次世代のモビリティサービスの実現に貢献するトヨタコネクティッド

久野聡紀氏:トヨタコネクティッドの久野と申します。私のパートでは、簡単に会社の紹介をして、そのあと2人のメンバーからUXアプローチの具体的なプロジェクトや、リサーチのTipsをご紹介します。

トヨタコネクティッドは、2021年で創立21年になる会社です。「人とクルマと社会をつないで、豊かで心ときめくモビリティ社会を創造する」をビジョンとして掲げています。もともと販売店での顧客接点を改善するという業務から始まり、そこからデジタルマーケティングやコールセンターに事業を広げてきました。

コネクティッドサービスを通じて、お客さまの膨大なデータを蓄積しているので、そのデータを大切に守りながら、次世代のモビリティサービスの実現に貢献するというところを実際の仕事として進めている会社です。

トヨタグループの中で、私たちは消費者との直接的な接点を持っていて、B to Cの事業をしているというところが、特徴です。拠点ですが、国内には名古屋本社と東京オフィスがあります。私たちは東京の所属です。海外だと北米・ヨーロッパ・アジアに拠点が複数あって、グローバルだと今は1,600名強の仲間と一緒に仕事をしています。

エクスペリエンス領域を拡大する中で必要になるUX

なぜトヨタコネクティッドがUXなのかというところですが、大きく2つの背景があります。まずは、自動車業界のソフトウェア開発の内製化が加速しているというところ。海外の完成車メーカーも含めて、ノウハウを自分たちの手の内化をしていくという大きなトレンドが1つあります。

また、グループとして自動車メーカーからモビリティカンパニーにシフトをしていこうという中で、モビリティサービスや新規事業への取り組みにおいて、成功法則がない領域でのプロジェクトが増えてきたというところが1つの背景としてあります。

各グループは異業種から集まってきたメンバーで構成されている

そういった中で、エクスペリエンス領域を積極的に拡大しており、2021年12月時点でエクスペリエンスデザイン室というデザイン組織に、約70名のメンバーが在籍しています。

今は3つにグループを大きく分けています。(スライドの)左のUXデザイングループは、主に車の中での体験やプロダクトを担っていくグループです。真ん中のビジネスデザイングループは、車の中以外のすべてを対象にしているグループです。私たちはこの真ん中のグループに所属をしていて、例えば街づくりや新規事業やモビリティサービスなどを担っています。

(スライドの)右側は、フロントエンドのデベロッパーやPMが所属する開発チームです。3年くらい前からUXの取り組みを始めており、当時はデザイン組織の責任者が1人しかいない状態でした。

異業種から入社をしてきたメンバーで構成されているので、9割以上は自動車業界ではなくIT業界やWeb業界からの転職組です。若いメンバーも非常に多く、20代でプロジェクトをリードするポジションでがんばっているメンバーもいますし、文化的にも非常にフラットで風通しが良い組織になっていると思います。勤務形態は、テレワークとオフィスというハイブリッドなかたちで、非常に効率的に業務を進めていると思います。

簡単ですが、会社の紹介は以上です。川勝さんにバトンタッチをして、実際のプロジェクトの話をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

UXデザイナーとして新規事業開発のユーザー調査やサービス設計を担当

川勝直子氏:川勝からは主に「新規事業におけるユーザーリサーチの取り組み」というところで事例をご紹介します。

改めまして、トヨタコネクティッドのUXデザイナーをしています、川勝と申します。先ほど久野から話があったとおり東京に在籍をしているのですが、私は今名古屋に住んでいて、リモートワークで東京や他の拠点のメンバーとやりとりをしながら働いています。

リモートワーク中は、いつも急須を脇に置いてお茶を飲みながら仕事をしているので、お茶好きになっています(笑)。簡単に経歴ですが、大学では行動観察というユーザーリサーチの手法をやっていました。「ユーザーの行動から発想することがおもしろい」と思ったのが、UXデザイナーを目指すきっかけになりました。

そのあと電機メーカーに入社して、新規事業の案件のUXデザインを担当して、社内のチームメンバーのリサーチスキルの向上などに取り組んでいました。2021年9月にトヨタコネクティッドに入社をして、今は新規事業開発のユーザー調査やサービス設計を担当しています。

新規事業の立ち上げのドライバーとして動くリサーチャー

改めてテーマですが、新規事業におけるリサーチの役割というところでお話をしたいなと思っています。

新しい事業は、ベンチマークがなかったり、足がかりがなかったりというような状態で、リサーチを起点にどう事業を立ち上げていくかがポイントになると思います。

スライドは、弊社の新規事業のプロセスを簡単にステップ化したものです。最初にユーザー調査のフェーズを用意して、事業立ち上げのドライバーとして動いていく、時間を確保していく、というところが特徴的かなと思います。

「ユーザー調査DX」「生活困窮における移動の課題」2つの新規事業案件の紹介

今回は新規事業の案件を2つご紹介したいと思います。

1つ目がユーザー調査DXです。モビリティのサービスを提供している事業者さんに向けて、ユーザー調査を支援しています。

事業を進めるにあたっては、ユーザーの声がサービス改善ですごく重要になってきます。インタビューやアンケートなどの既存の調査に、乗車中の行動や、その車両のデータを組み合わせることで、より多角的にユーザーを知って、顧客設定の改善や事業判断に役立てていくというのが内容です。

