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日本発自動運転EVスタートアップはどうやってTeslaを超えるのか 「Ponanza」作者が描く完全自動運転車の未来(全2記事)

合言葉は「We overtake Tesla」 自動運転EVスタートアップのTURING・CEO山本一成氏が描く自動運転の未来

国内外の自動車メーカーが注力している自動運転技術ですが、現状では、運転手のアシストが必要なレベル3程度の車がせいぜいで、レベル5となる完全自動運転の車には程遠い状況です。 そこで今回は、青木俊介氏とともに自動運転EVスタートアップ「TURING株式会社」を立ち上げた山本一成氏に自動運転の未来についておうかがいしました。前半は、スタートアップを立ち上げた経緯と「We overtake Tesla」を掲げる理由について。

「Ponanza」は独学で開発 機械学習業界と一緒に成長してきた

――まずは、山本さんの大学時代についておうかがいします。大学ではもともと何を専門されていたのでしょうか?

山本:東京大学では理科I類に入っていました。最初の2年間は教養をやって、そのあと2年間で専門をやるんですが、留年したのは2年生と3年生の間で、当然ながら留年するくらいなので、何も勉強せずに2年間いました。東大に入ってからは何も勉強していないです(笑)。

専門の時も、留年した間のギャップイヤーみたいな感じでいたので、つまり何も勉強していないですね(笑)。ひどい話だ(笑)。

一応、3年生からは電気電子情報というところに入りました。最近は、プログラミングをやる人がそこにけっこう入るようになりましたが、当時プログラミングはぜんぜん人気がありませんでした。

東大内には「進振り」という、3年生になる時に成績がいい人から好きな学部に入れるというシステムがあるのですが、底点という概念からしたら、メチャメチャ低い点数で入れたのがそこだったんですよ(笑)。

――なるほど(笑)。

山本:ひどい話だ(笑)。

――プログラミングの経験や知識がない中で、「Ponanza」を作るのは当時難しかったですか?

山本:私は将棋に詳しかったので、将棋のルールについてのチェックはいらなかったのですが、それをプログラムに書き起こすのは当時の私にはすごく難しかったですね。今の若い人たちは、たぶんそれをもっと早い段階で達成できると思うので、当時はけっこう(プログラミングの)レベルは低かったと思いますよ。

――将棋プログラムを作られた時は独学で全部やられたんですか? それとも本とか、あるいは誰かに聞いて作っていたのでしょうか?

山本:本なんてあるわけないじゃないですか(笑)。機械学習業界と一緒に成長してきた感じだったので、当時はキレイにまとまった本はなかったんです。逆に今は、そういう意味では将棋プログラムを解説した本は多く出ているので、作るのは簡単になりましたね。どうすればいいのかがすごくわかる時代ですね。

――確かに今はいろいろな情報が出てきていますね。

山本:良いとか悪いとかじゃなくて、結論で言えば今は将棋プログラムを作るのは本当に簡単になりましたね。

自動運転のスタートアップの立ち上げのきっかけは青木俊介氏との対話

――将棋プログラムを開発されて、今は自動運転のスタートアップを立ち上げられていますが、そこに至った経緯はなんでしょうか?

山本:Ponanzaが終わったあとに、大きなことをしたいと思いました。将棋プログラムにおいて、1つTipping pointがあるとしたら、将棋の名人を倒せるかどうかというところですよね。はっきり言ってしまうと、そこしかないじゃないですか(笑)。

そこは達成できたので、次をやらなきゃなと思っていました。会社がその間に上場したり、いろいろといいこともあったのですが、そういった意味ではけっこう苦しんでいましたね。

人工知能の大きなテーマは、自動運転や医療、薬学の発見なのですが、どれも参入障壁が高くて大変です。

人工知能を研究している身としては、自動運転にはずっと興味があったんですよ。ただ、私がやっていた将棋プログラムは、ある意味で純粋なAIで、プログラム上だけで完全に遊び倒せます。それに比べて運転はどうすればいいのかなぁとずっと考えていました。

そんな時にご縁があって、名古屋大学の特任の准教授の枠に入れてもらって、青木さん(青木俊介氏)と毎日いろいろ話をしていたんですね。

――現在、山本さんがやられているTURING株式会社、共同代表者の青木俊介氏ですね。

青木さんは、カーネギーメロン大学に行っていて、2020年に日本に帰ってきたのですが、彼は論文を出しつつ、特許も取りながらずっと自動運転の研究をやっていたので、青木さんの専門性によって、その時に理解したかった自動運転業界の文化がけっこうわかりました。

日本の自動運転スタートアップはもっとあるべき

――自動運転は今ブルーオーシャンなのでしょうか。それともレッドオーシャンなのでしょうか。山本さんはどう考えられていますか?

