多種多様にわたる事業にデザイナーはどう関わるべきなのか

司会者:次はリクルートの磯貝さんに自己紹介と事例紹介をお願いしたいと思います。磯貝さんよろしくお願いします。

磯貝直紀氏(以下、磯貝):リクルートのプロダクトデザイン室のデザインマネジメントユニットデザインマネジメント部の部長をしている磯貝です。今日はリクルートのデザインマネジメントの事例を簡単に紹介したいと思います。

デザインマネジメントユニットは、リクルートのプロダクトを横断でデザインしている組織です。前職は制作会社にいましたが、リクルートに移ってからいろいろなサービスを経験して、そこでもっとデザインを活用して、事業に貢献するといったところで、この組織を立ち上げて、今に至っています。

リクルートも事例をいくつか共有しますが、それにあたって、まずリクルートの概要を説明します。リクルートの向き合う領域は、かなり多岐に渡ります。左側に出ている集客支援というところで、エンドユーザー向けにライフイベントとかライフスタイルに関わるようなサービスを展開しています。

あとは右側の、お店や事業をやっているようなユーザーさんに向けて、Air ビジネスツールズと呼ばれるSaaSやその他ソリューションを業務支援・経営支援というかたちで提供しています。なので、かなり多岐に渡る領域を担当しているというところと、それに起因してサイズやフェーズも多様です。

立ち上げたばかりの小さいサービスもあれば、もっとこれから大きくしていきましょうという成長フェーズのものもあるし、すでに大規模になっているようなフェーズのプロダクトもあります。

また、ビジネスモデルも、ユーザーとお店をマッチングさせてビジネスを成り立たせたり、あるいは先ほどお伝えしたようにSaaSを提供して、ビジネスをやっているようなところもたくさんある。リクルートの特徴としては、今お伝えしたように領域、フェーズ、ビジネスモデルというところも全部多様なため、かなりいろいろな状況が発生するのがリクルートの特徴かなと。

なので、リクルートのデザイン組織としてもこの多様な状況、本当にいろいろなケースに、どう対応してどうデザインを構築していくのかが至上命題になるかなと思っています。その中で、実際にリクルートのデザイン組織がどう立ち回っているかをみなさんに共有したいと思います。

デザインマネジメントの3つのパターン

このプロダクトデザイン室のデザインマネジメントユニットでデザインを統括していて、その中にデザインディレクターという「デザインを活用してプロダクトの役割を最大化していく」という役割を定義し、それらデザイン領域のメンバーが、デザインを活用して事業に貢献していくという構造になっています。

デザインディレクターがどうデザインマネジメントしているの? というところは、本当にいろいろなケースがあるのですが、ざっくりと分けると3つぐらいのパターンに集約するかなと思っています。この3つのパターンに関して、それぞれ事例を共有したいと思います。

まず1つ目が「デザインドリブンで変革を牽引」することです。こちらは『ゼクシィ』を例にしますが、このパターンの肝は「未来の理想像を具現化する」ということです。検討の初期段階でデザイナーが理想像を展開して、それを組織全体に共有することで、議論を前に進める。デザインがビジネスを動かす、前進させていくというドライバーになる事例になります。

『ゼクシィ』は、当時アプリが元気ないという状況があって、そもそも抜本的なUXの改善をしようとしていました。その際に開発メンバーなど、そこに関わるメンバーのイメージがけっこうバラバラで、議論が空中戦になり時間がかかって可能性が縮んでいくというような事象が発生していました。

こういうケースは往々にしてあると思いますが、右下に書いてあるように、そこでデザイナーがメンバーにいると「それを作って来週持ってきますよ」みたいなことができるので、非常に有用かなと思っています。実際に『ゼクシィ』の場合でも、戦略に沿ってデザイナーがコンセプトを立てて、プロダクトの未来像を描くというようなことをやっています。

なので、実際にみんなが言っていることをコンセプトにまとめて、実際にプロダクトに落とすとどんな感じになるのかも、プロトタイピングして共有する。それがすぐには反映できなかったとしても、そこから逆算するようなかたちでプロダクトの進化をメンバーに共有していけるところも1つの成果かなと思っています。

