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講演1 プロファームTキューブについて(全1記事)

2022.06.28

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農業ハウスの温度問題をシステムで解消する 「プロファームTキューブ」と開発プロセスの考え方

提供:株式会社デンソー

"誰でも・どこでも・安心して作れる"農業を目指し開発された、 次世代農業用ハウス「プロファームTキューブ」、大規模農業ハウス「アグリッド」、自動収穫ロボット「FARO」について紹介する「【デンソーが目指す農業の”製造工場”】DENSO Tech Links Tokyo 15」。ここでデンソーアグリテックソリューションズの別所氏が登壇。食農の課題にデンソーが取り組む意義と、「プロファームTキューブ」(※)について紹介します。 (※)プロファームTキューブは、株式会社デンソー、株式会社大仙、トヨタネ株式会社の共同開発品です。

デンソーの農業事業

別所孝洋氏(以下、別所):デンソーのフードバリューチェーン事業の全体像の紹介と、「プロファームTキューブ」の取り組みについて紹介します。我々の農業事業は、「デンソーの未来を動かす重点分野」の非車載事業の1つとして掲げており、会社からの大きなバックアップと期待を受けながら、取り組んでいます。

デンソーが農業に取り組み始めた時期は、リーマンショックが1つの起点です。そこから事業の対象範囲と、それに伴い部署名も変えながら、2020年に今のフードバリューチェーン事業推進部に至っています。足かけ15年ぐらいが経過しています。

フードバリューチェーンとは

ここでフードバリューチェーンというものに対して、耳馴染みがある・ないがあると思うので、簡単に説明します。食が作られるところからみなさんの口に届くまでのフードチェーンの中で、物を運ぶ、加工する、などのバリューに、我々フードバリューチェーン事業推進部は領域全体で付加価値を提供していきたいと取り組んでいます。

本日は、フードバリューチェーンの一番上流にある農業生産の部分にフォーカスしてお話しします。

食に対する課題と、デンソーが農業事業に取り組む意義

ここからは、食に関する課題と我々の取り組み意義についてです。みなさんも感じていると思いますが、世界の人口は大幅に増えている一方で、農業に携わる人は減っているのが実態です。今後課題となっていく農業の持続的成長や、食料不足に対し、我々が貢献していければと考えています。

一方で、現在は異常気象や気候変動により、一層極端な農業環境にもなってきています。また、廃棄ロスがどんどん増えており、せっかく作ったものを捨ててしまう状況も生まれています。そのような課題には、気候や場所に左右されない農業の技術や、物流に貢献することで、流通の仕組みにおける付加価値を増やしていくことを活動の意義と考えています。

デンソーの農業事業への考え方ですが、農業も自動車部品と同じモノづくりの場であると考え、より工業的な視点で、みなさんに儲かる農業や働きやすい農場を提供することをコンセプトにしています。

農業としては、農産物をよりたくさん獲りたいので、栽培面積を広く取りたいと考えます。一方で、生き物を相手にしているので管理をしていく上で農業の経験やノウハウに頼る必要があり、どちらかといえば働く人を主体としながら、それを補うかたちで機械が配置されることが多いです。

工業では、より小さい面積でたくさん作ることを追及し、見える化や標準化を突き詰めて、モノを大量に安定して作ることが主眼となります。人よりも機械を主役にしながら、機械を適した場所に配置していきます。

両者を上手に融合させて、より工業的なエッセンスを取り入れながら農業に貢献していこうとしています。

デンソーアグリテックソリューションズについて

今私の所属しているデンソーアグリテックソリューションズを簡単に紹介します。オランダの施設園芸大手のセルトングループと資本提携して設立された会社です。オランダは工業的な部分も含めて農業技術が発展していますので、その技術と我々のモノづくりの技術を融合してさらに付加価値を生み出し提供したい。その実現に向け、会社を設立しました。