実際に、事業者の方へエキスパートインタビューをして、今の業界のどこに課題を持っているかについて素早く把握したり、サービスの受容性がどの程度あるのかというところで、お話を聞くだけではなくて、一緒に考えていくという動きができています。

そういった内容をスライドの右側にあるようなインタビューサマリーのかたちで整理をして、インタビューが終わったら熱を逃がさないように速報というかたちで共有しています。そうすることでプロジェクト外のに参加をしていない社内メンバーから「この内容はおもしろいね」とコメントをもらえるので、やってよかったなと思っています。

次が生活困窮における移動の課題です。

(スライドを示して)これは「Challenging for 20XX」という自社サイトです。その中に、調査レポートがあります。仕事や買い物には車が必要だけど、生活が苦しくて車が持てないとか、車の維持費などで逆に生活が苦しくなってしまうとか、そういう移動課題の深刻さが調査で見えました。

車は便利さや速さが重視されるのですが、それだけではなく「移動の自由」をどう広げていくことができるかが起点になったプロジェクトです。

このプロジェクトでは、アイデアの価値検証というところで生活者の方にインタビューをしたのですが、生活者の方だけではなく、生活の支援を行っている支援者の方にもインタビューをしていこうと、途中でインタビューのフォーカスを広げたという事例があります。

実際に事業としてサービスを提供していくにあたって、支援者の視点という複数の視点から状況を探りました。

生活者の方へのインタビューと並行して、LINEのオープンチャットを経由しながら日常のどのタイミングで車に乗ったかとか、その時の気持ちの記録をしてもらって、日常の移動習慣の記録を取ってもらいました。2週間ぐらいの日々の繰り返しの行動の中から、どういう思考を持っているのかというユーザー理解につながったというところが、実施してよかった点かなと思います。

2つのプロジェクトのリサーチを通して、新規事業にはメンバーの熱意がすごく大事だなと思いました。足がかりがなく、手探り状態の中でここに燃えていこうという目線合わせができて、実際にこういう人に使ってもらえるんだという手ごたえを感じられる。そういうところが前に進んでいく活力になっていくと感じています。

リサーチをする中で気をつけているポイント

最近のリサーチで気をつけていることをお話ししたいなと思います。リサーチはけっこうたくさんのデータがあって、その中で取捨選択したり、整理をしたりするのがすごく難しいと感じています。最近は、伝わるかたちにするためにデータの情報整理を意識をしています。

3つの視点があって、1つ目として、ユーザーの発言とリサーチャーなどのメンバーの解釈をそれぞれ分けて取り扱っていくことに気をつけています。例えば調査が進んでいく中で、1回リサーチデータに戻ってみようとなった場合に、再解釈ができるという利点があると思います。

もう1つが整理と分析です。データが揃ったらすぐに分析したくなるのですが、例えば複数調査をした場合は、データを整理して、深追いをした状態で落ち着いて分析に入るということです。

料理に例えると、下ごしらえをしてから料理しましょうというところかなと思います。その作った料理を誰に食べてもらうかというところで、メンバーの中でデータを分析をするのか、もしくは報告用のための情報なのか、誰に何を伝えたいのかを意識することで、より伝わるかたちになり、次につながるリサーチになると最近思っています。

新規事業のおもしろさは自分事としてスピード感を持って進められること

最後に、新規事業におけるプロジェクトの魅力として感じる点ですが、車に限らず、移動の課題に広く取り組める点はすごくおもしろいと思っています。また、UXのアプローチの面からプロジェクトを進められるので、高い納得度で前に進めることができます。

ほかにも、スピード感を持って進められるというところで、新規事業で素早く試して失敗して、何ができて、何がわかって、何がわからなかったのかという実感を自分事として前に進められるところがすごくおもしろいと思っています。以上です。次は香島さんにお渡しします。

スマートシティや新規事業開発を担当

香島有里氏:「都市開発関連プロジェクトにおけるUXドリブンの取り組み」について紹介をします。よろしくお願いいたします。

最初に自己紹介ですが、私は高校を卒業して音楽制作に携わったあとに、独学でデザインを学んだのがキャリアのスタートです。グラフィックデザイン、UIデザイン、ディレクター業務など、一環して新規事業を経験してきました。

直近ではXRやIoT関連技術などを使ったR&D支援や受託開発をやっていました。トヨタコネクティッドには2021年8月に入社をして、スマートシティや新規事業開発などを担当しています。プライベートでは、北陸先端科学技術大学院大学に在学中で、UXデザインや技術経営などのフィールドで研究論文の執筆をしています。また、2歳の男の子がいて、育児に奮闘する主婦でもあります。

再開発予定のお台場エリアでサービスデザインをUXドリブンで進めている

ではさっそく、プロジェクトの概要を紹介したいと思います。まず背景ですが、実は今お台場の再開発が予定されています。大江戸温泉、MEGA WEBという車の展示場、ビーナスフォート、パレットタウンの観覧車など、2021年の年末を目途に続々と閉館する予定です。

