文化的負債Case9:エンゲージメントが低い

高橋裕之氏(以下、高橋):次は高橋から、Case9。「エンゲージメントが低い」です。“ここで”というのは、所属している組織や会社とかです。エンゲージメントは「ここで働き続ける理由」と言われています。今まで会社の従業員満足度調査やモチベーション、ロイヤルティなどが昔よくあったと思います。だけど、今はエンゲージメントを測ることがすごく効果的と言われています。

実は2年ちょっと前に、とある部門を私が部門長として引き受けることになった時、そこはすでにエンゲージメントを測っていましたが、64というそこそこ低い状でした。これはどうにかしないとならないということで、いろいろやりました。

正直、64という数字がどういう状態なのかさっぱりわからなかったため、みんなを知るためにリーダーズ・アクライメーションというワークをやったり、あとは弊社の言い方でGMGという、マネージャーの力量を測るようなことをやっていました。

全員の残業時間を見たら、何人かが突出してすごく残業をしていて、他のメンバーはそうでもないような、歪な雰囲気を感じていました。

(スライドを指して)“認知の歪み”ゾーンというのは、60以上残業すると頭が働かないというやつです。だから、残業は効果がないというデータの話です。

次は3ヶ月ごとに測ったら63と、少し下がりました。正直「うっ」となりました。でも問題としてはやはり部門としての一体感がない感じがあったので、合宿をやりました。

ただ、合宿は今できないですね。できませんが、コロナが収束した暁には、またやりたいと思っています。

合宿で何をやったかというと、「QAチームを作るにはどうすればいいか」というワールドカフェのスタイルでいろいろなディスカッションをやったり、あとはメンバー全員にパフォーマンス目標を立ててもらいました。

それに初めて参加した荒川さんの話を聞きたいと思います。

荒川健太郎氏(以下、荒川):この頃から私も高橋と一緒に仕事することになって、合宿に参加しました。いきなりの発表の内容がこれかという感じなんですけど(笑)。札幌は楽しかったです。

それは置いておいて、行われたワークは非常に楽しかったです。かなりいい意味で頭を使ったし、(スライドを指して)表示されているオレンジのワークをダーッとやった中で、他律的な我々が自律的になっていったというのが、私はもうリアルタイムに感じ取れました。そこで何が起きていたのかは右側です。

自分たちが、何に喜びを感じるのかをまず把握することです。自分たちがどうありたいかを自分たちで考える。その後、最後に自分はどうありたいかを考える段階を踏んだことが効果的だったんじゃないかなと、施策を受ける側として非常に印象に残っています。

(スライドを指して)これは部の仲間がOKRベースで出している目標です。

高橋:そんな施策を回したら、エンゲージメントが71に上がりました。私は「わーい!」と思いました。でも相変わらず残業時間が多い人がいたり、あとは複数グループの中で1個のグループが極端にエンゲージメントが高くて、特にそこに対しては何もやっていないなと思って覗いてみると、アドレナリン・ジャンキーというか、「うぇーい!」とがんばっていました。ただ単に高かったという感じなので、その他にもいろいろ理由がありましたが、組織変更をしました。

そうしたらドーンと落ちました。ドーンとでもないかな? ちょっと落ちました。一部のメンバーからは、やはり「幸せに仕事をしていたのに、なんてことをしてくれるんだ」みたいな反応がありました。でも丁寧に「こういう目標で組織変更したんだよ」と説明して、なんとかわかってもらえたかなという感じで、徐々に上がっていきました。

「徐々に上がっていった」と端折りましたが、何をやったかというと、単にインナーブランディングをしました。つまり、Mission、Vision、Valueという言葉づくりをすごく丁寧にやったり、あとは全員でOKRをして目標管理をしたり、ブログの発信を推奨して、部門長として僕が率先してやって発信するようにしたり。定石集の「GROW」というサイトを立ち上げたりとか、いろいろやっていきました。

内藤靖子氏(以下、内藤):(スライドを示し)これは私たちの立場でやったことを書いていますが、OKRでやり遂げる目標を立てるところで、OKRの本に「なぜ、やり遂げることができないのか」について書いてあります。これの逆を行こうことで、OKRでやり遂げる目標を立てる。

まず、私たちはユーザーストーリーが定着していたので、ユーザーストーリー形式でオブジェクティブ目標を立てて、Acceptance Criteriaみたいな感じで、Key Resultを書くことを部門内に徹底しました。

高橋:“製品仕様”ではなくて、“自分仕様”ということですね。

内藤:そうですね。それを週次の1on1でやる。週次の1on1といっても、毎週この話ばかりをしているわけではありません。雑談も大切だけど、雑談だけで終わらないように、1on1の目標をしっかりと達成する。学習を促進するような場として活用するというところ。そして四半期ごとに見直しして、アップデートする運用していきました。

高橋:(スライドを指して)右側がTeamUpという名前のツールを使っていたりします。

高橋:2021年の春というか、最新では76になりました。76だと他の企業さんから「まだまだじゃん」と言われそうですが、下がったり上がったりしていますが、最近は右肩上がりになっていて、私としてはちょっと安心しています。油断大敵かな?

