「神山まるごと高専」で予定しているカリキュラム

山川咲氏(以下、山川):カリキュラムとしては、「ものをつくる力」に加え、デザインとテクノロジーを基盤に、「社会と関わる力」を養っていくところを今は進めています。

私は、2021年1月にクリエイティブディレクターへの就任が発表されて、それから7ヶ月が経った時でも、カリキュラムもないし、先生の採用もまだまだ進んでいない状態でした。2021年10月が申請の締め切りですが、「本当に終わるのかな?」と思いながら、それぞれが自分の領域をがんばろうと、ひたむきに挑戦してきました。

今はもう先生の採用はほとんど終わり、カリキュラムも作り終わりました。そして今、シラバスの最終仕上げをしている状況です。知る人ぞ知る学校だったところから、本当に多くの人に知ってもらえるところにまで来ています。

この学校の大きな特徴が、「神山サークル」という考え方の部分です。こういうのを1個ずつ作っていきながら、毎回「輪郭部が見えてきたね」と言いながら、学校を作っています。

この学校の出口として、「じゃあどういうふうになっていくの?」というところですが、普通の大学であれば、就職と編入のところだと思います。どこかの会社に就職するか、海外留学する、もしくは日本の大学院に入るようなかたちを出口として持っていると思います。

私たちはここに、起業という選択肢を増やしています。そのため、高校、大学の出口としては、最も広い選択肢を選べる可能性を、15歳から選んでもらえたらいいなと思っています。

そして起業は、40パーセントの人が起業してくれたらいいなという野心的な目標も持っています。これはもう本当に、「最高だから起業してよ」ということではなく。

私は27歳で起業して以来、すべて自分の責任で、物事を世の中に表出させていく経験は、本当にすばらしいと思っています。自分が成長する機会でもあるし、人間として磨かれる世界でもあるから、すごく生きる喜びに近い。自己責任の世界ですから。

だから、起業は本当に心からすばらしいと思っています。それはマネーゲームの概念も含みますが、それを超えて、起業というチャレンジ、自分で物事を起こしていくというチャレンジを、学生が当たり前の選択肢として持てること。そういう20歳を迎えてもらうことを目指しています。

もちろん20歳のタイミングじゃなくても、いつか起業していく子たちもいるでしょう。どこかで働きながら、自分にアントレプレナーシップを持って生きていくことは、これからの時代のスタンダードになっていきます。これはもう必須スキルになっていくと思うので、そこの中でも活躍していくようなイメージを持っています。

神山町という場所の特別さ

ここまで話をしてきましたが、こんなかたちで2023年に開校した、日本では最小の高専です。1学年40人、×5学年でやっていきます。

神山町という場所でやるというのも、すごくおもしろいところです。これが東京でやる学校だったら、私自身は賛成していなかったんじゃないかなと思います。

テクノロジーをデザインするコレッジ。アントレプレナーシップを学びながら、そのベースを日本の里山がある、大自然の中でやっていく。実際授業でも、体育でサバイバビリティの授業やったり、人間性をどう磨いていくのか、そういうものも扱っていくことを、この神山町でやっていきます。

神山町というのは、地方創生の文脈だと知らない人はいないような「奇跡の田舎」と呼ばれている場所です。20~30年前から、アーティストを海外から呼び、住んでもらいながらアートを作ったりなど、いろいろな活動をしている人たちがいます。

大南(信也)さんという人がいるのですが、その人たちが作ってきたこのベースは、片田舎ではあるものの、すごくイノベーティブな土壌があります。その場所でこの学校が、その地域と融合してやっていくこと。

キャンパスも学校だけではなく、神山町全体をキャンパスとして、学校運営をしていくようなイメージを持ちながら、今このプロジェクトを進めています。

この学校作りをしてきてすごくおもしろいと思っていることは、今までも私は、誰も知らなかったことをゼロからソーシャルに載せて届けてきました。オーダーメイドの結婚式を、どのようにみんなに届けていけたらいいかなどを考えて、ひたすらやってきました。