実際に『ゼクシィ』のアプリでもこのような提案をしてまして、やはり戦略をそのまま具現化できるという意味で、デザイナーが関与する余地はあり、事業に対してそういう貢献の仕方があると思っています。

ユーザーへの提供価値の最大化

次に2つ目。「ユーザーへの提供価値の最大化」というケースです。こちらは『Airレジ オーダー』を例に共有しますが、この肝はユーザーインサイトとプロダクトを結びつけるということです。やはりプロダクトを形づくっているデザイナーが直接現場に行って、現地情報を取得して開発に取り込む。ユーザーインサイトとプロダクトを結びつけることで、提供価値を最大化できるという事例になっています。

『Airレジ オーダー』は、ユーザーから注文を取ってそれをレジとかキッチンに連携するプロダクトなのですが、当時の戦略変更に伴って、今まで使っていたような業態のお店じゃない、違う業態のお店にターゲットを広げることになって。それを現在のプロダクトそのままで対応できるのか、あるいは大幅な改変が必要なのかというところが、不明瞭でわからないといった事象が発生していました。

結局先ほどと同じで、机上の空論というか空中戦になりがちなのですが、このケースにおいては、現場に直接デザイナーがリサーチに行って、そこでユーザーのインサイトを捉え、それを素早くフィードバックするということを行いました。

直接ユーザーリサーチをデザイナーが行って、そこで仮説やプロトタイプを検証したり課題を抽出したりして、インサイトを抽出した上で、現在の要件にフィードバックするというようなことをやっていて。このサイクルを回すことでより精度の高いプロダクトを作るということをやっています。

やはり実際にそのプロダクトを作っているデザイナーはそのプロダクトのことを一番よくわかっているので、そのデザイナーが直接ユーザーを見るということは、すごくメリットが大きいと思っています。インサイトを捉えて、本質的な立場で見ることができるかな、と。このケースではたくさんの仮説があったのですが、実際に現場を見に行ったことで、本当に必要なところがどこにあるのかを検証できたので、結果としてシンプルな画面設計に落とし込むことに成功しました。

最適なデザインコンサルティング

3つ目ですね。「最適なデザインコンサルティング」です。こちらは『ホットペッパービューティー』というサービスを例に説明します。こちらの肝は、デザインの価値を翻訳して提示するということです。

デザインコンサルティングは、事業状況をきちんと見定めて、最適なかたちでデザインのあり方を提示するんですが、その時に大事なのが、そこのデザインの価値をデザイナーじゃない人、決裁者とかステークホルダーに対して、きちんと翻訳して伝えること。それで事業側の理解とかを含めて、よりビジネスを前に進めやすくしたり、あるいはデザインを活用しやすくすることができるようになる事例になります。

『ホットペッパービューティー』も、一時的にデザインの負債が溜まっていて、メンバーとしてもかなりデザインに課題があるということは認識していたんですが、事業的になぜそれをやるのかがなかなか説得できなくて、改善が推進できなかったという状況がありました。

その原因としては、デザインの専門家がいなかったり、あるいはデザインを改善するにあたって、どういう影響が開発やビジネスにあるのかというところを理解していなかったりとか。結果としてそれをやることによってどういう効果、どういう良い影響があるのかというところを事業側に説明できない、事業目標とズレが発生してすんなり進むことができなかったというような事象が発生していました。

そこで、我々デザインディレクターが入っていって実際にやったことは、事業状況をきちんとヒアリングして、ステークホルダーの状況を正しく理解した上で、デザインを活用した際の価値をきちんと翻訳するということをやりました。

デザインが悪いことによってどういうことが起きているのか、あるいはそれを改善することによってどういう良いことがあるのかを、きちんとデザイナー側の言語じゃなくて、デザイナーじゃない人でもわかるようなかたちで伝える。それによって全体最適な解決策を提示して、きちんと合意形成して進めるというようなことができました。

具体的には事業毀損や開発効果を加味したゴール設定をしたり、効果測定をしたり。あるいは開発実現性を考慮して、絵に描いた餅にならないよう、きちんと開発が進められるようなデザインシステムを構築していったり。

そのようなことを実現したことで、無事にホットペッパービューティーのデザイン課題を解決できました。なぜそのデザインが必要なのか、どういう価値が発生するのかというところをきちんと翻訳して伝えるということで、デザインの活躍範囲を拡張していくことができると思っています。

