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パネルディスカッション(全3記事)

「受験と実務の“苦手”はぜんぜん違う」「文系・理系は関係ない」 女性エンジニアが少ない現実から考えるアンコンシャス・バイアス

女性がエンジニアというキャリアに挑戦していく意義や、理系分野に女性が少ない理由について、ディスカッションする「女性こそエンジニアになるべき?- 私たちは好きなことに挑戦していい」。ここで株式会社ソウゾウの福田氏、早稲田大学の朝日氏が登壇。まずは、女性エンジニアを増やす方法と、ロールモデルについて話します。

ゲスト自己紹介

やまざきひとみ氏(以下、やまざき):本日のゲストをご紹介していきます。最初に、株式会社ソウゾウ、QAエンジニアでスクラムマスターの福田里奈さんです。本日はよろしくお願いします。

福田里奈氏(以下、福田):よろしくお願いします。

やまざき:簡単に自己紹介をいただけたらうれしいです。

福田:細かい紹介は「connpass」に書きましたが、福田と申します。今日はよろしくお願いします。私は、ずっと福岡に住んでいて福岡から出たことがないんですが、今はメルカリグループの株式会社ソウゾウで、「メルカリShops」を作っています。

QAエンジニアとか、スクラムマスターは調べてもらえればけっこう(情報が)出ると思うんですが、QAエンジニアとはプロダクトの品質を上げるための活動をするエンジニアです。メルカリ自体は2018年から、ソウゾウでは2021年4月からQAエンジニアとして働いています。今日は短い間かもしれませんが、よろしくお願いいたします。

やまざき:よろしくお願いいたします。ありがとうございます。続いて、早稲田大学理工学術院教授の朝日透先生です。本日はよろしくお願いします。

朝日透氏(以下、朝日):よろしくお願いします。早稲田大学理工学術院教授の朝日と申します。私の研究室では、ナノテクノロジーとか生命医科学とか、そのような専門分野を研究しています。また、人材育成では、アントレプレナーシップの教育や博士人材育成と、女性起業家支援みたいなものを行っております。

特に私は、大学のダイバーシティ推進室の推進委員も務めています。ダイバーシティは女性だけではありませんが、マイノリティの方々の相談に乗ったりしています。今日はどうぞよろしくお願いします。

やまざき:よろしくお願いします。朝日先生は、ダイバーシティにもすごく造詣が深く、推進に対してもさまざまな取り組みをされていて。Ms.Engineerとも(一緒に取り組みを)させていただいたりして。そういったご縁で今日は出演いただくことになりました。ありがとうございます。

どうすれば女性エンジニアは増えるか?

やまざき:それではさっそくテーマに入っていきたいと思います。

(スライドを示して)まずこちらのデータをご覧いただきたいです。IT業界、特にエンジニアのジェンダーギャップを表す数字です。世界的にも女性のエンジニアはけっこう少ないと言われていますが、日本は実は2割ぐらいなんですね。

ここで聞いている方も実感があるかもしれませんが。一方で、エンジニアは常に人材不足で、(求人を)募集しているところもすごく多い印象を持っていらっしゃる方も多いかと思いますが、その中でも女性が少ないのは意外かなと。

日本でも、エンジニア自体の数を増やして、業界のダイバーシティを推進していかなきゃいけない中で、Ms.Engineerもメルカリさんも「女性エンジニアがもっと増えないかな」という課題を持っていて、それが今回のイベントに通じていたりします。

そこで、まず1つ目のトークテーマです。「どうすれば女性エンジニアは増えると思いますか?」という大きめのテーマですが、ぜひ朝日先生から意見をうかがえればと思います。いかがでしょうか?

