株式会社東芝チーフエバンジェリスト 大幸秀成氏の紹介

天野眞也氏(以下、天野):皆さんこんにちは!AMANO SCOPEのお時間です!

本日のAMANO SCOPEは、株式会社東芝チーフエバンジェリストの大幸さんをお迎えして、今話題のトピックについてしっかりと教えていただきたいと思っています。この話題のトピックとは、ズバリ「半導体」です。大幸さんといえば、半導体ということで。

大幸秀成氏(以下、大幸):いやいや(笑)

天野:YouTubeのいろいろなところで、大幸さんを見られてる方もたくさんいらっしゃると思うので、ご存じの方もいらっしゃるとは思うのですが、最初に簡単な自己紹介をお願いしつつ、今日のメインテーマである半導体についていろいろ教えてください。

大幸:わかりました。皆さん、こんにちは。大幸秀成と申します。ちょっと変わった名前ですね。「大きな幸せ」ということで。

私は1982年に東芝に入社以来、実はずっと半導体を手がけていました。38年間ぐらい半導体の業界にいて、本当に日本が「産業の米」と言われる前からそこに入って、商品企画をしたり、市場開拓をしたり、世界標準を作ったりなどいろいろやってきました。

そこを変遷して、今は、東芝グループの本社の機能の中にある「サイバーフィジカルシステムズ・エックス・デザイン部」という部署で、チーフエバンジェリストというかたちで、東芝グループ全体のいわゆる新規事業の走り方をコーチングしたり、アドバイスしたりというところを担っています。

ということで、私の社会人としての始まりと、習熟期は半導体なのですが、今はどちらかというと、新規事業が走るための後押しをしてあげるお手伝いをしています。チーフエバンジェリストという名前が付いていますが、東芝中の技術、商品、人材をつなげて、外のお客さま、もしくはパートナーと連携をして、新しい産業を作っていくという職でございます。

私たちの生活にも影響を及ぼしている半導体不足

天野:今日のテーマがなぜ半導体かというと、今ものすごく半導体が市場の中で逼迫していて、入手困難であると。私たちも半導体に起因する製品がなかなか買えなくて非常に困っています。視聴者の皆さんも、他人事だと思っていたけど、直近ではテレビが買えないとか。

大幸:エアコンが買えないとか、いろいろ出ていますね。

天野:身の回りに半導体不足の影響があると思います。そもそも何でこんな事態になっちゃったのかということも教えていただきたいですし、そもそも半導体は何なのか、また、今の状況を正しく伝えられてる方は、あまりYouTubeもニュースも含めていないんじゃないかなと思っています。

大幸:断片的ですね。今の瞬間を捉えたコメントはよくされていると思うのですが、歴史的な背景はあまり語られてないように思いますね。

天野:今日はそういったところで、大幸さんにズバリ、今の状況から過去の歴史・変遷も含めて、正確にお伝えいただけたらと思います。どうかよろしくお願いいたします。

大幸:こちらこそ。あまり言うと、周りから怒られちゃうかもしれないですけど(笑)

天野:いやいや(笑)

大幸:私の知ってる真実をお話ししましょう(笑)

天野:やった!ありがとうございます(笑)

なぜ半導体は必要とされているのか

大幸:まずはどこから話しましょうか。なぜ半導体がここまで必要とされているのかという一番のベース的なところをお話ししましょうか。

天野:ベース的なところからお願いします。

大幸:そもそも半導体が世の中に出る前は「真空管」というものがありました。電気を入れるとオレンジ色に光る「増幅器」というものです。半導体は、一番最初に「増幅する」、つまり、電気の力を強くするものとして考えられました。例えばオーディオのスピーカーやアンプ、レコードのピックアップを大音量で出すのは、増幅しているわけですよね。

天野:昔のアンプには、真空管アンプとかありましたよね。

大幸:そうです。それを小さなシリコンデバイスで実現していました。最初はゲルマニウムだったのですが、シリコンデバイスにすぐになりました。半導体は、まずは増幅を目的として使われ始めました。人の近いところでは、スピーカーとかになりますね。ほかにも無線通信なども増幅の微信号を電波にして飛ばすので、そういうところにも使われていました。