その時に大切なのは、多様な事業を抱えているので、事業ごとに変動する要素もいっぱいあり、その状況を踏まえた上できちんとそれらに合った翻訳をしていくところが、とても難しいのですが重要なことなんじゃないのかなと思っています。

デザインマネジメントのあり方は1つではない

ここまで、3つの事例を紹介してきました。基本的にこの3つのパターンに集約するという感じでお伝えしたんですけれども、別にどのパターンが上でどのパターンが下かということではないと僕は思っています。先ほど田子さんがおっしゃっていたと思いますが、結局デザインを活用するその段階というか組織の成熟度によって、どういう活用の仕方をすればいいのかというレベル感は変わってくるかと思います。

そのいろいろな状況に合わせた結果が、こういうパターンだったということかなと思います。なので自分が一番言いたいのは、デザインマネジメントのあり方は1つではないということです。本当にものすごい多様な状況が発生するとお伝えしましたが、どんな状況でもその状況に合ったデザインの活用の仕方があるかな、と。

なので、その状況に合わせたデザインの活用をして、きちんと一つひとつ物事を動かして価値を生むということを積み重ねていくことが大切なんじゃないかなと思っています。それを積み重ねていく先に、より大きいデザインの活用、デザインマネジメント、デザインのレバレッジを効かせられる、そういう状況につながっていくんじゃないかなと思っています。

デザイナーがみんなリサーチが得意というわけではない

司会者:すばらしい。ありがとうございました。ちょうど今の磯貝さんのお話をしている時に1つ、これはぜひ磯貝さんに答えていただきたいなという質問があったので、ちょっと1つ質問を受けていただければと思います。

先ほどお話があった中で「プロダクトを作るデザイナーがリサーチまで行う」というようなお話があって、そのようなデザイナーが、インサイトの話だと思いますが、拾ってやるほうが効率が良いというお話の時に、デザイナーにリサーチをさせるというところで、「リサーチのやり方を社内で研修とかも行っているのでしょうか?」というような質問がありましたが、これはどうでしょうか?

磯貝:そうですね。一時的にそういう研修をやったりなど、そういう事例はあります。ただメチャクチャ専門のナレッジとして装着しに行っている状態ではなくて、どちらかというと現場で「そういう情報も必要だよね」というところで、当たり前のようにそこから発生した事象として、そういう業務を付随するようなかたちでデザイン+リサーチというのでやっている感じですね。

なのでそこは、先ほどの2番の事例をより推進させていくという観点では組織的に取り入れていく、装着していくとかは一定もっとやっていいのかなとも思います。

司会者:ちょっとこの質問は同じく田子さんにもうかがいたいなと思ったんです。デザイナーとリサーチでいうと、そもそもデザイナーなのでけっこうリサーチする力を持っているのかなと私の中では仮説があるんですが、田子さんはどうでしょうか?

田子學氏(以下、田子):おそらく、基本的にはデザイナーの体質としてはいろいろな興味を持っている人が多い。さらには興味を自分で消化できる人が多いので、そういった意味では、見ている幅はかなり大きいと思います。ただ、その見ている幅を仕事に活かせるようなリサーチ能力が伴っているかどうかなんですね。

司会者:なるほど。

田子:それがある人は、リサーチ成果をきちんと編集をして、より良いものを届けたいとなりますし、いやいや自分はリサーチのプロでもないし、あまり興味がないからやらないよという人もいたりするので、一緒くたにデザイナーがみなさん、リサーチが得意かというとそれはまたちょっと違ったりしますね。

デザイナーをアーティストだと思うことが一番危険

司会者:失礼しました。私はデザインなどはぜんぜん学んでいないんですけど、お二方はそういったことを大学で学んでいたり。

田子さんが日本経済新聞社と一緒に、ビジネスパーソンのためのデッサン塾みたいなことをやっている時に感動したのが、「1つのリンゴを見たとしても私にとってはリンゴはリンゴでおいしそうだなとしか思わないところが、デザイナーがデッサンなどをやると、光の加減などさまざまな1つの状況に合わせた状況を判断してそれを落とし込む」というところ。もちろんビジネスに活かせるリサーチとはちょっと違うかもしれないんですが。