スライドの、紫の部分が再開発の中心ですが、周辺はオリンピックのレガシーなどもあり、この先どんどん再開発が行われていく中心地となっています。

トヨタのMEGA WEBの跡地は、バスケットボールを中心としたお台場地域の多機能複合アリーナとして生まれ変わる予定になっています。私たちは、街、スポーツ振興、モビリティ、賑わい作りなどのさまざまな観点からアリーナを中心としたサービスデザインをUXドリブンで進めていくプロジェクトを担当しています。

フィールドワークでは五感をフルに使って定性的な感想や定量的なファクトを集めている

プロセスをご紹介をします。デスクリサーチやデプスインタビューなどの一般的な手法を取り入れつつ、フィールドワークがあるのが、このプロジェクトの特徴かなと思っています。また、都市計画の分析もやっていて、スマートシティプロジェクトならではのプロセスを取り入れながら進めているところが特徴になるかなと思います。

さっそくフィールドワークの内容をご紹介しようと思います。これは、街を実際に歩き回って、観察しながら問いを立てていくワークです。例えば自分が高齢者だとしたら、この道は通りにくいのかもしれないと考えたりしながら歩き回ります。

ほかにも次世代技術を実際に適用したらどんなイノベーションが起きるかなど、五感をフルに使って定性的な感想や定量的なファクトを写真、ビデオ、文章など、本当にいろいろなもので記録をしていきます。

フィールドワークにおけるTips

ここからは、Tipsをご紹介します。まず1つ目ですが、フィールドワークは非常に再現性が低いので、感じたことを素直に漏れなく記録することが非常に重要になってきます。

時間帯によって温度や明るさが違ったり、日によって天気が違ったりする中で、その時感じたものを再現して記憶することは非常に難しいので、いろいろな方法で漏れなく記録することが非常に重要です。また、これは自分がやっていく中で見つけたベストプラクティスですが、音声入力と骨伝導イヤホンマイクを使うと非常に効率的にできます。

最初は紙に書いたり、スマホでフリック入力をしていたのですが、情報量が多くて全然記録が追い付きませんでした。音声入力が一番速くて、呟き用のイヤホンマイクを付けて思ったことをブツブツ言いながら自動的にメモを取っていく方法が自分としてはけっこうよかったと思っています。

また、フィールドがすごく大きく、徒歩だと非常に時間がかかるので、シェアサイクルを利用してちょっと速く移動するというのも1つのTipsになるかなと思っています。

自治体の再開発計画を理解したうえでサービスデザインをする必要がある

こちらのプロジェクトの特徴的なタスクとして、自治体が出している都市計画の分析があります。私たちは1企業として街に貢献することを考えているのですが、当然自治体の再開発の計画と連携をしていく必要があるので、それを理解したうえでサービスをデザインしていく必要があります。

これは一例ですが、(スライドの)左は自治体の人口のデータを基に、エリアの住民の人数を可視化したものです。お台場の特徴として、青海1丁目、3丁目、4丁目はゼロ世帯で、誰も住んでいないということを初めて知ったり、有明4丁目は1世帯だけがあって、個人的に誰が住んでいるんだろうと非常に気になりました。

右の写真は、建築情報オープンデータという東京都が出しているもので、これは土地の用途をビジュアライズしたものです。紫は準工業地帯で、緑は工業専用地帯です。黄色は第1種住居地域で、それぞれ土地の用途によって制限があるので、そういったものを頭に入れながらサービスデザインをしていく必要があります。

デスクリサーチやフィールドワークから得た情報をもとに、アイディエーションをして、デプスインタビューや定量調査を使ってアイデアの検証も行っています。また、弊社グループにはモビリティに関するアセットが非常にあるので、それらをどうやってサービス化していくかという視点も非常に重要です。

プロジェクトの魅力は前代未聞の体験作りに寄与できること

私たちには車の製造業というイメージが根強くあると思いますが、時代の変化とともにモビリティカンパニーに生まれ変わろうとしている中で、最新モビリティを用いたサービス活用に携わることができるのは非常にエキサイティングな経験だと思います。

プロジェクトの魅力ですが、やはり前代未聞の体験作りに寄与できるというところは非常に大きいと思っています。いわゆる街づくりのUXは、体系化された手法がない分野になるので、誰かに与えられた道をたどるのではなく、さまざまなバックグラウンドの方々と新しい体験作りに寄与できるというところが醍醐味になっていると思っています。

デジタルだけではない、UXアプローチに興味がある方は非常に興味深く仕事に取り組めるのではないかなと思っています。また、観察好き・ものづくり好きな方にとっては、この仕事はおもしろいと思います。

また、不動産会社の方やスポーツチームの方など、たくさんのステークホルダーの方と仕事をすることが非常に多いので、そういった方々と一緒にアイディエーションをしたり、UXアプローチを考えたりすることで、新しい視点が得られると思います。

弊社はカジュアル面談もやっているので、詳細を聞いてみたいという方はぜひご連絡ください。以上になります。ありがとうございました。