この社会において学校を作ることが、ここまでみんなが求めていたり、興味を持ったりするものなんだとすごく肌で感じています。

私は、この学校を作りたいということが、多くの人の夢なんだということに、この半年間ですごく感じています。最初の段階から、この学校作りは、日本の未来を変える学校を作っていると思っています。人間の未来を変える学校でありながら、日本の未来を変える。本当に奇跡が起こる学校だと思ったから、自分の人生を投じてこの学校作りをしています。

学校作りをプロセスから開示し、みんなに参加してほしい

学校作りはみんな興味あるし、いつかやりたいと思っていますが、それにかかわれる可能性は非常に少ない。「なにかおもしろいことが起きそうだな」というこの学校を、作るプロセスから開示していくこと。ぜひみんなに参加してほしいという思いで、ジョインした翌月からイベントをやっています。

例えば、「まるごと高専円卓会議」というイベントをやって、ゲストの人たちと一緒に、「カルチャーや生活にはどんなことが大事なのか」「アントレプレナーシップについて考えよう」「未来の高専とは何なのか」など、その世界で先進的な人たちを呼んでディスカッションをするイベントを、毎月やっています。

実際に2021年6月には、私が一生で一番胃が痛かった準備期間を経たプロジェクトとして、「Makuake」でクラウドファンディングをしました。

神山まるごと高専は新設校のため、1期生がいません。高専は14歳で入って20歳の先輩がいることがすごく大きな特徴の1つですが、先輩がいない中で、学校を手伝いたいと言ってくれる人たちが多くいました。

しかし、公式にそういう場を作れていませんでした。それなら先輩というかたちで1,000人の先輩を集って、3万円で応援購入してもらう施策を取りました。その人たちと一緒に、学校を外で見ているよりも深い関係性で作ることをプロジェクトとしてやりました。

シェアでいうと、Facebookで8,500シェアぐらいされました。自分が伝えていくことをはるかに超えて、社会が学校作りや新しい希望を求めている感覚を、すごく感じたプロジェクトでした。

これに限らず、この高専のことを発信している中で、私はPRの部分をやっています。社会に対する興味を非常に感じながら、できる限りこのプロセスを開示して、一緒に学校を作っていくことをみなさんに体験してもらいたい。目の当たりにしてもらいたいと思い、私自身はここまで進めてきていました。

「Diversity & Inclusion」の取り組み

最近やっているプロジェクトを最後に紹介したいと思っています。学校作りはビジネスと違い、数字が見えて、数字が伸びていく世界ではまったくないんです。本当にリターンがない中で、寄付をもらいながら、学校作りをしています。

寄付をしている人たちや企業さんの中でも、お金の寄付だけではなく、「一緒にこういう取り組みをしましょう」「こういう物を提供します」と言ってもらえて、いろいろなやり方で学校作りに、一般のみなさんだけじゃなく、企業の方々も寄付というかたちで一緒に作っているのが、今の学校作りの流れになっています。

最近、メルカリさんから1億円の寄付と、「Diversity & Inclusion」の取り組みを一緒にするという発表をしました。

今、社会がそこにあるというわけではなくて、何人かを介して社会と緩くつながっている中で、実際に周りの企業さんやいろいろな人たちと一緒に、自分たちが作り出したい未来のために動いています。それはもはやお金のためではなく、作り出したい未来のために協業しているという感覚がすごくあるんです。

メルカリさんとは、この「Diversity & Inclusion」というテーマを一緒に扱っていきましょうということで、ご一緒しています。名前だけ聞くと横文字なのですごく小難しいですよね。今の社会において必須なテーマとして扱われていて、私自身は、必要なテーマではあると思っている一方で、実際にこの取り組みをするまでは難しいと思っていました。

「それって大事だよね」とはすごく思っているけれども、それを本当に取り組むとなると、すごく腰が重い部分がすごくありました。

実際メルカリさんと話をした中で、「私たちもそれを本当に大切にしたい」と高専側でも話をしました。実際に今、隔週でミーティングをする中で、対話を重ねている状態ではありますが。

