画像認識や音声認識を業務の役に立てる

尾尻恒氏(以下、尾尻):それでは次のお題に移りたいと思います。「"DX"というキーワードが流行ってきていますが、AIの活用など工夫されている点はありますか?」というお題です。

我々の共通の目標として「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指す」というものがありますが、活用事例や具体的な工夫について、勝山さんに質問したいと思います。

勝山公雄氏(以下、勝山):まずLINEでのAI活用という意味では、大きく2つに分かれていて、1つ目は他の企業や自治体のような組織に対して、いわゆるビジネスに対してソリューション展開をしていくような使い方でAIの技術を拡充する動きです。これは具体的には、画像認識、画像認識、動画解析、音声合成、音声認識といったAI技術を使って、業務の役に立つようなことをやっていこうという取り組みです。

まず事例として申し上げたいのは、私は今日出社してすごくビックリしたことがありました。入館ゲートを通るところで、ふだんは社員証をピッとセンサーにかざして通るのですが、そこにスマホみたいなタブレットの機械が置いてあって「なんだろうこれは?」と思いました。「顔認証ができます」と書いてあって驚いてしまいました。

そのあとお昼にカフェに行った時に、「顔認証で決済できます」と書いてあって、「ここでも顔認証できちゃうんだ」ということで、カフェでランチを買う時に顔パスができてしまうことに非常にビックリしました。

みなさまの日々の生活においても、AIアシスタント 「CLOVA」という名前でサービスを提供させていただいていますが、そこでも音声認識の技術が使われていて、「CLOVA、今日の天気は?」と聞くと「今日は晴れです」とか「降水確率は10パーセントです」、そんなことを言ってくれるんです。

あとは「今日聞きたい音楽は何?」みたいなことを聞くと、けっこうファジーに答えてくれます。その裏ではLINE MUSICと連携して昨日聞いた曲を調べて、そういった音楽をかけてくれるみたいな音声認識の技術も使われています。そういった企業や組織のみなさまにお使いいただくようなソリューションで展開しているものが1つ目です。

2つ目は、データと機械学習といった技術を使って、ユーザーのみなさまに利用いただいているLINEのサービス、例えばLINE NEWSですね。「この人野球のニュースばかり見ているな」とか「サッカーのニュースばかり見ているな」みたいな、スポーツ関係のものばかりを見ている人にはスポーツのお知らせを日々入れてあげようか、みたいなかたちでトーク画面から突然「今日の試合の結果」みたいなに表示されたりします。

スマートチャンネルというサービスになりますが、そういった画面を通じて、スポーツのニュースが出てきたり、芸能関係ばかり見ている人には芸能関係のニュースが出てきたりします。

こういう機能は、一般的にはレコメンデーションと言われたりしていますが、ユーザーの趣味嗜好から必要そうな情報をお届けするといった使い方をしているケースがあります。

尾尻:ありがとうございます。特に最近、いろいろな手続きがLINEを通じてできるようになったりして、とても便利だなと思うことがたくさんあります。

AIは不正検知や業務効率化などで幅広く使われている

尾尻:阪上さん、ヤフーでのAIの使いどころなどはいかがでしょうか。

阪上恵理氏(以下、阪上):はい。ヤフーでもさまざまなサービスや機能でAIが活用されていまして、代表的なところで言うと、ターゲティングとかレコメンド、あるいは不正検知とか業務効率化などで幅広く使われています。これらAI活用を推進するためには、データ利用環境とデータそのものの両方における整備が重要です。環境のほうは、例えば全社共通のレコメンドプラットフォームや検索プラットフォームを展開して、各サービスで使いやすくなっています。

あるいはデータアナリシスから対象リストの作成、プロモーションや広告出稿などの出面まで一連で連携できるようなツール群を全社共通ソリューションとして用意しています。またデータのほうでは、サイエンティストが加工済みのユーザーリスト、データなどを用意して、非サイエンティストの人も使いやすいようなかたちでデータを提供することを目指しています。

あとは今期から始めた試みとして、データ活用事例の報奨制度をやっています。データアワードというのですが、これも全社から非常にたくさんの応募をいただいています。今後このような発表の場や、情報の横連携の場などを増やしていければなと思っています。

尾尻:なるほど。データアワードですか。すごくおもしろいですね。もう少し具体的におうかがいしてもよろしいですか?

