セッションの3つのトピック

成瀬允宣氏:このセッションでのアウトプットの定義として、“アウトプット”は技術ブログや記事、本、CMなどを指しています。(コメントを見て)「なるセミ登録しました」、ありがとうございます(笑)。

よくあるOSSでアウトプットするのとは別の話です。今日の話では、こういった技術的な記事を書くことを“アウトプット”としています。

大きく分けて今日のトピックは、スライドにある3つです。「アウトプットが人生に与えた影響」は、どんなよい影響があったかを話して、みなさんがアウトプットしたいという気持ちを高めます。(コメントを見て)「とあるカンファレンスでこのCMがこれでもかと流れていた、その思い出しかないです」(笑)。鬱陶しいくらい流れていますから。

2つ目は、「アウトプットへのスタンスとコツ」です。私自身のスタンスやコツなどアウトプットのノウハウを話したいと思っています。

最後に「アウトプットが世界に与える影響」。今日話すのはアウトプットの質としてはパブリックなものです。無駄づくりの藤原さん(藤原麻里菜氏)からもそういう話が出ましたが、パブリックなアウトプットには影響力があるんです。

その影響力を意識すると向き合い方が変わるので、それを話したいと思います。コメントで「成瀬さんの書籍は、私のチームのみんなが購入して学習した。わかりやすかった」(というものがあります)、ありがとうございます! ぜひとも先ほどの本を読んでもらえるとうれしいです。(コメントを見て)「YouTube動画をもっと増やしてください」、がんばります(笑)。もう少し余裕ができたらいっぱい作ります。

時間配分は、1つ目のトピックが4割くらい、2つ目が4割、最後に残りというイメージでやろうと思います。さあ、やっていきましょう。実は僕は自分語りがあまり好きではありませんが、このあとの話につなげるためにこれらの話をしなければならないのでご容赦ください。少しでもみなさんに得るものがあるように願っています。

アウトプットのきっかけは“怒り”

1つ目は、与えた影響と人生がどうなったか。アウトプットをするのであれば世の中の役に立ちたい、世界を変えたいといった崇高な精神がきっかけになるわけはなく、僕のアウトプットのきっかけは怒りでした。

具体的には、仕事をしている時に後ろで新卒研修をしていたことです。仕事をしていた僕の近くのテーブルで新卒研修をやっていて、席が近いので耳をそばだてるわけでもないのに、どうしても聞こえるんです。

仕事に集中していても、たまに聞こえるワードが気になってしまう。その説明の中で「XXXはYYYでZZZということです」という説明が出てきました。全部そうではないんですが、「そうはならないだろ」と。若干誤っている内容もあったので、「なっているだろ」と言われそうですが、「そうはならないだろ」という思いがありました。みなさんの所属している組織はわかりませんが、教育を軽視している組織が多いと思っています。

新卒研修は、新卒2、3年目がやることが多いんです。近い年代の先輩に教わったほうがコミュニケーションを取りやすいし、なんなら直接仕事を教えてもらう相手になるので、コミュニケーションを取っておくのはいい。

問題なのは、必ずしも深い知見があるわけではないことで、結果として間違った解説をしたり質問に答えられなかったりという状況になるんです。Twitterで「怒り駆動開発」(というコメントがあります)、そうですね(笑)。怒り駆動の話はあとで深掘りします。

その翌年でしょうか。あの頃は僕も若かった。「研修をやらせてくれ」と手を挙げて訴えました。結果として研修をやったんです。初めて担当した研修がオブジェクト指向です。(コメントを見て)「怒り駆動は私もあります」、やはりそうですよね。怒りは原動力になります。

新卒研修担当から社内勉強会での登壇、そしてアウトプット中毒へ

オブジェクト指向入門の資料をいったん上長に見せたら、「新卒研修だけではもったいないので、ぜひとも社内で勉強会をしましょう」と言われてやったのが社内勉強会です。最初は20~30人で広めの会議室に集まってもらいましたが、この時はあまり他の部署のメンバーを知らなかったので、周りには「この人誰?」と思われていたかもしれません。