文化的負債Case10:自動テストがない

高橋:では次に行きます。Case10、「自動テストがない」です。

荒川:これは組織変更直後の頃のお話です。まず課題として、「長きに渡る手動時代の泰平」。泰平はしていませんが、何かにつけてもすべてが手動で行われていました。性能の測定も、ストップウォッチを片手に「クリック! よし表示された! 〇秒」みたいな、そんな時代でした。

その結果、QAの長時間労働、あとはストレスフルな仕事の結果、品質もそれほど上がらずバグが流出する状況でした。

我々がアプローチとしてまず考えたのが、Agile Testingの4象限です。(スライドを指して)この状況は、緑の右側ですね。我々はQ3、Q4ばかりやっていました。「Q1、Q2は開発がやるべきでしょう」という考えもあったように思います。

ただ、誰がやるとかそんなことは関係なく、必要だと思えば僕らがやればいいじゃないかという考えにシフトしていきました。

そうしてQ1とQ2が充実することによって、Q3とQ4をする時間も余裕も出てきました。テストケースも減ってきました。そうするといいサイクルになっていくんじゃないかというような戦略を立てたわけです。

高橋の言った組織変更で、私はテスト自動化を推進するAutomationチームを兼務でアサインしてもらったので、テスト自動化という観点で、開発とコラボレーションして自動化を推し進めようしたアプローチを取り始めました。(スライドを示し)具体的なアプローチは右に書いていますが、このあたりは今回はちょっと端折ります。

「何が起きるのが嫌ですか?」などの会話を開発と進めながら、テスト、勘所を押さえて、あまり難しいことは考えず、意味のあることならば自動化してしまおうというようなテンションで、今どんどん自動化を進めている状況です。

その動きをするためには、開発と同じ言語・文脈で話せないといけないので、私もエンジニアとして学習・研鑽のほうは続けなければと思っている次第です。

(スライドを指して)左側は、あるE2Eテストを計測した自動テストの結果です。Seleniumを使ったE2Eテストの稼働した結果が書いています。右側に細々書いているのが、そのE2Eの自動テストが、4プロダクトでもう回っている状態です。

WebAPIのテストがCIに乗っかって、1プロダクトで動作中です。ユニットテストも我々Automationチームで書いたプロダクトもあったりして、冒頭で言ったストップウォッチ体制も無事脱却していますので、日進月歩で進んでいるんじゃないかなという状態です。

文化的負債Case11:外に出ていかないエンジニア

Case11、「外に出ていかないエンジニア」です。昔は外部研修があまり歓迎されない空気感がありました。他の人の仕事が増えるとか、そういった状況でした。私目線ではよくわかりませんが、予算も乗っかっていない部分も多かったらしいです。

高橋:そこで世の中の管理職の方に言いたいんですけど、「研修費をこのぐらい取っておこうか」というアプローチだから、削られたり削られなかったりするんです。今スライドに出しているのは、戦略を考える上でのフレームワークということで書きました。

そもそもなりたい姿やVisionが何かあって、それで現状がある。そのギャップを解消する方法が、戦略だったり戦術だったり。その中に研修とかがあると思うんです。

研修やカンファレンスの参加費があるはずで、それには必ず予算がついて回ります。だから、きちんとVisionを考えてお金を用意してあげなければ、部下の人たちが困るよねということで、ここは注意してほしいし、みんな注意しようと思っているところです。次行きましょう。

内藤:実際に何をしたかというと、まずなりたい姿を明確にするために、各自スキルマップを作りました。自分がどうなりたいのか、何を学びたいのかを明確にします。そして、それに沿った情報収集ですね。カンファレンスの場もそうですし、いろいろな場面で情報収集をしていきます。

「これをやるぞ」となったら予算を計上するわけです。弊社のエンジニアは外に出ていきたがりません。なので、来てもらいましょうということになりました。

社外から講師の方を招いて来てもらうことで、社内研修・集合研修を企画しました。新人さんの研修も私たちは受け持ってやってきました。その結果どうなったかというと、他部門から「集合研修がおもしろかったから一緒にやってくれない?」と言われたり、「去年の新人研修がよかったから、今年もお願いね」というような声をもらうようになってきました。

