若い人に冒険してほしくてベンチャーを立ち上げた

池澤あやか氏(以下、池澤):ゲストをご紹介します。クオンタムリープ株式会社代表取締役で、元SONY株式会社 社長・会長をされていた、出井伸之さんです。今されている事業のことをお聞きしたいなと思うのですが。

出井伸之氏(以下、出井):クオンタムリープは、SONYとまったく反対で、小さな会社を作ろうと思っています。なるべく大きくしない。大きくするなら、どんどんその人たちに新しい会社を作ってもらう。集団で大きくなっちゃうと疲れるからと思って、クオンタムリープにしました。この会社がこの最近やったことは、ベンチャーじゃなくてアドベンチャー、冒険。

池澤:冒険!

出井:もっと若い人に冒険をしてほしいというのが僕たちの願いで、2019年11月29日にみんなを集めて、「いざやろう!」と思った時にコロナになっちゃった。そういう面で、ベンチャーじゃなくてアドベンチャーというのをけっこうやっています。「1人、村に子どもが生まれたらみんなで育てよう」ということわざがアフリカかどこかにあるらしいんですよ。(アフリカのことわざ「It takes a village to raise a child」)だから、クオンタムリープのCEOというよりも、アドベンチャー村の村長がいいと。

池澤:ワクワクする。

人間の動きや荷物を分断したコロナの流行

菅澤英司氏(以下、菅澤):今回のコロナをどうお感じになりましたか?

出井:すごく大きく考えると、国がどういうポジションを取るかというのはすごく怖いです。例えばEUは、国というのを取ってみんな自由に行き来ができるはずじゃない。コロナはすべての人間の動きや荷物の動きを分断しちゃったんじゃない? 僕がイタリアンに行ったお礼状を出そうと思ったら、「イタリアは受け付けません」って。

池澤:えー!

菅澤:そうですか。

出井:だからダメなんですよ。

菅澤:何も送れない?

出井:送れない。そういうように、世界を分断したというのが一番大きいんじゃないかな。サプライチェーンと言って、ものを作るためには部品が揃わないといけないじゃない。あちらこちらでこっちが安いからといっても、その部品が来なかったら作れないわけですよね。

菅澤:そうですね。

出井:そういう意味で、コンセプトを変えないといけないよね。サプライチェーンを作って、どこでどういうものを作るかをもう1回考え直さないといけない。

池澤:「グローバル」は、コロナになるまでけっこうみんながそっちの方向へ走ってきたような気がするんですが、一気に流れが変わる。

出井:もしかしたら「グローカル」かもしれないね。グローバルとローカルを一緒にするということだよね。昔から、SONYはものを作るんだったら、そのマーケットに一番近いところで作ると言っていました。今困っている会社は、ものと人を“動くもの”と前提にしてやり過ぎているかもしれないね。ネットの時代だから何でも動くみたいな。

結局、インターネットは全部つながっているけれども、ものは寸断されちゃったじゃない。いろいろな意味での今までの会社の実効性を問われるんじゃないかな。

「インターネット」と「もの」の会社が協力しなければならない

菅澤:逆に前向きに捉えると、私たちからするとデジタルでどこにいてもできるソリューションを作ってきたので、今はみんなの決断がすごく早いんですよ。

出井:僕は今、日本は変革の時期だと思うんだけど、いわゆる行政でもコンピューターをやっているのは経済産業省で、インターネットをやっているのは総務省。

池澤:分断されていますね(笑)。

出井:分断されているわけ。日本の行政は、みんな縦割りになっている。会社も全部そうで縦割りになっているから、自分の会社でも作れない。そんなことないですよね。横で作れるわけだから。そういう意味で、縦と横という概念を変えて、よく考えて、自分で何をする会社か、人が何を買うかを考え直さないといけないんじゃない?

菅澤:まさに私たちが推進していく側の人なんですね。

出井:そうだよね。

菅澤:私たちにはできそうですかね。

出井:ITだけが縦や横になってもダメですね。だからさっき言ったように、ものと一緒になってやらないといけない。例えば今後出てくる、AI、IoT、5Gと考えてみたら、IoTだって、ものとインターネットで結びつける、Internet of Thingsと言うけれど、車がIoTすると、車が車じゃなくなって、ガソリンエンジンかバッテリーはどうでもいいんですよ。

インターネット時代だからもしかしたら、5G時代、もしくは中継局になるかもしれないじゃない。車を運転しながら、自分が基地局になってくるとオペレーターはもしかしていらなくなるかもしれない。

菅澤:確かにそういう意味では、日本のすり合わせる力があったり、ソフトもハードもけっこう得意だったりしますよね。

出井:「ソフトとハードどっち?」なんて言わないで、インターネットとものの会社が協力関係になればいいわけで、そういう意味で、これは僕の嫌いな言葉だけど「選択と集中」というのは初めの頃はいいよ? だけど大きくなってきた時に選択と集中なんてしていたら大きくなれないじゃない。

B to B to BとかC to Cとか、そういうことをやっていかなきゃダメなわけで、ものを一方的に売っているだけじゃダメなんじゃないかな。今のインターネットのゲームも、ハードがなきゃダメと言っているけど、次はそんなことぜんぜんないんじゃない?

菅澤:そうですね。

出井:だから技術の変革とコロナが同時に来たわけです。

池澤:インターネットは世界中とつながっているけど、地域は分断されているというすごく不思議な状況ですね。

出井:日本は分断されて喜んでいたわけだから。だって日本語しかやらないし。

池澤:確かにそうですね。

出井:日本はコロナの時に、神奈川県はダメで東京はいいとか、地域ごとに言っていたじゃない。

企業のトップはビジネスモデルを見直す必要がある

菅澤:今回みんなそういうことに気づいて動こうとは思って、でもどうなるかわからないという時に、戦後のSONYができて世界に行ったというのは本当にすごいと思っています。叱咤激励的なメッセージをいただけたらと思います。

出井:このコロナ禍で、自分たちがこのまま生きていけるんだろうかとトップは考え直しますよね。何を守るべきか、どういうビジネスモデルがよいかを一番考えなきゃいけないんじゃないかな。このインターネット時代と、AI、IoT、5Gなど新しい時代にコロナが来たということで、自分のビジネスモデルをもう1回見直す。

菅澤:与えられた中で、箱の中で生きていたのが、リモートでできるようになって、もっと狭い家の中で生きていろと言われて、いろいろなことを考えなさ過ぎたというか。

出井:確かにリモートもできるけれど、やはりビジネスモデルとしたら、リモートで本当はできちゃいけないんだよね。リモートでできることは本当に事務的なことじゃない。戦略を考えたりするのは、こうやって具体的に話をしたほうが。

菅澤:なるほど。

出井:でしょ? それを廃しちゃったら、みんながバラバラになるだけじゃない。

菅澤:リモートではできないことにも気づきましたよね。

出井:そうだよ。だから何かリモートではできないことがあったら、そこだけ集まることをきちんとやらないといけない。

菅澤:そうですね。改めていろいろなことに気づかされたので、変えていきたいですね。

出井:そこをどう変えるかが一番問題だよ。