2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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ーーメタバースがビジネス的にも広がっていくというところで、まだ賛否両論ありますよね。例えばNiantic社のCEOはメタバースはディストピアになるみたいなことを言っているじゃないですか。
加藤直人氏(以下、加藤):ディストピアだと言っていますね(笑)。
ーーそれについてはどう思いますか?
加藤:Niantic社の発表に関しては、単なるポジショントークだなという感じです(笑)。そりゃそうだよなと。世界を歩かせようとしているのがNianticなので、反対意見を出すのはそうだなと思いつつも、メタバースという、人類が描いていた夢が描かれている中で、なんとなくメタバースの社会が怖いという意見がちらほら上がるというのは、わからなくもないんですよ。
ーーメタバースに怖さを感じるのはどうしてでしょうか?
加藤:これに関して僕が言語化しているのは何かというと、よりどころとしての肉体とか質量みたいなものがなくなってしまうというのが一番にあると思っています。
人間は動かしづらいもの、代替しづらいものに対して、精神のよりどころとする生き物だなと思っています。己の肉体だけは裏切らないという言葉がありますが、メタバースはそんな肉体をある意味手放す生活スタイルなわけですね。
メタバースはより精神的に生きることを強要される世界でもあるので、場所だったり、土地だったり、肉体だったり、質量だったり、そこを手放すということに怖さを感じるのだろうなと思います。
僕は、もともと物理学徒だったのですが、質量の定義とは何かというと、「動かしにくさ」なんですね。動かしにくさが質量だと定義しているのですが、動かしにくさが安心につながっている。その安心を手放すというのを、僕は質量から解放されるという言い方をするのですが、そこが不安につながっているんだろうなと思います。
今までの生活スタイルを手放すことによって何が起こるかわからない。だからディストピアになるのではないかという発言や発想につながるのかなと僕は考えています。
加藤:とはいえ、メリットのほうが絶対に大きいなと思っています。例えば、細田監督が、最近『竜とそばかすの姫』という映画を発表しましたが、すごくよかったなと思ったのは、ユーザーたちにとって、バーチャル世界がもう1つの世界、人生、もう1つの自分、もう1つの世界みたいに救いの場として描かれていたところです。
そこは、バーチャル世界の本質に近いと思っていて、それがわかっていらっしゃる監督ですよね。
また、ARとVRにおいては、有名な投資会社のアンドリーセン・ホロウィッツ社のマーク・アンドリーセンが、「一般的にARのほうが産業としては大きくなると言われているけど逆だと思う、VRのほうがビジネス自体は大きくなるはず」と言っています。
それはなぜか。逆張りかも知れませんが、VRというのはそもそもまったく新しい世界で住むという生活スタイルだから。世の中の人で、この世界がすばらしいって思いながら朝起きる人はメチャクチャ少ないじゃないですか(笑)。1パーセントもいないはずです。
世の中のほとんどの人たちは、この世の中がけっこうひどいものである、汚い言葉で言うとクソであると思いながら人生を過ごしていて、土地柄だったり、肉体だったり、自分たちが捨てられなかった物質にひもづいて、ひどい言い方をすると、地獄を形成している。
自分の今の生活がひどいものだと思いながら生活している人たちにとっては、そういうバーチャル上に形成された世界とは救いになる。
そっちを支持する人のほうが最終的には多いんじゃないかと言ったのが、マーク・アンドリーセンだったんですね。僕はその考え方にすごくアグリーです。
僕は京都大学に行って、中退して、3年間ぐらい引きこもっていました。レールから外れて高等遊民みたいな生活をしていた時に思っていたのが、やはり世の中のエリートの人たちほど人生が充実している。でもその人たちはマイノリティです(笑)。この世界はすばらしいと思っている人のほうがマイノリティだと思っていて、もっとこの肉体を捨てたり、空間を捨てたりして、バーチャル空間に住んでしまいたいと思っている人のほうが、僕はマジョリティだと思っています。
すでにclusterで生活していたり、VRSNSで生活している人たちの多くは、観測している限りけっこうそういう感覚を持っているんだろうなと思っています。
「cluster」
ーーとなると、clusterの存在意義は救いなのでしょうか。
加藤:そうですね、確かに救えたらいいなと思っています。でもミッションとしては、マイナスをゼロにする以上に、さらなる発展が望めるんじゃないかと思っています。
ーーさらなる発展とは具体的にはどういうものでしょうか?