荒川:結果、今は「研修? 行ってこい!」「イベントに行ってこい!」「金は出す!」と。こんなに言葉遣いは悪くありませんが、これぐらいの心意気を私は感じています。非常に幸せですし、僕が行ってブログや外部発表で展開することで、部内の研鑽文化もどんどん発達させていけたらと思うし、(その文化が)根づきつつあるんじゃないかと思っています。

文化的負債Case12:マイクロマネジメント

高橋:Case12、「マイクロマネジメント」です。2年前に引き受けた時の部門の話ですが、けっこう官僚型というと官僚のみなさんに悪いですが、指揮命令系統がはっきりしていて「報告を上げろ」という堅い組織でした。

そのようにすると、やはりメンバーのほうが成長しない上に、やらされ感があり、正直思考停止していた人がけっこう多かったです。

それを自己組織化するような組織に変えていくチャレンジをしていました。

これはよくマネジメント3.0とかに出てくる話ですが、階層型とネットワーク型で、どちらがいいかとかではなく、バランスを取ることが大事かなと思って、組織を設計しました。

(スライドを指して)昔はこの周りに札幌拠点や新潟拠点などがあって、ボスを通さないと会話しちゃダメみたいな状況が本当にあって、それをなくすこともやりました。

コミュニケーションパスというのは、人数が多ければ多いほど複雑になってくるからやめようということで、シンプルにしました。

これもマネジメント3.0ですが、メドラーズゲームというもの、組織を改編する時に、1枚1枚六角形のところに写真を貼って、半年かけてシミュレーションをしました。どういった体制が一番バランスが取れるかをシミュレーションして、組織変更をしたりしています。

ちなみに、組織変更ポイントとしては、自分の言葉として語れるリーダーを配置したり、リーダー自身にメンバーの育成を期待することを明確にお願いしたり。あとは、1つのチームは5人以下にするとか、いろいろなことを考えてやっていたりします。

内藤:私が今、一番影響を受けていると思うのは、マイケル・サホタさんのCAL1トレーニングです。ここで習ったことを実践していこう、このマインドでやっていこうと日々進めています。

あとはマネジメント3.0です。みんなメンバーのモチベーションを上げることにつながっているかなと思っています。

荒川:先ほど言ったマネジメント3.0で出てきたデリゲーションポーカーも、私に限らず、みんなのモチベーションの向上につながっていると思います。詳しくはまた資料のほうを見てください。

文化的負債Case13:QAがボトルネック

高橋:Case13、「QAがボトルネック」です。QA部門は他部門である開発側から「QAさん」と呼ばれていたり、いろいろと変えないといけないと思います。

もともとQAがボトルネックになっていたのは事実です。ゲートキーパー型のQAをやっていました。

なので、それを止めていきましょうという流れを作りました。いわゆるシフト・レフト・テストを推進して、もっとQAのメンバーがより上流でテストを促す。QAの人がやるかもしれないし、エンジニアももっとユニットテストレベルでやってねということをどんどんやっていきました。

文化的負債Case14:Mission、Vision、Valueが浸透していない

Case14は「Mission、Vision、Valueが浸透していない」です。これもサラッといきますが、会社には「Mission、Vision、Value」というのがあるじゃないですか。

それを企業レベルで推進するような、コアバリュー・セッションなどをやっていました。

ただ、これが僕らみたいな末端なグループまでに届くかが非常に難しくて、そこを気をつけてやりました。

『組織は「言葉」から変わる。ストーリーでわかるエンゲージメント入門』という本があるのですが、これにすごくいろいろなナレッジが書いてあります。これを使っていろいろ整理すると、「Vision、Mission、Value」というのがスッと説明しやすくなります。ぜひみなさんもやるといいんじゃないかなと思っています。

文化的負債の解消にはソフトウェアプロセス改善のアプローチが重要

内藤:最後、「未来へ」ということです。プロセス改善で変わることですが、周りを変えようと思っても変わりません。自分が変わっていくことで、周りに影響を与えていきたいなと思っているし、自分自身が変わるためには、フィードバックを受け止めることが大事だと思っています。

荒川:わちゃわちゃと書いていますが、荒川健太郎の「人生はつづく」は、歩みを止めず毎日何かしら動いていき、それで結果を出そうということです。この3人で仕事ができているのがすごく幸せなので、少しでも小さくてもいいので、結果を出していきたいと思っています。以上です。

高橋:ということで本日のまとめになります。文化的負債の利息を解消するには、ソフトウェアプロセス改善というアプローチがとても大事であり、おすすめです。なので、プロセスで解決するという視点もぜひ持ってもらえるとうれしいです。

ご清聴ありがとうございました。以上になります。