自社開発のいいところ、派遣のいいところ

渡邊暖(以下、渡邊):では、今表示している「自社開発・派遣のここが良い!/良くない!」というテーマについて。良いと悪いは表裏一体だと思います。1つ目のテーマと少し重複する部分があるかと思いますが、それぞれの考えをうかがいます。高橋さんからお願いします。

高橋宏明氏(以下、高橋):自社開発なので、当然(いいところとしては)自分たちの事業・サービスを作っているということだと思います。自分たちのサービスに対してすごく思い入れを持てるのが、一番いいところなのではないかと個人的には思っています。さらに、いろいろな職種の人たちと議論しながら1つのものを作り上げて成長させていく点もおもしろさかなと。

さらに、ものを作るだけ、プログラムコードを書くだけ、システムを作るだけではなく、その事業において、経験できる幅が広いのではないか。先ほども言ったように、それは自ら手を挙げた場合だと思うんです。それこそ広告に携わるとか、ほかに予算など、事業をどうしていくのかまで関わることも可能かと思います。

よく「企画がやりたい」という話が出ますが、企画もできるというより、どちらかというと、どうすればサービスがよくなるかを、エンジニアも含めてみんなで考えるという感覚かと思います。エンジニアの視点でいえば、技術選定にもけっこう裁量が持てているのかなと。

古いサービスや事業だと、けっこう古いものやでかいものが残っていたりしますが、少し新しいものであれば、自分たちの裁量で技術選定をすることで、モダンなものにできるのではないかと思います。

ただ、こういったものは、会社の文化や風土にもよるし、分業化が進んでいるとか、管理統制がしっかりしている会社ではその限りではないかもしれないので、一概には言えません。傾向としては今言ったような感じかと思います。

渡邊:米田さん。派遣という働き方に関して、今高橋さんが話した自社開発のよさとの対比でもいいですし、逆に第三の視点で派遣のいい点があれば教えてください。

米田真一郎氏(以下:米田):私も実際に10年、エンジニアとしてお客さまのもとにエンジニアリングサービスを提供してきました。その10年間で、何社かのお客さまと一緒に仕事をする経験を積むことができました。

そこで感じたのは、やはり各社ぜんぜん企業風土や文化が違うことです。さらにいえば、同じ企業でも部署が変われば風土や文化がぜんぜん違います。いくつもの企業風土や文化を学べるのは、派遣のメリットの1つだと思っています。

ほかに、さまざまな業界で経験を積める点がメリットとしてあると思います。例えば、自分がデータサイエンティストだとすれば、流通系のお客さま、流通業界でデータサイエンティストとして働く。どういうイメージかというと、いかに効率的にものを積み込むことができるか。業務の1つとしてそのような分析があると思うんです。

例えば食品業界なら、いかにフードロスを減らすかとか。つまり、業界によってデータ分析する項目や内容といった事業の内容が違うので、業界の特殊性などを業務を通じて学べる点が、非常に大きなメリットだと思っています。

自社開発の立場でさまざまな業界に関わるのは難しいのか?

渡邊:高橋さんに質問します。例えば、自社開発と派遣を比較する時に、派遣であればいろいろな業界に合わせて変革というか、どんどん変えていろいろ学べます。自社開発の場合、そのような点は難しくなりますか。

高橋:エイチームのように、事業ドメインを定めずにいろいろな事業をやっている会社もあるので、転職しなくても部署の異動によって実現できることもあるとは思います。ただ、ほとんどの会社はそんなに事業ドメインを大きくしていないと思うので、限定された業界の中でのシステムになります。そこが受託をやっているケースと自社開発の一番の違いかと思います。

ただ、特にベンチャーであれば新規事業をやることも多いと思うので、そういったケースではいろいろな経験ができる。そもそも文化が固まっているわけではないと思うので、自分たちで文化を作っていったり、変えていったりする点は逆にやりやすいし、求められていると思います。

派遣がビジネスサイドにキャリアを広げることは難しいか?

渡邊:米田さんにも質問します。先ほど高橋さんが言ったように、自社開発であればエンジニアリングに限らず、マネジメントをしたり、ビジネスサイドの予算を作ったり、事業計画を作ったりできるようになって、ポジションが上がったり、マネジメント層に上がっていく。

キャリアを選んだ時に、幅を広げられると思いました。一般的に、派遣は1つのところの業務に入ったらそこでずっと開発をするイメージがあると思いますが、実態はどうですか。

米田:素養がある人はプロパー・パートナー問わず採用されると思いますが、確かに先ほど高橋さんが言ったように、プロパーだと「事業運営をこうしていきます」という部分に関しては、外部のパートナーに任せてもらえる機会はかなり少ないと感じています。

例えば、インフラ系のエンジニアなら設計・構築がベースになって、そのシステム・企画については前段階で、プロパーのお客さまが実施されているのかなと思います。

つまり、プロジェクトをマネジメントしていくうえで重要な要素として、予算の管理。そのプロジェクトがどれだけ利益を生み出せるかが最終的につながってくる。予算を取りにいくフェーズから入って、実際に利益がどれだけ出たかという収益の計算までの一連の流れを任せてもらえるのは、パートナーとしては非常に難しいかと。

パートナーのプロジェクトマネージャーとしてプロジェクトに参画させてもらうのは、だいたいがメンバーの工数・進捗管理にとどまると思っています。プロジェクトを通して事業運営をマネジメントしていきたいというエンジニアにとっては、若干物足りなく感じることが多いのでは。

渡邊:そのような方向性のキャリアアップを目指すことに関しては、合う人と合わない人がいるかもしれないということですね?

