大企業のDXはたいてい失敗する?

山元亮典氏(以下、山元):ちなみに今回はエンジニアのシリアルアントレプレナーというかたちになると思いますが、連続で起業していくと、前回の知見はフルに活かせると思いますが、そういった学びを活かすところはあったりしますか?

山崎大輔氏(以下、山崎):学びはそんなに変わりませんが、大きな会社と直接話せるケースはけっこう多くなりました。いきなり話せるので、何が問題で、何を解けばいいのかという話は、けっこう明確になりました。すごく大きい会社からのオファーもあったんですよ。その話もしていいですか?

山元:もちろんです。

山崎:今日、Twitterで「『大企業のDXはたいてい失敗するから』みたいな話もちょっとぶった切りたい」という話もしたので、その話もしたいんですけれど。

山元:見ましたよ。ぶった切っちゃってください。

山崎:そもそも大企業がDXするのは本当に大変で。大企業はそもそも今儲かっているわけじゃないですか、大企業なんだから。彼らがIT部門を刷新したいという話がメチャクチャたくさん来たんですよ。話を聞いたんですよね。「失礼ですが、年間IT予算っていくらぐらいあるんですか?」みたいな話をしたんですよ。

そうしたら、言っていいのかな。一番でかいところで年間200億みたいな(答えが返ってきたんです)。年間ですよ。年間200億みたいな。中くらいの大きさのところでも、30億かけているみたいな。年間ですよ。もちろん人件費やAWSなどの全部の費用ですが、例えばAWSで年間5億使うのは大変じゃないですか。レベルでいうと、むしろ難しい感じじゃないですか。

30億の会社を例にすると、エンジニアを外注含めて250人雇っているような感じです。1人頭ざっくり1,000万なので25億で、AWSが5億で、合わせて30億みたいな。ざっくり言うとそんな感じなんです。

そういうのをなんとかしてくださいという話だったんです。彼らとしては、年間100億とか何十億とか払うのは痛くないらしいんです。ちょっと何の話をしているかわからないかもしれませんが、痛くないんですって。ちょっとここはもう、そういうもんだと思ってほしいんですけど。

山元:まあそうですね。はい(笑)。

山崎:なぜかというと、それよりも事業が儲かっているから。だから、(全体の)何パーセントか知りませんが、IT予算は何パーセントとかになっていますが、それは払っても事業としてはぜんぜん傾く金額じゃないし、「そんなもんかね」みたいな感じらしいんです。「ほかの横並びの会社を見てもそんな感じだからOK」みたいな』感じらしいです。

だけど、やはり痛いのが、それだけ(お金を)かけてもライバルの会社を出し抜けているとは到底思えないし、このままだと海外とかの最近SaaSとかいろいろ出てきている会社に勝てる気がしないのがムカつくらしいんですよね。

年間数十億ですよ。それだけあったら、Voicyとかどうなります? という感じじゃないですか。

山元:いや、もう、欲しいですわ(笑)。

山崎:欲しいですよね。という話らしいんですよ。そこがムカつくからなんとかしたいというのが彼らの要求としてあって、数十億かけること自体は問題ないらしいんですよね。

それで、コンサルを雇ってコンサルさんに「どうすればいいんですか?」という話をするわけです。そうすると、コンサルさんは、金額はわかりませんが数億とかもらって。

「いやいや、もう今はDXだから」みたいな。「DXだから、もうDX!」みたいな。それで「DXって何だよ」みたいな話になった時に、「DXというのはソフトウェアをドリブンでやることだから、内製化が大事だ」という話になるわけです。

コンサルさんが、「内製化が大事だから、CTOみたいな人を招聘して、その人を軸にチームを組成して、いろいろな人を雇って、ソフトウェアをイチから構築していけば勝てますよ」みたいなことを言うわけです。なるほどという話で「山崎さんどうですか?」という話が来たわけですよ。

SIerからは緩く長く開発し続けたほうが得

山崎:でも、よく考えてほしいのですが、例えば、今仮に(IT予算が)20億だったとするじゃないですか。その20億が(今)どこに支払われているかというと、いわゆるSIerさんなんですよね。

なんとかDXのチームを作って、(そのなかの)1人に、わからないけど1,000万ぐらい払っているわけです。それをなんとかこちら側で内製化しようとして、内製チームとして年間10億円使う話になって、(内製費用として予算を年間)10億円分引き上げたとするじゃないですか。

そうすると、SIerさんから見て何が起きるかというと、(彼らの)売上が20億円から10億円に減って、単純に売上が半分になるわけですよね。そこに頼っていたわけで。

しかもシステムは彼ら(SIerさん側)が握っているんですよ。そういうことを未来的にすると予想されている人が外部から来て、僕が「すみません、DXなので、これから(毎年)年間10億円あなたたちから(予算)削減するから協力してね」と仮に言ったとしたら、そんなの聞くわけなくないですか(笑)。