山本:どうなんですかね。あまり考えたことなかったかも。なんでかというと、競争が好きだから(笑)。

私たちは自動運転とEVをやっていきたいのですが、両方ともレッドオーシャンだと言っていいと思います。世界中にスタートアップがたくさんあって、これは確定している話ではありませんが、調べた感じだと、中国では480社以上のEVスタートアップがあると言われています。中国の大都市それぞれで自動運転スタートアップが1社以上あるみたいです。

青木さんの話ですが、カーネギーメロン大学はすごく自動運転が盛んで、2年や3年に1個くらい研究室の中で新しいスタートアップが立ち上がる勢いと聞いています。すごい勢いなんですよね。

問題は、一方日本は? という話です。日本で自動運転のスタートアップやEVスタートアップは、どう数えるかにもよるのですが、すごく少ない。10個あればいいかなという感じです。ブルーオーシャンかレッドオーシャンかという直接の答えになるかはわかりませんが、そういう意味では、日本でももっとやるべきだと思います。

――確かに日本で自動運転のスタートアップというのはあまり聞かないですね。

山本:大きいところだと株式会社ティアフォーさんとかかな。私たちはもうちょっと知っていますが、ほとんどのみなさんは、たぶん他は知らないんじゃないかな。少なくとも100社は欲しい。あるべきだと思っています。

もちろん、TURINGは成功しなきゃいけないんですが、もっと大きい話として、いろいろな文脈の人に、この領域にもっと入ってもらわなきゃいけないなと思います。

センサー系の人がリードする自動運転業界に対する、TURINGならではの強み

――自動運転全般で今直面している共通の課題はありますか?

山本:まずこれは、みんながアグリーすることですが、自動運転は難しいということ(笑)。なんで難しいかというと、人間が思いのほかいろいろなことをやっているからですね。

歴史的には、自動運転の技術という点では、LiDAR、センサー、ミリ波レーダーなどいろいろとあります。そういういろいろなセンサーを使った運転補助(ADAS)は多い。だから、基本的にセンサー系の人が自動運転をリードしている場合が多いんです。

これはこれで素敵な話だと思いますし、運転補助という意味では、センサー系がやっていたというのは事実ですが、そこから自動運転になるかというと、ならないとTURINGは思っています。

運転には良い視力だけではなくて、良い判断が必要なのに、判断機を作るAIの人が意外と入ってきていないんですよね。もちろんパーツとして一部深層学習、ディープラーニングが使われたりはしているのですが、全体としては使われていない感じかな。

――センサー系が自動運転をリードしている現状に対して、TURINGならでは強みはどこにあると思いますか?

山本:これだけ自動運転をAIドリブンでやろうという人たちは、国内ではまったくいないかなと思っていますね。深層強化学習という分類になると思うのですが、深層学習の中でもけっこうエッジが効いて難しい領域です。

自分で言うのもなんなんですが、それなりに難しいことに挑戦して、そういう領域を達成してきました。強化学習はなかなか応用が難しいのですが、そういうことを実践してきたという意味では、自信はあります。

「We overtake Tesla」を掲げる理由

――TURINGは「We overtake Tesla」と掲げられていますが、Teslaを超えると掲げた理由はなんでしょうか?

山本:私たちは、やっぱりTeslaはすごいと思っています。特にトップから垂直に、何をするのかが自明にわかっている企業なので、そこはすごいなと思っています。

例えば、トヨタは大きな企業でいろいろな歴史があるから、複雑になっていて、どこを向いているのかがわかりにくいですよね。それが悪いとかいいとかではなくて、歴史があるゆえにそうなっていると思います。

一方、Teslaは、これもいいとか悪いとかではないですが、何をするのかがたぶん現場レベルでわかっている。なんでかというと、関係ない私まで、Teslaが何をしたいのかわかっているから。

Teslaはこの間も「Tesla AI Day」で、AIに関するプレゼンをしていました。けっこう難しい話をしていたんですが、ああすることによって世界中のAIの研究者なり、リサーチャーなり、エンジニアなりを強く惹き付けられるんだなと思いました。Teslaはすごいと思っています。だから「We overtake Tesla」。

自動運転に必要なのは「視力」ではなく「考える頭」

――Tesla然り、日本だとトヨタ、ホンダ然り、大手の企業さんがすでに自動運転に参入しています。すでに大手が参入しているところにTURINGは入る。勝算はどこにあるのでしょうか?

