他部署からの依頼も合理的に判断する

酒井潤氏:ほかには、働く環境を整えてくれるというところがありますよね。例えば日本では、ほかの部署から仕事を依頼をされた時にそれを簡単に受けてしまうマネージャーがいますよね。こっちのマネージャーは、そこに必要性がなければ「そんなことをやる必要はない」とバサッと簡単に断ってくれるので、仕事量が一気にガンッと増えることはあまりないですね。

逆に、それが会社にとってかなり利益になる依頼だったら、その1個上の、例えばCEOとか役員とかも一緒に交ぜて話し合います。それが会社のためになるという判断をしたら、ほかの部署からの依頼でもしっかりと仕事をします。

日本だと、他部署の人が仕事を依頼してそのチームがやったら、今度は、このチームがその部署に仕事をお願いしたいということがあると思うんですよ。恩返しみたいな感じになるので、日本の文化でしょうか。やはり日本の会社付き合いって、人間関係が長いほど仕事を受けやすいということがあると思うんですよね。

会社内でも部署内でも、付き合いがいい部署であれば、「その人のお願いは聞いてあげよう。今度はこっちもお願いしよう」みたいに感情的なところがけっこう含まれて仕事が成り立つと思うのですが、アメリカは、先ほども言ったように、合理的な判断をするので、自分の部署が相手にお願いしてやってもらって、今度は相手がお願いしてきても「それはなんの利益にもならないよね」となったら、バッサリ切るという感じでしょうか。そのあたりも1つあると思います。

環境作りがうまいマネージャーは、甘過ぎず厳し過ぎず、その中間をコントロールする言葉を投げかけられる

そのほかに、プロジェクトマネージャーは下で働く人のモチベーションをもちろん上げなければいけないのですが、多少ライバルというか競争力も与えなければいけないんですよ。

日本だと、若手の人たちが和気あいあいとやる仕事場がけっこういい環境と言われますよね。逆にブラック企業は、かなりハードにプレッシャーがあって、働きにくいというところがあるじゃないですか。

なので、ちょうどその中間の雰囲気に持っていくのがうまいマネージャーが、やはりいいですよね。例えば社員のためにランチを提供したり、みんなで外に行って和むようなアクティビティをやることはもちろん、「仕事ではある程度厳しくしないと解雇だよ」みたいなプレッシャーも多少はかけられるというところでしょうか。

なので、甘過ぎず厳し過ぎず、その中間をうまいことコントロールする言葉を投げかけられるマネージャーは、環境作りがうまいなと思いますね。

スティーブ・ジョブズも、「社員に対して甘やかしてもなんの利益にもならない」みたいに言っていたのを私は聞いたことがあるのですが、スティーブ・ジョブズさんもけっこう強めの発言をするタイプですよね。

そういう考えもアメリカには多少あるので、GoogleにしろMicrosoftも、やはり社員のためにフリーランチやジムなど、いろいろなものを提供することで働きやすい環境にはしていますが、甘えさせ過ぎず、厳しいところは厳しめにやるところもあるという感じでしょうね。

スーパーエンジニアは優遇されることもある

先ほど、モチベーションよりも企業の利益を重視するという話をしたのですが、最低限のモチベーションはケアしてくれるので、そこは勘違いしないでください。

例えば、エンジニアの方が離婚をして、自宅で子どもを見る時間が欲しいから多少自宅勤務を増やしてほしいと言っても聞いてくれたりするんですよ。

パフォーマンスとかチームワークを合理的に考えたら、リモートで働くよりも会社に来てもらったほうがいいのですが、多少そういったことも考慮してくれたりはします。要は、結果を出せばOKですが、働く環境や私たちの気持ちも考えていろいろやってくれますね。

あとは、ちょっとこれは特別な例かもしれませんが、会社には、メチャクチャコアなところが書けるスーパーエンジニアがいるんですよ。そのスーパーエンジニアみたいな人はわがままなので、「あまり会社に行きたくない」みたいなことを平気で言うんですよね(笑)。もちろん会社はその人が来てくれたほうがいいのですが、その人に辞められると会社はかなり不利益なので、それぐらいできる人であればマネージャーはけっこう特別扱いしてくれて、「あまり会社に来なくてもいいよ」という話にもなるんですよ。

それぐらいできるエンジニアであれば、1年間のうちに1回とか2回ぐらいしか会社に来なくてもぜんぜんOKですね。要は先ほど言ったとおり、企業の利益になるかどうかという判断もありますし、多少その人のモチベーションも考えるんですよね。

