自己紹介

草野孔希氏:本日は、「サービスづくりにUXリサーチャーが貢献できること」というタイトルで少しお話しいたします。

最初に私の自己紹介です。草野と申します。メルペイという会社で、UXリサーチャーをやっています。UXリサーチャーとして、UXに関する調査設計だったり、実施・分析だったりを一通りやっています。ほかにも、UXリサーチャーのチームの組成だったり、マネジメントだったりも担当しています。

もともと前職では、サービスデザインに関する研究や実践をやっていました。そういった研究的なバックグラウンドがある中で現職に移ってきて、かなり実践的なことをやっています。

大学で教えた経歴もある人間なので、そういう経歴に興味がある方は、質問してもらえるといいかなと思います。

ミッションは「信用を創造して、なめらかな社会を創る」

まず、会社の概要から説明します。「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というミッションのもと活動している株式会社メルペイという会社です。

当社は株式会社メルカリの子会社になりますが、メルカリグループ全体で、こういった3つのバリューを大事にしています。「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」の3つのバリューを体現するために、みんなでがんばっていこうというものです。

「Go Bold」は、とにかく大胆にいくということで、「All for One」は、大きな1つの成功に向けてみんなでがんばりましょうということです。「Be a Pro」は、一人ひとりがプロフェッショナルという自立した存在として、しっかりと働けるようになっていこうということです。

この3つのキーワードは、社内で毎日聞くぐらい浸透しているワードなので、日々「いやあ、今日もGo Boldだったねぇ」みたいな会話でけっこう盛り上がっています。

信頼を前提にして、情報の透明性やフラットさを担保する社風

もう1個、会社で大事にしているカルチャーがあって、この「Trust & Openness」というカルチャーのもとで私たちは活動しています。

メルカリは、相互の信頼関係をかなり大切にしていて、信頼を前提にして、情報の透明性や、組織のフラットさなどをしっかりと担保している会社です。一人ひとりの自発的な思考や行動が、結果的に組織や個人の成長にもつながっていくという信念のもとで活動しています。

なので、こういったカルチャーとバリューをベースに信用を創造して、なめらかな社会の実現に向けて意識している会社です。

メルペイが取り組む「決済事業」「与信」「ふえるお財布」

具体的に今やっていることですが、私たちは「フリマアプリ「メルカリ」」というアプリの中に、いろいろなサービスを展開しています。マーケットプレイスの「メルカリ」。ペイメントサービスの「メルペイ」。ほかにも最近、加盟店さんが直接お客さまに商品を売る「メルカリShops」が出てきました。これが全部1つのアプリの中で展開されています。

私はメルペイの所属なので、今日はメルペイがやっていることについてお話しします。

1つは「決済事業」で、ID決済だったり、QRコード決済と言われるもの。さらにバーチャルカードというクレジットカードのように使えるカードです。そういったものを利用可能にすることで、「メルカリ」で得た売上金をなめらかに、日々の支払いに使えるようにしていくということをやっています。

もう1つの事業は、「与信」です。例えば、後払いがあります。つまり、その人を信用して後払いで支払えるサービスです。特に、一括払いという、翌月にまとめて払うものと、定額払いという、月々に分けて払っていくサービスの2つを現状展開しているのが、与信です。

さらに最近は、「ふえるお財布」という、「メルペイ」の残高などを利用して資産運用ができるサービスも開始しています。せっかく得た売上金を使うだけではなく、ちょっと増やすことにも使えるようにサービスを展開しています。

他職種の人と密に連携して動くUXリサーチャー

このように会社は日々事業を作っているのですが、私はメルペイのUXリサーチチームに所属しているので、今日は具体的にどんなことをやっているのかとか、どのようにリサーチを進めているのかとか、その中でデザイナーとリサーチャーがどうコラボレーションしているのかとか、そういうお話ができればいいかなと思っています。

これは会社の採用の募集要項にも書いてあるのですが、メルペイのUXリサーチャーというのは、豊かなお客さま体験と事業成長を実現するために、本質的な問いを立ててUXリサーチを推進し、鋭い洞察を得ることに責任を持っています。私たちはUXリサーチャーをこういう役割として定義をしています。

UXリサーチはお客さま体験に根差した職種ではありますが、きちんと事業成長のほうにもコミットしていくという役割を目指しています。

UXリサーチチームは、組織横断的に働くことがけっこう多いです。コラボレーションとしては、プロダクトデザイナーと一緒にいろいろなプロジェクトに入っていって、さまざまな企画だったり、新しい機能の開発の部分でデザインをしたり、デザインをしたものをリサーチしたり、そういったことをなるべく活発に、密に連携できるように動いています。

ほかにも、プロダクト作りだけではなくて、マーケティングチームとCMやキャンペーンに関するリサーチで協議をしたり、BizDevという事業を新しく考えていく人たちと、こういうところにどういうお客さまがいるんだろうねと、一緒にリサーチしたりします。

また、弊社にはデータアナリストがいるのですが、その方々と、お客さまの利用ログはこういう傾向なんだけれど、実際のお客さまはどんな気持ちで、どういうふうに考えて動いているのだろうかと、一緒に考えたりします。

UXリサーチャーのリサーチデータと、データアナリストのデータを突き合わせて、さらにお客さまへの理解を深めていくという感じで、UXリサーチャーと他職種の人たちはかなりコラボレーションを密にする体制で動いています。

