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[PdM x Engineer] ITメガベンチャーからスタートアップへのキャリア(全2記事)

「『GO』は社会課題解決の入口に過ぎない」「旅行業界の紙文化にDXの伸び代を感じる」 MoT・PM本部長×令和トラベルCTOが語る、両社が目指す未来

MoT PM本部長と令和トラベルCTOが、モビリティと旅行の社会課題とその技術について語る「PdM x Engineer ITメガベンチャーからスタートアップへのキャリア」。スタートアップで産業DXに挑戦するふたりが、キャリアや、お互いの組織について語り合いつつ、スタートアップ開発のリアルな声をお届けします。全2回。前半は、株式会社Mobility Technologies(以下、MoT)がモビリティのDXによって実現を目指す世界観と、株式会社令和トラベルCTOが語る、海外旅行業界の課題とその解決について。

コロナ禍でも右肩上がりのタクシーアプリ「GO」の配車数

麻柄翔太郎氏(以下、麻柄):お二人に、具体的に各社でどのような課題に向き合っているのか。そして、その中で課題に対してどのような手を打っていこうとしているのか。そこで取り組む意義についてもどんどん聞いていきたいなと思っています。

業界が違うので、それぞれのポイントは異なるかと思いますが、黒澤さんから最初にお聞きできればと思っています。

まず、コロナ禍でサービスに求められるものもけっこう変わってきているのかなと思うのですが、モビリティについてはこのあたりはいかがでしょうか?

黒澤隆由氏(以下、黒澤):このコロナ禍で人の移動が大きく制限されていたわけですが、そんな中でも「GO」の配車数はしっかり右肩上がりに増加しています。短期的には限られたお出かけの機会や人と会う貴重な時間をより安心安全、快適に過ごしたい、というトレンドやニーズがありますが、この手の利便性や快適性は不可逆だと思うんですよね。

自分自身もそうなんですが、こうした時代だからこそ、人と会ったり、食事に行ったり、旅行をしたりという体験に勝るエンターテインメントは本当にないなと、きっと多くの人が再認識したと感じています。当然そのための移動もなくならないし、だからこそ移動体験というものがもっと便利で快適なものにアップデートされていっていいと考えています。そうなっていくべきだし、そういうところを担っていける取り組みをしていると思っています。

麻柄:ありがとうございます。まさにおっしゃるとおりで、僕も感じる部分があります。タクシーの利便性もここ数年でだいぶ上がっています。例えば東京は数年前から当たり前のようにクレジットカードで決済ができたり、アプリと連携できたりして便利ですが、私が今住んでいる千葉では当時それらがなくて、千葉に帰ると途端に全部マニュアルな世界になってしまって苦労していたので、東京みたいになったらいいのになと思っていました。

地方と対比して良し悪しを言っているわけではありませんが、広がったらいいのにと思っていたところ、ここ数年で一気に(広がりました)。特にコロナ禍になって、ますますそれが進んでいる感覚があります。

黒澤:そうですね。

麻柄:ここ数年だけでもだいぶモビリティの領域も変わってきているのかなと思うんですけど。

黒澤:そう思います。そういう意味ではGOは、しっかりと千葉も対応しています。

麻柄:そうですよね。メチャクチャお世話になっています(笑)。いつもありがとうございます。

黒澤:タクシーというと、30代、40代のビジネスパーソンがすごくヘビーに使っているイメージを持たれる方も多いと思うのですが、GOのユーザーの一番大きなポーションを占めているのは実は20代の女性なんですよ。

麻柄:ちょっとそれは意外です。

黒澤:意外ですが、ユーザーリサーチをしたら、そもそも女性はわざわざ道に出て手を挙げて流しを捕まえるのは本当は好きじゃないことがわかりました。例えばせっかくおしゃれをしている時にわざわざ雨の中を歩きたくないとか、やはりいろいろな事情があります。アプリで呼べるのであれば、とすごく利用が拡大しているんですよね。

なので、あらためて私たちの想像を超えた部分で、こういったサービスや利便性、価値が広がっていくものなんだなと個人的にも感じています。

麻柄:確かに。これはサービスの作り手の私たちからすると、うれしい部分ではありますが、読めない世の中の流れというか。

黒澤:そうですね。

ユーザーの生活が目に見えて変わっていくことを見届けたい

麻柄:GOもそうですが、ここ数年含めてかなり利用も広がっていて、会社理念じゃないですがビジョンも実現できてきている部分もあるのかなと思います。この先、モビリティのDXによって実現したい世界観とか、このあたりはどのように考えているんですか?

