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サービスづくりにUXリサーチャーが貢献できること(全2記事)

組織のUXリサーチ文化はどうすれば醸成できるのか? 業界全体の成長を目指すための“Research Ops”という考え方

日本を代表するサービス/プロダクトを手掛けるメルペイとトヨタコネクティッド。今回のイベントでは、事業領域や成り立ちは異なりつつも、ともに社会的な影響・波及力の大きな価値を創出し続ける2社において、デザインが担う役割や実際の取り組みについて深堀りします。株式会社メルペイからは草野氏が登壇。メルペイにおけるUXリサーチャーの役割とその働き方について発表しました。全2回。後半は、UXリサーチャーの業務について。

なぜやるのかを明確にして手順や手法を定める

草野孔希氏:では具体的に、プロダクト作りにおいてUXリサーチャーがどんなことをしているのか、軽く紹介させてください。

UXリサーチのプロセスを私たちはこのように定義しています。状況の理解をして、リサーチクエスチョンを立てて、その問いを満たすための手順設計をして、準備をして、実際に実施をして、データ分析をして、結果を活用していくというプロセスで考えています。それらを支えるリサーチの運用業務があります。

特に、組み立てる時にはこういうパーツで考えています。1つは、「なぜやるのか、何を明らかにしたいのかをしっかり明確にする」です。

なので、とにかくリサーチクエスチョンをきちんと立てなければいけません。そのためには社内の状況を理解して、どんなリサーチが必要なのか、そのリサーチをやった結果をどう活用したいのかをしっかり押さえてリサーチクエスチョンにしていく必要があります。

もう1つは、コスト感も踏まえて、どういう手順でどうやるのか、どういう手法を使うのかを定めていくということ。これがそろって、初めて調査の実施に向けて動いていきます。

UXリサーチというと、とりあえずインタビューをやりましょうとか、とりあえずユーザビリティテストやりましょうとか、こういった手法に飛びつきがちですが、UXリサーチの方法は本当に多様なので、きちんと状況理解をしたうえで適切な方法を適切なコストでやっていくことをかなり意識してやっています。

UXリサーチの方法

方法を軽く紹介します。例えば、どんな生活をお客さまはしているのかとか、どうサービス使うのかとか、そういうことを理解したい時は、やはり1対1のユーザーインタビューが役に立ちます。

こういう時は、なにかを検証するというよりは、「そんなことを考える人がいるんだ」「そういう生活をしている人がいるんだ」みたいな、まったく新しい視点を得られるかどうかが大事で、そこから新しい発想が生まれたりします。

そのほかにも、コンセプトテストという、ちょっとアイデアが出てきた時に、アイデアを文字で表現して提示して、いろいろな情報を引き出していくという方法があります。

これも別に、このアイデアがいいか悪いかを単純にゼロイチでテストしたいのではなく、「こういう情報を見せると、この人はこういう反応をするんだね」とか「そういう反応をする理由は、こういう生活をしているからだね」とか、そこの理解を深めていくことで、「じゃあ、このアイデアをもっとこういうふうに洗練できないか」とか「むしろこっちのアイデアにピボットしたほうがいいのではないか」とか、そういったことを判断できるようになっていきます。そういう意味で、コンセプトテストをすごく早い段階でやったりもします。

あとは、これは知っている人も多いと思うのですが、ユーザビリティテストですね。ユーザーインターフェイスをプロトタイプでもいいので実際にデザインして、ユーザビリティの評価をしながら改善を繰り返します。

最近だと、「Figma」など、いろいろなプロトタイプツールが出てきていて、精度の高いプロトタイプをすぐ作れるので、デザイナーとコラボレーションしながら、お客さまに早い段階から提示してフィードバックをもらうということも、かなり密にやっています。

プロトタイプをお客さまに見せると、「あそこのデザインにこういう反応するの?」みたいな、デザイナーがまったく想像していなかった反応や結果が解像度が上がって返ってきて、その結果どんどんデザインの精度も上がっていくことがあります。

やはり二人三脚でコラボレーションしていくのは大事ですし、デザイナー側も、リサーチャーがこういうところをサポートするのを喜んでくれているのかなと思います。

ほかにも、お客さまにアンケートを配信して、利用実態の調査をしたり、あとは、私たちはきっとこうだと思っている、みたいなところのボリュームをきちんと調査する時に、アンケートを使います。

ただ、アンケートは、あくまでわかっていることしか項目にできないので、やはりユーザーインタビューなどを通じて、ある程度こういうことを聞くべきだというのがわかったうえでやることが多いですね。

UXリサーチャーの仕事はリサーチをすることだけではない

私たちは、UXリサーチャーはリサーチをするだけではないと思っています。やはりリサーチ結果を活用できるように働きかけていくことが大事かなと思っているので、そのためのワークショップのデザインだったり、ファシリテーションだったりもやっています。

例えば、デザインスプリントを参考にしながらワークショップをデザインしたりします。デザインスプリントはけっこう重い方法なので、もうちょっと軽い方法でできるような設計にしたり、そういうアレンジをしながら活用しています。

また、UXリサーチャーは社内に何十人もいるような職種ではないので、結果的にリサーチをきちんと使える人を社内に増やしていく必要があると私たちは考えています。

なので、そのための勉強会もやっています。例えば、ユーザビリティテストのやり方だったり、インタビューのやり方だったり、そもそもの調査設計の組み立て方だったりを学べるようなコンテンツを用意して、社内で配信して、できる人を増やすということもやっています。

