チームメンバーの衝突と分裂を経てチームとしての規範が形成される

五ヶ市壮央氏:信頼を作るためには、「事業」「仲間」「ユーザー」の3つを知ることが大事でしょう。

「事業」は、組織、ビジネス、組織文化や理念の仕組みです。「仲間」は、スキルセット、マインドセットのほか、本人の仕事環境やプライベートについてもわかっているほうがよいでしょう。「ユーザー」は、実際に使う人ですね。ペインとゲイン、マインドセット、置かれている環境や状況、それぞれの「なぜ」が想像できるようになるでしょう。これらを、個人ではなくチームが知っている状態を目指すことが大事です。

(スライドを指して)これは、タックマンによる「チームの発達段階モデル」です。左側がチームが組成された時で、右に行くほどチームの時間が経った状態です。丸の位置が高ければ高いほどパフォーマンスが出せていて、低いほどパフォーマンスが低い状態です。

下のほうの「混乱期」にマーキングしています。ここでは、チームメンバーの衝突と分裂が発生するという、怖い単語が書いてありますね。これは、すごくいがみ合うとか、あいつ何考えているかわかんない、みたいなことになるタイミングです。

ここで衝突を恐れず、お互いをよく知ることで、やっとチームとしての規範が形成されていきます。チームでうまくやっていけるようになるのは、この混乱期を過ぎてからだと言われています。

コミュニケーションをどんどん取る必要があるという話をしましたが、言えばわかるものでもありません。上長と自分であったり、部下とだったり、同僚とだったり、その組織やチームの中にヒエラルキーが必ずあります。

ほかにも、信頼貯金やその人の正義や事情、知識や経験によって、伝えればわかるかというと、そんなことはありません。特に自分の専門領域なんてものは、なかなか他者に伝わらない。これはどの領域でも同じです。ビジネス側はビジネスサイドの専門領域の正義で話すし、デザイン、エンジニアも、それぞれがそれぞれの専門領域の正義で話します。特にデザイナーは仲間の不安を知り、自分事として捉えてコミュニケーションを取る必要があるでしょう。

混乱期を突破するために最低限必要なこと2つ

この混乱期を突破するために必要なのは、コミュニケーションの量、多方向性。さらに忘れてはいけないのがコミュニケーションの基本的なテクニック。絶対に必要です。量や多方向性は言われると思いますが、そもそも挨拶をしないとか、ずっと仏頂面をしているような人は、量や多方向性があるとしてもうまくいかないでしょう。威圧やリスペクトのない姿勢はすべてを無駄にします。

その中でも最低限必要なことは、「伝わらないことを前提とする姿勢」「相手を知ろうとする姿勢」の2つです。これらの姿勢で、チームで行動していくことが大事です。そうやって相手のこと、事業のこと、ユーザーのことを知ることで、今までのやり方を捨ててアップデートしていく「アンラーニング」が、チームで働く上でとても大事です。

私たちGoodpatch Anywhereは、これを気持ちではなく組織の仕組みとして解決しようとしています。

フルリモートでもできるチームビルディング

ここから、私たちがやっているフルリモートでもできるチームビルディングを紹介します。

まず、お客さまとの仕事を開始する際にキックオフのプレゼンテーションをやります。自分たちの正義や、参加している私たちとお客さまを含めたメンバー全員に推奨するマインドセットを伝えて、「ここを目指そう」という旗をみんなで置きます。

私たちが「ここに行こう」という旗を置くだけではなく、お客さま(デザインパートナー)とも「ここに旗を置きたいんだ」という話をして、最初に「お互いにどういう経路でどういう山を登っていこう」という認識を合わせるます。認識を合わせると言うと「知っている」みたいな意味になってしまいますが、どちらかというと「腹落ちする」ですね。モチベーションを持って、自分の心の中に本当にここを目指していくんだという気持ちがある状態を目指します。

(スライドを指して)「ポートフォリオ見あいっこ会」と書いていますが、Goodpatch Anywhereでは時々、初めて会うメンバーと初めてチームになることがあります。そういう時に、少し怖いですがポートフォリオを見あいっこして、自分はどんなことができるか、相手はどんなことができるか、なにを目指しているかを話す会をやります。怖いですが、スキルセットや経歴、大切にしていることを開示し合うことで、最初の一歩の「知る」をかなり深めにやります。

スライドの左側が、竹田さん(竹田哲也氏)が作った「Wevox values card」です。私たちは、コミュニケーションツールを使ってお互いを知ります。Wevox values cardはメチャクチャ使っています。