加藤:僕はすごくポジティブに、人工物が好きなんですね。clusterは、創造力を加速させるというのがミッションなんです。バーチャルとか実はミッションに関係ないんですよ(笑)。ならなんでバーチャルをやっているかというと、人間が自分自身の想像力だったり、クリエイティビティを発信するうえでの枷として、現実世界や肉体があると思っているからです。
質量とか肉体から解放されると、より新しい世界も作れる。自分の思う世界自体を自分で作れる世界が来るはず。というか、その世界がメタバースとして、夢の世界としてSFで描かれているんですね。そのように描かれているからみんなメタバースという言葉に惹かれるし、その世界を目指そうとしている人たちがいっぱいいる。
というのがあって、clusterの価値は、そういった自分自身が世界を作れる社会のインフラを提供すること。人類の限界値を超えていく存在としてclusterは価値があるかなと思っています。
だからclusterは最近、東京大学の稲見研究室と、京都大学の神谷研究室とコラボして「メタバース研究所」というのを作ったんですよ。
ーー「メタバース研究所」を作ったのはなぜですか。
加藤:メタバース時代は、たぶんみんなが想像していないような可能性があると思っていて、今だと、アバターでバーチャル空間に住むくらいまでしか想像できない。でもその空間はデジタルですべてが構成されているので、体は別に1個じゃなくていいし、境界じゃなくたっていいんですよ。
別に腕が2本である必要はないし、なんだったら1つの身体に複数の精神が入っていたっていいし、逆に1つの精神が複数のアバターにコピーされていてもいい、空間自体が自分自身であってもいいし、破り捨てたり、投げ捨てたりもできる。完全に変幻自在だし、自由自在なんですね。
それは、完全に質量から解き放たれた世界ですが、そういった社会での人類はどうあるべきなのか。その時に人間の心って何なんだろう、人間って何なんみたいなすごく哲学的な問題にぶち当たると思っています。
その時代の生活スタイルとか、これからの世の中のあり方とかがどうあるべきなのかを、発信する場所が必要だなと前々から思っていました。
「cluster」の中の様子
ーーなるほど。そこでなぜ産学連携なのでしょうか?
加藤:今回コラボした東京大学の稲見研究室は、身体情報学をやっていて、身体自体を拡張して身体性自体を考え直そうという研究室です。
一方、神谷研究室は、脳の情報をデコーディングして取り出しましょうという情報工学の研究室です。脳活動自体は、電気信号なので、これを機械学習をかませることによって、今この脳はどういうことを考えているのか、何を見ているのかというのを取り出して解釈しよう、デコードするということを研究している研究室なんですね。
ーー身体拡張を研究する稲見研究室と脳の情報をデコーディングする神谷研究室。この2つの研究室を選ばれた理由はなんでしょうか?
加藤:バーチャルリアリティとの接続がメチャクチャ相性良いからです。メタバースのいいところは、身体を解き放って、何を考えているかをバーチャル空間に反映できるというところなんですよね。
その狙いにおいて、考えていること自体を取り出してしまう。取り出して提示することができる。そんな時代にまでなってしまうとどうなるだろうと、一緒に研究しようというところです。
実際に、神谷研究室では、fMRIに入って、その人が見ている映像から脳の活動を読み取って、描き出すというのをやっています。
今回コラボする神谷先生の研究室ですが、これは左側が見ている映像で、右側がデコードした映像なんですよ。けっこう見えるんですよね。
ーー確かに、けっこう見えますね。
加藤:今まさに考えていることや、見ていることを、バーチャル空間やメタバース社会において有効活用するとなると、単にアバターでデジタル空間で誰かとしゃべるだけだと、そんなに人間がやることは変わっていないし、生活スタイルも変わっていないじゃないですか。
でも、身体から完全に解き放たれて、コミュニケーションのかたちも3D空間で、脳が考えていること自体を取り出して、相手とやりとりするみたいになってくると、生活スタイルがガラッと変わる。そういった世界が必ずやってくるし、clusterが目指すべき世界として提示していかないといけない。
おそらく機能も見えてくるものがあるだろうし、ユーザーの間だったり、業界だったりでディスカッションが起こる内容だと思っています。参入者が増えて、人類自体が発展したらいいなと思って、僕はメタバース研究所を作りました。
ーー先日開かれた「Clusterカンファレンス」のテーマが「メタバースを再定義する」でしたが、今お話しいただいたことも併せてメタバースの再定義なのですね。
加藤:ただバーチャル空間を歩き回るだけだと、あまり価値がないんですよね。それだったら手を使えばいいじゃんとなりますし。
というのもあって、これから先にあるもの、clusterとしてやっていきたいなと思っているのは、完全に肉体を捨てていく、質量から解き放たれて、メタバースという社会をどうやって実現し得るか、どういった社会になっていくかを、僕らが提示できたらなと思っていますね。
「cluster」の中の様子
ーーclusterとして何を実現していきたいかを今お聞きしたのですが、それを実現するためにどのような課題があると思っていますか?
