今後チャレンジすること

水島壮太氏(以下、水島):今後のチャレンジですが、もしかしたらデジタル庁に限らず、大きな企業の中でよりアジャイル開発をやっていくなど、DXの文脈で内製化していくという話があるかもしれません。

やはり100パーセントアジャイルで開発するわけではないですし、大規模の開発もうまくミックスしながら両利きでプロダクト開発をしていくというマインドは必要になってくると思います。そこの最適化ミックスを考えるのがプロダクトマネージャーやCTOの責任かなと思っています。

2つ目の、UI/UXがやはり不十分だというところに関しては、デザインファーストな開発プロセスを浸透していく必要があります。デジタル庁には現在、開発標準みたいな資料がありますが、これも見直しをしようという話があります。やはりUI/UXのクオリティのテクニックであったり、開発プロセスみたいなところだったりが抜け落ちている部分があるのではないかと思っているので、そこをきっちり強化していくのは大事なことかなと思って書いています。

3つ目は法案やビジョン、ミッション、バリューのところです。私は、デジタル庁はプロダクトマネージメントをやっていくというところは書いていると捉えていて、課題は実行力とそのためのカルチャー醸成だと思うので、ここに関してはしつこく言い続けて、自分自身もハンズオンしながらやっていくというのを今後のチャレンジとしてやっていきたいと思っています。

4つ目は、優先順位を意思決定するための評価方法です。これに関しては、営利企業よりもデジタル庁は非常に難易度が高いという感覚があるので、プロダクトマネージメントの中でも優先順位を決めるためのテクニックがいろいろとありますが、どうこれをやっていくのかを考えていきたいと思っています。

最後ですが、やはりチームは大事です。民間のメンバー含めてガサッと集まって、今2ヶ月経って(※取材当時)、まだ良いチーム作りができているという段階には至っていないところがあります。なので、これからどういうロードマップの中でチームを組成していくかが非常に肝になっていくなと思います。

ここは私自身、オーナーシップを持ってやっていきたいですし、このチームが生まれないとおそらくプロダクトのクオリティはあまり上がらないと思っているので、これがまさにKey Success Factorだなと思っていて、今後やっていきたいと思っています。

私からは、デジタル庁の紹介やデジタル庁に入ったCPOである私がどう考えているかをまとめさせてもらいました。みなさんが聞くと当たり前のことが多かったと思いますが、デジタル庁自体が600名規模で、民間の人が200人がいて、かつ非常勤が多いというまさに非連続な環境の中でスタートしました。

というところで、ここからが組織をきっちり地固めしていくフェーズで、その中でプロダクトマネージメントの考え方は非常に重要ですし、言葉にはなっていますが、そこを実践していくというところにきっちりフォーカスを当ててやっていきたいなと思っています。

そして繰り返しにはなりますが、こういったデジタル庁の活動に共感していただける方であればぜひアプライください。

民間企業からデジタル庁へ入庁して感じた違い

司会者:水島さんありがとうございました。水島さんは2021年9月に就任されたので、今のところ2ヶ月弱ぐらいを実際に過ごされていると思うのですが(※取材当時)、実際に入られたあとの印象をうかがいたいと思います。

というのも、やはりステレオタイプ的にいくとすごく悪い言葉で「役所仕事」という言葉があったり、そういうイメージを持っている人も多いのかなと思います。かたや今紹介していただいたとおり、Government as a Serviceなど、スタートアップで使う言葉があったり、ミッションやビジョンもすごくスタートアップらしく定義されているなと思ったんですね。

チャレンジの中でも、カルチャー醸成やマインドという話が出ていたと思うのですが、民間のご経験がある水島さんが入った時に、どういう違いを感じたのかをお聞きしたいなと思います。

水島:私自身も、ここ最近はずっとメガベンチャーというところがあって、ここは当然ハイアリングのプロセスがあって、ベンチャーで働きたい人の寄せ集めの集団なので非常にカルチャーフィットしていると思います。働き方も非常に似ています。