もう1つ、「ご指名1on1制度」という制度があります。週に1回30分、実際に稼働扱いとしてメンバーを誰か指名して1on1をする制度です。メンバー同士で、より深いコミュニケーションを図って、かつ学びを貯められるという仕組みです。

(スライドを指して)これは、私たちのSlackのスクリーンショットです。ぼやけていますが、スタンプの数がバカみたいに多いかと思います。必ずリアクションをして、かつポジティブさが感じられる状況を作ります。投稿した時に無視されるという状況が、一番発信を妨げます。投稿して反応があれば、どんどん投稿していこうという気持ちになります。このようにパートナーも含めて、必ずリアクションをする、かつポジティブさを感じられるようにすることを大事にしています。

デザインの観点でいうと、ぼやけてはいますがオレンジ、黄色、ピンクが多いと思います。青や紫を使わないことでSlack全体を、どちらかというと柔らかくて優しくて発信を推奨するような色味にしています。

(スライドを指して)ほかに、共同作業ですね。これはDiscordのパターンですが、今はSlackのハドル(ハドルミーティング)を使うこともあります。用事がなくてもどこかに集まって、一緒に作業しながら思っていることや気づいたことを吐き出せる環境を作っています。

(スライドを指して)日報です。ここではScrapboxを例にしていますが、Notionを使うこともあります。私たちのチームには海外メンバーもいます。子育て中の人や、介護をしている人など、そもそも全員の時間が合いません。そのため、誰がいつ稼働して、どんな作業をするかを共有できる状態、スタティックな情報を用意しています。

(スライドを指して)これは、Slackのボットです。ボットに返信しています。なにを返信しているかというと、エンジニアリング界隈でよくやっているKPTのGoodとMoreを書く部分です。毎日の思ったことや気づいたことをSlack上に吐き出せる環境を作っています。

ここでの投稿が多ければ多いほど大変なプロジェクトなので、これはわりと大変だったんだろうと思います。

(スライドを指して)私たちは「ジョハリの窓ワーク」と呼んでいますが、プロジェクトが始まって2~3ヶ月経った時にあらためて役割分担を見直す会をやっています。自分の思う自分の役割と、他者から見る自分の役割は、必ず少しずれます。それを可視化しながら期待をすり合わせて、具体的な役割分担を行おうというワークです。

普通のKPT、プロジェクトの週次全体レビュー、メンバー同士での360度フィードバックもやっています。ふりかえり系のワークは、お客さま(デザインパートナー)と行うことも多いです。

心理的安全性をつくる≠ゆるふわな仲良しチーム

今までの取り組みは、基本的には私たち内部だけでなく、デザインパートナーのみなさまと一緒にやっていきます。最近のものとして「BOOK☆WALKER」の事例を書いているので、後ほどURLをお送りします。

ここまでの内容です。私たちが特に意識しているのが、複数の文脈でコミュニケーションを取れる状態を作ることです。Slackで吐き出す、DiscordやSlackのハドルで集まる、ほかに360度フィードバックと1on1のようなかたちで関係性を変える。

「発信する情報の何を振り返るか」を変える。同じことを同じ場で言い続けるのはなかなか難しいと思いますが、その情報のやり取りをする文脈(コミュニケーションの文脈)を変えることで、さまざまな角度でそれぞれが個人の情報を吐き出す、対話をする、はたまた振り返りのためのアイデアを出していく。

私たちの取り組みは、いわゆる心理的安全の中でもゆるふわな仲良しではなく、チーム、プロジェクト、ユーザー体験をよくしていくことを目指しています。

コミュニケーションの課題は気持ちではなく仕組みで解決していく

まとめです。デザイン領域に求められることが増えた時代では、まったく文脈が異なる仲間とチームになる必要がありますが、コミュニケーションの難易度は高くなっています。だって、リモートだもの。

それぞれの正義とそれぞれの事情があって、立場も役割も違うから、お互いを知るのは難しい。でも知らないと不信感が生まれるので、伝わらないことを前提とする姿勢、相手を知ろうとする姿勢が大事です。そのためには、チームもデザインの対象です。気持ちではなく仕組みで解決していきましょう。

以上、私たちの取り組みを紹介しました。GoodpatchとGoodpatch Anywhereは、仲間を絶賛大募集中です。興味のある方は今から「Wantedly」のURLをお送りするのでぜひご覧ください。どうもありがとうございました。