設立から2年が経過し、スライドの右下に示すように、我々の施設園芸ソリューションを提供できる場所やお客さまが少しずつ増えているところです。

フードバリューチェーンの将来ビジョン

最後に将来のビジョンですが、このフードバリューチェーンがより発展すると、街づくりの一翼を担えると思っています。

街の中で「実はここで農業的な生産をやっているんですよ」とか、またある場所では農産物がすぐ食品に加工され、我々の得意分野であるコールドチェーンなどのモビリティでつながれ、みなさんの口に届く時には、情報がしっかり管理されていて、品質が担保されている。安心な街づくりへ貢献していけると思っています。

自己紹介・経歴紹介

簡単ですが、ここまででフードバリューチェーン事業推進部の全体の取り組みを紹介しました。ここからは個別テーマということで、環境制御型ハウスの「プロファームTキューブ」についてお話しします。

ここであらためて簡単な自己紹介ですが、私は2006年にデンソーへ入社し、当時のセラミック技術部に配属され、自動車の排気ガス浄化用の触媒担体の設計・開発を行っていました。当初はまったく農業とは関係ありません。

その部署で10年間過ごしたのち、社内公募で手を挙げて新事業分野に異動しました。実際、本格的に農業に関わり始めたのは2018年からで、その時から「プロファームTキューブ」の開発に携わっていました。2020年からはデンソーアグリテックソリューションズに出向して、施設園芸ソリューションの販売に営業技術として従事しています。

植物の成長と「プロファームTキューブ」について

「プロファームTキューブ」を説明する前に、簡単に植物の成長について紹介します。植物が成長していくには6大因子というものが必要と言われています。それは光合成をするためなのですが、水や養分はもとより、光合成に必要となる光やCO2、温度や湿度も関わっています。

これらのバランスがとても大事です。6大因子のうち、不足しているものによって最終的なエネルギーの生産量が決まってくるため、これらをムダなく提供して、光合成の効率を高めていくことが植物の成長のポイントになります。

そのため、人間と一緒ですが、過ごしやすい環境や食事をしっかり整えてあげることで、成長サイクルが活性化されていきます。

これに対するアプローチとして、我々の商品「プロファームTキューブ」があります。「環境制御型ハウス」には、ハウス内の環境を制御できるシステムが搭載されていて、天候に左右されにくくなっています。

制御を司るコントロール部分として、デンソー製品の「プロファーム」を導入しています。

今の「Tキューブ」のハウスの標準サイズは2,000平米です。ちょっとピンと来ないかもしれませんが、テニスコートの10面分ぐらいの広さになっています。

動き方を簡単にイメージで話します。ハウスの室外と室内の状況をセンサーでモニタリングし、コントローラーにユーザーが望む環境条件を設定しておくと、先ほどの6大因子を整えるための設備が自動的に動く仕組みです。

「プロファームTキューブ」という名前ですが、デンソーブランドの「プロファーム」が冠にあり、「キューブ」はこのハウスの箱のようなイメージ。それから「T」は、「プロファームTキューブ」はデンソー1社で開発したものではなく、ハウスメーカーさんと種苗メーカーさんと一緒に3社で開発しているので、Tripleの「T」がとられて商品名になっています。

「プロファームTキューブ」の特徴

ここからは「プロファームTキューブ」の特長についてお話しします。まず、「強制換気システム」と呼ばれる、積極的にハウスの換気を制御して、ハウス内の温度をより安定に均一に整えることができる機能についてです。

通常の農業ハウスは天窓や側窓と呼ばれる窓がついています。この窓を開け閉めすることで外から風を取り込んで換気しますが、これは風まかせの換気方法となります

スライドの下部分がシミュレーションのデータで、風速分布(上段)や温度分布(下段)をシミュレーションしたものと、実際に計測した数値を置いています。風が無い状況では温度が高くなってしまい、望ましい環境ではなくなります。