「あ、これやらなきゃいけないな」ということだけではなく、担当者の人と深い話をしたりする中で、こういう話が出てきました。人類は今まで、違いを争ってきたと思います。戦争して命を賭けてまで争いをしていく中で、今D&Iの政策に取り組めることは、人類の夢の先っぽにいるみたいな感覚が、私の中で勝手にあります。

D&Iの推進は、私たちが喜んでやるべきことだし、人間としての喜びや豊かさ、そういうものと切り離せないと最近私自身は感じています。

カリキュラムで掲げている「隣人と生きる力」

私たちはカリキュラムの中において、「隣人と生きる力」を育むことを掲げています。(スライドを示し)ここにも書いていますが、「多様性が進む時代において、他者を理解する力は必須」ということです。この「隣人と生きる力」ということは、カリキュラムの中でも扱っていきたいと思っています。

なぜこれが必要なのかというと、やはり私自身は、多様な時代を超えて個別化の時代になってきている中で、みんなが違っていいし、みんなが違うことが価値となっている。

昔はそうではなくて、「これがすばらしい、みんなこれが欲しい、みんなこういうふうにしよう、そうしたら幸せだ」みたいなことがあって。それが延長してきている中で、自然に私たちがそれをラーニングしてしまっていると思います。

この認識のもと、多様なバックグラウンドを持つ人たちに対して、悪気があってなにかしているわけじゃないけど、私たちの自然な行動が人を傷つけたり、人を働きづらくしてしまうことなど、いろいろなことが無意識の中で起きていると思っています。

それが悪いわけではなく、普通に人間の癖という感じだと私は思っています。

ある種、このD&Iというのは、自分が人と違うこと、相手が人と違うということを、「いや、勝手にお前と同じだと思って、行動したり考えたりしている」ということを認識していく作業だなと思っています。

そのことで自分の認知を広げていき、拡張していく作業が、とても人間的な行為だと思います。学習においては、自分は何ができていないのかを含めて、自分を客観的に知っていくことはすごく重要なことなのです。

このD&Iを学んでいき、それを取り入れていく中で、人として進化できるうえに、もちろん経営者として、起業家として進化できるということもあります。でも、もっと大きな広がりがあるものが、このDiversity & Inclusionだと最近はとても思っています。

実際に「私たちは何していくのか?」というと、コアメンバーの私たちから学ぶために、ワークショップをやっていく。先生たちもこれを学んでいく。そして、その先輩やその先にいる人たちも学べるような環境を作っていきます。

もちろん学生の授業の中でも、実際にそれを学べるカリキュラムを共同開発したり、メルカリさんから社員を派遣してもらったりすることを今は目指しています。

「神山まるごと高専」のビジョン

実際に、「神山から未来のシリコンバレーを」というのが神山まるごと高専のビジョンとしてあるのですが、私のビジョンとしては「15歳に多様な選択肢を」ということをすごく今大切に思っています。

やはりこのD&Iという言葉は、「女子はこういうもの」ということだったり、「女子は理系を受けない」「女の子は結婚してこうだ」という思い込みだったりが、けっこう日本の中には特に強くあると思っています。

世界的にも女子は理系を選択したり、コンピューターサイエンスに進んだりする人が少ないのですが、日本は最下位に等しいです。今私たちが届けたいと思っていることを、学びの選択肢の中に入れられていない人たちがたくさんいると思っています。

私がこの学校を作って、人を募集するだけじゃなく、中学生のうちに、15歳になったら自分で自分のキャリアを選択できる感覚や、その時に自分はどんな人生でも自分でチョイスできることを伝えていきたいと思っています。

それはD&Iの観点の施策とも言えるけれども、私としてもすごく個人的に大事にしています。「意志ある人生を1つでも多、この世の中に作る」という観点としても、大切にしています。なので、こういうものが世の中に広がっていったらいいなと思って、今仕事をしています。

2021年10月に申請をして、2023年4月に開校なのでもうヒリヒリしていますが、これからもがんばっていきたいと思います。

最後に、毎月メルマガを編集部が届けていますので、ぜひ読んでもらえればと思っています。今日は聞いていただき、ありがとうございました。