ほかにもやっているものとして、先ほど、プロセスの下に運用と書かれていた部分があったと思うのですが、運用としていろいろな仕組みを作っています。

メジャーな取組みとしては、毎週だったり隔週だったりで、定期的にUXリサーチができるようなルーティンのプロセスを構築しています。

これをリサーチアシスタントとコラボレーションしながら、理想的には、プロダクトマネージャーがこういうことを調べたいと一言言えば、適切な人に話を聴ける場が自動で準備されて、当日その場に行けば適切な人に聴ける、というぐらい簡単にできる仕組み作りを目指してやっています。そのために、こういったプロセス設計をしています。

そのほかにも、先ほど紹介したように、データの蓄積をなるべくやって、多くの人たちがリサーチデータをきちんと参照できるようにしていく。これはメンバーもそうなんですが、リサーチャー自身もけっこう役に立っていて、「これはどこにありましたっけ?」と聞かれた時に、「このシートのこの列にあります」とすぐに参照できるので、効率化をかなり進めることができます。

最初は、「こういうものを蓄積するのは、けっこうコストだよね」と話をしていたのですが、やはりコストをかけても整備していくことで、やがてアセットになっていくというところがあります。

小さく始めながらUXリサーチの活用を広げていく

私たちのチームは発足して3年ぐらい経っているので、ある程度は仕組みも整備できているのですが、私たちが書いている書籍でも言っているとおり、とにかく小さく始めながら広げていくということがやはり大事かなと思っています。

まずは一度、「こういうリサーチがあるんだけどね」と言って、引き込むところから始めて、そこから「またリサーチがやりたいね」と思ってもらえれば、継続的な関係も作れます。そういった継続的な関係ができてくれば、より多くの人に輪を広げていくことができます。

そういうふうに輪が広がっていけば、最後は、リサーチがもはや文化として成り立っていて、UXリサーチャーがなにか言う前に、適切なリサーチをみんなで考えられて動くみたいな、そういうところまで行けるんじゃないかなと考えて活動しています。

「Research Ops」 という考え方

今日、みなさんに1つのキーワードとして持って帰ってもらえるといいかなと思っているのは、「Research Ops」という考え方です。リサーチのオペレーションというと、運用をとにかく効率化するというところにフォーカスしがちですが、そうではなくて、先ほど紹介したように、質の高いUXリサーチは、どうやったらみんなでできるようになるんだろうねと考えることもResearch Opsの大事なところです。

もう1個は、「倫理的にこれは大丈夫なの?」というところ。お客さま体験として大丈夫なの? という倫理感をきちんと醸成しようという話もあります。

そういうところをつなげていくことで、じゃあ、組織のUXリサーチ文化はどうやったら醸成できるんだろうね、というところまでつながる一連の活動をResearch Opsと呼んでいます。

その中には、どういうリサーチ組織を組成すべきなのかも入ってきます。非常におもしろいテーマなので、リサーチチームを考えている人は、Research Opsというキーワードで調べてみるのもおもしろいかなと思います。

私たちは、実は会社の中だけで活動しているわけではなくて、けっこう社外でも活動をしていて、会社を越えた文化の醸成が大事かなと思っています。

ReDesignerさんもまさにそうだと思いますが、デザインの組織を強くしていこうと思った時に、やはりデザインの業界自体が強くないと、1社1社の強みが出てこなくて、それはたぶんリサーチも同じなんですね。

組織のリサーチャーを強くするためには、業界のリサーチャーが強くなければいけないので、業界全体で成長を目指していくことを目指して、イベントをやったり、書籍を出版したり、そういうことにもチャレンジしています。

事業が広がる中でリサーチャーの役割も広がっている

ということで、最後はちょっと宣伝です。メルペイでは積極採用中で、UXリサーチャーと、私たちの頼もしいコラボレーターであるプロダクトデザイナーも、採用しています。この2人のタッグは、やはりプロダクト作りにすごく強力なので、新しい仲間が加わってくれるとすごくうれしいなと思っています。

「けっこうもうできているんじゃないの?」と思うかもしれませんが、そんなことはぜんぜんなくて、「メルカリ」というアプリ自体は非常に大きく成長してきましたが、「メルペイ」もありますし、最近は株式会社ソウゾウという「メルカリShops」をやっている会社もあります。

株式会社メルコインでは、暗号資産やブロックチェーンのプロジェクトも立ち上がっていますし、鹿島アントラーズもグループ会社に加わってくれています。最近ですと、株式会社メルロジという物流を専門にやる会社も立ち上がってきていて、実はやりたいことがどんどん広がっているという状況です。正直もっともっと人材が欲しい。要するに、一緒にこれを作っていってくれる人をすごく求めています。

リサーチャーの役割も当然広がっています。「mercan(メルカン)」というオウンドメディアにも書いてあるとおり、やはり最初はユーザビリティテストが案件としてはメチャクチャ多かったのですが、3年経って、今は新しい機能開発案件のすごく最初の頃から声をかけてもらうことが増えました。「そもそもどういうことを調べたらいいの?」とか「今、何がわかっているの?」というところから一緒に入っていっているので、そういうふうに入る幅が広がると、カバーがし切れません。最近は、分身しなければいけないんじゃないかと思っているぐらいです。

事業も広がっているし、リサーチャーの役割の幅も広がってきているので、プロダクトデザイナーやUXリサーチャーにチャレンジしたい方はぜひ声をかけてくれるとうれしいです。

ということで、私の話は以上です。どうもありがとうございました。

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