一方デジタル庁の場合は、民間でもスタートアップ以外のところから来ている方もいますし、スタートアップにかなり近い状況・働き方をしている方も来ています。各省庁からデジタル庁に来た方々も、おそらく役所の中ではデジタルに強い方々でしょうし、けっこうクイックに動く方々だと思うのですが、やはりベースとなるカルチャーはみなさん違うので、非常に多様な組織になってきています。

スタートアップから来た人たちは当然スピード感や温度感が合うのですが、そこを言語化せずに阿吽の呼吸でやっているとそこだけがサイロ化してしまいますし、役所の方々も役所のやり方でやってしまうとサイロ化してしまいます。

なので、デジタル庁は多様な組織なんだということも含めて、プロセスしかり仕事のやり方しかりをきっちり言語化してみんなで相互理解を作っていくことが非常に重要だなと感じています。この2ヶ月で、私たちの常識が当然通用しない、相手からしても同じように通用しないというのが多々起きました。

それはネガティブな側面もあるかもしれませんが、僕はポジティブに捉えていて「じゃあ説明しますね」と最初は少し時間がかかりますが、そこでゆっくり相互の信頼関係を作っていく。

これは同じ価値観のチームの中で、楽しくプロダクトマネージメントをしたい人にとってはちょっと苦しい環境かもしれませんが、僕はこういう環境を良いチームにユニファイしていくというところにけっこう燃えるタイプなので、そこをやっていこうかなと思っています。

良いプロダクトを作るためのカルチャー醸成

司会者:プロダクトマネージャーとしてもちろん、プロダクトにフォーカスしていくと、同時にそれを作るプロダクトマネージメントに民間としてフォーカスしていくことも多いと思うので、そこに水島さんもコミットされるのかなと思います。事業会社でも、組織やカルチャーへの投資より事業を優先してしまったり、カルチャーへの投資が疎かになってしまったりすることがあると思います。

そういう時はやはりトップの人たちが、きちんとそこに投資するんだと理解して、許容や促進をしていくと思うのですが、デジタル庁はその辺りの温度感はどうなんでしょうか。水島さんがそう思っていらっしゃるのは他の方に伝わっているのですか? 

水島:デジタル庁の前にラクスルの話をしますが、ラクスルもまさにカルチャーに投資しようという議論を経営でしていて、これは民間でも本当にあるあるだと思います。デジタル庁も投資していきたいのですが、カルチャーへの投資は非常にファジーな領域で、当然その投資はみなさんの税金なので、けっこう難しいところです。

ROIがなかなか見えづらいですし、とはいえデジタル庁がワーッと盛り上がってカルチャービルディングするためにたくさん税金を使いましたと言っても、それは国民のみなさんに理解されないと思います。

やはり税金を使ってやるところはそれなりのエビデンスや実証・実験を繰り返しながら、きっちりカルチャーへ投資していこうと思います。

少なくてもお金を使わなくても行動を変容させることはできることなので、これはデジタル監の石倉さん(石倉洋子氏)とも話していますが、「今すぐ社内メールは止めよう」とか「添付ファイルはなるべく減らしていこう」とか、そういうわかりやすいところからカルチャーを変えるなど、カルチャー醸成のやり方からスタートしていきたいです。

もう1つ、けっこう他の省庁でも同じような課題を抱えていて、いろいろなカルチャーやワークスタイルを変えていこうという実証・実験はけっこうやっているんですね。農水省はけっこう進んでいる印象があって、そういう温度感の高い省庁・府省もあるので、デジタル庁もそういう行政の生産性を高めるためのカルチャー醸成というところですね。

良いプロダクトを作るためのカルチャー醸成に関しては、一定できている事例も出てきているので、これを寄せ集めて、デジタル庁が日本の行政の中で一番モダンなやり方でやっているという状況を目指していきたいなと思っています。

「誰一人取り残さない」プロダクトとは何か

司会者:やはりプロダクトマネージャーとしての水島さんのお話を聞いて、事業会社との違いを大きく感じるのは「誰一人取り残さない」という部分なのかなと思っています。

事業会社をやるうえでは、セグメンテーションしたりターゲティングしてプロダクトを作っていくことが多いと思うのですが、水島さんはプロダクトマネージャーとして、ここをどう捉えていますか? そこに対しての難しさや意義をどう感じていますか?