しかし、しゃべったら意外と評判がよくて、結果として楽しくて気持ちがよかった。こういう何かしらの成功体験がきっかけになってアウトプット中毒になってしまう。(コメントを見て)「アウトプットの原点は怒り」、そうです。そして中毒に至る。

これはもう中毒症状が始まっています。どんな中毒症状が高まったのか。例えば、グループ新卒研修で語りました。これは今でもやっていて、2022年はチームビルディングとWeb基礎。オブジェクト指向はもちろん、フロントエンドもやりました。かなりの量をやっています。

もちろんカリキュラムはたくさんありますが、そのうちの4つを担当しました。(コメントを見て)「ダークサイドの力」(笑)。でもダークサイドの力は大事なので、みなさん怒り駆動を覚えていてください。グループ新卒研修をやっていると、新卒のみんながかわいいんです。素直に話を聞いてくれる。楽しいんです。

そのあと、初めての外部登壇をやりました。会社が使用していた勉強会の会場で、「登壇したい人いますか?」と募集があったんです。中毒症状が出ていたので、即挙手しました。(コメントを見て)「アウトプットで中毒になるんですね」、そうです。中毒になります、中毒症状です。

他にも何名か手が上がりましたが、幸運なことに僕が指名されたのでここに立っています。コメントで「新卒研修、わかりやすかったです。お世話になりました」(というものがあります)、身内じゃないか(笑)。「やる前より、発表とフィードバックで思っているより大きなモチベーションになりますね」、そのとおりだと思います。この外部登壇がなかったら違っていたのかもしれません。でもアウトプット中毒だから変わらないな。たぶんやっているんだろうな。

こういうところでしゃべった結果、「勉強会っておもしろい!」と思って、いろいろな勉強会やコミュニティにお邪魔するようになりました。

「さまよう子羊たちを、どげんかせんとあかん」

みなさんDDD(Domain-Driven Design)をご存じですか? その最たる例が「ドメイン駆動設計」でしょうか。

DDD-Community-Jpというコミュニティで『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』という、だいぶ前に読んだ有名な本を見た時に、懐かしくなって参加したんです。(コメントを見て)「新卒は素直でキラキラだった」、そうですよね、キラキラですよね(笑)。羨ましい、あのモチベーション。

そこでしゃべった時に気付いたんです。ちなみにスライドの参考画像はビデオ通話ですが、音声だけのミーティングなので、顔は見えません。ミートアップに参加したら、自分が質問に答える側に回ったんです。自分が当たり前と思っていたことにみんなが悩んでいて、「もしかして自分は役に立つんじゃないか」と思ったんです。

それと同時に、「どげんかせんとあかん」と。この業界に、こんなにさまよう子羊たちがいる。勉強会は意識が高い人が多い、そもそも意識が高くないと勉強会に行こうと思わない。そんな方々でも思い悩んでいるのであれば、どげんとせんとあかんと思った。

(コメントを見て)「素直にがんばってくれ」、そのとおりですね(笑)。「DDDコミュニティに生息しています」、どうもお世話になっています(笑)。

どげんかするにはどうしたらいいんだろうと戦略を練り始めました。頭の中の流れとしては、まずは自分の知識が役に立ちそうだと思った。その知識を広げなければならない。広げる手段はなんだろう。すぐに思い付いたのは技術書でした。少し安直ですが、技術書を書いて出版すればいいのではないかと。

ネットに情報をさらすことも考えたんですが、少し違うと思いました。情報を広げるには出版社の力が必要です。昔から本の力は偉大だと思うので、形にしなければいけない。(コメントを見て)「宮崎の方ですか?」、違います(笑)。この言葉が好きなだけです。