加藤:課題はメチャメチャありますね。とはいえ、clusterは、ありがたいことにバーチャルのイベントに関していろいろな案件をやらせていただけるようになって、それ自体がビジネスとして黒字になっているというのもあります。
ビジネスとしては伸びているのですが、まだまだバーチャル空間を使ってビジネスをやっていくだったり、バーチャル空間の中で新しいクリエイティビティが生まれて、新しいシステムが生まれるというところまでは、至っていないですね。まだ入り口という認識です。
なので、経済圏を立ち上がらせていくというところが、僕らが今一番取り組んでいるところだし、一番やっていかないといけないところだなと思っていますね。
ーーほかに課題はありますか?
加藤:あと1つあるとすれば、まだまだメタバース領域に身を投じようという人たちは少ないです。投資マネーが先に流れ込んできても、そこでメタバースを実現するぞと、がんばる人がもっともっと来ないと、進むものも進まない。
だからそういった人がこれからどんどん増えていけばいいなというのが、僕の考えですね。
ーー経済圏というところで、お金の流れがあると思います。今clusterだと、クラスターコインが通貨としてあると思いますが、例えば仮想通貨を今後取り入れていく予定はありますか?
加藤:NFT(Non Fungible Token)が、ものすごく盛り上がっていますよね。僕もブロックチェーンという技術はすごく好きで、昔から追っています。ビットコインが盛り上がり、続いてICO(Initial Coin Offering)が盛り上がり、それが廃れ、ICOよりも楽だというのでNFTの盛り上がり、というのをずっと見てきていたので、それ自体はおもしろいなと思っています。
やはり、クリエイターエコシステムと接合されるというのはおもしろいなと思っているのですが、結論から言うと、NFT自体はハイプだと思っているので、今のハイプに安易に乗っかってはいけないなと思っています。
でも、技術的にブロックチェーンの仕組みがメタバースを形成する時に使われる未来というのは存在すると思っています。
ーーそれはなぜでしょうか?
加藤:NFTは名前のとおり、ノンファンジブル、代替不可能性というところが技術の第一です。さっき言ったとおり、メタバースが不安だし怖いと感じるのは、自分自身が代替可能になってしまう技術だから。よりどころがないというところが怖いという時に、代替不可能な証明としてブロックチェーンが使われる未来はあるでしょう。
それこそ今、NFTファーストのメタバースという領域はすごく盛り上がっていて、「Decentraland」とか「The Sandbox」とか、ものすごく盛り上がっているんですよね。
1つの土地が数千万や数億円で売買されるということも起こっていて、それ自体はすごくおもしろいなと思っています。
土地もNFTだし、その上に乗っかっているショップもNFTだし、そこで売買されているアイテムもNFTだしという階層構造になっているんですよね。これ自体もメチャクチャおもしろい。新しいカルチャーだなと思っています。
ーーおもしろさは感じつつも、今clusterにNFTを取り入れない理由はなんでしょうか?
加藤:今バーチャルを住み場所にしているコミュニティと、NFT界のメタバースコミュニティが、けっこう割れているのが現状です。
NFTアバターを購入して、そのNFTのアバターでclusterの中を動き回ったり、イベントをやったりしている人たちもいるので、アバターを通じて相互運用性みたいなものはちょっとだけ発生しているのですが、直近1年や2年で、それがメインになるとは僕はあまり信じていないです。
ーー仮想空間が将来的に多くの人に支持された時に、現実の世界はどうなると思いますか?
加藤:これは僕の中で結論が出ていて、ラグジュアリーになります。贅沢品です。贅沢品になるんです。
ーー現実世界が贅沢品になるとは、具体的にどういうことでしょうか?