田子さんも磯貝さんも今話したように、いろいろと見て興味を持って、あとはそれをきちんとリサーチするようなアンテナがもともと高い方々がデザイナーなのかな、と思いながらうかがっていました。

田子:そこの話を掘り下げるとすごい時間がかかっちゃうのですが、日本で非デザイナーの多くの方はデザイナーのことをアーティストだと思われている可能性があって、そこが一番危険な入り口かなと思っています。

僕がすごく大好きな人にディーター・ラムスという方がいて、この人はプロダクトデザイナーなんですけど、この人が言っていることで非常に的確かなと思ったのが、デザインを橋に例えた考え方。デザインとは橋の造形を考えることじゃなくて、向こう岸への渡り方を考えるということだ、と。まさしくそのとおり。

資産をどのように考えるのか、そこにある体験性を理解した上で、どのようにこの橋を大切にしていきたいと思わせるか。これは単なる造形の話だけでなく、心理的な話でもあるわけです。こうなるといわゆるリサーチ能力も関わってくる。そういった意味では日本ではデザイン的な教育が欠けているんですよね。

だからなかなか一般の人たちもデザインという話になった時に「いや、俺にはセンスがないから」みたいな話になってしまうんですが、センス以前に何を残していきたいのか、何を伝えていきたいのか。これはもう、デザイナーじゃなくてもみなさん共通じゃないですか。これをいかにオリジンであり特有なものにしていくのか。そういう視点がきっと必要なんですよね。これが本来のデザイナーなんじゃないかなと思いますね。

デザインマネジメントを浸透させていくために必要なこと

司会者:今の田子さんのお話をうかがっていると、先ほどの磯貝さんの話の1番目の項目のデザインリードみたいなところは、やはりいろいろな多様な人たちが言っていることをきちんと編集して、それをアウトプットに落とし込んでいるからこそできることなのかなと思いながらうかがっていました。

それではこれからパネルから私がコメントを拾ってうかがっていきたいと思います。まず1つ目ですが、お二方は本当にデザインマネジメントというかたちで、本当に大きい組織の中でやる方もいれば1研究所みたいな、さまざまなアプローチがあるというのをうかがいましたが、これをリクルートだからとか田子さんが手掛けるからではなく、もっと日本全体に浸透させるべきではないのかなと思っているんですけど。

この「デザインマネジメントを浸透させていくために必要なことは何か?」についてお二方に聞いていきたいと思います。まずこれは田子さんからうかがってよろしいでしょうか。

田子:1つは、さきほど話したようなデザインの解釈的な間違いがあるので、それを正す必要があると。実は僕らデザイナーですら、「デザイン」という言葉を辞書で引いたことがない人がいっぱいいるはずなんです。しかしちゃんと解釈すれば、決してデザインはデザイナーのものだけではない、むしろ本当に社会広義として経営者も知るべきことだとよくわかるはずなんです。

なぜならデザインは、創造的な価値を示すからなんです。それは事業価値をどのように資産形成をしていくかとまったく同義なんですよ。そのために自分たちのアセットもしくは技術、いろいろなものを組み合わせた時に何ができるんだろうということを考えたら、これは立派なデザイナーじゃないですか。

デザインマネジメントでまさに我々が言っていることは、しっかりとしたデザインインストールをみなさんに理解をしていただくということが最初のトリガーのポイントになるんじゃないかなと考えます。

司会者:なるほど。どちらかというと経営層など本当に戦略を練る方々に対して必要性を伝えていく、事例にしていくというところがプロセスとして必要だと。

田子:そうですね。事例がその後どのような渦の描き方をするのか、それがデザインなんだというのを、きちんと体験もしくは理解をしていただく。それがわかると、本当に早いです。

こういうことがこんな共感を生んで、こういう未来が描けるんだったらこれはやはり大切にしなきゃと思うマインドになると、デザインへの見方は変わると僕は思っていています。だからもっと本当に上流に関わっていく必要がデザイナーにはあるんじゃないかなと、思っています。

司会者:すばらしい。磯貝さんからもうかがってよろしいでしょうか。どうしたら浸透していくか。

磯貝:そうですね。今のお話とだいぶ近い話ですが、やはりデザインという概念は、上流から物事に関わっていくのが一番レバレッジが効くと思っています。なので今(田子さんが)言っていたように、プロジェクトのリーダーや決裁者や経営者など、そのお仕事を作るというかそれを判断する人に、きちんとデザインの本質的な価値を理解してもらうことが一番大切かなと思います。