半導体がいろいろなものに使えるねとなった時に、コンピューターの世界では、実はこれはスイッチになるんですね。要するに2進法なので、0か1かに切り替えて演算していくというものです。今の工業のシーケンサー、PLCもそれに近いと思うのですが、それを半導体で制御したいという話になったので、最初は増幅だったのですが、そのあと半導体が進化していったのはスイッチなんですよ。

天野:増幅器からスイッチになったんですね。

大幸:(スイッチ)のほうの需要が高まってきた。0か1かを高速で処理していくということですね。だから今、世の中にあるいろいろな半導体も、ある意味スイッチ機能というのはきちんと入っていて、それはディスクリートであっても、LSIであっても、SOCであっても、メモリであってもすべて一緒なんですよ。スイッチがあって、そのスイッチによって例えば貯めてある電気が読み出せるとか、1が要るのか0が要るのかで合わせると、画像データが出てくるということになっているんですね。

このスイッチの0と1をどんどん集積化して、今やもう何億という半導体の素子のエレメントが1cm□(カク)や2cm□(カク)のチップに入っているのですが、それが微細加工技術とともに進化していきました。

天野:5ナノとか、2ナノとか、そういう微細技術が今進んできているわけですね。

大幸:増幅機能はそれとしてあることはあるのですが、圧倒的にデマンドが大きい。つまり、デジタルコンシューマーやIT機器と言われてるスマホ、タブレット、テレビなど、ほとんどの中は、デジタル信号で動いているので、そこに半導体が必ず使われるという状態になっています。なぜ使うかというと、やはり半導体を使うとどんどん安くなっていくんですね。

天野:量産でたくさん作るからですか。

大幸:そうです。

天野:1万個や10万個を使うと、どんどん安くなっていくんですね。

半導体の需要の規模は爆発的に大きくなっている

大幸:ちょっと話が飛びますが、半導体はそもそも最初から歩留まり100%で作られているものではないんですよ。半導体は、お皿上の「ウェハ」というシリコンの板に露光とエッチングを繰り返して、拡散をして作るのですが、チップの大きさにもよりますが、例えば大体1つのウェハから1,000個とかが取れるわけですね。ただ、1,000個すべてを出荷していいかとはなかなかならなくて、最初の量産を始める時には、例えば歩留まりが80何%とかいうことが普通なんですよ。

だけど、数をこなしていく中で、生産性と誤差をなくしたり、エラーを少なくしていったり、製造工程を安定させたりすると、どんどん歩留まりが上がっていって、気がついた時には100%になっている。その上がった分が、ある意味利益になっていくというかたちですね。だから、その分コストが安くなって、ユーザー側にも還元できるということがロールしている感じですね。

そういう意味で、とにかくありとあらゆる電化製品と言いましょうか。これはコンシューマーから産業、それから宇宙、ロケットに行くもの、いろいろなものを含めて半導体が欠かせない存在になっているということなんですね。

天野:1個当たりで言うと、数百円、数千円から1万円の間ぐらいですか。

大幸:ピンキリですね(笑)

天野:量産効果と能力によって、さまざまなんですね。

大幸:一番安いものだと1円しないんですよ。

天野:そんなのもあるんですか。

大幸:あります。2端子しかないような、ちょっと保護するダイオードは、シャーペンの芯の中に全部入ってしまうぐらいの大きさです。コンデンサに「MLCC」というものがありますが、あれと同じぐらいのサイズの半導体があるんですよ。そういうのは1円以下です。ただ、多量に必要ではあるんですね。一方、スマホ用の最先端のプロセッサーだと、出だしは「〇万円」という感じです。

