的なものやインターネットのネットワークといった知識になるわけなんですが、その上に専門性を2つ持ちましょうと。これらの専門性は極力離れていることをお勧めしています。

例えば、フロントエンドの技術が2つあった場合、フロントエンドの業界そのものが転機を迎えた時に危うくなるので、せめてフロントエンドとサーバーサイドとか、インフラを足すといったかたちで、ちょっと離れたところに専門性を持っておきましょう。時流に合わせて、片方ずつでいいのでアップデートしていきましょうということをお勧めしています。

スペシャリストにも求められる「コミュニケーション能力」

久松:その上に乗っかってくるのが、特に他職種とのコミュニケーション能力です。

國司:なるほど、やはりコミュニケーションみたいなものが出てくるわけですね。

久松:そうですね。これは私がキャリアなどの問題に関わり始めた時に、お世話になった大学の先生の1人にエピソードとしていただいたことです。アメリカで博士号まで取って、今は日本の僕の古巣に教員として来ている人が言っていた事例です。

ある専門領域の人がいました。その専門領域の需要がとても高い時は、勝手にいろいろな人から呼ばれていたんです。需要もありました。その専門領域がなくなったというか、ほぼ需要がなくなった途端に誰もその人に話しかけなくなった。そして、そのまま彼はキャリアを追われていったという話です。

彼の専門性はなにかというと、穿孔テープだったんですね。磁気テープが主流になる前の紙に穴を開けてデータを記録していた媒体です。今はすっかりなくなりましたが、パンチングテープのスペシャリストがいたわけです。しかし需要がなくなり穿孔テープという単一の専門性が廃れた時に、一気に周りの誰も話しかけてくれなくなったそうです。

ほかに、まったくコミュニケーションを取らない孤高の専門家について教えてもらいました。その専門性の部分が流行っていた時は、やはりみんな「コミュニケーションしにくいな」と思いながらも、その人を頼って話しかけてくれていたのですが、その専門性の需要がなくなると、もう誰も話しかけなくなったというエピソードもあります。

やはりそこですよね。周りに話しかけなくても成立するのはその専門性のおかげという場合が、IT系の技術者には特にあります。

もう1つの観点では、特にフリーランスやSESの方は心当たりがあるかもしれませんが、エンジニアが発注する事例ってわりと少ないと思うんです。

國司:そうですね。

久松:誰かしらプロダクトの責任者がいて、その人が予算執行しています。表向きにはエンジニアが契約しているかもしれませんが、その背景にはこういうポジションがあってこういうスキルの人がいるから月額いくらくれという話があって発注をしているので、エンジニアで決裁権を持っている人はあまりいませんよね。

國司:確かに、確かに。

久松:そうなった時に、お金の出元になる人たちに対して自分の必要性や自分を指名してくれる理由を言っているわけです。話しかけやすさ、相談しやすさがないと、そのプロジェクトが終わって技術も終わったら「じゃあ、さよなら」となっちゃうので、他職種とのコミュニケーションはぜひ大切にしてもらいたいですね。

國司:なるほど、そうか。スペシャリストといえども、やはりコミュニケーションはしっかりと取っていく。コミュニケーションを取る、取らないみたいな「PM vs スペシャリスト」という対比じゃない感じですね。

久松:そうですね。どちらにも求められますね。

國司:そうじゃないと…なるほど。

久松:コミュニケーションを取らないプロジェクトマネージャーはだいぶ嫌ですけどね(笑)。

國司:そうですね(笑)。うまく進むかわかりませんね。

久松:スペシャリストにも求められるんですよね。

國司:なるほど、そうか。

需要がなくならないキャリア形成に必要な5つの要素

久松:私がさらにその上に提唱しているのが5つの要素です。「リーダーシップ」「マネジメント」、あるいはテックブログとかでもいいんですが「プレゼンテーションで自分のやっていることを外部に発表する」こと、「採用」「教育」、この5つの要素のうちいずれか2つ以上を身に付けておくと、需要がなくなりにくいキャリア形成ができるという話をさせてもらっています。

國司:なるほど、そういうことですね。

久松:スペシャリストコースであっても、自分のチームのチームビルディングができるとか、自分のスペシャリストたるゆえんをメンバーに展開できて教育ができるとか、その内容をテックブログとかいろいろなところで登壇して話せる人はかなり需要があると思うんです。

國司:なるほど、ありがとうございます。やはり「PM vs スペシャリスト」という対比ではなく、エンジニアとしてしっかり2つ以上の専門性を持って、その上にコミュニケーションがある。そしてその上に「リーダーシップ」「マネジメント」「プレゼンテーション」「採用」「教育」という要素があって、そのうち2つくらいはしっかりと持っておけば揺るがないキャリアを築けるかたちになっていくということですね。

久松:そうですね。世間的には70ぐらいまで働かないといけないらしいですからね。

國司:いや、そうですよね。僕もローンがちょうど70歳までありますし(笑)。しっかりと健康で働いていかなきゃいけないなと思いますからね。非常に勉強になりました。僕の元気が出てきましたね。ありがとうございます。がんばらなきゃな。

久松:はい、がんばりましょう。

國司:ありがとうございます。

では、今日は以上とさせていただきます。ありがとうございました。

久松:ありがとうございました。

國司:「エスプラジオ」は、毎週「SES Plus」と「Podcast」でアップする予定です。来週もSESを楽しみに明るい未来を語り尽くしていきますので、どうぞお楽しみに。ありがとうございました。

久松:ありがとうございました。