朝日:例えば「美容といえば女性」で、男性ではそれを専門として、または職業にやっていく人がいないというような概念。または、エンジニアというと男性が主にやっていく職業であったり、スキルとして身に付けるもの(といったイメージ)とか。我々のこれまでの環境のせいで、なんでかわからないけどそういうふうな思いになってしまう。

専門用語で言うと、「アンコンシャス・バイアス」みたいな、「女性はエンジニアは向かないよね」「美容は男性に向かないよね」みたいな。でも、「いや、そうではないでしょう」というのが、私が思っているところです。

特に、このコロナで“ニューノーマル”と言われる(ように)、例えば朝起きたら歯を磨いて朝シャンして、それから仕事に行くというような当たり前だった行動変容が、今はもう全部変わってきましたよね。

在宅でいろいろな仕事をしたり、生活をしていく時間が多くなった。そうすると、今までの概念とか、先ほど言っていたような偏りのある考え方は、もう世の中にぜんぜんなくなってきている。こういう時だからこそ、女性に限らず、エンジニアというものに対して、またはエンジニアリングセンスという視点を持ったスキルを身に付けるということは、非常に大事だと。

今までは(先ほどお話ししたような)そういう認識や思い込みが非常にあったので、なかなか増えなかったのかなと。

あと、エンジニアというと何か物を作ったり、実験を目の前でやったりする印象が非常にありましたが、先ほど言ったように、今はオンラインでの仕事が圧倒的に増えていて、これは実は、エンジニアリングセンスとか、エンジニアのスキルを持っている人材が家でも(仕事が)できるようになっている。

大きな変化や波が来ていると感じるので、これからはむしろ期待できるんじゃないかなと私は思っています。以上です。

やまざき:ありがとうございます。ニューノーマルと言われるような在宅ワークが本当に一気に増えて。弊社もフルリモートですが、やはりフルリモートという働き方で、女性の働き方の革命とか、いろいろ変わってきて。特にエンジニアでは、フルリモートだったりリモートワークがすごく進化していますよね。

アンコンシャス・バイアスはメルカリさんでも取り組まれているテーマだと思いますが、バイアスを取っていくことが、男性も女性も大事ということなんですかね。

女性の理系教育の現状

やまざき:朝日先生、(先生の学生には)理系の学生さんがたくさんいると思います。その中でも、女性の理系教育は日本の中でもけっこう課題と言われていると思いますが、今はどうなんですか?

朝日:2つの視点があって、例えば理工系で入ってくる時は、エンジニアに関係するようなスキルは抵抗がないということがあります。もう1つの視点が、ライフイベントとかライフスタイルという、いわゆる就職して結婚して子どもを産んだら家庭に入って仕事を続ける(られるような)ことが、理系ですらあまりない場合もあるんですね。

そうではなくて、これからはもう在宅で、ライフイベントがあったとしても、一時期は子育てとかいろいろなことで忙しくても、そのスキルさえ身に付けていれば、家で子育てをしながらずっと仕事ができる。

パートナーと併せると稼ぎが2つあって、そうすると、お子さんや自分の生活にかけるお金が出てくるわけですから、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)で、より質の高い生活が送れるようになる。そのスキルを身に付けるだけでライフスタイルが変わって、子育てやいろいろなことと両立できる可能性があるんですよね。今までの理工系の女性でもあった、いいところに就職しても辞めちゃうようなことを止めることもできるし。

もっと言うと、文系の女性でも「自分は苦手だ」とか思わずに、一歩踏み出してやってみたら「あれ? 案外できるね」と。

それから「これぐらいの仕事だったら私もできるわ」というグレードがもちろんあると思いますが、それで自分で給料をもらって、自分の生活のクオリティを上げていくのが僕は一番いいと思っているので。

そういう意味で、女性がこれからキャリアを考えた時に、文系でも理系でもスキルを身に付けておく。特に今回話題になっているような、エンジニアに関するスキル。そういうようなのも(身に付けるスキルとして)1つあっていいんじゃないかなと思います。

やまざき:ありがとうございます。理系はハードワークというイメージがまだまだあるんですかね。だから男性、みたいな。

朝日:若干あるのかもしれません。レポートとか書かなくてはいけない大学の授業のイメージがあるので。だけど、ゲームとかあるじゃないですか。あれは文系・理系関係なくずっとやっていられるわけですよね。ゲームを少し変えるぐらいで、いろいろなことを学ぶことが抵抗なくできるようになる。僕はプログラミングなりスキルというのも、そういうふうにできるんじゃないかなと思っています。