山元:そうですね(笑)。

山崎:単純に誰が聞くんだっていう感じじゃないですか。だから、ぜんぜんインセンティブが合ってないんですよ。もともとSIerさんは人工商売だから、その会社が儲かっている、儲かっていないは実は関係なくて、SIerさんとしては、むしろ儲かっていなくて、イケてないシステムで緩く長く開発し続けたほうが得じゃないですか。

山元:ぶった切っていますね(笑)。

山崎:そうそう。そういうことと、必死こいてAWSの金額を削減しながら、だけどメチャクチャ速いシステムを作るような話と、エンジニアの志向性がぜんぜん違うわけですよ。僕が呼ばれたところは、だいたいそういうSIerさんにどっぷり浸かっていて、もうやられちゃっているところが多かったんですよ。

改善する余地はメチャクチャあるんだけれど、僕がもしのこのこ行って、「あなたたちの利益を半分減らします」みたいなことを言ったら、政治に巻き込まれるし、コードを書くどころじゃないですよ。政治に巻き込まれるし、もう嫌がらせとか余裕で受けるし、なんなら地下鉄のホームとかで後ろでドンッて押されるぐらいのテンションじゃないですか。

山元:まあ、動く金が金ですよね(笑)。

山崎:そうそう。

山崎氏が実践した“寄せる”というやり方

山崎:僕は大きい会社に買収されて一応うまくいったというかたちになっていますが、それがなんでうまくいったかというと、実は、スケールアウトという前身の会社があって、そこはそもそもASPを作っている会社で、15人ぐらいのキレッキレのエンジニア集団がいたんですよ。

その人たちと、「ScaleOut」という配信システムがあって。「ScaleOut」はSaaSサービスで、SIerではないので、依存性が取られないわけです。開発するエンジニアを、グループ、大企業に持ち込んで、ひたすら「弊社のやり方に変えてください」と交渉をして、そっちに寄せました。

当然外注しているところもあったかもしれませんが、SIerさんに、「こっち側に全部システムがあるから、こっちに全部寄せてください」みたいな話をして、調整してやったんですよ。

だけど、僕が1人で大企業にのこのこ乗り込んでいって、「みなさん、今からDXします。だけど、あなたたちの売上は半分になります。協力よろしく」と言って通じるわけないじゃないですか。

山元:そりゃそうですね(笑)。

山崎:だから「無理です」という話をして、全部お断りしたんです。だけど、技術顧問はもうちょっと話が違っていて。基本的に実動部隊があるのが前提で、「こうやればうまくいきますよ」という話をして、その実動部隊に納得してもらって。時間はすごくかかるけれど、待っていればできる話だったので、それは受けていました。

技術顧問として受けていた時に起きた問題

山崎:だけど、これもちょっとまた1個問題があって。僕ばかり話しているけど、いいですかね?

山元:今日は山崎さんが主役の回なので。

山崎:そうですか。アドバイスはいいんですよ。だけど、アドバイスしても、そのエグゼキューションが完了するのに本当にメチャクチャ時間がかかるんです。やまげんさんへのアドバイスも、だいぶ時間かかるじゃないですか。

例えば「バグはこうやってあぶり出すんだぞ」みたいな話をしたと思いますが、それもすごく時間がかかるし、例えばSIerさんにどっぷりな会社は、なんならSIerさん側はバグが取れないほうがうれしいわけじゃないですか。わかりますか?

山元:はい。そうですね。

山崎:バグが取れずに、非効率なまま進んでくれたほうが、人月稼げてうれしい感じじゃないですか? だから、そこにすごく矛盾を感じました。だけどそこには数十億の予算があって、ビジネスチャンスがありそうだと思ったので、それをなんとかするプロダクトを今作っている感じです。

山元:メチャクチャぶった切りましたね(笑)。

山崎:もし僕がどこかのホームで自殺したみたいなニュースが流れたらそれなので(笑)。

山元:やめてください(笑)。

山崎:僕は絶対自殺とかしないので。みなさん、ここにいるリスナーは何人いるか知りませんが、証人になってください。もし小岩駅でIT会社経営のなんとかが自殺したみたいな話になったら、「ああ、なんかやられたな」と思ってください。

山元:わかりました(笑)。わかりましたというのもおかしいですけど。

山崎:こんなバカみたいな話ししていいのかな。

山元:いやいや、だいぶおもしろい話だったんじゃないですか。

山崎:本当ですか。

山元:ちなみにこれ、でも、アーカイブで公開されて、ずっと残り続けます。大丈夫ですか。

山崎:大丈夫です。これはみんなに話しているので、大丈夫です。具体的な会社名は絶対に言えないですが、大丈夫です。

山元:ありがとうございます。コメントにも「証人になります」と来ています。

山崎:本当だ。

(次回に続く)