山本:勝算ですか。まぁ、がんばってやるしかないんだけど(笑)。それを置いておくと、さっきも言ったようにまだ視力、つまりセンサーで解決しようという話がすごく多いです。視力も大事ですが、判断機を作ることをみんな考えていないんですよね。

要はAIですよね。手強いのは、Teslaがそれをやるんですよね(笑)。Teslaを除く大手は特にそういう感じはありません。LiDARとかを使ってやると、すごく楽なんですよ。実際に私もいろいろと組んでやってみたので、その強さもわかっているし、確かにそれっぽくは動くんですよ。

日本だとレベル3の自動運転車が販売されていますが、じゃあレベル3から4にいって、4から5になれば自動運転になるのかというと、私はぜんぜんそういうものではないと思っています。なので私たちは、レベル5の完全自動運転をいきなり目指していて、本当にハンドルがない車を作ろうと思っています。

――レベルが順当に上がっていって、4が5になれば自動運転、というわけではないのですね。

山本:(国が定める)段階の設定が「問題の難易度」とだいぶ違うなと思っています。例えば、狭い道路で対向車が来て自分とお見合いになってしまった時、センサーをよくしたらこの問題は解決できると思いますか?

――できなさそうですね。

山本:そうですよね。あるいは、社会的に自動運転車が受容されるシナリオももちろんあると思います。そして、そのためには人間が運転するより10倍安全な自動運転が必要だとします。

そうした時には、例えば歩行者がこっちを見ているとか、あるいはスマホを見ているとか、歩行者がどんな状況であるかという認識がたぶん必要になるんじゃないかな。良い運転者は普段それくらいやっていますよね。それは単純に、人というバウンダリボックスを付けて、人がここにいるという認識だけじゃないですよね。

――そうですね。ドライバーは、歩行者の状況を見て常に判断をしていますね。

山本:あと、そもそも交通ルールは法律じゃないといつも言っています。交通ルールはルールですが、時として破られる必要があります。例えば対向車がぜんぜんいなくて、左手前をおじいちゃんが自転車で漕いでいたとします。その場合は、車線を踏み越えるべきですよね。交通ルールを守って車線ギリギリで、おじいちゃんのギリギリ横を通るというのは正しくないじゃないですか。

――確かにドライバーはルールだからといって、そのすべてを守っているのではなく、状況を判断してより良い行動を取っていますね。

山本:ルールは別に法律じゃないから。ルールというのはあくまでも指標です。そういう複雑さを理解するのは、けっこう難しい課題だと思っています。人間がルールベースでは、そういうことを包括的にやるのは無理だと思っています。

それは将棋でも同じです。昔の将棋プログラムは、人間が一生懸命、全部を書いていたんですよ。囲碁もそうです。ただ、そういうのは結局作っている人の能力に依存しちゃうじゃないですか。そうであれば、羽生さんなり藤井さんが書いた将棋プログラムが一番強いということになりますよね。そういうことではなくて、コンピューターが自分で知識を獲得していかなきゃいけないというのが、私たちが信じるドグマですね。

将棋プログラムと自動運転で共通すること

――先ほど将棋のお話が出ましたが、将棋プログラムと自動運転で共通しているものはあるのでしょうか?

山本:ちょっと強化学習っぽい文脈ですが、環境から自律的に知識を構築していかなきゃいけないことですね。結局将棋もできるだけ人間が知識をあげないほうがいいんですよ。AlphaGoなんて本当そうです。別に人間が持っている知識なんてどうでもいいんですよ。

プログラマーが書いているのは、どうやって将棋の勉強をすればいいのかというプログラムです。囲碁も同じで、どうやって囲碁の勉強をすればいいのかというプログラムを書いています。

自動運転もさっき言ったようにルールがあるわけではありません。杓子定規にこういうのを守ればいいというルールがあるんだったら、逆説的ですが、すでに自動運転は完成されているんですよ。この世界に対する知識を機械学習機が学習していく必要があるんですよね。そのための座組み作り、どういうフレームワークで作っていくのかが一番の課題です。

(次回へつづく)

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