どげんかせんとあかん。出版するにはどうしたらいいか。それは簡単で、出版社ないし編集者に惚れ込んでもらう必要があるでしょう。

出版するために考えた、出版社が求める3つのこと

出版社が求めることは何なのかと考えたのが、「書ける証明」「業界でのある程度の地位」「影響力」の3つです。1つずつ紐解いていきます。もし、みなさんが本を書きたいのなら、このあたりを見ておくといいです。

まずは、書ける証明。そもそも本を書けないと話にならない。プログラマーの面倒くさいところで、それを証明しなければと思ったので、本に書こうと思っていることを書いてみました。Twitterで「どげんかせんとあかん駆動設計」(というコメントがあります)、正しい。そのとおりです。

(スライドを示して)この『ボトムアップドメイン駆動設計』という記事は何文字だと思いますか? こちらは8万文字で、原稿用紙200枚分なんです。これを書いた時のことをよく覚えていて、1週間くらい徹夜しながらバーッと書きました。

当時、DDD界隈で著名な増田亨さんが反応してくれたので、広まったのだと思います。8万文字は読み込みに500ミリセカンドかかります(笑)。

今思うと、この戦略にはもっと省エネなやり方があった。普通、出版社には企画書を出します。本の見出しをそれぞれ章・節・項・目に洗い出せば、編集者はだいたいその人が本を書けるかがわかるので、さらに概要と対象読者を書けばOKです。実際に私も、DDD本を書く時に企画書を書きました。ここまでしなくても企画書を書けば十分です。

2つ目は、業界でのある程度の地位。技術書は誰が書いたかがとても大事です。開発者・技術者は信頼関係がないとなかなか一緒に仕事ができなくて、教える・教わるの関係もすごく信頼が大事なんです。いい意味で地位を確立しないといけない。僕も当時はDDD界隈でそもそも無名でした。

そこで個人セミナーをやってみました。初回が156名、次が137名、さらに110名と、全部で400名強が来てくれました。当時の普通の勉強会の規模を考えると、異常な数字だと思います。逆にこれだけ関心があることがわかり、出版社にアピールする証拠にもなりました。とにかく動いたわけです。こんなに人が集まってくれるとは思っていなかったんですが(笑)。

(コメントを見て)「エグッ」「オーバーキル」、そうですね(笑)。8万文字は少しやりすぎました。あの時は若かった。まだ20代だった。違う、30歳過ぎてるわ(笑)。

3つ目は、影響力。影響力はそのままセールス力につながるので地位と似ていますが、やはり大事だとは思っています。そこでTwitterをやってみました。ぜんぜん伸びない(笑)。フォローが50、フォロワー1。この数字はよく覚えていて、(フォロワー1は)リアルな友だちです。Twitterで「一般的な大学の卒論の2倍以上」(というコメントがあります)、そんなものなの? 2回卒業できるな。

これはダメでした。結局アウトプットしたら伸びていったので、SNSの戦略は僕もよくわかりません。(コメントを見て)「まずはやってみるのが大事」、そのとおりだと思います。やってみるのが大事です。今の話をアウトプットしていくうちに影響力もできたので。(当時は)せいぜい2,000~3,000くらいのフォロワーしかいなかった気がします。

出版はゴールではなかった

以上の3つを達成したので、その内容を全部メールに添付して出版社に送ってみました。(スライドを示して)そしたら翌日に「おもしろいです、打ち合わせをさせてください」ということになり、できあがったのがこの本です。この本の出版体験記を語るのは紆余曲折あるのでおもしろいですが、主題ではないので、今回は割愛しましょう。

書籍を出版しました。必要としていた人たちがいっぱいいて反響もありました。「役に立っているよ」という声も届いていますし、逆にネガティブな意見ももちろん来ました。本とはそういうものなので難しいです(笑)。

ある程度やりたかったことはできた。これで私の役割は終わりだ。これがゴールだろうと思いましたが、ゴールじゃなかったんです。

(次回に続く)