UXリサーチャーが社内にいる3つの理由

ではなぜ、そんな存在が社内にいるのかという話ですが、私たちは、この3つの効能を挙げています。1つ目は、リリースをする前からお客さまに関する学びをいろいろ増やせます。2つ目は、先ほどデータアナリストの方とのコラボレーションでも話しましたが、データを解釈する精度が高まります。3つ目として、組織作りに使えるという効能を挙げています。

特に、私たちのやっている金融サービスはちょっと出して試すということがやりにくい業界なので、なるべく出す前に、しっかり作って出す必要があります。

作っている最中のものをUXリサーチを通してしっかり調べて、大成功を1回でつかむというよりは、「この方向はちょっと違うんだね」と、リリースする前に小さい失敗をいっぱいして、外堀を埋めて、よりいい方向に向かえるようにするということです。

2つ目の、データを解釈する精度が高まるという話ですが、データはすごく定量的でわかりやすいのですが、一方で、なぜこういう数字が出たんだろうねと、解釈が難しいシーンはやはりいろいろとあります。

そういう時に、実際に当てはまる何人かに話を聞くと、「こんな理由でこうなっているんだ」とけっこうわかったりします。そうすると、量的にも、どういう振る舞いするのかという質的にもわかるので、非常によい解釈ができます。

3つ目が、組織作りに使えるという話ですが、やはり顔が見えるというのは大事なことです。「この人たちのために作っているんだ」というのがわかってくると、やはりその人の方を向いて、きちんとみんなで同じ方向を向いてプロダクト作りができます。

UXリサーチャーとしては、そういったところも含めてしっかりサポートしていきたいと思いますし、そういう効果があるということを伝えています。

リサーチをするうえで大事にしていること

先ほどの効能の話はありつつも、私たちのリサーチで大事にしていることが、2つあります。

1つは、お客さまにはスマホ以外の体験がたくさんあるということを意識することです。特に「メルカリ」というサービスだと、出品をして売れれば、実際に配送をしなければいけません。実際にはそこに、物を運んでくれる人がいて、それが誰かのもとに届くという体験があります。家の中でなにかを探す体験もありますし、もっと言えば、お店で支払うという、そういうお店の体験もあります。

なので、そういったものを総合して、どういう状況で誰がこのアプリを使うんだろうと思い描く。お客さまの体験は、別にアプリの中だけではないというのを踏まえて、きちんと調査をして、その結果を伝えていくのを大事にしています。

もう1つ大事なポイントがあります。先ほど冒頭で紹介したとおり、いろいろな機能が1つのアプリに入っているので、それをそのまま独立で作ってしまうと1つのアプリにはなりません。

実際ユーザーには1つの体験として見られるわけなので、やはりそこを1つの体験として、どうなめらかにつなげていくのかを非常によく考えてデザインしなければいけません。

そういう時は、やはりデザイナーの人たちと一緒にそこを考えていきますし、デザイナーやプロダクトマネージャーとコラボレーションする時に、彼らがそういう視点を持てるように適切にリサーチをしていきます。ソナーのような役割のように、そういうことをしっかりサポートしていこうと考えてやっています。

UXリサーチのポイント4つ

ほかにも、これはメルペイに限らずだと思いますが、私自身が、事業の中でUXリサーチをする時に大事にしていることが、4つあります。

1つ目は、状況に合わせて、きちんと必要な分を調査するということです。リサーチはやはりコストがかかってくるものなので、必要な分だけをやる。わかっていることをもう1回調べる必要はありません。

なので、リサーチ前に社内の関係者にきちんとインタビューしたりしながら、どういうところに何が必要なのかをしっかり把握してやっていくということを大事にしています。

2つ目は、リサーチデータをきちんと蓄積して、参照できるようにしておくことです。質的なリサーチをする時は、どうしてもお客さまにインタビューをしたり、アンケートを取ったりするのですが、そうするとどうしても時間がかかります。

例えばSQLでクエリを書けばすぐ結果が返ってくるという世界観ではないので、やはり欲しい時にデータがすぐ出るというわけではありません。

そう考えた時に、いろいろなリサーチをしっかり蓄積しておいて、「あれ、これってどうなんだっけ?」とメンバーが思った時に、「ここにこういうデータがありますよ」とすぐ言えるようにするということを大事にしています。

3つ目です。プロダクト作りというのは、完璧になるというわけではなくて、常に改善を続けていくような作り方になります。

リサーチも似たようなところがあります。完璧なリサーチというのはなくて、「次はこうしたらよかったね」とか、「今回はここまでしかわからなかったけど、次はこれをやったらわかるよね」とか、そういうモアベターで、どんどん実践・改善していくことを意識的にやることで、プロダクト作りをどんどんよくする、スピード感に合わせていくということを意識しています。

また、最後については、私がもともと研究者であるというのもあるのですが、先人の研究や理論から学ぶのもすごく大事なことだと思いますし、自分たちが実践してわかったことを、また研究として論じていくのも大事だと思っていて、こういった理論と実践の両輪があることで、やり方だったり、考え方だったりがどんどん進化していくと考えています。

これがメルペイのUXリサーチャーとは、というところになります。

(次回へつづく)