水島:僕もデジタル庁に入った当時、先ほどのWhyだったり、ゴールは何か、メトリクスは何かだったりというところに対してどうしても民間の考え方で絞って、このユーザーセグメントの、このアクティビティの、この指標が良ければゴールなんじゃないかと話をしましたが、もともと省庁にいた方々からすると、ユーザーを絞ることに関してはちょっと考え方が違うんですよというフィードバックをもらいました。

だからといって、Internet Explorer 10を対応しましょうとか、ガラケーも対応しましょうとか、90歳の方でもわかりやすい文字の大きなUIを作りましょうとか、そういう方向にはき違えてしまうのはちょっと違うなと思っています。

ただアクセシビリティはチームもあって、やはり障害者の方々にも幅広くデジタルの恩恵を受けていただく必要があるというところに関しては投資をしていこうという考え方で動いています。

例えば、スマホを持っていない方を取り残しているじゃないか、などを含めてそういう話があると思うのですが、もし私たちのプロダクトで対応できない場合には、代替手段をきっちり提供していく。これが「誰一人取り残さない優しいデジタル」と私は捉えています。もう1つ、これはみんなが言っていますが、やはりデジタル化をすることによって生産性が上がって余力ができます。

余力ができたところは人ベースのサービスに投資をしていって、デジタルを使えない方をサポートするほうに人件費を使うなど、そういうところに対してやることによって、デジタルが進んだから便利なサービスが享受できたよねという世界を設計していこうと思っています。そういう考え方なので、さっき言ったとおりAndroid 2も対応しましょうとかいう話にはならないと捉えて私はやっていこうかなと思っています。

災害が起きた時にデジタル庁はどう貢献できるのかを議論している

司会者:では最後にせっかくなので、もう1問だけ聞かせてもらいます。やはり行政サービスをプロダクトとして捉えて今後進めることを今も検討されていると思うのですが、行政サービスとして、今優先度が高い課題とかサービスやプロダクトはどういうものがあるんですか?

水島:平時と非常時があると思っていて、今のワクチンなんかは本当に一刻の猶予も許さない、本当に総理大臣から降ってくるような案件なので、やっぱり緊急度が高いところのプロダクトをきっちり仕上げるというところはもちろんあります。

これから先、日本にどういうことが起こるかもわからないので、災害が来た時にデジタル庁はどう貢献ができるのかをディスカッションしています。そういうところで緊急度が高いところをしっかりやっていきたいというところが1つですね。

あと、ワーッと各省庁、個別最適で作ってきたプロダクト群があるんですね。クオリティもけっこうさまざまな中で、国民が見た時に、これがわかりやすいのか、使いやすいのかというのには大きな課題があると思います。先ほど説明したとおりUI/UXが悪いという問題もあります。

すぐにはできないかもしれませんが、まずここはプロダクトとして再定義して、向こう1、2年かけながら、どういう見せ方をしたらユーザーにとって良いものになるのかとか、まさにマイナスを統合してゼロにしていくのがメインになるかもしれないと思っています。私の中ではまずそこがプライオリティが高いところです。

もちろん裏側のバックエンドのアーキテクチャもあるので、そこをどう考えながら「デジタル庁って、けっこうプロダクトのクオリティが上がってきたじゃん」と、ここに今日来ている方に思ってもらえることがまず1つのゴールかなと思ってやっていきたいと思っています。