やまざき:なるほど。では変わってきているライフスタイルなど、そういった少し先の想像も含めてアンコンシャス・バイアスを取っていくことが、女性のエンジニアが増えていくきっかけになるというか。

朝日:そうだと思います。最初から「自分は苦手だ」とかはあまり考えないほうがいいと思います。大学の受験とはまたぜんぜん違いますから。

やまざき:ありがとうございます。

現役エンジニアから見た労働環境の現状

やまざき:福田さんはいかがですか? どうやったら女性エンジニアが増えると思いますか。

福田:そうですね。どうやったら増えるかはわからないっちゃわからないのですが。私はアカデミックな話はまったくできませんが、朝日先生のお話を聞いて思ったところが何点かあって。

まず1点目は文系について、考えてみると私の上司には理系の人がいなかった気がします。最初のスキルはエンジニア、プログラマーでしたが、プログラマーの時の上司はたぶん法学部だったんですよ。次の女性の上司が、文学部だったと思います。

その次の会社からはQAとかテスターの仕事をしていますが、そこからは、理系でも建築とかの異業種の方だったり、そもそも大学を出ていない高卒の方もぜんぜんいる世界ですね。なので、「理系の学部じゃないと」というのは、ぜんぜん(そんなことは)ないことに気づいたのが1点目です。

2点目に、先ほど生活においていろいろ変えられるとお話されていたと思いますが、私はまさにそうで。プログラマーを5年した後、結婚してから田舎のほうに住んでいるんですけど。ちょっとハードワークな会社にいたので、もうプログラマーは辞めよう、IT業界は辞めようと思って簿記の学校で簿記の職業訓練を受けましたが、そこのインターン先がシステム開発会社だったので、結局IT企業にまた戻ったんです。

正社員とかも別にいいやと思い、パートでレジを打とうかなと考えていたんですが、「あれ? でも同じ時間働くんだったら、正直ちょっとこっちのほうが自分のスキルも活かせるし、時給もいいし、都会で働けるのはちょっとうれしい」みたいな。けっこうそういう軽い気持ちでやっていたので、職業というか、選択の幅はすごく広がっているなと思いました。

メルカリに入るまで、自分の家庭の事情とかいろいろあって生活が変わったりとかして。その都度やはり「正社員にしてもらわないと」「稼がないとヤバい」みたいなことがあったんですけど、その都度そういうことを聞いてもらえる会社だったこととか。

IT企業で100年企業はなかなか少ないと思っていて、私の場合は新しい考え方を受け入れてくれる会社が多く、その都度提案してすぐ受け入れてもらったので、自分の生活に合った働き方に変えてもらえるような会社が多いんじゃないかなと感じています。そういう意味では、すごく働きやすい会社で働くことができていると思います。

コロナが始まってからの変化

やまざき:ありがとうございます。ライフスタイルと(仕事が)同居できる魅力に惹かれている方がすごく多いと思います。福田さんは、お子さんもいらっしゃるということで、特にコロナがあってから、なにか変化はありましたか?

福田:そうですね。メルカリの場合はコロナが始まる直前ぐらいから、インフルエンザだったり(の影響)とかもあったと思いますが、独自で家で仕事することもできていたので、かなり早めのうちから自宅で仕事していました。

その時点でメルカリは2,000人近くの会社員がいたので、在宅のメンバーがいた時もすぐにそれに応じてヘルプではないですが(そういったことを)してもらって、かなりスムーズに移行できたかと思っています。

やまざき:すごい。メルカリさんはダイバーシティもそうですが、子育てとかライフスタイルの取り組みとかがすごく先進的というか、業界の憧れみたいな先端を行っているイメージがありますよね。

あともう1つ聞きたいんですが、やはりどうしても文系・理系という議論が出てくると思うんです。Ms.Engineerは、社会人の女性がエンジニアになれないかなと門を叩く方が多いんですが、9割が文系出身なんですよね。やはり9割の方が「文系なんですけど大丈夫ですか?」と聞かれるんですよ。