天野:「〇〇チップ」みたいなやつですよね。

大幸:そうですね。あと、データセンターでプロセッシングするようなチップだとやはり高いのですが、そこも数が出ればどんどん価格は下がっていきます。

天野:今、増幅器から、いわゆる「01」の信号処理になって、それがどんどん集積されて大きくなって、ありとあらゆるものに使われまくっている。

大幸:採用の事例が広がっているということですね。それから、一部の人たちが使っていたものから、今スマホの広がりがすごいじゃないですか。

天野:すごいですね。

大幸:発展途上国や新興国でもみんな持っていますよね。電気が通っていなくてもスマホは持っているという世界になってきているので。

天野:「スマホは1人1台以上持っている」というのが当たり前の世界になってきていますよね。

大幸:そうなんです。そういうことを考えると、半導体の需要の広がりは、今まで以上に規模が爆発的に大きくなっています。それから、EVもそうですよね。モビリティというか、動くものをすべて電化していくというところには、半導体の技術は欠かせません。

ここに来て一気に広がってる半導体の需要は、「パワエレ(パワーエレクトロニクス)」と言われている部分なんですね。これも電力を制御するので、増幅とよく似ているのですが、小さな電流の信号で大電力を制御するというのがパワエレです。それがありとあらゆる分野で広がっていて、今、車の生産が止まっちゃったという話がいっぱいあるじゃないですか。それは確かにマイコンも原因にあるんですよ。デジタル処理しているものも当然あるのですが、実はそういうメディアに出てこない情報として、パワエレが足りてないというのがあります。

天野:パワエレ由来なんですね。

大幸:それもあるんです。

天野:僕、この間産総研さん(産業技術総合研究所)に行って、パワエレの未来みたいなものをいろいろ見せてもらったんです。今、本当に小さくなっていて、昔のこんな大きかったものが、メチャメチャ小さいもので制御できるようになっていますよね。車のコントロールもそうですし、僕らの世界だとパワコンという太陽光関連とか。

大幸:太陽光発電用の電力変換器ですね。

天野:そうなんです。あれもメチャメチャ小さいし、しかも効率がすごく上がっているので、すごいなと思いました。

大幸:そうなんですよ。どんどん改良・改善されています。今、新素材なんかも発明されていて、シリコンだったのがシリコンカーバイトになったり、「GaN」というガリウムナイトライト系に変わったりして、より効率のいい半導体に変わってきています。

未曾有の事態、外交関係、火災、大寒波が重なってしまった

天野:ここまで広がってくると、作る側としては、需要機会を逃したらもったいないから、いっぱい作りそうなものですが、そんなことはない?

大幸:そこにまた難しさがあるんですね。今はこういう景気の状態になっていますが、2年前、コロナ感染症が始まった頃は逆ですよ。物が余りすぎて、需要がないという状態だったんですね。なので、生産をセーブするし、工場がシャットダウンしているので、当然それを使おうとする人たちも要らないよという話になるんですよ。しばらくその状態が続くと、中間にいた流通業の人たちもどんどん注文を落としていくんですね。

天野:買い控えではないけれど。

大幸:在庫もどんどん減っていく。世界全体がそういうふうになっていて、サプライチェーンが下に落ちている時は、また一気に上がろうというのは必ずあるわけですよね。その一番最初の走りになったのは中国ですね。中国は一番早くコロナの課題になりましたが、リカバリーが早かったじゃないですか。

天野:回復が早かったですからね。

大幸:「世界の生産工場」と言われてる中国の回復が早いと、それだけ需要も上がってきて、一気に足りなくなる。それにプラスして、中国とアメリカの問題がありました。

天野:ちょっと険悪な感じ。

大幸:そうです。「アメリカ製半導体は中国に売るな」となったわけですね。そういうのがダブルで重なると、それ以外の国がカバーしないといけない。特に日本は中国との関係も深いですから。日本としては、中国にも半導体を出したいんだけど、アメリカの顔色を見ながら出さないといけないし、中にアメリカの特許が入っていたりすると、中国に売れないんですね。

そういうのもあって、ドンっとデマンドが上がってくる中で、どうするんだとヨタヨタしているうちに、ほかの国の生産も上がってきたり、巣篭もり需要でノートパソコンとかが売れたりする。