田子さんが言っていたように、日本のデザイナーという言葉が想起するイメージは、ノンデザイナーの人からすると、色・形を指定する人みたいな、そういう印象がどうしてもあるのかなと。

本質的な意味では、やはりそういうことではないかなと思いますし、広義にデザイナーを活用すれば本質的な価値をたくさん創出できると思っているので、きちんと上流から噛めるということ、本質的な意味でのデザインを、きちんと決めている人たちに理解してもらうというところが必要なんじゃないかなと思います。

決裁者が理解できるような言語に翻訳するのが大切

司会者:とは言いつつ、ちょっと意地悪な質問をしちゃうかもしれないのですが、やはり「わからない」と思っている方々に、「デザインは色・形でしょ?」みたいな方たちに大切さを伝える、認知していない方に認知させるのはめちゃくちゃ難しいなと思います。先ほどの磯貝さんの話の中でも、ちょっとコンサル的なかたちで入っていくことによって、より切り拓けるみたいなところもありましたけど。

理解できないという言い方は変ですが、価値をちょっとまだうまくつかみきれていない方に、デザインマネジメントやデザイナーの価値を伝えるために、磯貝さんはどういうかたちでアプローチをされていらっしゃいますか?

磯貝:先ほどの事例のケースが全部がそれだと思っていて、特に3番目などはやはりデザイナー向けの言語じゃない。いわゆるさっきお伝えしたように決裁者やそういう人たちにきちんとわかるような言語でデザインの価値を翻訳して伝えることをやっていますね。

例えばデザイナーがやりがちなのが、「これはめちゃくちゃクオリティが高いんですよ」や「かっこいいんです」など、そういうような伝え方をしがちかなと思っていて。結局そこでかなり主観が入るので、そうではなくて「こういうデザインをすることによるユーザビリティはこうなります」や「事業のこういうKPIがこうなります」「開発工数がこれだけ圧縮します」など、そういうようなかたちで、きちんと決裁者が理解できるような言語に翻訳すると。それを積み重ねていくことが、当然必要になるのかなと。

読み解いてわかるように翻訳するのがデザイナー

司会者:ありがとうございます。ちょっと次のテーマも、今聞いたことに非常に近しくなってしまうんですけども、今日のUI UX Camp!を聞いてくださっている方の半分以上がデザイナーの方々です。そういう方々に、これからデザイナーとしてさらにデザインマネジメントとか経営に入ってきてもらいたいみたいな時に、今後デザイナーはどうあるべきかをお二方に聞いていきたいなと思うんですけども。これは磯貝さんからうかがってもよろしいですか?

磯貝:はい。今の話とほぼ同義なんですけど、結局そのデザインをどう使うかということだと思っています。なのでそのためには、上流から絡まなくてはならない。そのためにはポジションを獲得しにいくということが、僕は大切かなと思っています。

なので何度も言いますけど、その翻訳したりとかきちんとロジカルになぜそれが必要なのかを伝えていかないといけなくて、そういうデザイナーじゃない人に対してどう価値を伝えていくかという、そういう小さい積み重ねというかそれをつなげていくことで、よりデザインが活用できる領域は広がっていくんじゃないかなと思います。

司会者:磯貝さん自身も、そういうかたちで翻訳しながらどんどん積み上げていったという認識でよろしいですか?

磯貝:そうですね。それを社内で今まさにずっとやっているという感じかなと思います。

司会者:でもどんどん手ごたえを感じ始めていると思うのですが、最初のうちとかは、けっこうめげそうな作業ですよね。通じない方に翻訳するのはなかなかしんどいところかなとは思うんですが。

磯貝:そうですね。ただ前職であまりデザインの土台がない会社さんに、デザインコンサルとして入っていって。

司会者:なるほど。

磯貝:そういう文脈みたいなのはずっとやっていたということもあって、同じだなというところで、それをそのままリクルートでもやっている感じですね。

司会者:なるほど。田子さんにもうかがいたいんですが、デザイナーの方々に今後どうあってほしいというか。

田子:磯貝さんが今言われていたとおりだと思います。やはり翻訳、言葉の定義は、デザイナーの中ではすごく曖昧なんですよ。曖昧なんだけど、たどってきた道がみなさん共通していることが多いから、そこが勝手に共感できちゃうんですよ。