米田:はい。

プロパーと派遣で評価に差はない

渡邊:「派遣で働いているとキャリア的にあまり評価がよくない印象を持たれると感じるのですが、どう思いますか。また、なぜそういった印象になる傾向があるのでしょうか」という質問がきています。逆に派遣ではない立場として、高橋さんはどう思いますか。

高橋:派遣だから評価が低いということは、特にないと思います。そこでどんな技術を学んで、次に派遣で入るとしたらそこで何を求めるか。何を学ぼうとしてそれを選んでいるのかによって、「自分はこれができるからこれをアウトプットする」というものがしっかりあれば(いい)。特段プロパーでやってきた人のほうが評価が高いとは僕は思いません。

渡邊:そうですよね。今はエンジニアの採用でも、過去に派遣で働いていたキャリアを持って転職したからといって、特段それが評価に響くイメージはないと思います。米田さんが派遣事業を展開する中で、このようなイメージを感じたり、そう思ったりしたことはありますか。

米田:以前、特に「派遣切り」という言葉がニュースで飛び交っていた時代は、日本社会全体に派遣に対するネガティブなイメージが定着していると感じていました。一方で、昨今の日本社会全体で、特にエンジニアは圧倒的に不足しているので、お客さまもプロパーと派遣の価値に差をつけるという考えは、ほとんどなくなってきているのかなと。逆に、できるエンジニアはどれだけ高い給与額であっても契約し続けていたいという思考になってきていると思います。

渡邊:まとめると、現代では質問者が抱いているようなよくないイメージは、そんなにないということですね。昔の経済状況などからの一般的なイメージから、そういうものがあるかもしれない、という感じですかね。

米田:そうですね。

働く場所の自由度は、雇用形態によって差があるか?

渡邊:次の質問です。「以前は派遣社員として働き、最近になって契約社員として働き始めました。しかし、体調不良により退職しました。子育て中で、1時間以上の通勤は体力的にも厳しかったです。どの契約形態の人も働く環境について、職場なのか、在宅なのか、ワークスペースなのかを選べる会社を望んでいます。そのような社会は実現できますか」。

それぞれのサービスと会社の話になると思いますが、Modisが契約しているクライアント企業のエンジニアの派遣社員の場合はどうですか。委託されている企業に派遣されるのか、在宅でもできるのか、いろいろあると思いますが。

米田:なるほど。そのあたりも、日本社会全体で許容できるキャパシティがかなり広がってきていると思います。弊社でも、産休・育休で休む方が大勢います。さらに、育児休暇から復帰して当面はフルタイムではなく時短で、ある程度労働時間を絞ってワークする方もいます。

お客さまに「こういう事情なので、こういうワークスタイルで働かせてほしい」と話すと、「いいよ、わかったよ」と言ってくれるお客さまが増えてきていると思っています。

渡邊:それは、コロナの流行の前後で変化したものですか。それとも、ずっとそのように融通が利いているということですか。

米田:けっこう前からその流れは出てきていると思います。というのも、日本の労働人口はどんどん少なくなっている。それに対して、例えばシニアや外国籍のエンジニアを活用するなど、日本の社会に多様性を踏まえた人材の登用の仕方が浸透してきていると思います。

渡邊:高橋さん。少し性質が違うかもしれませんが、エイチームや自社開発の企業だと、リモートワークというか在宅勤務ができるようになっている。エイチームグループの場合、雇用形態がたくさんあるわけではないと思いますが、会社として、自分で働く場所を選べるという観点などはどうですか。

高橋:世界的にかもしれませんが、コロナによって日本社会全体が強制的にルールがチェンジされたのかなと思っていて。弊社でも在宅勤務が当たり前になっています。

コロナが落ち着いた後どうなっていくかというといえば、たぶん元の世界には戻らないだろうと。とはいえ、世の中にフルリモートの会社もたくさんあるとは思いますが、弊社の考えでは、完全フルリモートというよりハイブリッドかと。

それは家庭の事情などいろいろなものによるので、一律に決められるわけではありません。たまにはオフラインで会ってコミュニケーションを取ることによって、生まれるものもあるのではないかと思っています。毎日会社に来る必要はまったくありません。在宅とたまに出社するハイブリッドが、弊社のメインになってくるのではないでしょうか。

渡邊:質問者が言うように、例えば子育てをする中で、通勤1時間以上はしんどいと思います。それは自社開発のほか正社員・派遣社員問わず環境が整いつつあるし、ハイブリッドになればいいという点では、雇用形態にかかわらず共通していると思います。