加藤:電子書籍が普及した世界において、紙の本がどうなるかというと、贅沢品なんですよね。音楽のダウンロードだったり、「Spotify」でストリーミングが発達した時代におけるレコードがどうなっているかというと、贅沢品なんですよね。ラグジュアリーなんです。
わざわざデジタルで、可搬性だったり、変化だったりがしやすい、加工性のすごく高い現実としてのバーチャル空間が存在する中で、わざわざリアルを使うというのは、エネルギーの無駄なんですよね(笑)。
エネルギーの無駄。純粋に物を動かすだけでエネルギーをすごく使いますし、環境にも悪い。環境のことだけを考えるなら、人間は引きこもっているほうがいいんですよ。極端な話ですけどね(笑)。
極端な話を言っていますが、環境をまったく無視して人間が贅沢の限りを尽くしてきて、今の環境にとって無理のある時代というのがやってきているという中で、環境コストのことを考えたら、やはりどこまでも人間は動くのをやめよう、無駄な物を動かしていくというのはやめようとなります。
現実世界の代替としてバーチャル空間でいいじゃんか、握手のフィードバックとかも、そのうち実現性が高いものになってくると思うので、握手とか触れ合ったりとかのフィードバックも、別にバーチャルでいいじゃんとなっていくと思うんですよね。
そうなってくると、現実世界でわざわざ会うのは、大事な人と会うために、コストを払って行う贅沢になるはず、というのが僕のバーチャルリアリティと現実世界の対比です。
ーーメタバースとなると、デジタルツインやミラーワールドみたいな、要するに現実の世界と同じものをもう1個作りましょうという世界も出てくると思うのですが、clusterはそこにどう関わっていくのでしょうか。
加藤:結論から言うと、やっていくだろうし、やっている側面もあります。バーチャル渋谷や、バーチャル東京タワーやバーチャル国立博物館を作らせていただいたりもしているので、そういった現実にある場所だったり音楽だったりをバーチャル上に作るのはこれからもやるとは思っています。
「バーチャル渋谷」
ただ、デジタルツインという考えで言うと、まだ過渡期だなと思っていますね。デジタルツインの考え方って、要は、デジタル上にリアル空間のコピーを作って、デジタルの設計だったりをバーチャル上で、シミュレーテッドにすることにより、より便利にしようというもの。これは、現実空間ファーストの考え方ですよね。
ーーそうですね。現実空間があったうえでの、デジタル空間の設計ですね。
加藤:そのデジタルツインをさらに発展させた考え方で、建築家の豊田啓介さんという方がコモングラウンドというのを提唱されていて、この考え方がメチャクチャおもしろいです。
エージェントという考え方と、環境という考え方を提示しています。エージェントというのは人間とかロボットとかAIとかバーチャルキャラクターとか。
環境というのは、都市だったり建築だったり、バーチャル上にもそういうのがある中で、この対比を使って、よりバーチャルファーストな都市設計ができるんじゃないか。バーチャルなエージェントが動き回りやすい、ロボットが動き回りやすい都市の設計をすることができるんじゃないか。
これは、バーチャルとリアルがイーブンな考え方になっていて、僕はけっこう好きですね。そしてさらにその先もあるんじゃないかと思っていて、ちょっと怖いことを言いますが、メタバースファーストな都市設計もできるんじゃないかと思っています。
ーーメタバースファーストな都市設計は、どういったものになるのでしょうか。
加藤:メタバースファーストな都市は、たぶんメッチャクチャ生活しにくい場所なんです。メタバースファーストなので、すごく狭い正方形の部屋が密集している建物が作られて、そのすぐ隣に物流の倉庫があって、ご飯食べる時間になったら直に届くみたいな。
とにかく効率だけを重視した都市ができ上がる。そこに住む人たちはメタバースに入るためにそこにいるので、その都市には現実空間で生活するためにはいないんですよ。なので、メタバースに行ってさえいればメチャクチャ便利。だけど、メタバースから出て生活しようと思ったらメッチャ不便(笑)。
そんな都市が生まれてくるんじゃないか。ないしは生まれてくるほうが、より人間らしいんじゃないかとすら僕は思っていて、メタバースファーストな都市という観点までいくと、デジタルツインは過渡期の産物であって、僕は、さらにその先があるんじゃないかと思っています。
とはいえ過渡期ですから、そんな状態にいきなりいかないと思います。そうなるのに何十年かかるんだという話にもなるので、SFくらいのものだと思いつつ、人間が目指すのはそこなんじゃないかというのが僕の考えですね。
過渡期のデジタルツインの具体例として、ポケモンさんがバーチャルテーマパークをcluster上に作りましたが、テーマパークをリアル空間に作ろうとしたら何百億とかかかるし、いろいろな施策を考える必要があって、簡単にできないんですよね。
でも、バーチャル上に作りさえすれば、何分の1、何百分の1というコストで試して、その中で人々がどう動くかがバーチャル上でシミュレートできる。それがあって、じゃあこうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかという評価ができる。これがバーチャルの良さですよね。
こういう観点としてのメタバースが使われていくのは、かたちとしては、ずっとあるなと思っています。
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