先ほど、先輩の方が文系とお話されていましたが、文系の方でも向いている、活躍される方にはなにかポイントがあるんですか? まあ、文系(理系)関係ないのかもしれない(ですが)。

福田:文系だから、理系だからとはあまり考えたことがないんですが、最近で言うと、たぶん今はゲームをされている若い方が多いと思うのと、謎解きに行ったりとか、ゲームがすごく好きな方が多いと思うんですね。そういうのが好きな方は、クリティカルシンキングというか、話の筋道や矛盾がないように話を整理してとかが得意な方がすごく多いと思うんですよね。そういうところがけっこう大事で。

それって、理系だから文系だからということはおそらく関係ないのかなと思っているので。「文系だから……」とか思っている方がもしいるなら、そういう考え方をされるといいんじゃないかなと思いました。

やまざき:ゲーム好きだよという方、ぜひ(笑)。

女性のキャリアロール不在問題にどう対応するか

やまざき:あともう1つお二人にうかがいたいんですが。やはり女性のキャリアの中で、ロールモデルが不在ということが問題になることが多いと思います。先ほどあった女性の比率がどうしても少ないとなると、ロールモデルの母数自体が少ないことになるかと思いますが、こういうところはどういうふうに考えますか? 朝日先生はどうですか?

朝日:ロールモデルが少ないということは、最終的には女性のダイバーシティという、例えば会社の中でも役員が少ないとか、もっと増やすべきだとか、そういうことにもつながってくることになります。

要は、日本の場合は世界に比べて、根本的に女性が活躍する場所や、オポチュニティがすごく少ないということがまずあるわけですね。それを向上させれば当然のこと、比率は変わっていくというベースのところの話と、それから今度は分野の話があると思います。

例えば、ITやプログラミングは非常に苦手意識が強い。理系の男性でも苦手意識が強い。「それはやりたくない」と思っている学生さんが今でもいました。

大きく変わってきたのが、ビッグデータサイエンスというようなテクノロジー。例えば、GAFAと言われているような、GoogleとかAmazonとかFacebook(現:Meta)とかでいろいろなデータを使ってビジネスをやっていく中で、そのデータの処理ができるかできないかだけで、文系だろうが理系だろうが関係なくビジネスで成功する機会が増えてくる。

いっぱいあるデータをどう処理するかを考えてみようとした時、手で計算したり筆算をやるよりも、1回プログラムを作ってしまったほうが10分の1ぐらいの時間で結果が出てくるとなれば、それは文系・理系関係なくやりますよね。

そういうものを使って、「あっ、今までなかったような新しい製品ができた」とか、そういう経験をすると、たぶんどんどん比率も変わっていったり、それで成功して、やまざきさんみたいに自立をして起業家みたいな人も増えてきて。

大きな企業じゃなくても、2、3人でもいいですが、自分でノウハウを学んでデータを使ってやる仕事、データサイエンスがこれからどんどん必要になってくるので。文系・理系関係なく、プログラミングを組んでデータを処理をするだけで、ビジネス、または社会になにか貢献できることがわかれば、僕はもっと比率が増えてくるんじゃないかなという気がします。

やまざき:ありがとうございます。「自分がロールモデルになっちゃえ」みたいな視点の切り替えを(するということですよね)。

朝日:そうです。

やまざき:ありがとうございます。福田さんはいかがですか?

福田:ちょっと同じ答えになりそうですが、自分自身があまりロールモデルを探したことがなくって。(自分と)同じ人っていないじゃないですか。20代以上になってくると、みなさんそれぞれの事情が絶対あると思うんですよ。自分でなんとかするしかなくて今があるので、実はあんまり考えたことがありません。なので、自分の好きに生きられるという感じで考えればいいんじゃないかなと思っています。

やまざき:かっこいい人って、意外と「なっちゃえ」派が多い印象があります。ありがとうございます。

(次回につづく)

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