必要な技術が変化する時のスキルの高め方

続いて、米田さん宛の質問かと思いますが「派遣はクライアントによって必要な技術が変わるため、必要なスキルセットが膨大になるイメージですが、実際どのようなスキルが求められるのでしょうか」。米田さん、いかがですか。

米田:確かに、横を見れば限りなく広い。ただ私もそうでしたが、恐らくみなさんにもベースとなる技術があると思うんです。サーバーなら、OSはLinux系なのかWindows系なのか。ネットワークなら、ロードバランサーなのかルーターなのかファイアウォールなのか。開発者やプログラマーなら、JavaなのかCなのか。いろいろあると思います。

まずベースとなる技術があって、そこに付随スキルとして横に自分の図体を広げていく。繰り返しになりますが、横を見れば限りない。ただ、お客さまからすれば、いろいろな業務があるので、みなさんが持っている技術がハイスペックであれば、それに合わせて業務を作ることも可能かなと。

つまり、自分が持っているスキルのレベル感をいかに高めていくか。高めた先には、それに合った業務が勝手にやってくる。そういう環境が作れると思っています。

自分の希望どおりにチャレンジしたければ、目に見える努力が必要

渡邊:この質問に付随して、勉強したい分野に合わせてエンジニアが派遣先を選べるようになればいいという意見があります。現実的に、登録されている方が「こういう分野でやっていきたいので、こういうところに派遣してください」と言うことは可能でしょうか。

米田:これは、ケース・バイ・ケースというとキラーワードになってしまいます。例えば、サーバーのエンジニアがAIのエンジニアとしてシフトしたい時に、お客さんが「そのAI業務あります」と言った場合。もともと持っているコアの技術がサーバー系なので、AIのスキルは客先で学ばなければならない。それをお客さまがチョイスしてくれるかというと、なかなか難しい。ハードルはあるかなと思います。仮にその壁を突破しようと考えるなら、自己研鑽して、業務後に必要なスキルをコツコツ身に着ければいけるかもしれませんが。

渡邊:高橋さんにもうかがいます。例えばエイチームグループの場合、いろいろな事業やいろいろな技術を使って開発したものは、それぞれ違います。いきなり持っているベースを広げるというより、正反対のところにいきたいと思った時、その希望に対してどの程度応えられるのか。もちろん、先ほどの派遣の話と同様に、ニーズと自分のWILLとの擦り合わせはあると思いますが、実際はどうですか。

高橋:本人の希望が一番なので、なるべく沿うようにはしたいと思います。もともと持っているものがあって、アウトプットができているのであれば、まずはそれで貢献してほしいと僕は言います。それに加えて自分の幅を広げる。

たぶん米田さんと同じで、違う分野もやりたい、そこに行きたいのであれば、今どれだけできるようになっているのか。「業務外で完璧になってから言え」とは言いませんが、そうなりたいのであれば、それに対してどれくらい努力したのかを見せてほしい。それで「がんばっているね、成長しそうだね」というのが見えれば、チャレンジを受ける素養はたくさんあると思います。

米田:補足ですが、弊社の方針としては、そういったチャレンジに対して全面的に背中を押していきたいです。実際に弊社の場合、ITエンジニアのみならずメカトロニクス、エレクトロニクス、ファームウェア、ケミストリーなど、いわゆるメーカーに従事するエンジニアがたくさん所属しています。

それらのエンジニアでさえ、例えばデータサイエンティストにジョブチェンジしたいという強い志があって、研修を受ける前のテストに合格すれば、お客さま先でエンジニアリングサービスをしている状況であっても契約を終了します。

その後、弊社のトレーニングセンターでトレーニングをして、データサイエンティストの業務に従事するようにシフトするという流れを持っています。

渡邊:それは一般的な派遣事業の会社がやっているというよりも、Modisとして提供している感じですか。けっこう特殊なものなのか、一般的な派遣事業で用意されているものなのかというと(どちらでしょうか)。

米田:一般的に用意されているかというと、されていないのではないかと思います。これは我々のビジネスモデル、特にModis、VSNにおいて無期雇用で正社員型の雇用をしている中で、いわばお客さまにサービスを提供していない期間です。研修トレーニングを受けている期間であっても、フルで基本給が支払われるので、そういった仕組みを活かしながら人材育成をするところが、他にはない特徴だと思います。

渡邊:では次に「ITエンジニアは、1つの技術を極めて上達することがいいキャリアアップにつながると思います。一方、派遣は顧客のニーズによって活用する技術が変わっていきますが、長期的に見ると派遣はキャリアアップできないということではありませんか。これについてどう考えますか」。

おそらく、技術が幅広くて積み上げになりにくいのではないかという質問だと思います。米田さん宛の質問かと思いますが、いかがでしょうか。

米田:これも本人のキャリアビジョンによると思います。仮に、いくつもの技術を平均的にこなすことができるエンジニアのニーズが低いかというと、決して低くないんです。逆に、1つの技術をすごく極めたスペシャリストのエンジニアのニーズも決して低くない。

つまり、マーケットが求める技術のトレンドに追随していれば、横幅型だろうが縦長型だろうが、必ず今の社会の中のどこかにフックして活躍するフィールドがあると思っています。

(次回に続く)