強制換気方式であれば、意図的、積極的に、強制的に換気をするので、停滞はなくなり、温度の均一性が増し、意図した時に風を提供できるところが特長となります。

「プロファームTキューブ」の開発プロセスに対する考え方

ここからは、開発プロセスに対する考え方や、アプローチについてです。開発にあたり、標準化と設計の考え方をこの農業ハウスの仕様検討に用いています。

クルマは標準化の結晶です。数万点の標準化された部品から組み立てられており、品質の安定、大量生産、コストダウンに向いています。さらには、再現性を伴うので、得られたデータがほかの開発にも活かせるなどの特長があります。

農業ハウスはどちらかと言えば“非標準”に該当すると考えています。土地の形状などに影響されますが、一品一様なものが多いので、作り込まれたノウハウが他のハウスで使えなかったりする。標準化により、安定性や均一性を作り込むところが大きく貢献できるのではないかと考えていました。

設計のアプローチとしては、人にもとづく設計をしてしまうと、人間は人によって感じ方が変わり、それによって結果も変わり、判断結果も変わってしまいます。そのため、工業的な視点や、サイエンスの目線を取り入れることで対象を定量的に見える化し、理論的に仕組みを分解して設計に落とし込むアプローチで活動してきました。

ハウスのデータ計測環境で進めた見える化

ここからは見える化についてです。実際先ほどのアプローチで進めようとすると、まずそもそも「ハウスの中でどういったことが起きているのか?」「なぜそうなっているのか?」を知る必要がありました。そのため、我々は市場規模のハウスにデータ計測環境を構築して、見える化を進めていきました。

愛知県の豊橋市は施設園芸が非常に盛んで、そこに開発用ハウスを作りました。「プロファームTキューブ」の特徴である天窓で換気するエリアと、換気扇で換気するエリアを同じ土地の中に作り、現状分析や仮説検証を進め、その結果を仕様設計に反映して、最後に性能評価までやり切っています。

ハウスを実際に作り、徐々に計測用のセンサー数も増え、最終的には300個ぐらい取り付けた記憶がありますが、徹底して取り組んでいました。

「場所によるハウス内の温度のバラツキ」、「換気扇を使うので、騒音や振動も調べなければ」、「風を送り込むので、ハウス内の圧力が変わっちゃうんじゃないか」などさまざまな事象を計測しました。また、「換気量はこのような数式で計算に落ちるんじゃないか」、など見える化と理論化の活動を徹底し、設計していきました。

見える化の結果の1つをご紹介します。左側が先ほどお話しした風まかせの自然換気のグラフです。グラフ内の黒い線は設定温度を示し、実際の温度を青い線が示しています。緑色のラインが、その時の外気風速を示しています。右側が強制換気の場合のグラフです。設定温度の黒いラインに左側の自然換気よりも近づけることができています。

(グラフ左側において)自然換気の場合、風が弱く、その場合換気がされないので、温度は狙いよりも高くなってしまう結果を示しています。強制換気方式においては、「必要な換気量に応じて、3台あるうちの何台を動かせばいいか」の制御モデルを組み入れていますが、積極的に換気を取り入れ、温度変化を抑制しています。

「プロファームTキューブ」の取り組みの展望

最後に、「プロファームTキューブ」の特長を今後どのようなことに活かせるのかという展望です。スライドの左側に示すように、「プロファームTキューブ」は標準化設計により、栽培環境の安定、環境の再現性が特長になっていると考えています。

この特長により、場所や人を選ばず、人に優しく、難易度としても易しい農業を提供できると考えています。

将来的な発展性として、我々は「集団営農」という言葉で表現していますが、例えば担い手が不足している地域で、産地活性化を目指したい時に、担い手としてはまだ未熟ですが、再現性や安定性のあるハウスをチームで使い、1人の熟練者のノウハウを伝授・共有することによって、安定した農業の成果を出しながら、産地としても活性化していく姿を描けるのではないかと考えています。

この「プロファームTキューブ」は決して大規模な分類ではありませんが、集団で使うことで、地域の活性化にも貢献できる想いを持ち、取り組んでいます。

私からは以上になります。ありがとうございます。

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