黒澤:そもそもDXが遅れている分野は、長い歴史の中で極めて重要な役割を担っている社会インフラであることが多いなと思っています。それゆえに、自らリスクを取って変革することが時には難しかったり、結果、さらなる利便の提供に向けたイノベーションが生まれにくい状況が発生しているのかなと思います。

だからこそ私たちのようなプレイヤーがお手伝いできることもあるし、その意義も大きいと考えています。特に日本のタクシーに目を向けてみると、もともとメチャクチャ安心安全なんですよね。しかも、UXもメチャクチャ優れたオンデマンド移動プラットフォームだと思っています。例えば、いつでも誰でも迷わずタクシーを止めて乗り込んで、「とりあえず出してください」と言えちゃうじゃないですか。

そのUXはすごくて、海外ではなかなか同じようにいかないんですよね。なので、その時点で日本はすごく特殊な環境だなと思っています。だからこそ、そのDXをお手伝いして、みなさんの生活をさらに便利で快適なものに変革していく。

先ほどもおっしゃっていただいたように、千葉でもいろいろな決済方法が使えるようになったり、最近東京でもGOのラッピングカーを目にする機会がすごく増えていると思うのですが、そういうものも含めて、みなさんの生活が目に見えて変わっていくことを見届けられているのはとても幸せだなと思います。

あと、将来的には届ける車両もさまざまでいいんじゃないかと考えているんですね。今はコロナ禍ということもあって、一気に普及しにくい環境ではありますが、複数の人と相乗りして「一人でタクシーに乗るより割安」みたいなことができたり、自動運転の車両だったり、シェアリングされた車両だったり、短距離だったらバイクシェアもいいと思います。

今の私たちのライフスタイルは、鉄道やバスの決まった路線や駅、停留所、時刻表など時間や場所の制約を受けながら生活をする必要がありますが、そうではなくて、私たちのライフスタイルに最適な移動をオンデマンドで利用できたとしたら、わざわざ駅の近くに住む必要はなくなりますよね。

そうなると当然、これからの都市のカタチも変わっていきます。MoTはそんな交通プラットフォームを見据えていて、GOは間違いなくその入口になると考えています。ちなみにMoTでは「全方よしを考える。」というバリューを掲げています。

DXというと既存産業のディスラプションみたいなイメージを持たれる方が多いと思うのですが、基本的には常にその産業全体の発展に寄与する前提に立って、いろいろなことをやっていく必要があると個人的にも考えています。いかにその産業やビジネスパートナーから信頼を得て一緒に闘っていけるか、というのが産業DXにおいては非常に重要なんじゃないかなとも考えています。質問の答えになっていますか?

麻柄:(笑)。完璧です。ありがとうございます。そうですね、僕はGOというところがすごく強いなと思っています。タクシーというイメージがあったのですが、今のお話だとまさにそれは入口に過ぎない。

移動することに対して私たち人間が合わせていた部分をDXによって解き放って、自分たちの暮らしたいようにしつつ、移動の制約を受けずに暮らしていける交通プラットフォームを作る、というすごく壮大な将来像があると思いました。

プロダクトを通じてさまざまなわがままに応えていく

黒澤:実は今でもオンデマンドの移動手段となる公共交通はタクシーぐらいしかないんですよね。

麻柄:確かに。

黒澤:タクシーが入口になるのですが、幸いGOに関してはマーケティングもうまくいっていてユーザーが右肩上がりで増加しているので強固なユーザー基盤ができつつあります。

そこはやはりすごく重要かなと思っています。私たちはあくまでも、移動したいユーザーと最適な移動手段をマッチングさせてつなげていくプラットフォーマーであると思っているので、そういう意味だとそこの入口がようやくできあがってきているのかなというのが僕の捉え方ですね。

麻柄:ありがとうございます。その壮大な目標に向かって、次に登る山としてはどのあたりになりそうでしょうか。ちょっと短期的なところになるかもしれませんが、お聞きしてもいいですか?