阪上:はい。これはデータ利活用の裾野を広げようという意図のもと、例えばフロントサービスを持たないバックオフィス系の部署も含めて、定量データを使ってこんなに業務が改善したとか、こんなに売り上げに貢献したとか、あるいは「業務効率化が進みました」みたいな事例を応募してもらって、表彰しようという試みです。

本当にいろいろな幅広い部署から応募をいただいています。上のほうというかサイエンス、AIももちろんやりつつ、データはサイエンティストだけのものではなくて、どんな部署であれどんな役職であれ、データ利活用によって付加価値が出るんだなということに私たちも非常に感動しながらエントリー内容を見ているような状態です。

尾尻:ありがとうございます。LINEでもデータ民主化を推進していく上で、そういったアワードが大変参考になる事例だと思っています。

どう情報を集約してシナジーを出していくか

尾尻:それでは最後に佐野さん、いかがでしょうか。

佐野真規氏(以下、佐野):はい。Zホールディングスの観点だと、今しているというよりはこれからしていきたいというところになりますが、前提として我々ZホールディングスグループがAIテックカンパニーに成っていく、そしてアジアからたくさんの便利なサービスを創出していくことと経営目標として掲げています。

AI活用という意味では、すでにヤフーとLINEの2社で今お二人から紹介があったようなすごく良い事例があると思っています。これをグループという観点でいくと、どう集約効果やシナジーを出していくかに尽きるのかなと思っています。

例えば巷では、ヒト、データ、機械がこれからの経営資源にとって重要だという話もありますが、1つはヒトの才能であったり人材であったりをどう集約していくのか、あるいはコラボレーションしていくのか。また、先ほど述べたようにカジュアルなものから、より先端のAI開発まで、うまくコラボレーションできるといいなと思っていますし、そういったチャレンジはもちろんしていきたいなと思っています。

2つ目は、機械というか処理性能みたいなところですね。やはりお互いすごく大きなデータ基盤を持っていて、言ってしまえばそれぞれ二重開発みたいなことになっている部分もあるかなと思います。個別最適が必要な部分もあるかと思いますが、何かしらのこういったところでシナジー効果が出せればいいなというところもあります。

最後にデータの部分です。ここにも非常に問題意識があって、2社それぞれが非常に多くのデータを持っている状況ではあると思いますが、それはユーザーデータにしろモノのデータにしろ、マスターデータにしろ、つながっていない状態だとそれぞれのボリューム感を活かしきれないと思うんです。

ユーザーデータというのは、もちろんお客さまにID連携みたいな同意のプロセス踏んでつないでいく必要があると思いますが、そういったプロセスを経るにしても、何かしらつながって、それぞれヤフーはどう使っている、LINEはどう使っているみたいなところから、さらなる価値を生み出せるようになっていく。さらにそれがZの他のグループ企業に広がっていくところが目指すところかなと考えています。これは、時間をかけていろいろ手を打っていきたいなと考えているところです。

それに加えて、ユーザーデータ以外のところも、マスターデータのキーがつながっているなどもそうだと思いますが、それ以外にもデータのフォーマットや、フォーマットが同じだとしても意味が同じかどうか、みたいなところも重要です。いざデータサイエンスで処理をしようと思った時に、よくよく見てみたら取得タイミングが違ったり、表現している意味が違うみたいなことがあったりすると、結果作られるモデルが目的に対して正確ではないとなってしまうことも、まぁまぁ起きます。

そういったところをなくすようなデータの標準化であったり、標準化が最適解ではないかもしれないので、データのコラボレーションがしやすくなるようなデータカタログによる可視化とか、お互いの制約とか利用できる範囲みたいなところをうまく情報交換をしていって、よりZホールディングスグループ全体としてAIテックカンパニーらしい戦い方ができるようになるといいなと思っています。それに対しての工夫をこれからいろいろ試行錯誤していきたいですし、チャレンジしていきたいなと思っているところです。

尾尻:佐野さんありがとうございました。私も、もともとサービスをやっていたのでよくわかるんですが、データの品質はすごく重要で、それ次第でデータを活用できるか、活用できないか。そういった分岐点になる部分ではあるので、そのデータ品質が管理されてこそ使えるものになる。そういったことがよくわかる事例だったなと思いました。ありがとうございました。

データマネジメントの取り組みは一朝一夕で成果が出るものではない

尾尻:それでは最後のトピックに移りたいと思います。「最後に視聴者のみなさまに一言お願いいたします」。ではまず佐野さんからお願いいたします。

佐野:はい。そうですね。しゃべってみるとあっという間だなという感じはしますが(笑)。

(一同笑)