日本では、チームの中でそういう人がいたら、「なんだあいつ、特別扱いで!」みたいな話になるのですが、そのスーパーエンジニアが辞めることと、チームの人が多少不満を持って仕事をするのと、どっちのほうが利益がいいかと考えたら、スーパーエンジニアに辞められると困るんですよ。

となると、その人が特別扱いでも、私はぜんぜん気にしませんし、特別なスーパーエンジニアのモチベーションを上げるために自由にさせますね。

メンバーの希望に応じてケアをしてくれる

あとは、毎週マネージャーと30分の面談があるんですよ。今私がやっていることを報告する面談ではなくて、マネージャーが、私がハッピーに働いているかどうかみたいなことを聞いてくるんですよね。

要は、「今の働く現場で不満はないか?」と毎回聞いてくるんですよ。私はぜんぜん不満がないので、毎回「今でもハッピーにいい感じに仕事しているよ」という話をすると、マネージャーは「こんな不満がないやつは初めてだ」みたいな感じで言ってくるんですよ。

私は日本の厳しい環境でも働いたことがあるので、あまり不満がないのですが、ほかのエンジニアはけっこう言うんですよ。例えば「あいつのプログラムの書くスピードが遅い」とか、「あいつはあまりトラブルシューティングに参加しなかった」とか、けっこういろいろな文句を言うんですよね。

アメリカの人は、言いたいことはなんでもかんでもガッと言うところがあるので、それをマネージャーが聞いて、チーム内の雰囲気が良くなるようにいろいろと調整したり指導したりします。

そんな感じで、マネージャーはいつも私たちのケアをしてくれます。企業の利益を上げることが最優先ですが、モチベーションを上げるための施策をまったくしないというわけではないので、そこは勘違いしないでください。

ほかに聞かれるのが、エンジニアとして私がどんなキャリアでいきたいかということ。今私はシニアエンジニアなのですが、それより上に行きたいのかどうか、もうちょっとマネジメントしたいのかどうかを聞いてくれて、それに応じていろいろと対応してくれます。

私は、あまりマネージャー職はやりたくなくて、プログラムを書くほうが好きなんですよ。なので、「私はマネージャーになりたくない」とハッキリとマネージャーには伝えていますね。私が1個上(の役職)に上がってみんなをマネジメントするとなると、やはり英語力が必要で、私はそんなにできないのでやりたくないんですよね。

私は昔一度、マネージャーみたいな感じの仕事をやったことがあるんですが、やはり大変だったんですよ。アメリカの人たちをわがままと言ったら失礼かもしれませんが、わがままな人もいれば、あまり言うことを聞かない人もいます。そんな人を自分の英語力で指導してチームをまとめるのは、かなり大変だったんですよね。

なので私は、自分の英語力のなさもあるのですが、あまりアメリカではそういったことをやりたくないですね。

日本であれば、日本語がペラペラとしゃべれるのでぜんぜん問題がないのですが、アメリカでそれはしたくないので、私はもうキッパリと、「マネージャー職をやらずにエンジニアとしてやりたいので、今のポジションでずっとやらせてほしい」と正直に言っています。

そうすると、マネージャーもそれを聞いてくれて、私にはマネジメント的な仕事を振らないでくれるんですよね。そんな感じでけっこうケアしてくれるので、私は今でもメチャクチャ働きやすい環境でプログラムが書けて幸せです。

会社の利益を上げてメンバーの給与を上げた結果、慕われるマネージャー

ということで、要はこっちのマネージャーは、会社の利益を最優先するということでしょうか。私の感覚だと、日本のマネージャーは、会社の利益よりも社員のモチベーションとか自分が嫌われないようにするとか、ほかの人に慕われるようなリーダーになりたい人がけっこういると思います。

アメリカは、もちろん慕われないというわけではありませんが、気に入られることが大事ということではありません。会社の利益を上げることによって、その下で働く社員の給料も上がって、その社員から慕われるというところもあるんですよ。でも日本は、年功序列があるので、その部署がけっこういいパフォーマンスを出しても、その部署内の人のお給料が上がらないんですよね。なので、「いいリーダー的なところで慕われよう」と考えるマネージャーが多いんじゃないでしょうか。

今日は、私が考える優秀なプロジェクトマネージャーなので、アメリカっぽいですよね。

何度も言いますが、優秀なプロジェクトマネージャーが人間的に良いとか悪いとかという話はしていないので、そのへんはみなさんのご想像にお任せします。

ということで、今日はこれぐらいにしておきたいと思います。シリコンバレーエンジニアの潤でした。それではまた。