黒澤:大きく2つあります。まずはよりこだわった移動体験を提供していくこと、さまざまなわがままに応えていくことですね。例えば「評価の高い乗務員さんを」とか、「こういう車両に乗りたい」とかです。ただ、そういうわがままに応えるほど、本質的にはユーザーとタクシーのマッチング効率が下がるんですよね。

結果UXが悪化するわけですが、いかに効率的にマッチングをしてUXを担保するか。わかりやすい例が大雪の朝の予約ですが、どう実現するかというのはまさにテクノロジーやプロダクトのチャレンジかなと思っています。

オンデマンドに利用できる移動の選択肢を増やしていく

黒澤:もう1つは、先ほどもちょっと触れたとおりさまざまな移動シーンにおいて、オンデマンドに利用できる移動の選択肢を増やしていくことだと思っています。

特にユーザーの裾野を広げる、新しい市場を作るという観点で相乗りや乗り合いみたいなものは個人的にもチャレンジしたいなという強い想いを持っています。相乗りや乗り合いは、割安になるので、これまでハードルが高くてなかなかタクシーを使えなかった方々にも使ってもらえるという観点もあります。

また、都市部での利用はもちろんですが、地方へのさまざまな展開の可能性も拓ける取り組みだと思うんですね。地方と言ってもこれもまたさまざまで、例えばわかりやすい課題で言えば、過疎地域の公共交通への取り組みもあります。

一方で、僕の実家の群馬は田舎とは言えども若い世代がどんどん街に流入していて、人口がすごく増えているんですよ。発展し続けているのですが、1人1台車を持つのが当たり前で、相変わらず徒歩で行けるような距離にスーパーも病院もないんですよ。うちの両親もあと5年は大丈夫かなと思うのですが、10年先に引き続き車を運転できるのかというと、それは少し心配だなという思いもあります。

そういった地域ごとの状況に合った車両を走らせて、それをGOを使って誰でも手軽に呼び出せる、というところは、もともと今の業界に踏み出した時から実現していきたいという想いを持って取り組んできているので、個人的にはここから少なくとも10年以内には実現したいなと思っています。

麻柄:ありがとうございます。私の地元はどんどん人口が減っているので、バスもなくなってしまっています。まさに「老後はどうやって移動をするんだ」というところは僕自身も心配していたのですが、今のお話を聞いてMoTさんがこの社会課題を解決してくれると確信したので、ちょっとこのあたりをぜひお願いします。

海外旅行業界の一番の課題は「デジタル化」

麻柄:大浦さん、旅行に関する社会課題を大浦さん自身はどう捉えていて、どう取り組まれようとしているのかを教えていただけますか?

大浦貴幸氏(以下、大浦):私たちは今、海外旅行のツアーの予約アプリ「NEWT(ニュート)」を出しています。まず、海外旅行のツアーにフォーカスすると、シンプルにデジタル化が遅れていると思っています。

店舗型の店頭で並んでいるツアーのチラシを見たことがある方もいると思いますが、そういったものが未だにたくさん並んでいたり、予約に必要なアナログな旅行手配のオペレーションがまだまだ実際に存在していて、PDFを印刷して紙を使ったりFAXで実際にやり取りをしたりという状況です。

逆に言うと、この部分にDX化の伸びしろを感じていて、ここのデジタル化が1つの課題になってくると思っています。

もう一方で、海外旅行にはさまざまなステークホルダーが存在しています。当然私たちのような旅行会社があって、ホテルとか航空会社、あるいはオプショナルツアーのようなアクティビティとか、それらのホテルを卸しているランドオペレーターとか、たくさんのクライアントさまがいます。

もう1つ課題は、旅行会社は世界各国にありますが、そうしたステークホルダー同士をつなぐシステムがバラバラだったり、あるいはほとんどシステムがない状態だったりします。