司会者:なるほど。

田子:いわゆる阿吽の呼吸で。例えばデザイナー上がりの経営者はちょっと別として、ぜんぜん違う経営一本で来た人たちは、デザインと触れ合っていない人と合意を得ようとすると、言語が違うんですよね。その言語をデザイナーだからといって曖昧な言葉で済ますのは、ちょっと違うと思っていて。

デザインがやろうとしていることは広義な話なので、わかりにくくなることも多々あります。きちんと意味があるものであれば見えない言語でもきちんと読み解いて、理解をしてその人たちにわかるように翻訳をする。これがデザイナーだと思うんですよね。

司会者:なるほど。そうか。そこもデザイン。

田子:さっき言った研究者がまさに良い例で、研究者には研究者村があって、研究者の中で話している話は数値とか記号の話をしているから最初は本当にぜんぜん言語が合わない(笑)。

当初はどうやってコミュニケーションをしようかと思っていたんですが、だけど「ちょっと待てよ。いろいろなポートフォリオがいっぱいあるな」と。ポートフォリオを使うのは結局人間じゃん、人間が使うからには結局感性があって、それは五感で例えば触った時にどうなのかだったり、見た時にどうなのかだったり。それはみんな共通なわけですよ。

だとしたら、ポートフォリオを五感で割ってみてどのような評価になるかをやりませんか? という共通言語づくりがもともとの会話のきっかけで、その結果NAGORIなどいろいろな製品が出来てきたんですよね。

司会者:へー! なるほど。

田子:一緒になって、翻訳をしようとする意識は、もしかしたらデザイナーのほうが得意だからやるかもしれないんですが、お互い理解して渦を作っていくのが一番大切なんじゃないかなと思いますね。

司会者:「渦」って良い表現ですね。やはりそれは小さいものだけじゃなくて大きくしていくためのものということなんですね。

たしかに、先ほどの田子さんも「VUCAの時代」と言いましたが、いろいろと不確実なものがあるように、小さくても見えるものが出てきて、それをつないでいくという意識でいくのが大切なのかな、と。大きなものを動かすのもそうですけど、先ほど磯貝さんが言っていた、複数あるものでもいきなり混ぜてもグチャっとした時に、ちょっとずつでも合うと、見えるものを出していくことによってみんなに渦を作っていく意識でいる必要があるのかなというのを、お話を聞いていて思いました。

必要なのは「体験」と「相手の目線に立つこと」

司会者:最後にもう1つだけ質問を拾いたいと思います。先ほどの翻訳というところに関わる話だと思いますが、「相手のフィールドの言葉で語ることはどの職種でも大切だとは思いますが、翻訳して語ることを意識してもらうために行っていることはありますか?」。お二方はできると思うのですが、例えばチームとか研究者にも翻訳して語ること、それが価値を生み出すんだよということに気づくために、気をつけていることはありますか? 田子さんから。

田子:体験性かな。

司会者:なるほど。

田子:言葉の整理はやはりお互いが生まれてきた環境が違ったり言語も違ったりするじゃないですか。同じことを言っているのにぜんぜん違うこの言葉の意味になる可能性だってあるわけですよね。

司会者:はい。

田子:そういった時に、これを意味しているものが何かは体験するしかないと思うんですよね。だから共通の体験をするのが一番早いと思う。

司会者:なるほど。体験ですね。では磯貝さんいかがでしょうか?

磯貝:そうですね。相手の立場に立って物事を考えることですね。それはよくデザイナーがデザインリサーチをする時などに使えるスキルかなと思いますが、そういう観点で相手の立場に立った上で、向こうがこういう言葉ならどう思うのかというのを心がけることが必要なのかなと思います。

司会者:お二方の話を聞いて、デザインマネジメントが当たり前にこの社会に浸透していく世の中にしていきたいと思いますので、また引き続きよろしくお願いいたします。

それでは田子さん、磯貝さんどうもありがとうございました。

田子:ありがとうございました。

磯貝:ありがとうございました。