天野:カメラも売れたり。

大幸:これから暑くなるからと、エアコンも要るとなってくると、半導体が全然足りなくなった。

天野:そういうことのミックス、下がったところに需要が回復して、かつ、いろいろな政治的背景もあって流通が滞った。

大幸:それだけではないのですが、まずはそれがメインですね。そこに追い打ちをかけたのが、日本に近いところの事例で言うと、旭化成さんの宮崎工場の火災。センサーなどいろいろ作っていたのですが、そこが火災でシャットダウンしてしまった。主に車用のセンサーを作っていたと聞いているのですが、それが事の始まりです。

その半年後ぐらいに、今度はアメリカのテキサス州が大寒波に覆われて停電になったんですね。その停電になった対象に、半導体工場がいくつもあったんですよ。NXPとか、いくつかの工場があって、シャットダウンしてしまった。半導体工場は、いったん停電になると、リカバリーにすごく時間がかかるんですよね。そういうのがある中、とどめを刺したとは言いたくないのですが、ルネサスさんの火災が起きてしまった。

天野:ただでさえ市場が逼迫していたのに加えて、生産工場にも打撃が入ってしまった。

大幸:そうなんですよ。

天野:それぞれ理由は違いますが、そんなことが偶発的に起きてしまった。

大幸:すべてが重なったということですね。

天野:そういうことなんですね。

半導体不足はまだ続くと言われている

大幸:なおかつ半導体を製造しているプレイヤーもすごく寡占化されてきちゃったんですね。だから、1社が供給できないと、その影響力がすごく大きく出ちゃうんです。

天野:代わりにあそこで買おう、ここで買おうとはできないんですね。

大幸:できなくなっちゃうんですよ。生産拠点は一応分散していても、同じ商社がいろいろなところから調達するというのは、そんなにできることではありません。結局、このメーカーからはこれを買うし、このメーカーからはこれ買うと、調達先を種類によって分けたりしているのですが、同じものを2社〜3社から共通購買にして、ストックするのは、あまりできていないんですよね。

色合いは多少付けないといけないという感じになっていて。すると、やはりBCPと言うんですか。何かが起こった時に、供給を持続するためのメカニズムを、きちんと考えていなかったというのが露呈しちゃったということですね。

天野:そういうことなんですね。ある程度の未来予測をしながら、もちろんストックも持っていたのかもしれないのですが、あまり持っていなかったんでしょうか。

大幸:おそらく想定を超えた市場の動きがあったということですよね。作れないというほうは、事故があった。供給量が足りないというのは、マーケットが予想以上に上振れをした。その間に貿易摩擦が起きているので、迷うわけですよ。そんな短期間で解決する問題ではないじゃないですか。そうすると、中国はお金を持っているから、どこかから調達しようと、何かをやろうとするわけじゃないですか。

天野:高い値段でもいいから売ってくれみたいな。

大幸:例えばですよ。

天野:例えば、商社さんとしてある程度のストックがあれば、そこに卸しちゃうとか。

大幸:本来は違うところに出す予定だったものが、回っちゃうという話もね。

天野:従来卸す先には「ちょっと納期がかかります」という回答になってしまう。

大幸:それが重なっていくという。従来の予想だと、今頃は平常時に戻っているだろうと言われていたのですが、今、大方の人たちの予想だと年内(2021年)は続くと言われているんですよね。簡単には解消しないと言われています。

天野:各工場は生産も盛り返しているし、フル稼働で作っているんだけど、今の需要に追いつくには、まだ4ヶ月、5ヶ月かかるという見立てであるんですね。歴史から、どういうふうにいろいろなところに広がって、今回どんなことが重なったのかを時系列で教えてもらって、僕も「なるほど」と思いました。最後に、半導体の不足は年内は続くということですが、この先、こういうことがまた起こるとすごく困っちゃうじゃないですか。こういうふうにしとけばいいみたいなのってあるんですかね。

大幸:なかなかいい質問ですね(笑)

天野:いえいえ(笑)