なので、旅行のデジタル化を進める上では、やはり世界中の旅行会社、ホテル、アクティビティ、ランドオペレーターなど、こういったところのデジタルを統合して最適化していくのが必要不可欠で、そこが一番の課題になってくると思っています。

麻柄:ありがとうございます。私も令和トラベルの人間なのでこれは転職して痛感している部分です。私はリクルート出身なので「じゃらん」とかをやっていて、楽天トラベルをユーザーとして使っていました。ホテルやフライトの予約はオンラインで完結して、一見便利じゃんと思っていたのですが、実際に、旅行全体に必要な商品やパーツをすべて取り扱おうと思うと、裏には想定していなかったようなアナログなプレイヤーがいて、この業界のアナログさには僕も実際に驚いている状況です。確かにここは1つの大きなポイントかなと僕も中の人間として感じます。

ここを解決できると、もっと旅行者にとってお得で魅力的な、かつバリエーションも豊かで自分のニーズにマッチした旅行体験を提供できるという可能性を感じています。私たちはまだスタートしたばかりですが、日本人がもっと海外に出て行くことに対して、デジタルを通じて社会課題を解決できる部分があるのかなと僕自身も感じていますね。

令和トラベルが海外旅行のツアー予約アプリ「NEWT」を通じて解決すること

麻柄:私たち令和トラベルは創業したばかりなので、まだプロダクトとして提供できる価値もわずかだと思うのですが、大浦さんは今後、このあたりの課題をどういうプロダクトを通じて解決していきたいと思っているのでしょうか?

大浦:大きく2つあると思っています。1つは旅行者の体験そのものをアップデートしていくというところですね。ここはまさに私たちが今提供しているNEWTのアプリに集約されていくと思っています。

従来の旅行代理店のような、無数のツアーが載っているパンフレットの中から商品を選んでいくのは非常に難しかったりするので、これらをデジタル化したり、テクノロジーでパーソナライズや検索技術をしっかりと構築することで、その人のニーズに合ったものを簡単に見つけていくことができるのかなと思っています。

ほかにも海外旅行だったら、例えばパスポート情報をOCR技術で簡単に読み込んで、入力のミスをなくすとか、そういう細かなデジタル化が大事だなと思っています。一つひとつデジタル化をすることで旅行者体験を積み上げていって、スマホ1つで海外旅行ができるという体験を実現していけたらいいなと思っています。

もう1つは先ほどと重複しますが、特にツアーを見ていると旅行代理店のアナログなオペレーションはやはりデジタルに解決していく必要があるなと思っています。これは先ほど麻柄さんもおっしゃっていたとおりで、そのまま価値がカスタマーに戻っていくと思っています。

これ自体はデジタルの設計が非常に大事だなと思っています。ツアーのオペレーションなど、今マニュアルでアナログな運用をしていることをそのままシステムにするということではなくて、ゼロからデジタル前提でそのオペレーションを考え直すのが非常に大切だなと思います。

わたしたちみたいなスタートアップは、そういった設計をゼロからできるので優位性があると思っています。旅行体験にしても旅行代理店のオペレーションにしても、私たちだけでできることは少なくて、海外旅行にはさまざまなステークホルダーが存在するので、そういったプレイヤーとしっかり連携して業界全体を変革していくのが大事だと思っています。

麻柄:ありがとうございます。お二人の話を聞いて、業界はぜんぜん違って、そこにおける具体的な社会課題もぜんぜん違いますが、共通しているのはやはりデジタル。DXという手段を通じてユーザーに対してより大きな価値を提供していく部分と、それをするにあたって単なるディスラプターとして産業自体を壊すというわけではなく、業界を変えて本当の意味でユーザーに対して社会課題を解決する。

そのためにはいろいろな業界のプレイヤーと組んだり、「三方よし」ではなくて「全方よし」みたいなところで、みんなの利益になるようなかたちで実現していくというところが、意外と共通しているんだなと感じました。

大浦:旅行も観光MaaS(Mobility as a Service)は大事な分野なので。

麻柄:旅行も移動はありますもんね。

大浦:はい。移動というのは旅行で非常に大事なファクターなので、そこも連携できるとおもしろいですね。

麻柄:そうですね。おもしろいことができるといいなと思っています。

(次回へつづく)

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