佐野:1個前にしゃべり過ぎちゃいましたが、これまですべての質問に共通していたのが、Zととしてグループ連携をどうしていくべきかというところ。まだまだ暗中模索はあるんですが、これまで自分もヤフーで経験してきたものや見聞きしてきたところで感じるのは、データの取り組みないしデータマネジメントの取り組みというのは、一朝一夕で成果が出るものではないなと感じています。

ヤフーで長らく取り組んでいた広告の改善で、効果が出るまでに実は足掛け2年かかって、それまでに粛々とトライ&エラーを繰り返してきたのが実を結んだという話があります。そういった試行錯誤を繰り返すことも重要ですし、総論のAI活用、データ活用というのは絶対にやったらいいよという気運は醸成されてきていると思いますが、じゃあその1歩目や1合目で成果が出るかというと、なかなかそうではないと思っています。

その1歩目、1合目にいきましただけでは、評価や承認を得にくいんじゃないかなという感覚があります。あるのですが、そこをクリアしていかないとどうしても10合目、頂上に到達できないかなとも思うので、そこが難しいところでもあり、おもしろいところなのかなと思っています。

先ほど、自分もまずは各社のコンディションを把握して、関係性を作っていきたいということを申し上げましたが、まずは自組織のコンディションをしっかり分析をする。まず1合目、1本目はどこなのか。

必ずしも一発で大きな成果は出ないと思いますし、大きなゴールを目指せば目指すほどそういうものではないかなと考えているので、プロセスをていねいに進めながら徐々に巻き込んでいく。関係者の輪を広げていく、協働の輪を広めていくというのが大切なんじゃないかなと思っています。まずはみなさまも機会があればそういう愚痴なり苦労話なりを対話するといいのかなと思います。

そして、そういった状況にめげずに、少し先のビジョンを目指して取り組んでいっていけるといいなと思います。私からは以上です。

課題解決のため、ユーザーファーストの魂を大事にする

尾尻:続いて阪上さんいかがでしょうか。

阪上:はい。「データは役に立つ、有益である」というその前に、まずは「データっておもしろいな」と、おもしろがる心というか、好奇心を大事にしていきたいなと思っていて。ビッグデータは私たちの生活行動の影のようなものじゃないですか。まだまだ可能性があると思っています。先ほど佐野さんも言っていましたが、つなぐこと、あるいはつながなくても重ねることで、より付加価値が生まれることがあると。

「こんなこともわかるかな」「こんなことにも役立つかもしれない」という好奇心や興味関心を自分も大事にしていきたいですし、みなさんにも大事にしてほしいと思っています。理想の実現のためには数々の困難がありますが、まずは現状の正しい理解と、いろいろ立場の違う、文化も違う、役割も違う関係者の協力体制やリスペクトが非常に大事です。

そして何よりもユーザーファーストですね。今まで以上に世の中のため、課題解決のため、ユーザーファーストの魂を大事にして、みなさんと一緒に歩んでいけたらなと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。

大事な「攻め」と「守り」のバランス

尾尻:それでは最後に、勝山さんお願いします。

勝山:今非常にお二人に良い話をいただいてトリになってしまうのが非常に恐縮なんですが、日々佐野さんには愚痴を聞いてもらっていて。

(一同笑)

勝山:いろいろ癒してもらっているのですが、好奇心はすごく大事で、魂を持って好奇心をぜひデータにぶつけてもらう感じで、LINEも日々やっているところだったりします。

世の中、デジタルだったりAIだったり、DXという言い方をしたりなど、いろいろ言葉が流行っていて、データをどんどん溜めて使っていこうということがかなり進んでいるかと思います。その中でも、データマネジメントの1つで「守り」ということを先ほど言いましたが、使っていく「攻め」ということと、ルールを守ったりとかリスクを排除していくというような「守り」も非常に大事なのかなということで。

攻めと守りという2つのバランス。これはいろいろなスポーツの競技でも同じかなと思うんですけど、点を取るために攻めばかりやっていても、いつの間にかカウンターを食らって点を取られてしまって負けてしまうみたいなことも、よくあるんじゃないかなと思います。ですので、私としてはそれをバランス良く活動につなげていくようなことができたらいいんじゃないかなと思っています。

尾尻:勝山さん、締めの言葉ありがとうございます。私もデータマネジメントに携わる1人として、気持ちを引き締めて今後もがんばっていきたいなという思いを改めて感じました。それでは以上で、パネルディスカッションを終わりにしたいと思います。みなさまありがとうございました。

一同:ありがとうございました。